反射
「おーい、どこいったぁ?」
少し猫背に両手をポケットに入れたまま歩く、オレンジ色の髪の男。
「………」
部屋の柱の陰に身を潜めながらチャンスを探る。
白く長い髪を揺らし柱から姿を晒す。
「参ります……」
手をグーに握ると右手に洋弓が握られている。
「貫けっ!」
1学年A組 サイガ=リフレクト
かわす素振りも、焦る様子もなく……
「……ざーんねん」
そう楽しそうに呟く。
そして、黙ってポケットの中の右手を引き抜くと、
その手のひらをクリアの方へと向ける。
すると光の矢がクリアをめがけ飛んでいく。
咄嗟に再び柱の陰に身を潜める。
矢が柱の一部が崩れ落ちる。
相手から距離を取るように奥の柱、奥の柱と走っては身を潜める。
「たいして広くもない部屋だ……すぐに追いついちまうぞ」
そうサイガは、クリアの方へとゆっくりと歩いていく。
もう一人居た生徒が炎の塊をクリアに投げる。
今までの二人とは違い相方を務めているのはサポートではなく、攻撃よりの能力者のようだ。
「おい、勝手なことするな……てめぇは俺に補助してればいいって言ってるだろ」
そう……謎めいた事を口にする。
「どうした……あんたも放って来いよ」
そう、クリアに自分を攻撃するように誘導する……
「まぁ……来ないならこっちから行くまでだけどな」
そうサイガが仲間に合図のように手をあげると、
数多の炎の塊がサイガに放たれ、それがサイガの寸前でかき消されるように消える。
クリアが身を潜める柱の近くで止まると、右手を柱に向けてかざす。
「ばいばーい」
サイガの右手から巨大な炎の塊が飛ぶ。
柱の陰で、ただ身を縮こませて、両目を強く瞑りただその結果を待つ。
「あぁ……なんだ?」
炎はクリアにも柱にも届かず……見えない壁に遮られるように消える。
柱の奥から聞こえる足音に……
「誰だ……おまえ?」
そう……普通に疑問そうに尋ねられる。
柱の陰にいるクリアと目が合うと、すべての不安から解放されたように、
クリアが満面の笑みを浮かべる。
「悪い、ちょっと遅れた……」
俺はクリアと柱の横に立つと、しゃがむクリアの頭に安心させるように手を置く。
「……レスさん、一人ですか?」
そうクリアが尋ねる。
無理もない……助太刀に入るなら俺じゃない能力者の方がいいはずだ。
「あぁ…悪い……リヴァーがこの階層にもう一人気配を感じるって言うからな、他の皆には先を行ってもらって俺だけだ」
そう白状する。
「……いえ……助けに来てくれたのがレスさんで私は嬉しいです」
そう、少しムキになるように返してくる。
「えっ?なに…なに?うざぃ……邪魔なんだけどお前」
至近距離で炎の塊を放つ。
が、俺には届かずに見えない壁に遮られる。
「……なるほど、お前も防御系の能力ってわけか」
そうサイガは言いながら……
隙をつく様に放ったクリアの矢がサイガの前でかき消されると……
「だけど、俺はお前の能力の上位互換な?」
そう勝ち誇ったように……
光の矢が反転しクリアの元へと返る。
左に結界の魔力をまとわせ、その矢を掴み取ると矢が消滅する。
「反射……か」
俺はぼそりとそう相手の能力を分析する。
攻撃も防いで、敵の攻撃を反射させる……
確かに俺の能力の上位互換という訳か。
魔王の瘴気で防御能力も反射威力も上がっているのだろう。
「さて……」
どう攻略する……
右腕に防御魔力を送り込み、薄い緑のオーラをまとうと、
サイガに振り下ろす。
攻撃は、サイガの寸前で止まる。
「んっ……」
サイガが反撃しようと右手をかざすが……
「なんだ、全く(こうげき)魔力がねぇじゃねーか」
(こうげき)魔力の無い攻撃も通してはくれないか……
そして、やはり魔力のない攻撃で反撃もできない……
「おいっ」
サイガが仲間に合図を送ると、炎の塊が再びサイガの前でかき消されていく。
魔力を充電でもするように……
「反射のタイミングも自在というわけか……」
サイガがゆっくりと歩いてきて、俺の腹部に手を置くと……
「零距離……!?」
さすがに、結界をはることはできない。
フィルから授かった力で可能になった体内の魔力循環……
さすがに無傷とはいかないが……
かなりダメージは軽減できる……
「クリア……こっちも反射だっ」
その言葉にクリアは和弓を手にして、俺の創り出す結界を目掛け、
矢を放っていく……
「なにを……どこを狙って?」
「なっ?」
矢が次々と反射して、周辺に散らばり四方八方から矢が次々と飛んでくる。
どこかに……リフレクターの隙はないか……
サイガの驚いた目がいつの間にか冷静に戻る。
「無駄だ……ざーんねん」
そう言うと全ての矢がサイガに触れる前に消滅する。
右手をこちらにかざす……
「くっ……」
俺はクリアと自分の前に身を隠すくらいの結界を造ると、
反射を防ぐ。
「こいつはオマケだ」
サイガは仲間からの援護を防ぐと、右手から反射を吐き出す。
結界でそれも防ぐが……炎の熱が若干の息苦しさと暑苦しさが徐々に魔力を奪っていく。
火炎放射器のように……ドラゴンの火炎のように、
仲間からのひっきりなしの援助で、
反射が永久的に続いている……
リフレクターに隙間は無い……
ヴァニのように地面から攻撃でもできれば……
今更、置いてきた仲間の名前をあげても仕方がない。
自分の結界を解くと、一気にクリアの居る場所まで駆け付ける。
「大丈夫か……クリア」
そう俺が結界とクリアの間に入り込み、
できるだけ、燃え上がる炎から遠ざけるようにする。
結界一枚分余裕はできた……
サイガと炎の能力使いの間に結界をはり供給を断つ。
が……十分に蓄えられたであろう魔力は、
止まることなく、攻撃が続く……
そして、敵も馬鹿ではない……
遮れるのは少しの間で、移動し再び補助をおこなう。
いっそ……結界であいつを囲ってしまうか……
同じことだ……
少しの足止めにしかならない……
まして、結界を破壊されれば、魔力の消耗も大きくなる。
そえに、あの炎の能力使いまでの距離……
魔力の消費は距離にも影響する……
効率的な方法が思いつかない……
・・・
ゆっくりと顔を上げると……
彼の横顔がそこにある……
必死に私を庇うように、
彼がはってくれている結界に、
彼自身が上半身だけ体重を預けるように背をつけながら、
下半身は床に寝そべるように……
私はそんな彼の腕に抱かれるように……
うん……レスさんは私をただ……必死に庇おうと……
守ろうとしている……
「レスさん……」
気がつくと……その名を呼んでいて……
レインさんや……ヴァニさん……
みんな……みんな成長していて……
貴方の役に立っていて……
私は未だ……
「……私は役に立てますか?」
……そう呟きながら……
これは抜け駆けですか……
これはズルですか……
それでも……
でも……断言できます……
わたしはあなたに出会わなければ……
永遠にこの能力を使う日は無かった……
もしかすると……
能力……現状の打破する方法にも……
あなたのお役に立つこともできないのかもしれない……
ただ……あなたと出会い……使わずに終わることは……
それは、単なるこじつけでしょうか?
それでも……
「レスさん……わたしと口づけしてください……」
これは、やましい事じゃない……
わたしはそう……彼に願った……
ご覧頂きありがとうございます。
少しでも面白い、続きが見たいと思って頂けたら、
ブックマークの追加、下から☆評価、コメントを頂けると、
励みと今後の動力源になりますので、何卒宜しくお願いします。
また、気に入った話面白かった話があれば、イイネを添えて頂けると
今後の物語作りの参考にさせていただきますので、あわせてお願い致します。
すでにブックマーク、☆評価をつけて頂いた方、イイネをつけてくださった方に
この場を借りてお礼を申し上げます。
有難うございます。
本当に励みになっています。




