宿命…
勇者と魔王の対面……
勇者の冒険の結末……
その物語を終わらせるためだけに……
この世界に産まれ、育てられてきた……
存在は勇者なのだと教え込まれた……
そんな最終場面で彼女は何を思う……
その魔王と直面し……数十分が経過している……
正直、予想以上の戦力差だ……
たった一人……その魔王は、その場で圧倒的過ぎるほどに……
こんなこと……したくないのに……
そんな悲しそうな瞳の少年の魔力は……誰よりも……
その討伐を背負ってきた勇者すらも圧倒するほどに……
地面に右ひざをつき、右手に握った魔力の剣を床に突き刺し、
崩れ落ちそうな身体を支えている……
こんな……恥じるべき状況でありながらも……
悔しいという感情はない……
同時に恐怖すらも感じていない……
自分の目的にそれらは不要だ……
感情を失った冷徹のように……
私はその使命だけで動いてきた……
ならば……この感情はなんだ……
目の前の敵に恐れることはない……
例え、この命が果てようと……それは胸を張って言える……
ならば……この不安に近いものはなんだ……
どうして……わたしの隣に居てくれないんだ?
どうして……君にとってわたしは勇者ではないのか?
私がその宿命のために……例え勇者が悪だったとしても……
構わなかった……
それなのに……
「飛べっ!!」
アストリアが創り出したランスがミサイルのように発射される。
「………」
ゆっくりとフィルの瞳がそのアストリアの能力を見る。
フィルの周辺に深い紫色の炎が燃え上がり……
魔王を覆う結界のようにその攻撃が無効化される。
「……ヒーロータイムッ……白銀」
ナイツが一気に地を蹴り上げ、一気にフィルの目の前に迫るとその拳を振り下ろそうと構える。
フィルの周囲の炎が、右手に集まると紫色の炎で形取られる鎌が現れる。
ナイツのその運動力を凌駕する……
ナイツの拳よりも先に、ナイツの身体にその魔王の鎌がその身体をとらえる。
壁に叩きつけられるナイツ……
たった一撃でその自慢の鎧が粉々に砕けるほどの威力で……
その攻撃のあった、ほぼ同じタイミングでアストリアが両足を地から離した状態でフィルの前に迫っていて……
その浮いた、右足を身体を旋回させてフィルの頭を狙い振り回す。
「くっ……」
いつの間にか、魔王の鎌は右手を覆う炎のオーラに変わっていて……
その右手がアストリアの右足を掴み取っている。
そのアストリアの身体を振り回すようにナイツ同様に壁に叩きつけられる。
……迷いを消せ……
私の使命を……
勇者の使命を共にするために……犠牲となる者の思いを無駄にするな……
魔王を倒すのは勇者では無く仲間だ……
勇者はその使命になればいい……
「勇者……僕にはどうしても卒業があるんだ……」
そうフィルが立ち上がった勇者に言う。
「……世界の半分をくれてやる……僕の協力者にならないか?」
そうフィルが……請う……
もう一度、会いたい人が居る……
一緒に学園生活を……
誰よりも贅沢な毎日を過ごせる少年は……
ただ、その普通を手にすることに……ただ……必死に……
もちろん……彼女は知らない……
そして、その承諾は、選択肢から除外される……
宿命は許しはしないから……
「拒否……だ……」
諦めなどしない……
「……レス……もう……私を惑わすな……」
その脳裏に残る何かを振り払うように……
あの日触れた……優しさも温もりも……
全部……全部……忘れてしまえっ……
そう切なそうに……
勇者と魔王が対立する……
欲しているものはきっと一緒なのに……
その立場は二人を解りあうことなど許しはしない……
・
・
・
「くそ……くそがぁ……」
真っ暗な世界に放り込まれたニアンが四方八方から繰り出される攻撃に、
完全に追い込まれながら、その屈辱を声に出す。
四対一……しかも、その全員とも、かつての利用していた者……そんな駒に与えた能力で……完全に追い込まれていた……
敵の姿は見えない……
でたらめに水晶の攻撃を放つが手ごたえは無い。
「くそが…くそ……ぐっ」
ただ、繰り返すその言葉が、レイフィスに放たれる拳を顔面に受けてさえぎられる。
「がっ……」
そして同時に、その攻撃を受けた事でその位置を掴み反撃に移ろうとした身体に鎖が巻きつけられる。
「ぬあああああああああーーーーっ」
水晶で鎖を断ち切るが身体に刻まれる呪いの苦みに、声をあげる。
黒い瘴気を取り入れ……その呪いを取り去る。
「はぁ……はぁ……」
暗闇が晴れていく……
目の前には4人の姿が有り……
「先輩……終わりだ」
右手にありったけの電流を帯びて、アレフがそう告げる。
「ふざけるな……僕はっ」
そう……黒い瘴気を大量に取り入れ……
巨大な水晶がニアンの前に降りてくる……
ぴかりとその水晶がひかり……
「てめぇらが終わりだっ!!」
充血しほとばしった目を見開きニアンが叫ぶと……
4人を飲み込むだけの攻撃が放たれる。
4人は覚悟するように顔を伏せるが……その攻撃は届かない。
「………なぜ……お前が……」
俺の結界にその攻撃は防がれる。
「また……転入生が……」
その4人の奥に居る人間を見ながら……
「……ケジメをつけろ……アレフ」
俺はそう彼に告げる。
「ありがとう……親友」
そう……アレフが答え、許されるだけの全力の一撃を……
復讐相手に振り下ろした。
「あぁ……素晴らしい、素晴らしいです、レス様」
ただ、一撃を防いだだけの俺に、魔女は頬を赤らめ……
「ありがとう……ございます……」
ミストが恐る恐る、そう言葉にする。
「……レス君……やはり君は……」
運命を感じるようにレイフィスが俺に言う。
俺がやれることなど……たかが知れている……
それでも、彼、彼女たちが……そう俺に何かを望むのなら……
そんな俺のせいで……何かを犠牲にしている者がいる……
倒れるニアンを見ながら……
そんな彼ら彼女らと合流を果たし、
さらに下を目指し降りていく。
勇者と魔王との物語を……
その結末を見届けるためにも……
セティの能力で散り散りになったメンバーを回収ながら……
そして+αの仲間を集めながら……
俺は俺の目的を……
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