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告白

 ・

 ・

 ・


 20××年……平成××年……


 自室でスーツに着替え、首元にネクタイを締め上げる。

 昨日に準備していた手提げのバックを手に取ると、

 部屋のドアを開ける。


 リビングを通ると、先ほど頂いた朝食の皿はかたされていて、

 その奥の台所で妻は忙しそうにその皿を洗っている所だ。


 わたしの存在などに気がつかないように、

 流れる水の音だけが、今のわたしに何かを語りかけている気がした。


 「……いってきます」

 そう……女性の背中におそる、おそる声をかけた。


 ・・・


 言葉は返ってこない。

 わたしは気にせずその言葉だけをかけ、リビングを出る。


 しばらく歩くと、一つの部屋で立ち止まる。

 ……娘、そして自分の職場の生徒でもある……


 そんな近くに居ながら……もう何年口を聞いていないだろうか……


 仕事場がくえんに向かう……

 生徒達むすめたちは……授業わたしのことばを聞いてなどいない……


 わたしは……いったい何をしているのだろう……


 職場……家庭……わたしはこの世界に居場所があるのだろうか……

 一日の仕事おつとめが終わる。


 「ササキくん……この後、予定はあるのかな?」

 職員室、わたしは隣の席の若い男性職員にそう声をかける。


 「リネンさん……どうしたんスか、急に?」

 そう少し戸惑ったように男性職員が返してくる。


 「ちょっとね、たまには一杯どうかな?」

 そう声をかける。


 「リネンさんが声をかけてくれるって珍しいっすね……でも、すんません、今日はちょっと用事が……」

 そう察してくださいと、右手をグーにした手の小指だけを立てる。


 「そうか……上手くいくといいね、応援しているよ」

 わたしはそう彼に軽く笑みを浮かべ返す。


 「はい、また今度奢ってくださいね……そして、円満な家庭持ちの先輩のアドバイスくださいね」

 そう男性職員は一足先に帰っていく。



 結局、一人……3件も店をはしごした。

 軽く意識を保てないくらいに、珍しくも酔っ払っていた……


 帰ったら妻は何と言うだろう……

 下手をすれば、離婚届でも突き出されるかもしれない……


 あぁ……もう何も考えたくない……


 フラフラと路地裏で千鳥足の右足が何かにひっかけ、転倒する。

 そのまま、建物の壁に背をかけ座り込む。


 何気なく路地裏の奥に目を送る。


 「……てん……せい……や?」

 その奇妙な看板に……

 

 わたしの人生は何処で間違えていたのか……

 思い返しても……やり直すことなんて適わない。


 ……そんなわたしの人生をやり直せる、そんな方法が存在するのだろうか……


 わたしの……足は……

 何かにすがるようにそこに向かっていた……



 ・

 ・

 ・



 その転生屋という場所で女と交わした会話はほとんど覚えていない……


 気がつくと眩しい日差しがわたしを照らしていた……


 「ここは……」

 自分の背丈ほどある草のような植物があたりに生えている。

 そんな植物がない地面に何やら魔方陣のようなものが描かれており、

 そんな円の中央でわたしは座り込んでいた。


 「……君は?」

 そして、そんなわたしの目の前に15歳くらいの少女が立っている。

 服装はわたしが知る世界とは少し変わっていて……


 どこか幻想的な格好……

 そんな世界の物語に出てきそうな服装で……

 

 「リザ=エンド……わたしの名前……貴方は?」

 そう尋ねられる……


 言葉が通じていることが不思議ではあったが……

 ここはわたしの知る場所にほんでは無い……

 それくらいは理解している。


 「リネン マナト……」

 そう名乗る。


 「……多分、マナト=リネンが性格なのかな」

 そう言い直す。


 「マナ…ト?」

 そう女性がわたしの名を繰り返す。


 同時に何かの違和感……

 なんだか、身体が一回り小さく、そして軽く感じた。


 同時にキラッと私の目を眩しい光が刺激する。

 地面に落ちていたガラスのような破片が太陽の光を私の目に反射したのだと気がつく。

 そして……


 「だ……だれだ?」

 思わず口に出る。

 恐らく、自分を映し出しているガラスに反射されている自分の姿……


 どこか懐かしさを感じる、15歳くらいの男性の姿がそこにあった……


 「リザ=エンド……わたしがあなたを召喚した」

 そのわたしの言葉に再度、目の前の女性が答える。



 ・

 ・

 ・



 ???時間前……

 学園 地下??階


 学園長が小さな部屋で一人立っている。

 目の前にはドラキュラでも眠っていそうな棺が一つ。


 蓋の空いた棺には白い花が敷き詰められるように……

 そして、一人の少女が眠っている……


 「リザ……わたしがこの異世界ものがたりを終わらせる……」

 そう学園長が、眠る少女に語りかけるように……


 「……わたしがこの異世界ものがたり指導みちびく……」

 そう何かを決心するように……


 「……物語は……もうすぐ終わる……そう、平等おわりだよ……わたしがそれを実現する……リザ……もう寂しくない……全員みんなを、平等そんな世界に……わたしが導く……」

 そう……寂しく学園長が笑った。



 ・

 ・

 ・



 追い詰めた……そう思った、

 アストリアとナイツはボロボロながらもその前に立ちふさがっている……


 教師おとなとして……学園のトップを張る彼女、彼に遅れを取ることはない……むしろ、その上に立つ人間……


 それでも、やはりそんな彼女たちを相手に一人……

 それは、余りにも無謀な戦いだ……


 彼女セティは大丈夫だろうか……

 元々が協力してくれているのか微妙な立場の仲間おんなだ……


 勇者を目の前に、さっさと退散してしまっているかもしれない……


 右の手甲に力を貯めると、地面を殴る。


 地面が崩れ去り、フレア……そして、アストリアとナイツはあえて、

 抜ける床と共にフレアと一緒に一つ下の階層に落下する。


 「最高さいあくのタイミングで現れるじゃん」

 壁の一部が崩壊し、その瓦礫に埋もれるように沈んだセティの顔にライトが魔力の剣を突きつけている。


 セティの能力トラップを持ってしても、勇者かのじょの時間稼ぎは限界だった……

 容赦のないライトの攻撃……そしてライトののうりょくは次第にセティを追い詰める。


 完全に王手の掛かった状態でフレアがその場に現れる。


 学園長とスコールはほぼ、均等な戦いを未だ繰り返している。


 「だっせぃとこ見られちまったなぁ」

 苦しそうに……それでも必死にセティは笑ってみせる。


 「……貴様あんたには感謝している……でも、こっからは私の責任だ……」

 そうフレアはセティに告げる。


 「全員でかかってこい……私が相手だ」

 そうフレアが、ライト、アストリア、ナイツに言う。


 「理解できん……なぜ……庇う」

 なぜ、教師フレア魔王それを庇うのか……彼女にはまったく理解ができない……


 「お前はお前の使命ゆうしゃを示せばいい……私は、私で生徒のために使命きょうしを示すだけだよっ!!」

 そう手甲からビリビリと紅い電流がほとばしる。


 フレアの手甲とライトの魔力の剣がぶつかり合う。

 互いの攻撃を弾くように、互いに後退し体制を整える。


 彼女ゆうしゃ応用力せいちょうは計り知れない……

 数分後には多分、その教師フレアすら取って食われるだろう……


 「フレアなんかの死を悲しむ者はいない……あらゆる者を騙し裏切った者の末路だ……この先を行きたければ私を殺せっ」

 そう目を見開き、全ての覚悟を口にする。


 「勝手なことを言うなよ……」

 フレアの全てを開き直った狂ったように見開いた目が戸惑いの目に変わる……


 「勇者……お前が望むように僕が相手をする……」

 彼女フレアが必死に護る通路から、その対象の声がする……


 「フィル=ゼディヴィル……勇者きみ目的たおすべき魔王にんげんだっ」

 そう茶髪の男が通路の暗闇からその姿を現す。


 場が緊張する中で……

 ライトが強くまりょくのけんを握りなおす。


 「……なんで、教師わたし使命やくめを……」

 戸惑うフレア……


 「僕は魔王ぼくだ……友達レスともう一度……友達レスと会うために……」

 ……そう彼の覚悟を……


 「……そして……教師あんたを護りたい……こんな僕のために、ここまでしてくれる二人レスとフレアを……」

 そうフレアの前にフィルが立つ。


 目の前のゆうしゃたちから彼女を庇うように……


 「それに……あんたにも感謝している」

 そう、セティにフィルが言う……


 「……すっげぇオマケ扱い、ありがと……嬉しくて涙が出るよ」

 そう、瓦礫にうずくまる体を起こせぬままセティが言う。


 「……少し前までは、抵抗することなくこの命を差し出していいと思っていた……」

 そう魔王フィルが言う。


 「……言い訳ととってくれてもいい……三人かれとかのじょと出会い……僕は……魔王として……勇者……お前に抗うよ」

 そうフィルがライトを睨む。


 「生活まもりたいものが出来た……大切物まもりたいひとが出来た……」

 そうフィルが言う……

 

 「……邪魔するな……友達レスと笑って学園を卒業するんだ……」

 そうフィルがう。


 「……傷つけるな……教師かのじょを……」

 そう……フィルが告げる。


 

 「フィル……下がれ、私の役目だ」

 その役目まもるは私の仕事だと……


 「先生フレア……あんたも責任を取れよ、あんたが僕を我侭こうさせた……」

 そうフィルが後方フレアのほうに振り返り言う。


 「……命など惜しくないと思っていた……だけど……新しい世界には二人レスとあんたはいない……だったら……」

 そうフィルはフレアに悲しい目を送る。


 「……だから、わたしがそれを……」

 護るのだと……


 「……死を覚悟して……言うなよ」

 そうフィルがフレアに言う。


 「……必死で護ってくれる教師あんたに言う言葉じゃないけどさ……あんたを死なせない……僕が護る……」

 そうフィルが告げる……


 「なんで……なぜ……」

 フレアが返す……なぜ、自分の覚悟を邪魔をする……


 「……理由か……少しは自覚しろよ……こんな僕とこれまで一緒に居てくれた……こんな僕を他の生徒同様に扱ってくれた……魔王ぼく人間おなじと言ってくれた……」

 そうフィルが涙を浮かべながら……


 「先生フレア……あなたが大好きです……失いたくない……友達レスも……愛するせんせいも……だから……僕の……我侭に……付き合えよっ」

 そう自分の想いを教師にぶつける……

 これまで、ずっとこんな自分の傍にいてくれた人……


 愛しいと思わない訳がない……


 思わぬ告白に、フレアは戸惑いながらも……


 「だから……抵抗するよ……レス……僕を止めてみろ」

 そう……勇者を睨みながら別の友達だれかに告げる……



 正しいものなど存在しない……

 平等など成立しない……


 そんな最悪の事態も……


 学園長ひとりは何を企む……?

 勇者ひとりは何を遂行する……?

 魔王ひとりは何を目論む……?


 おまえは何を護る……?



 答えなどない……

 全ては残酷に……


 


 それでも……異世界それは俺に問いかける……

 お前はどの想いをこたえるのか……と。

 

ご覧頂きありがとうございます。


少しでも面白い、続きが見たいと思って頂けたら、

ブックマークの追加、下から☆評価、コメントを頂けると、

励みと今後の動力源になりますので、何卒宜しくお願いします。


また、気に入った話面白かった話があれば、イイネを添えて頂けると

今後の物語作りの参考にさせていただきますので、あわせてお願い致します。


すでにブックマーク、☆評価をつけて頂いた方、イイネをつけてくださった方に

この場を借りてお礼を申し上げます。

有難うございます。

本当に励みになっています。

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