決着
10年以上も前の話だ……
ブレイブ家で産まれた宿命もその責任の重さも……
当時の私には理解できなくて……
ただ……同じ家計で産まれた者達が必死で何かを成し遂げようとし、
その何者かになる何かに至る事ができず挫折する者達を見て……
そんな大人達のための英雄になるの事の、
重大さも必要さも理解できなくても……
産まれ持ったのが私だった……というのなら……
その宿命を背負ったのはやはり力なのだ……
最初は知らなかった……
皆そんなものなのだと思った……
人より少し魔力が高くて……
人より少し運動神経が良くて……
その瞳から読み取れる能力も……
誰と変わらぬものなんだと思っていた……
ブレイブ家の同士たちが次々と私の隣で崩れていく。
周りの大人達が私たちに何をさせたいのかは知らない。
魔王が世界を征服しようが……それは私個人の問題ではないのだと思っていた。
私以上に努力を重ねた同士も……
次々と挫折していく姿を見て……
私を妬み恨み……崩れる同士の姿を見て……
そんな私に期待と希望を見る大人達を見て……
自分の運命は……自分だけのものではないのかもしれない……と自覚した。
そう自覚したとき……自分という概念が解らなくなった……
自分というものが、人々の創造となるモノではならない……
美も学問も……武術も……相応しくあるべきだと思った……
だから、私は理想に近づくための努力はしてきた……
それが自分のためなのか……
友達も恋も不要だと……
本当の理想になるためには……全部……不要だと……
そう思うことにした。
そう……君に会うまでは……
英雄になるために誰かを頼ることも……
その宿命を全うすることだけを……
交流戦で初めて君を見て……
英雄を……支える英雄を見つけた……
私もまだまだ未熟だったのだ……
私にもまだ……女性は残っていたのだ……
見つけたんだ……わたしの英雄を……
・
・
・
「あれあれ、レスちゃんって妖刀使いだったのかなぁ」
客席のヨウマが不思議そうにレスの姿を見ている。
「んな訳あるか……」
そうツキヨは返すが……
「確かに、学園側の肉体改造とは違うようだが……」
そう不思議そうに……
「……一時的に能力を跳ね上げた感じも確かに類似しているな」
そうクレイも口を出す。
「いずれにせよ……余り感じの良いものではなさそうだ」
そう感想を挟む。
「……うん、なんだかちょっと怖いね」
そう心配そうにヨウマが会場を見つめている。
・・・
「なるほど……よくわからぬが何らかの理由で瘴気を手に入れたか」
反対側の客席でそうアストリアはレスの姿を見ながら……
「……その瘴気ってのは……あそこまで能力を引き上げるものなの?」
そう……驚くようにクリアがアストリアに尋ねる。
「さて、わたしもその瘴気とやらの正体を知らないですからね……ただ、奴は、その瘴気とやらで基礎能力を強化したのではなく、能力の制御を開放し本来以上の能力を発揮した……」
そうアストリアが答える。
「……それって……レスさんは?」
そうレスの身体を心配する……
「一気に一度の魔力を開放したようだからな、相当の無茶をやらかしたのだろう……ちょっとやばいかもしれませんって意味です、お嬢様」
そう答える。
「もう少し、期待していたのだがな……小僧」
そう……アストリアはリングを見下ろし……
「……お前の護衛を皆が望んでいるんだ……裏英雄」
そう…アストリアが付け加える。
「大丈夫……レス……負けない」
クロハとオトネもその隣でリングのレスを見守っている。
・・・
ゆっくりと起き上がる……
頭を軽くゆすり、ぼやけた感覚を元に戻す。
冷静になれ……俺……
自分の役目を役割を……
過ぎた魔力を手に入れて勘違いしたか……
もっと信じる仲間がそこにあるだろ……
俺が前に出る必要はない……
弁えろよ……俺の出来ること……
大したことをしてやれないかもしれない……
期待するほどの手を貸せないかもしれない……
それでも……それが俺ができることだ……
……そんなことをごちゃごちゃと考えている間も、
ライトは一人、二人を相手に立ち回っている。
クエスの鎖を回避し、ニアンの光線も回避しているが、
その数多の光線のいくつかはくらっている……
すぐに体制を持ち直しすぐに応戦しているが、
繰り返される攻撃に回避を繰り返すしかない……
俺の結界でそのいくつかの攻撃を防ぐ。
その応戦に気づいたライトが相手の隙をつき、
クエスに魔力で創り出した魔法剣で一撃をあたえる。
「くぅ……」
その痛みに苦痛の顔をつくる、魔女……
だが、追撃を許すわけはなく、ニアンとクエスの反撃で
ライトの攻撃の手は止まる。
そして、俺の防御結界を止めようとクエスの魔剣が俺を目掛け放たれる。
一瞬で俺の前に駆けつけたライトがその魔剣を叩き落す。
そんな、俺たちをすでにニアンの水晶が包囲している。
「……終わりにしよう」
そうニアンが俺とライトに向け言う。
ニアンの光線だけなら……なんとか俺の防御結界でなんとか防ぐ事ができるが……
それも、この状況が続けば先に魔力が尽きるのは俺だ……
放たれる光線を俺は結界で防ぎながら、
クエスによる魔術による攻撃をライトが魔法剣で叩き切るように防いでいる。
クエスが手にする本のページをめくる。
「……私は魔女……万能の魔女」
そう……クエスは誇らしげに自分の異名を告げる
「……僕の魔力の限界を超過することはできない……」
そう、ニアンがクエスのその能力を説明するように……
「だが……その水晶を、分裂する前の威力まで強化する事はできる」
そう言うと、クエスの魔力の瘴気がニアンの水晶を包み……
淡い紫色の光、その数多にある水晶が分裂するまえの水晶の大きさになっている。
今の台詞からも、見た目だけを変化させたなんて、無駄なことをしたわけじゃない事は理解できる……
結界をどこかに集中させて……防げるのは何発かくらい……
「……さすがに全部防ぐのは《《俺には》》無理だな……」
そう……呟く。
「……レス……すまない」
そう……自分の不甲斐なさを悔いるようにライトが言う。
……情けないのは俺の方なのに……
それに……
「なぁ……ライト……」
そう俺は……彼女に……
「……まだ、勝てるって思ってるのは俺だけか?」
そう彼女に尋ねる。
少し驚いたように……彼女は俺の方を振り返る。
「……最高のお膳立てだよな……」
そう……俺は精一杯の強がりの笑顔を……
「勝とうぜ……ライト」
そう彼女に笑顔で言う。
彼女は……頬を赤らめ……ただ……本当に嬉しそうに……
ずっと欲しかった何かを貰えたように……
嬉しそうに涙を浮かべながら……
「うんっ!!」
純粋な普通の女の子のように強く頷いた。
「……馬鹿な事だ……散れよ勇者」
そうニアンが叫び水晶が強く光る。
「……頼んだ、ライト」
俺は……ただ俺の出来ること……
俺が出来ないこと……彼女にそれを託す……
ライトは短剣を創り出すとそれを自分の右腕に突き刺す。
それを強く引き、右腕を縛り上げていた鎖を断ち切る。
右手に魔法剣を創り出し握る。
俺が彼女に出来ること……
そんな彼女を信じて俺が出来ること……
そんな俺を信じて彼女が出来ること……
迫るニアンの全力の威力の光線……
それも数多……
そんな窮地を……目の前の最強は恐れることはない。
「……安心しろ、レス……私は君から、私がずっと望んでいた言葉と……見たかった笑顔が見れたのだ……今の私は紛れもなく乙女だっ!」
そう……迷いなくライトが言い捨てる。
防御結界に防がれることなく、全ての光線が俺とライトを目掛け落ちる……。
「な……なんだ……と……」
再び、驚きの眼差しをニアンと……クエスが向けている。
その光線の一つ、一つをライトの刃が弾き飛ばしていく。
俺の結界でライトの剣を刃を結界でコーティングした……
俺の能力だけでは一つしか防げなくても……
彼女の能力を持ってすれば、その全ても防げるだろう……
そう……安易な考えだったが……やはり彼女は想像を遥か上に行ってくれる。
「そんな……馬鹿な……貴様の能力にそんな……まして、俺の全力の光線を凌ぐ真似……」
再び、繰り出される攻撃……
だが、その全てをライトの剣が弾き飛ばす。
「ははは、はははははっ……」
クエスは頬を赤らめ、そのライトに魅入っているかのように……狂ったように笑っている。
「凄い……凄い……はははは」
そんなクエスを不快そうにニアンは睨み付け、
「何をしているっ……さっさとその転入生をっ」
そうニアンはクエスに命令するが……
「無駄です……私たちの負けです!」
そう、全てを悟るようにクエスがニアンに返す。
「ふざけるなっ!!」
そうニアンが叫ぶが……
全ての攻撃をライトはその刃で掻き消し、
その刃がニアンを捕らえる。
何度も何度もニアンを斬りつける。
「……こんなはずが……クエスっ!!」
そう……クエスに何かを命じる
クエスが右手をライトの方に向ける……
伸びた呪縛の鎖が……
「……クエス……きさまっ」
ニアンを縛り上げる……
「ライト様……レス様……」
クエスが頬を赤らめ……
「あなた様に……この万能の魔女は、絶対なる服従を忠義を此処に誓います」
そう俺たちにクエスが告げる。
彼女が俺たちにいったい何を見出したのかはわからない……
ライトの剣が再びニアンを捕らえ、動きを封じられた彼の身体は呆気なく場外まで吹き飛ばされた。
「最終戦……決着……勝者、ライト選手とレス選手!!」
客席からここ一番の歓声を更新する声が響き渡る。
「レスっ!!」
そう、ライトが俺の胸元に飛び込んでくる……
俺はそんな勢いに押されそのままリングに倒れこむ。
「ありがとうっ!!」
そうライトは俺に感謝の言葉をかける。
「……ぜんぶ、ライトの力だよ……」
この結果は全部……
それなのに、ライトは首を横に振りながら……
「……レス、君がそれを否定しようと……私は今日という日を忘れない」
彼女は本当に嬉しそうに……
「君がくれた言葉を……笑顔を……私は生涯忘れたりはしないっ!」
そう、純粋な女の子の顔で微笑んだ。
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