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決勝 前夜(3)

 ブレイブ家の別館にて……宴から準決勝終了後まで時間を遡る。


 「助かったぜ、レス」

 そう……別空間に囚われていたヴァニが言う。


 「助かりました……」

 出られたことをホッとするようにクリアが言う。


 「助けに来るのが遅い……だが、礼は言っておく」

 そう……少しむくれた顔でレインも言う。


 「レス……信じてた」

 ボフっと腰のあたりにクロハが抱きついてくる。


 「あぁ……さすがにきつかったけどな……」

 そう後ろを振り返りながら……


 「裏切りもあったけど……助けもあった……」

 ツキヨ……そして、クレイ、ヨウマ……オトネの姿がある。


 そして……


 「謙遜するな……小僧、貴様の存在がなければ今回の勝ちは無かった」

 そう、アストリアが俺に言う。


 「貴様の防御のうりょく存在じんみゃくが無ければな……」

 そう……続ける。



 「かいかぶるなよ……俺は俺のできる事だけをやっているだけだ……」

 そう返す。


 「まぁよい……貴様もさすがに疲れたであろう?学園ここには……ライトの別館がある……そこであやつらの帰りを待つとしよう」

 決勝は……明日。

 その僅かな休息を……


 そうアストリアの導く場所へと足を向ける。


 「お前らも来い……」

 そんな権限を俺にあるはずもないが……それでも……


 ポンポンとオトネの頭を叩きながら、

 クレイとヨウマを交互に見る。


 もう……帰れる場所がないだろう……

 そんな場所は俺が奪ったのだろう……


 もう……帰る学園ばしょはそこじゃないのだろう……


 「……いやか?」

 そう……オトネに向かい3人に告げる。


 オトネは懸命に首を横に振り……


 「いいのぉ」

 ヨウマは嬉しそうにそう返す。


 「お人よしだな……」

 クレイは少しそっけない態度で返す。


 そう言いながらも……3人俺の後をついてくる。


 「……っと忘れ物……」

 「先、行っててくれ」

 そう……皆に告げ、俺は再び会場の方に足を向ける。


 「……小僧……って、貴様、ライトの別館の位置を知っておるのか?」

 そうアストリアが振り返る頃には俺はその声が届かない位置まで引き返していた。


 ・

 ・

 ・



 「さて……」

 引き返してきたものの……


 どこを探せば彼女ライトたちに出会えるのか……


 彼女たちの目的さがしものが何なのか……


 「異世界しんせかいの生活はどうだい……少年」

 そう……後ろにいつの間にか立っている人間どうしゅ……


 その声に思わず身構える。


 「言っただろ……私は学園側でもそっち側でもない……」

 そうセティが俺に言う。


 「私はね……誰にも利用も干渉もさせない……ただ……私は、私が楽しいと思う方につくだけさ」

 そう……告げる。


 「私が此処で望む生活もくてきなど、その程度なのさ……」

 そう何かを訴えるように……


 「……現世むこうで少年……君も後悔してきたのだろう……」

 そう……俺の瞳を見つめ……


 「だったら……信用りようされるなよ……君が彼女たちのために目的まもろうとしているものは……理解しているのか?


 「……お姉さんは君の味方さ……いつでもお私に甘えていいよ……少年を利用する奴はお姉さんが成敗してあげる」

 そう……俺に言う。



 「……学園あくは理解している……その目的あくを……彼女たちが探っている……」

 そう……自分の解釈を彼女に言う。


 「……それは《《本当に君を利用していないのか?》》」

 ……その言葉に……


 目の前の空間が歪む。


 「……真実を知る覚悟があるなら……そこを通りなよ」

 そう……セティが俺に言う。


 「世界なんてものは……どこも残酷にたようなものさ……」

 「それは……正しいのだろう……それでもそれは……少年にとっても正しいとは限らない」

 そう……告げられる。


 怖気ついた訳じゃない……強がりが無かったとも言わない……

 それでも、俺はそこに足を踏み入れる。


 見知らぬ薄暗い部屋にワープする……

 彼女の能力トラップで……その部屋に送り込まれたのだろう……


 ここに……彼女たちの目的が……本当にあるのだろうか……


 牢獄……?

 目の前には鉄棒のようなものが縦にいくつも目の前を遮るように立っている。


 「……さわるな」

 それに触れようとした瞬間、誰かに呼びかけられる。


 まったく気配を感じなかった……そしてずっと感じていた瘴気けはい……

 今までにない……危機感……


 茶髪の……少年……

 囚われるように……そんな牢獄の中で……


 よく見ると……その鉄の棒には、凄まじい魔力の電気が流れている……


 なぜ……学園は……彼を幽閉しているのか……

 なぜ……彼女レティは俺と彼を出会わせたのか……

 もくてきは何なのか……


 彼から漂う瘴気に……彼もまた学園に利用されているのだろう……

 ただ……彼から漂うその瘴気……


 学園に利用されていた者たちとは……どこか違って……

 無理やり、能力を引き上げるために取り込まされたものとは違って……

 余りにも瘴気それは……自然だった……


 「……何か悪いことでもしたのか?」

 俺がそう彼に尋ねる。


 「……さて、僕の存在が悪なんだってことじゃないかな?」

 そう……目の前の男が俺に返す。

 そんな境遇に全く興味が無さそうに……


 「君は誰だい?なぜ……ここにいる?」

 目的もなく……目的も知らず……

 そんな者が此処に来る理由も手段もないはずだと……


 「目的それを知るために……」

 そう彼に返す。


 「それじゃ……君も……僕の敵か」

 そう……少しだけ何かを期待したそれを放棄する。


 「この鉄格子はどうやって開くんだ?」

 俺はそう彼に尋ねる……


 「何言ってる?」

 そう……俺の世迷言に彼は返す。


 「そっち側に方法あけかたが無くても……こっち側にはあるもんだろ?」

 そうあたりをきょろきょろする……


 「変わってるな……」

 そう少しだけ初めて鼻で笑うように俺を見る……


 「無駄だ……部外者がどうこうできるモノじゃない」

 そう返す。


 ……ゆっくりと鉄格子に近づく。

 魔力を右手に送る……薄緑色のオーラが右手を包む。


 ゆっくりと鉄格子に手をかけてみる。


 軽い爆発が目の前で起きる。

 それでも、耐えられない衝撃では無い。

 軽く、鉄格子をゆすってはみるがびくともしない。


 「……もう一度聞いてもいいか?何でこんな場所に幽閉るんだ?」

 その質問に……


 「その質問に……なんの意味がある?」

 僕にそれに答える理由が無い……

 お前がそれを聞く理由がわからない……そう尋ねる。


 「理由が必要か……?」

 そう返す。


 「……だったら……友達……になってくれるか?」

 その言葉に疲れ果てたうつろな目が少しだけ驚いたように見開く。


 「それに……なんの意味がある?」

 そう別の言葉に言い換え、質問を繰り返す。


 「別に……理由なんてないだろ……友達になるのに……」

 ………沈黙が続く。


 「……こう言ってもさ、結構閉鎖的な性格なんだぜ、俺……そうだんまりされると結構傷つくんだけどな」

 そう苦笑する。


 「……ないんだ……」

 ぼそりとそう答える。


 「……ない?」

 そう返す。


 「……今まで……そんな事を言われた経験……なんて言葉を返すのか……僕には……答えがない……」

 そう……返される。


 「別になりたいか……なりたくないか……だろ?」

 そう……答える。


 「レス……俺の名前……」

 そう、ようやくその名を彼に明かす。


 「フィル=ゼディヴィル」

 そう……返してくれる。


 「そうだ……これ……」

 俺はそう結界をまとった腕を鉄格子の隙間から差し出す。

 黙ってフィルがその差し出された本を受け取る。


 「これは……?」

 中身をパラパラとめくりながら……


 「俺の好きな小説だ……趣味の押し付けは好きじゃないんだけどさ……暇つぶしにはなるだろ?」

 こんな場所で……こんな所で……一人……


 「……友達の印だ……」

 そうフィルに告げる。


 「……もう一度……右手……差し出してくれるか?」

 そう……フィルが俺に告げると……


 その手が握られる……握手されるような形で……


 ぞわりと何かが駆け抜けてくる感じ……

 

 「……こんな……場所で……僕にできることなんてあまりないからな……多少……あんたの助けになれるんじゃないか……」

 そう……フィルが俺に言う。


 「僕は……魔王……なんて呼ばれる存在だ……自分から生成あふれる瘴気ちからを……制御すらできない……周りに瘴気をばらまき……それに取り込まれた能力者にんげん障落まものにさえ変えてしまう……」

 そう続ける……

 だから……世界は僕を処刑……したいのさ……

 そう……続ける。


 「そんな僕を……学園は利用するために……ここに幽閉した……僕の瘴気を利用し……僕の瘴気まりょくを利用し……その身体の許す限界まで能力を引き上げる……そんな学園やつらの作り出したシステムの心臓やくわりが……僕なんだ……」

 そう……フィルは答えてくれる。


 何処の世界も……理不尽に残酷で……


 そんな姿を見せた……セティ……

 目的それを知らずに……お前はただ利用されているのだと……


 多分……彼女たちは魔王かれを知らない……

 彼女たちにとっては目的それは……悪戯に化け物を産み出している元凶なのだ……


 そんな世界の希望ゆうしゃまおうを払う……

 とても、簡単で美しい物語だ……


 それは目的やみだ……

 紛れも無く……彼が不本意でも産まれ持ったその能力ちからは……

 その存在は……人々を不幸にしてしまう……


 ヨウマの姿を思い出す……


 学園に利用されなくても……彼が表世界に立てばその瘴気をばら撒き……

 恐らくその被害は……


 それを学園は魔力の増強マシンとして……彼をそのコアとして利用し……


 勇者ライトは……そんな魔王フィル討伐こわすのだろう……


 彼女たちに……友達もくてきを裏切り差し出すか……

 そんなこと……おまえにできるわけがない……


 なら……彼を助けるか……

 それはこの世界に障りをばら撒き……世界を魔界と変える……

 そして……彼女たちの裏切りとなる……


 幼い頃からずっと……学園ここに閉じ込められていたのだろう……

 だが……ここに閉じ込められていなければ……


 世界は魔界になっていたか……

 英雄たちにより……魔王は命を刈り取られていたか……


 とたん足音がこちらに近づいてくる……


 「隠れろ」

 そうフィルが俺に告げる……


 ドアが開き、一人の男が入ってくる……

 ……ニアン?


 あの時の男が部屋に入ってくる。

 咄嗟に近くの物陰に身を潜める。


 「……誰か居たのか?」

 何となく、その気配を感じ取ったように……


 「今日は……なんのよう?」

 そう……フィルが何事もなかったように……


 「なんだ……それ」

 フィルが手にしているはずのない本に疑問を抱く……


 「あんたには関係ない」

 そうフィルがニアンに返す。


 「……お前が生きていられるのは学園ぼくたちのおかげだと言うのを忘れるな……」

 そうニアンがフィルに返す。

 学園ここを追い出せば……世界は彼の存在を許さないと……


 「ニアン様……」

 別の誰かが部屋に入ってくる……


 「……この部屋に何者かが潜んでいるかもしれない……探せ」

 そう入ってきた別の男に告げる。


 まずい……そう少しだけ焦りを覚える。


 「それはなんだ……」

 そうニアンがフィルから俺の渡した本を取り上げようとする。


 「ちぃっ」

 凄まじい魔力……威力の砲撃がニアンの頬をかすり……俺のそばの壁に大穴を空ける。


 「触るなっ……これは《《友達》》にもらったものだ……」

 そうフィルがニアンをにらみつけるように……

 そんな目線を恐れず、フィルの目は俺の方を見て……


 その穴からさっさと逃げろとそう告げる。


 隙をつき……ばれずにその穴から身体を抜け出させる……


 どちらが正しいかなんて……何が正しいかなんてわかっている……

 壊さず何とかできるなら……すでに誰かがそうしている……


 セティを恨んでいる?

 いや……感謝している……


 俺はずっと……学園の黒幕それが目的だと思っていた……


 でも……答えを出すには余りにも時間が足り無すぎる……



 ・

 ・

 ・



 時間は……ライトとアストリアがセティを退けた時間まで巻き戻る。


 だから……正直……彼女セティの誘いに戸惑う自分が居た……


 勇者かのじょの期待に戸惑う俺が居た……

ご覧頂き有難うございます。


ほんの少しでも面白い、続きが読みたいと思って頂けたら、

☆評価、ブックマークの追加、コメントなどを頂けると嬉しいです。


また、この話が面白かったなという会にイイネを添えて頂けると、

今後の物語の作成の参考にさせていただけたらな……と思います。

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