決勝 前夜(1)
ようやく、開放された……
セティの能力から開放され全員が揃い……準決勝も無事突破を果たした。
勝利したといえど、まだ優勝したわけではない……
決勝がまだ控えている。
それでも……そんな宴の場が開かれている……。
「助けてよぉ……レスちゃん」
パタパタと白髪の少女が走ってくる……
2学年……ヨウマ=カスミ……
彼女は俺の後ろに隠れるように……
「聞いてよぉ……クレイちゃんたらねぇ、すぐにわたしの頭をねぇがつーんってするんだよぉ……ひどいんだよぉ」
そう俺に訴える。
「……何がどうした……?」
状況が追いつかない……
彼女が俺にこうしてすぐに気を許している理由も……
彼女が何かに怯えている様子も……
「彼女に今後……今回のような真似な事をしないように説教をしていた……邪魔をするな」
そう……クレイが俺にそいつを差し出せと目を向ける。
「……この場に一緒に居る人間に言う言葉じゃないけどさ……俺たちって少し前まで敵対していただろ?」
俺のその戸惑いの言葉に……
「レスちゃんはねぇ……私たちの過去を守ってくれた人間さんなんだよぉ……だからねぇ、感謝、感激……クレイちゃんもねツキヨちゃんもねぇ……」
何か言葉を続けようとしたヨウマに……
「「勝手な事を抜かすな」」
クレイとツキヨがその言葉を遮る。
「わぁ……助けてだよぉ、レスちゃん」
そうヨウマが俺の背中に隠れるように二人に言う。
「まぁ……よくわからないけど、今回の件にはそう彼女を咎めるなよ……」
そうでなければ、俺の行為も無駄になる……
「レスちゃん……」
嬉しそうに、ヨウマがキラキラした目で俺を見上げている。
「レスちゃんにはねぇ、私は感謝感激だからねぇ……5年後にレスちゃんがまだ結婚していなかったら……私がお嫁さんになるねぇ?」
そうヨウマが俺に告げる。
彼女が5年後と言った意味はよくわからないが……
何故か、クレイ……ツキヨが拳を突き上げ、ヨウマをにらみ付ける。
「うわぁ……レスちゃん、助けてよぉ」
そうヨウマが嘆く。
「時にね……レスちゃんは、5年後に一緒に暮らすならぁ、私とクレイちゃんとツキヨちゃんと……誰がいいのぉ?」
そうヨウマが俺に尋ねる……
すぐに目の前の二人がその質問を否定し彼女を責めあげると思ったのだが……なぜか二人の目線は俺に向かい……返答を待っているかのように見える。
「……勘弁してくれよ」
俺はそう予め返すが……その返答に満足する様子はなく……
「まぁ……クレイには……別にいるとして……」
そう一人を除外しようとする……
「あぁ……?」
明らかに不機嫌そうに俺を見る……
「あいつはそういうのではない……」
そう脅威的な目が俺を襲う……
だけど……それを言うなら俺も一緒ではないのか?
そう思うが……先の質問から……
自分の選択肢の削除を否定しているようにも感じる……
「……まぁ……取りあえずこれでも食ってくれ」
そう俺は三人にどんぶりを差し出す。
麺を作る技術は俺に無い……
ラプラスから取り寄せた麺と……
麺つゆ……出汁と調味料を取り寄せ、蕎麦を彼女たちに提供する……
用意された宴の場……俺なりに出来る事を成してみる。
「う……旨い……な」
そう……クレイが漏らす。
まぁ……俺というよりはラプラスの能力のお陰だけどな……
「この暖かさと……香りはなんだか……気が休まるよぉ」
そう……うっとりとヨウマが言う。
そしてその横で黙ってそれでもそれを絶えあげる勢いで蕎麦を啜るツキヨ。
「レス……私も食べる」
いつの間にか、キラキラした目でオトネも見ている。
それを器に移し、オトネに渡す。
「レス……好きぃ」
そうそれを食したオトネが俺に告げる。
それは餌付けによる高感度アップによるものだろうが……
何故か、クレイ、ツキヨ、ヨウマの3人の目線が俺に突き刺さる……
結局はその後集まったメンバー全員に振舞うことになる訳だが……
材料は想定して準備してあったため……
俺はそれらを振る舞い逃げるように外へと抜け出してきた……
「あ……レスちゃん」
そんな俺を見つけたと……白髪の少女が近寄ってくる。
俺の目の前にのろのろと走ってくると……
大きくお辞儀をする。
俺は少しため息まじりに息を吐き出し……
「別に感謝する事はしていない……」
全て……3人が解決したことだ……
クレイが素直にその言葉を口にしたことだ……
「それでもねぇ……やっぱりレスちゃんは私たちのヒーローなんだよぉ」
そうにっこりと目の前の少女が微笑む。
詳しい彼女たちの過去は俺は知らない……
それでも……あの光景の中で……
その覚悟だけは……邪魔をしなければならないだろう……
それが役目なのだと……そう勝手に解釈した……
「だからね……やっぱりレスちゃんには感謝」
だよとそうヨウマが微笑む。
そう言い立ち去るヨウマと入れ替わるように……
不機嫌そうに俺の前に現れる……
俺のお節介に腹を立てているように……
それでも……律儀に……
ヨウマと同じように頭を下げる。
「感謝……してるよ」
そう……クレイが俺に言う。
「あの場にあんたが現れなかったら私たちは再び……惨劇を繰り返していた……」
そう……師をてにかけた日を思い出すように……
「今日という日は……無かったのかもしれない」
そう俺にクレイが言う……
「俺からもあんたに謝るよ……」
そんな俺の言葉に不思議そうに……
「あんたの覚悟も決意も知らず……俺は失礼な発言をした……」
そう……ツキヨとタッグを組み、クレイとリヒトと戦った日を思い出す。
「いや……きちんと的を得ていたさ……私は……私のために……いろんなものを犠牲にしていた……」
そう俺の言葉にクレイは返す……
「ヨウマが……一人暴走してしまってな……そんな事を言えなかった……だから……そんな事も含め……お前に言っておきたかった……のかもしれないな?」
その言葉に思わず?が浮かぶ……
「結局……どういう意味だよ……」
俺のそんな率直な疑問に……
「……一度しか言わないぞ」
そう……クレイが前置きを置く。
「見ての通り、私はこんな性格だ……素直に意見を出すのも……そんな自分でさえもその自分の意見など……見えているようで見えていない……そんな私がその答えを答えるなどもっての他ということだ……それと同時に他人の意見など……自分の思考を鈍らせるだけ……ヨウマの質問……当然私はそれについても、何一つその答えに興味も期待もしないはずだった……なのにその質問……お前の気持えに……私は期待していた……それが何を意味するのか自分でもわからないのにな……罪深いとは思わないか……それは……彼女たちの裏切りだ……同時にお前の……罪だ……責任を取れよ……まぁ……わたしの知らない所でも……同じような責任を問われているのだろうがな……」
その台詞量に……全く俺は鈍感に……
何一つ……理解も疑問も……なくて……
ただ……守りたいだろ……
ただ……助けたいだろ……
それが……俺の能力だ……
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