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それが、親父の生き様でした……

 魔王の瘴気が目の前に立ちはだかる。


 サイザスが後は任せろと言いたそうに前に立っているが……

 その後ろから左腕の無いラークが立ち上がり……


 そして、同じくぼろぼろのヴァニが……その二人の間を抜けて、

 魔王の前に立つ。


 「二人とも下がっていろ……」

 そう二人の身を案じるようにサイザスが言うが、


 「……俺はヴァーニング=フレイム……この程度で立ち上がるのを諦める男じゃねぇんだよっ」

 そう……誰かの言葉に従うように……


 だが、ふらついているその身体から繰り出すいちげきは魔王の瘴気に当たることなく空振り……


 逆に魔王の攻撃いちげきでその身体が吹き飛ばされる。


 「ちっ……」

 ラークは右の手のひらに炎を宿すと、左腕の無い左肩を炎で炙るように止血する。


 「くそ……能力で元に戻るのか……」

 治癒能力……それで自分の左腕が回復するのかどうか……

 そして……それよりも……まずは目の前の魔王てきを……


 「……この程度で……」

 そして、ラークの瞳は後ろに転がった身体に向く。

 ただ、再び殴られるためだけに起き上がる身体に……


 「何……している……」

 そう再び自分の前に立つヴァニに……


 「俺は……ヴァーニング=フレイム……そう名乗る事を許してもらう……」

 そうふらふらの状態でヴァニは振りかぶった右手を魔王の瘴気に振りかぶる。

 それはあっさりと回避されて、再びヴァニの身体が地面を転げ回る。


 そして、その身体をただ本能的に起き上がらせる。


 「相手を見ろ……身の程を弁えろ……」

 そう……返すラークはどこか動揺するように……


 「これは……俺の名だ……親父がくれた俺の名なんだ……この先、産まれる誰にも譲る気も無い」

 そうヴァニが言う。


 「そのくだらない名に何の価値がある……何を執着する……」

 そうラークが天を見ながら……


 「……俺が尊敬する親父がつけてくれた大事な名前なんだ……俺が存在するために必要な名だ……俺の名前なんだよっ!」

 そう叫ぶ。


 「……恨んでいた……んじゃないのかよ……」

 自分の母を殺し、その教育も放棄した男を……


 「……父親を恨むわけないだろ……俺にとって……例え契約であっても……あんたは偽者ほんものだ……」

 そう……ヴァニがラークに言う。

 天を眺め流れる涙を隠すようにラークが……


 「……こんな……おれを……まだ……ちちおやだと……呼んでくれるのか?」

 そうラークが返す。


 「……あんた以外に……居ない……俺は、ヴァーニング=フレイム……親父の名はラーク=フレイムだ」

 そう返す。


 「……息子ヴァニ……俺の背中が見えるか……」

 そう言いながら……ヴァニの前に立つ。


 「うん……」

 ヴァニが返す。


 そして、前に進もうとするラークの前に……


 「後は任せろ、そう言ったはずだ」

 そうサイザスがその進路を遮るように前に立つ。


 ラークはそんなサイザスの肩を乱暴に掴むと、その肩を強引に引っ張りその前に立つ。


 「邪魔するな……それは俺のてがらだ……」

 そうサイザスに代わり魔王の前に立つ。


 「いい加減にしろっ!そんな身体でっ」

 何するつもりなのかをサイザスがラークに問う。


 「うるせぇーよ、馬鹿かわいい……息子が俺の背中を見てるんだよっ……情けねぇ、背中いきざまを見せる訳にいかねーんだっ」

 そう右手に炎を宿す……


 「……ヴァニ……これがお前の親父の生き様だぁっ!!」

 振りかざす拳は魔王の瘴気に受け止められ、呆気なく吹き飛ばされる。


 だが……すぐに起き上がるラークの姿に……


 「もうやめろ、ラークっ!!」

 サイザスがそうラークの暴走を止めるが……


 「……サイザス……欲張らせろ……それは俺の手柄だ……息子に渡す、俺の手柄だ……手を出すな」

 右手に炎を再び宿す……


 だが、再びラークの身体は地面を転がりまわり……


 「ラーク、もうやめろっ!!」

 そうサイザスが起き上がるラークに叫ぶが……


 「邪魔……すんな、こんな俺を……父と呼んでくれたんだ……呼んでくれてるんだ……そんな息子が誇れる親父の背中いきざまを見せてやるんだ……邪魔すんなっ」

 そう再び立ち上がるラークはサイザスの身体を振り払うように前に立ち……

 振りかざす拳よりも先に、魔王の瘴気の繰り出す一撃がラークを捕らえ、

 再び地面を転げまわるように砂埃がラークの周囲に舞っている。


 「例え……どれだけ情けない姿でも倒れる訳にはいかねぇんだよ……諦める姿だけは死んでも、息子には見せるわけにはいかねぇんだ……」

 そうラークが立ち上がる。


 魔王の瘴気が大きく口を開くと魔力の光線ビームが飛ぶ。

 ビームはラークの腹部を突き破るように……


 えび反りになりながらも、その身体を元に戻し……

 えぐられた腹部すら気にしないように……


 真っ直ぐに魔王の瘴気をにらみ付ける。


 「……まだ……倒れてねぇぞ」

 そうゆっくりと魔王の瘴気の方へと歩み寄る。


 「……ヴァニ……見えてるか……誇れ、恥じれ……これがお前の親父の生き様だ……」

 そうラークはゆっくりと魔王の瘴気の方へと歩いていく。

 気のせいだろうか……少しだけその瘴気が戸惑うように見えた。


 歩み寄ったラークの身体に魔王の瘴気が拳をその額に振り落とす。



 ………額の骨が砕けるような音が響きながらも……

 ラークの瞳は魔王の瘴気を見上げながら……

 その場から微動だにせず……


 「……どうした?腰が引けてるぜ?その一撃で俺が倒れないとでも思ったか?」

 そう右手にありったけの魔力ほのおを宿す。


 身体をねじり、その腕を振りかぶる。

 

 「炎舞……」

 その一瞬の恐怖すきを……


 「……終炎チェックメイトっ!!」

 全力の魔力、最大限に身体の勢いと体重を乗せた一撃が……


 魔王の障壁の頬を捉えその障壁を遥か後方まで吹き飛ばす。

 その場に居る誰もがその親父ラークの姿に魅入られるように……


 その懇親の一撃が魔王の影を吹き飛ばし、砂漠のような地面を転げ周り身動きをとらなくなる。


 同時に……ラークの身体ががくりと崩れるように、地面に両膝をつき……


 「……たく……せめて……息子の見えない場所で……」

 そう口にしながら……閉ざされる視界に……


 「……親父……」

 そう……ヴァニはぼろぼろの身体でラークの元に歩み寄る。


 「……まだ……こんな俺を親父……と呼んでくれるか……まだ……ヴァニと呼ばせてくれるか?」

 そう空ろな瞳で……ラークが言う。


 「うん……俺はヴァーニング=フレイム……父親はラーク=フレイムだ」

 そう駆け寄ったヴァニがそう言う。


 「……その性を名乗る覚悟やくそくをしてくれるか……」

 そう空ろな瞳で……右手を天にかざす。

 その手をヴァニが握ると……


 「……を受け継いでくれ……能力はそのを示す……二つの能力を受け継ぐのは相応のリスクを背負う……それでも……息子おまえに……このちからを……ヴァニ……」

 ラークからヴァニに何かが流れ込むように……


 「親父……」

 そう……ラークから何かを引き継ぐ。


 奥で起き上がる魔王の瘴気に……


 サイザスが構えるが……


 (邪魔するな……それは息子のてがらだっ)

 そう口にしていない言葉がサイザスに届き……

 その自分のはるか後ろで倒れているラークの残像が自分の肩を掴むように、

 身体が拘束される。


 ヴァニが片ひざをつき右の手甲を地面に突きつけながら……


 どこぞの最凶だけが手をつけた2つの能力……

 学園の闇で魔王の瘴気を取り入れることでそれを可能にした……


 もちろん魔王の瘴気など持ち合わせていない……

 それでも……託された親父の力を……


 手甲に激しい炎が宿る……


 「壱の型……」

 手甲が爆破拳ショットガンの型をとる。

 それにラークの能力がプラスしている……


 ゆっくりとその体制で魔王の障壁の前に立つ。

 繰り出される拳をあえて受け止めて……


 「……腰が引けてるぜ……その拳で俺が倒れないと思ったか?」

 そう魔王の瘴気に言う。


 「……終焉チェックメイトッ!!」

 2重の能力でその魔王の瘴気の頭部をとらえる。

 その瘴気は吹き飛ぶことなく、その場で塵となり消し飛ぶ。


 「……親父おれたちの手柄だ……」

 そう……俺は口にすると、親父ラークが嬉しそうに笑った。


 魔王の瘴気……その瘴気で派生した化物全て……排除された。

 


 ・

 ・

 ・


 ヴァニはラークの身体を背に担ぎ、どこかに歩いている。


 「……ここ……は?……何処に?」

 ほぼ意識の無い状態でラークは口にする。


 「……あんたに会わせたい人がいる」

 そうヴァニがぼろぼろの身体でそのラークを担ぎながら……


 「……大きくなったな……」

 その担がれているヴァニの背中に……


 「……あれから7年もたったからな……」

 そうヴァニが返す。


 「……そっか……7年前は立場が逆だったのにな……無鉄砲に後先考えず喧嘩をふっかけて意識を失ってるお前を逆に背に担いで歩いていた……」

 そう昔を思い返すように……


 「……どうだ……ヴァニ……学年でトップに上り詰めたか……その宿命を捧げられるような何者かに出会えたのか……」

 そうヴァニの背で力なくラークが口にする。


 「……まだまだ、俺の上はいるよ……でも負けねぇ……そいつより先に倒れるつもりはない……」

 そうヴァニは返し……


 「……頼りたい……頼られたい奴に出会った……そいつのために親父に貰った力と教えを使いたい……なぁ……いいだろ?」

 そう許しを請う。


 「うん……うんっ」

 そう相槌を打つようにヴァニの背中で……


 「くっそ……悪い……正直な……もうお前の言葉がほとんど聞こえないんだ」

 そう笑いながらも悲しそうにラークは返しながら、

 たぶん、自分の質問にこう返してくれたのだろうと勝手に解釈しながら頷いている。


 うっすらと見える景色に……

 たどり着いた場所で……


 先に海が広がる崖の草原で……

 墓が二つ並んでいて……


 母とシーナ姉さんの墓……


 空ろな瞳でその墓を見て……


 「……この数年……見つけられなかった筈だ……」

 そう……哀れな自分を見つめるように……


 「……なんで、息子おまえの優しさに気づけなかったのか……」

 そうあの日の自分を悔いるように……


 「……情けねぇ……ずっと俺が全部背負ってるつもりで……何もかもお前に背負わせてたのか」

 そう力なくラークが言う。


 「……そこに居た……んですね……長い間待たせてすいません……俺と食事を……つまらないものですが……受け取って……」

 動かない身体でありもない身体だれかに真赤な花束を渡す。


 「……生意気言ってすいません……ずっと、ずっと……あなたのことが好きでした……どうか……俺と息子ヴァニと……家族になってくれますか?」

 そう……うっすらと見える墓に向かいラークが口にすると、思わず地面にひざをついてしまいそうなほどのラークの体重がヴァニに覆いかぶさる。

 だらりと……手が垂れ下がるように……重力に逆らうことを止め……



 「おい……なぁ……親父……ほら、シーナねぇさんともっと話すことあるだろ?なぁ……親父……親父?」

 そう必死に背中に担ぐ男に話しかける。


 男はただ満足そうな顔で……それ以上語ることはなく……


 「……多分、シーナねぇさんさ……親父に気があったと思うぜ……勝ち気でさ……聞かないタイプだけどさ……たぶん、親父の言葉……すっげぇ響いてたと思うんだ……ピンチになったときさ……すっげぇ頼りにしていた……んだよ」

 そう……動かない男に呟く。


 「……あんなことなかったら……普通に皆で食事ができていたらさ……多分……二人は幸せになれていたんだ……」

 そう涙ながらに……

 その動かなくなった親父なきがらを地面に置くと……


 近くに刺さっていたスコップでシーナの墓の隣の土を彫り上げる。

 無表情でその穴にその亡骸を納める。


 そのラークのポケットからひとつの指輪を取り出して……


 7年前からずっと収めてあっただろう指輪……

 今、すぐ隣にある誰かに捧げるために……


 収めた親父の墓の隣……

 シーナの墓に、その指輪を置く。


 「ねぇちゃん……意地悪しないでさ……素直な意見を親父に聞かせてくれ……」

 そう指輪を置き言葉にしながら……


 「どうか……答えてくれ」

 そう泣き崩れるように……


 これが……泣くのは最後だから……

 そう誓うように……


 昔の思い出に……

 3人の墓の前で……独り、許されるだけ泣き続けた。


 


 

ご覧頂きありがとうございます。


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