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瘴気

 ゆがみの先は再び学校の地下の通路のような場所に続いていて……

 セティの姿は無く、一人となる。


 ただ、俺はその通路の先にある部屋を目指して歩く。


 正方形の何も無い真っ白な部屋。

 前後左右対称に通路が繋がっていて……

 示し合わされたかのように、

 その通路の先から俺と他三名が姿を現す。


 セティ……マナト……ナキ……


 そして、中央にいる女……


 その女を囲うように4人が集まる。


 「さて……今さら私たちを突き合わせてどうするつもりなんだ?」

 そう、中央の女に尋ねるようにセティが言う。


 「……おじさんには全く理解ができないけどねぇ」

 中央の女を見ながらも忙しそうに瞳は動き平等に俺たち3名を見ている。


 「そういえば……転生者ぜんいん共通はじまりという訳か」

 元の世界と異世界の入り口を繋げた者……

 俺たちに能力ちからを与えた者……


 神と名乗った人物……


 「目的はなんだ……」

 今さら……どうして再び俺たちの前に……


 「目的……ですか」

 そう目の前の女はゆっくりと俺たちを見渡し……


 「……転生者は、俺たち4人だけなのか?」

 そう……俺は他の3人を見た後に正面の女を見る。


 「……用意した召喚石は全部で7つ……利用されていない召喚石ももちろんありますが……いま、この物語いせかいに関わっている人物は……」

 あなたたち4名だと……


 未だ召喚されない者……召喚されたがどこかでこの物語にすら関わらず生きている者……または……もはやここから退場した者もいるのだろうか……


 そして、それに巻き込まれた4人を今……引き合わせて何を語らせようと言うのか……




 ・・・



 周りを見渡す……


 学園から少しだけ離れた場所……

 街とは逆の何もない平地……


 もちろん魔王フィルから剥がれたそれは、

 100M先に転移した後も移動を繰り返し……


 そして再び器に返ろうとしているのだろう。


 良くも悪くも……人気の無い岩と砂しかない場所に……

 リヴァーとヴァニは歩いていた。


 そして……ツキヨ、クレイ、ヨウマの3名もそんな2人に合流している。

 現れる魔物をヴァニ、ツキヨ、クレイが主に狩り、

 ヨウマはリヴァーの身を案じるように護衛に勤めている。


 「……魔物の瘴気つよさもあがっている……近いか?」

 そう、ツキヨがリヴァーに尋ねるように……


 「正面……来ます」

 そうリヴァーの言葉に。


 5人に凄い圧がかかる。


 同時に現れる黒き人型の魔王ばけもの……

 そして、そんな魔王を囲うように現れる家来ばけもの……



 「……さすがに……死ぬかもね……」

 冗談交じりに……冗談抜きでクレイがぼそりとこぼす。


 「……今さら、引き返しもできないけどね」

 そうツキヨが完全に周囲に広がる魔物の群れに……


 「大見得張って……アイツに言ったんだ……こんな所でっ」

 ヴァニの右手に黒い手甲が装着される。


 「……全く、私たち全員……今日1日で、どれだけの魔力を消費してきたと思ってるんだ……」

 クレイがそう嘆きながらも……


 「抜刀……その名を示せ、紅桜っ」

 そう本日、どれだけの血を消費したのか……

 その血を刀に与える。


 「抜刀……まさむねっ」

 そうツキヨも刀を抜く。


 「抜刀……ダリアっ」

 ヨウマもデーモン化し、リヴァーの前に構える。


 ヨウマはリヴァーの前を陣どるように……

 その場を動かず自分とリヴァーに迫る敵を相手にする。


 ツキヨとクレイが次々と溢れ現れる化物を次々と切り倒していく。


 ヴァニは一人……その魔王の瘴気げんきょうに立ち向かう。


 その勝敗など……その時点ですでに決まっていたのかもしれない……



 ・

 ・

 ・


 どれだけの時間が経過したのだろうか……


 クレイとツキヨが処理仕切れずにリヴァーを襲う化物をヨウマが処理している。


 「その名を偽れ……鬼丸国綱おにまるくにつな

 クレイがその自らの首の血を刀に捧ぐように……


 処理が追いつかず無限に湧き上がる化物を斬り落とす。

 魔力の限界か……血の限界か……朦朧とする中で……

 幾度と体を貫く攻撃に……その場に崩れ落ちる。


 「……クレイっ」

 そう心配するようにツキヨが叫ぶが……


 化物がそのツキヨの体を囲うように次々と攻撃を受ける。


 持ち前の刀技と運動神経でその場の魔物を処理するが……

 ツキヨも限界が訪れるようにその場にひざを着く。



 そして……

 もう何度目か……


 ヴァニの身体が近くの岩に叩きつけられるように……

 普通の人間ならすでに意識を失っているか、力尽きていてもおかしくない……


 「ヴァニさん、もう起き上がらないで……」

 思わずリヴァーがそう漏らしてしまうように……


 それでも……ヴァニは本能のように……ただ体を起こすだけの動作を繰り返す。


 「諦めたら……だめだ……自分より強い奴に恐怖を与える……倒れたら……駄目だ……」

 そう誰かの言いつけを……守ろうとするが……

 次の一撃に……もう立ち上がることすらできないほどに……その意識は遠のく。


 「リヴァーちゃん……ごめんねぇ」

 そう……ヨウマが諦めるような言葉を言うほどの絶対絶命……


 そして……迫りくる魔王の影に……


 ドンっと小さな隕石でも落ちるかのように……


 「随分……無様だな……《《エミル》》」

 そう現れた男が言う。


 「おや……じ……」

 もはや、直視できない空ろな目で……


 「俺はてめぇの親父じゃねぇ……何度言えばわかる」

 そう冷たく突き放すように……


 「わりぃが……俺の能力には味方の識別能力は無いからな……」

 そう周囲の化物を見ながら……


 「ツキヨさん、私の周辺にっ」

 そうリヴァーが叫ぶ。

 ツキヨが、クレイの身体を掴みヨウマの近くまで引き返し、

 ラークがヴァニの身体を乱暴に掴むと、同じくヨウマの方にその身体をぶん投げる。


 「炎舞……火炎地獄っ」

 その言葉と同時に周囲に巨大な火柱が何十という数が上がる。

 数多の化物がその火柱に取り込まれ消滅していく。


 ゆっくりと……ヴァニが起き上がる……

 限界を超えている……

 ぼんやりとだけ写る視界の中で……



 戦っている男の背中を……


 「炎舞……火炎乱舞っ」

 両手に炎を宿し、凄まじい乱舞を瘴気まおうに浴びせる。


 若き頃よりは衰えてしまったのかもしれないが……

 それでもその実力は……あの日、あの時に憧れていたままで……


 その乱舞ラッシュが決まる中で、瘴気まおうの額を掴みあげる。

 「炎舞……火葬っ」

 そう魔王の身体が燃え上がる……


 黒い影はだらりとその両腕を力なく地に向けるが……


 見えない顔をニヤつかせるように……

 右手がラークの腹部を突き破る。


 さすがに驚いたように状況を把握できずにいるラークと……

 魔王の口から放たれた魔力の波動砲に……


 ラークの左腕が吹き飛ぶ。


 そのまま……崩れ落ちるように……ラークがその場に倒れる。



 あぁ……たく、らしくねぇことはするもんじゃねぇ……

 そう後悔する言葉は口に出ない。



 相手は魔王……器を離れたといえ……その力は変わりない。

 そして、それは勇者リエンですら……一人では相手にするには難しいほどだ。

 それを俺、一人でどうにかできるとでも思ったか……

 そう自分を罵倒する……


 「親父っ親父っ!!」

 そう叫ぶ懐かしい声に……


 あぁ……うるせぇな……

 あの日の約束なんて互いに……違えたじゃねぇか……

 もう……それは死に設定なんだよ……


 そう……かすかに残る意識の中で……


 数々の魔法が戦場を飛び交い化物を捉えていく。


 「サイザス=アイスランス……」

 そう現れた部隊のリーダーらしき男が名乗る。


 「ラーク……無事か?」

 リエン……ブレイブ家の部隊だろう助っ人が今さらながらに現れる。


 ヴァニとラークのおかげで、魔王の瘴気もだいぶ弱まっているだろう……

 これだけの部隊なら……


 サイザスの部隊の魔法が次々と化物の部隊を解体し……

 サイザスがその手に騎士の剣を構える。


 そんな中でラークがゆっくりと立ち上がりながら……

 過ぎ去った過去を想い返す……

 

ご覧頂きありがとうございます。


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