最強候補生
ぴょん、ぴょんと戦場を飛び跳ねるクロハは俺自身、目で追うのがやっとだった。
だが、間合いに入ろうにもある意味、結界のように半球1メートルくらいの範囲が彼女のテリトリーというように、その重力がクロハの動きを制御している。
「もちろん……地下を潜ってなんて無理だよな……」
俺はそう呟き天を見る。
それなりの高さ、距離がある……
「……クロハの身軽さと敵の能力……」
「クロハ……」
そう俺は彼女の名を呼ぶと、
クロハは迷わず、地を蹴り上空に飛ぶ……
シェルを飛び越える勢いでクロハの身体が飛び上がる。
そして、シェルの身体が丁度自分の真下に来ると、
くるりと体制を回し、顔を真下に向けえると、
何もない上空を蹴り上げる。
見えない結界を右足を蹴り上げ一気に真下に落下する。
シェルの能力圏に入るとクロハのスピードはさらに加速して、
「くっ……」
とっさに回避するが、多少剣先がシェルを捕らえる。
小さい隕石でも落ちてきたかのように、クロハの軽い体重が地面に小さな穴を作り出している。
軽く建物が崩壊してしまわないか不安にすらなるが……
そう簡単に下の階と貫通してしまうような作りでもないようだ。
「痛っ……まぢで、ムカつく……まぢでウザい……」
斬撃は衝撃に変換される……
切られた箇所を手で覆いながら、眼鏡のレンズ越しにクロハを睨む。
「刀技……牙閃」
一気にクロハがシェルとの距離を詰める。
「力を示せよ……獅子王っ!!」
シェルの空間が歪むが、その直前にクロハが再び高く飛び上がり、
空を蹴り上げ、結界を蹴り上げ落下する。
「怠惰しろ……獅子王っ」
そう……クロハがその領域に入るのを確認すると呟く。
「……っ!?」
落下するクロハのスピードが緩むと振り上げたシェルの刃とクロハの漆黒の刃がぶつかりあい……、クロハが再び上空に投げ飛ばされる。
バランスを崩すが、領域を抜けた場所で本来の重力に戻ると、
クロハは体制を立て直して地面に着地する。
「……重力操作……その逆も可能ってことか……」
俺は今のクロハの様子を見て言う。
逆に無重力に近い空間を創り出され、
そんな空間で身体を動かすことなどない人間にとっては、
その身体の動かし方などわからないだろう……
「獅子王……っ、その怠惰の中で力を示せっ」
そうシェルが言うと、再び広い範囲に無重力のような空間が広がり、
それでいて……
「猪突猛進……っ」
その無重力の中、彼女だけが強い重力の中を自由に動き回る。
「……っ!?」
その無重力の中、戸惑うように刃を構えその一撃を受け止める。
が、その軽い身体は吹き飛ばされ、彼女の能力圏外に出ると、
さらに勢いを増し、壁に向かい一直線に吹き飛ばされる。
とっさに俺が壁と彼女の間に結界を張りクッションのようにする。
が、彼女は起用に体制を持ち直し、結界に両足をつけ、
両足を蹴り上げると、一気にシェルとの距離を詰めると反撃に移る。
技を出した直後で、能力を発動させる余裕の無かったシェルが逆に刀を構え、
その一撃を防ぐ形で後退する……。
改めて、クロハの戦闘センスには驚かされる。
俺の能力……戦闘センス……
彼女は余りにもずば抜けている……
再び互いの刀をぶつかり合うと、互いに距離を取るように、
バックステップで二人の感覚が開く。
同時にクロハの漆黒の刃が消滅し……
刃の無い柄に戻る。
魔力が尽きたとか、シェルの一撃で消滅した……という訳ではなさそうだが……
「……雷切……抜刀っ」
シェルを冷たい瞳で睨みながら、そうクロハが呟くように刃を精製する……
黄色に光輝く刃が現れる。
刀の能力を上書きできる……それが彼女達、刀使いの能力者の特権なのだろう。
だが、能力を上書きできるとはいえ、自分にあった刀というのは、
大抵は固定されるものだろう……
だから、クロハにとっても小鳥丸が彼女にとっては最適な武器であったのだろうが……
この相手にとってはこの能力が最適だと判断したのだろう……
黄色く輝く刃はビリビリと刃の周辺を黄色い電流が散っている……
「刀技……電光石火」
クロハが地面を蹴り上げる。
真正面から突っ込むクロハを確認し、シェルが再び刀を構え、
「獅子王っ……その力を示せ」
その領域がクロハの身体を捕らえる。
が……
「えっ……」
クロハの身体は重力は関係なく、シェルの身体を稲妻が駆け抜けるように通過する。
再び切られた身体を押さえるシェル……
「くっそ……くっそ……いてぇ、いてぇなっ!!」
悔しそうにそう怒りの言葉をシェルが吐く。
「……お母さん……ごめんね」
そう……小さくクロハが呟く……
・
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「……クロハは、お母さんと同じのでいい」
幼きクロハが、目の前の美しい黒い髪の女性に言う。
「……そうだろ、クロハ……小鳥丸はかっこいいだろぉ」
そう、お母さんと呼ばれた女性が幼きクロハに誇るように言う。
「うん……黒くて……かっこいい」
そうクロハが返す。
「うん……こいつは母さんの自慢だ、シラヌイ家が扱う刀の中でも、それら全てを統率している刀と過言できる……」
そう母は返す。
「でもね……クロハ、お前はシラヌイ家でも、切っての才能の持ち主だ……あんたの能力は、シラヌイ家が受け継ぐ全ての刀を上書なしで入れ替えることができる」
そう、クロハの頭をなでてやる。
小柄なクロハとは対象に、女性としては背も高くスタイルも良い。
将来は自分も母のように……
それでも、現状のクロハはそんな母すらも嫉妬するだけの能力を持っている。
「クロハ……色々な敵を見るんだ……色々《みんな》の能力を使うんだ……小鳥丸は……そんな娘の成長と共に進化を遂げる刀なんだ」
そうクロハの頭をなでる。
「……クロハはね……小鳥丸だけでいいの……お母さんと一緒がいい」
そう母の腰元にも及ばない体で母の身体をぎゅっと抱きしめる。
「かわいいね……ゆっくりでいい……あんたは刀術使い最強……ううん、この世界で最強の娘になる……」
そう何時までも母は私を甘やかすようになでている。
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「お母さん……全ての能力を……小鳥丸を……成長してみせるから……」
ゆっくりと目を見開く……
正直震えていた……
彼女の可能性に……
学園最強……それを塗り替える瞬間に……立ち会っているのかもしれないと錯覚してしまうほどに……
「……レス……合体技」
そう、クロハが俺に告げる……
「小鳥丸……抜刀」
再び、クロハの右手には漆黒の刀が握られている。
彼女にとってはやはりその刀で決着をつけたいのだろう……
「……怠惰しろ、そして力を示せ、獅子王っ」
そうシェルが叫ぶ。
小鳥丸の能力では……
そう、俺もリヴァーも思うが……
思わず身震いする……
「修羅気迫……」
一時的に、急激的にクロハの能力が引き上げられる……
「二刀……抜刀……」
左手に刃の無い柄をクロハが握っている……
「雷切……抜刀……」
右手に漆黒の刀……左手には黄色に輝く刀……
「刀技……電光石火……」
シェルが最大限にその能力を開放するが……
雷切の能力はそれを無力し……
「秘技……八艘飛び……」
電光石火の一撃を下から上に突き上げるように、
シェルの身体を上空に飛ばすと、
レスの創り上げた、四方八方に散らばった結界の板を、
順番に蹴り上げ、その中間地点にあるシェルの身体を何度も何度も、
両手の刀で斬りつける。
「……まぢ……最悪っ」
最後の一撃でシェルの身体は地面に叩きつけられ、意識を失う。
・・・
シェルが目を覚ます。
辺りを見渡す……
「最悪……なんであんた達がまだいるの……」
そうシェルが俺やクロハを見て言う。
「気を失った女性を一人置いてけないだろ」
俺がそう返す。
「はっ……敵対してた女に何言ってるの?それとも、一度負かした奴なんて怖くないってそう言うこと?」
そう不機嫌そうにシェルが言う。
「そうじゃないけど……ほら」
そう、彼女が持っていた本、倒れた際に落とした本を投げ渡す。
「同じ趣味の奴は、皆……味方だよ……あんたは俺やクリアと良い友達になれそうだけどな……」
そう彼女に返す。
「はぁ……?」
不機嫌そうにシェルに返される。
「本好きに悪い奴はいない……自論だけどな……少し人との付き合い方が下手なだけだろ?」
そうシェルに言う。
「で……何、私の身柄を確保でもして、人質にでもするつもり?」
そうシェルが返す。
「ちょっと違うが……面倒くさいしそういうことにしとく……」
学園が負けた彼女をどう扱うのか……
保護するわけではないが……
「レスは……もの好き……」
そうクロハが俺の膝元に納まるように座りながら上目遣いで言う。
「レス……手が止まってる」
今回のMVPの自分に……頭を撫でるように要望を要求されていた。
「はいはい……」
そうクロハの頭を撫でてやる。
そうすると、クロハは満足そうにしている。
「おっ……レスっ、よーーーやく、見つけた」
漆黒の手甲をつけた男子生徒がこの部屋に入ってくる。
「ヴァニさん……」
そうリヴァーがその男の名を口にする。
「あぁ、リヴァーとクロハも一緒だったか……」
そう、レスしか見えていなかったように、二人の姿に反応する。
その様子にシェルの何かが反応する。
「ん……女は?」
そしてシェルにヴァニが反応する。
「安心しろ……(今は)敵じゃない」
そう俺がヴァニに伝える。
「……捕虜になるなんて言ってないけど」
シェルはそう冷たく返す……
「まぁ、レス……お前が無事でいてくれて良かった」
そうヴァニが実態を確認するようにペタペタとレスの胸板あたりを手のひらで叩いて確認する。
「……ふひっ」
そんな奇妙な言葉の発生元に思わず目を向ける。
「……なに?」
先ほどと同じように覚めた目で……
シェルは俺とヴァニを見ている。
「いや……鼻血……出てるぞ?」
そう、いつの間にか流れているシェルに指摘する。
「……派手にやられたしね」
そう、クロハに罪を擦り付けながら……
「(私の事はいいから)……続けなさいよ」
そう……なぞの言葉を吐く。
「……何を?」
そう、率直な疑問をシェルに返す。
「私……男の同性愛って……唯一、素敵だと思っているの」
そう唐突に告げられる……
一部、彼女の言葉と漢字の変換が間違っている気もしたが……
そういえば、軽く彼女のもっていた小説の中身を見させてもらったが、
男同士の友情が美しく描かれているものだった気がする……
「いいわ……捕虜になって二人を監視させてもらうわ……」
なんだか、少し彼女が友好的にさえ見える。
「……まぁ、そんな事はいいから、続けなよ」
そう彼女は二人に言う。
「「何をだよ……」」
とりあえず、二人で突っ込んだ。
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