口づけ
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10年前……
その日もわたしは自室の椅子に座り、
紙に書かれた文字のひとつひとつを目で追うように、
心の中で読み上げていく……
日常などつまらない……
……人と関わるのはひどく……精神が疲弊した……
だから……その本の物語に……
主人公になって……
物語を旅することが私にとっての日常だった……
その物語に浸っていれば……
一生一人でもいいとさえ思っていた……
ドアをノックする音……
「お譲……居るなら返事くらい……」
幼い、アストリアが入ってくる。
たった、二つしか年が離れていないのに、
能力、戦闘センスなどは……
現時点で下手な大人を凌駕している……
お母さんが、彼女をやけに気に入り、
年も近く護衛としても申し分ないと……
友達として彼女を雇った。
「お譲……本ばかり読んでいないで、たまにはわたしと運動でもしましょう」
そう、シャドウボクシングをしながらアストリアが言う。
「いや……」
即答される。
「……私とさっさとキスでもして、私と運動、私のライバルになってくれそうなのに……」
そうアストリアが言う。
「絶対にいや……」
そう即答する。
「全く……存在しませんよ、お譲の言う理想など……、なんでしたっけ?」
そう、アストリアに尋ねられ……
「年相応の顔で……だけど性格は少し落ち着いて大人びていて……趣味が共有できて……優しくて、私を守ってくれて……で……まぁそれなりに顔が良くて……」
そう理想像を語っていく……
アストリアは何度目かになるその回答に相変わらず呆れた顔をしながら……
「お嬢……そんなマニアックな主人公……どこにもいませんよ……だからその能力は私で……」
そう男性も女性も簡単に惚れてしまいそうな綺麗な眼差しでゆっくりと迫ってくる。
「あたっ……」
手にしていた本を畳むとその表紙で迫ってきた顔を叩いてやる。
「それならずっと一人でいい……」
そう、彼女は世界も理想も否定する……
だから……小説の物語だけが私のすべてだ……
・・・
学園……私が産まれた頃にだろうか……
突如、出来た施設のような場所……
子供を教育する施設……
そんな場所に通うことになった。
人の付き合い方も……自分の能力とも向き合ってこなかった私は、
特別組として扱われ……
そして、そんな中でも私は孤立して……
ただ、書物に逃避して……
そして、数ヶ月が経過して……
こんな時期に……こんな場所に……
召喚……転入……
聞きなれない言葉が並んでいて……
同い年の男性が一人、教師に言われ自己紹介している……
転生者……浮いた自分とそんな彼を重ね合わせていたのだろうか……
どこか興味に似た感情を……
どこかで……何かを期待していたのかもしれない……
気がつけば、彼を目に追っていて……
そして、私の隣の席に座る彼をじっと見つめていて……
「ども……宜しく」
ぺこりと、小さく彼は私に頭を下げる。
思わず私も自己紹介をする……
そして、すぐに授業が始まる。
わたしは教科書を机に広げると……
慌てて、自分のカバンをひっくり返し何かを取り出すが……
教科書は一向にでてこない。
見慣れない書物が散らばっている……
気がつけば、私の興味はそちらに向いていた。
「教科書……見せてもらっていいかな?」
彼は私に申し訳なさそうにそう言いながら……
私は離れた机を彼の側に運ぶと、彼と私の机の間の切れ目に、
教科書を挟むように広げた。
「あの……さっきの書物は?」
私の興味はそちらに向かっていて……
それでいて……
その趣味をべらべらと語ってくれる彼に……
私の興味は……
そして……
そんな彼から借りたモノをクラスメイトが悪戯に笑い、それを取り上げられ笑いものにされて……ただ、その時は、彼に申し訳なくて……それを取り返そうと……
そんな私に……彼は……私を護り……そして……怒ってくれた……
そして、そんな彼は……その結末に……
特別組の総大将すらも吹っ飛ばしてしまって……
初めて……私の世界のページが捲れた気がして……
「アストリア……ほら、居たよ……物語の主人公……」
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「わたしと……口づけをしてください……」
きょとんとするレスさんの顔に……
あなたの世界に……私はそんな存在に……なることができますか?
戸惑う彼に……その答えも聞かずに……
わたしは……その能力を……
そっと……わたしの唇をかれの唇と重ね合わせる……
わたしの初めてを……
生涯……
それを……
あなたに出会うことが無ければ……
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こんな時に、こんな場所でなんの冗談かと思ったが……
クリアの唇が……俺の唇と重なりあっている……
何が起きているのか全く理解が追いつかず……
ばさりと……彼女の背中で翼が羽ばたいて……
光の片翼が右にだけ現れて……
「皆には……負けません……」
そう俺にクリアが言う。
「……なんだ?」
サイガがその異変にさすがに戸惑っているようだ。
「……一生使うことが無いと思っていた私の能力です……貴方の能力をお借りします」
そう……クリアが少し申し訳なさそうに言う。
「参ります……」
その場に立ち上がった彼女はゆっくりと洋弓を構える……
「……今の私にはレスさんの能力が備わっています……」
そう、その能力の理由を説明する……
「私の能力に……レスさんの能力が付与されています……」
そう説明を続ける……
「でも……そんな能力など……」
何になる……?
彼女の目の前に水晶が現れる……
構えた洋弓に装着される光の矢が……
薄い黄色から……薄い黄緑色に変化する……
推奨を通過する……
矢は黄緑色の炎……オーラをまとうように……
俺の創り出した結界にぶつかる。
とうぜん……だ……
今も、サイガの放つ火炎を遮っている……
もちろん、彼女の矢も……
「貫通っ」
そうクリアが言うと……
俺の創り出す結界をすり抜ける様に一直線に矢が飛んでいく。
矢が俺の結界の能力を持つように……
炎の中で消えることもなく……
「……無駄」
そう……サイガは自分のリフレクターで彼女の矢を反射しようと……
炎を吐き続ける右手とは別に左手を前にかざす……
「貫けっ」
そう再び彼女はそう呟く……
「……あぁ!?」
男は、目を見開き……未だにその状況が理解できずにいる……
矢がサイガのリフレクターを通過、その身体に突き刺さる……
「……もう一度、説明します……今の私はレスさんの能力を付与しています……防御能力を宿しています……」
そう……ゆっくりとその説明をしながら……
「……半端な……反射壁は……通用させません」
クリアがそう強く言い切る……
すでに彼女の能力は……サイガの能力を凌駕している……
「……はぁ、ざけんなよっ……この俺がこんな場所で……女ごときにっ!!」
そう再び右手から火炎を吐き出すが……
「レスさん……反射で……」
それは、私と彼の特権……
あなたに特権を渡さないと……
散りばめた結界の板に、クリアが和弓の矢を放つ。
黄緑色の矢がその的に反射されながら……
四方八方からサイガ目掛け落ちる。
「ふざけるなっ」
リフレクターがサイガの周りを囲う……
「貫けっ」
そう……クリアが呟くように……
まるで、そんな壁など存在しないかのように……
次々と矢がサイガの身体を貫いていく……
「ふざけるなっふざけるなよっ……」
そう繰り返しながら……
サイガがその場に倒れる。
「……凄いな……」
率直な感想を俺は口に出していた。
レイン、ヴァニ、クロハ……そんな彼ら、彼女らの進化を見てきた……
彼女の進化もまた……
そして同時に……
「……クリアだけには逆らえないな……」
完全に俺の能力は彼女の能力に貫通される……
「いえ……私の力はレスさんとの能力があってですから」
そう、クリアは頬を赤らめ……
「でも……できれば……私を怒らせないでくださいね」
そんな彼女の笑みに……そう服従する……。
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