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降伏

 一回戦目の終了からのインターバルもあっという間に……

 第二回戦の開始の呼び出しがかかる。


 並ぶ相手の顔ぶれに……

 召還獣を呼び出す能力者である、キルエ=サモンの姿。

 そして……

 

 「あっ……レスだ、おーーーーい」

 ぶんぶんと、手を振る女子生徒。

 オトネの姿がある。


 彼女の実力だ。

 この大会に出ていれば、そりゃ勝ち残っているだろうな。


 一戦目は、クリアと再びセティが参加。

 クリアも健闘するが、セティの活躍があり、一戦目を勝利する。

 改めて、彼女の能力を思いしらされながらも……

 早くも始まる次鋒戦に……


 キルエがリングに上がってくる。

 そして……


 「ぶーーーん、ぱらりらぁ、ぱらりらぁ」

 オトネが、リングの中央を目指し、頭を低く倒しながら両手を広げながら走って来る。



 黙って俺はリングにのぼると……


 「僕が……僕に……やらせて」

 この大会に残り一枠を買って出てくれたクラスメイト。

 マリア=ガンビットが前に出る。



 「……レスだ」

 リングで整列して、オトネが少し嬉しそうに俺を見上げる。


 「出来れば、やりあいたくなかったけどな」

 そう俺が呟くが……


 「別に勝負するだけ、命の取り合いじゃない」

 そうオトネが返す。


 だが……負けられない。

 凶悪とも言える彼女に、勝たないとならない。


 「真剣勝負、恨みっこは無しな」

 そう……俺は彼女に告げる。


 「うん、わかった」

 そう彼女もそう俺に答える。



 「それでは、次鋒戦を開始しますっ!」

 ラビの声が響き……


 直後に、キルエが前回とは違う、氷の獣を召還する。


 同時に、マリアの両手に2丁の拳銃が握られている。

 誰よりも早くマリアの手がその拳銃の引き金にてをかける。



 「我の命に従え、氷獣」

 キルエの言葉にその召還獣は……


 地面から氷の柱が何本も立ち上がり、

 マリアの拳銃から放たれた銃弾は氷付けの標本のように、

 その氷の柱の中に囚われる。


 「ぱらりら、ぱらりらー」

 オトネはそのリングに何本も突き出した氷の柱を、

 前かがみに両手を広げ蛇行しながらかわしながら走ってくる。


 「わざわざ、そっちから来るならっ!」

 マリアは手に持つ二丁の拳銃をオトネに向けると、その引き金を引く。


 「くるり」

 オトネはリングを走り回りながら、右手を自分の顔の側に持ってくると、

 人差し指を自分の目の前でくるりと回す。


 オトネを狙った銃弾が一瞬動きが止まると、

 そのままくるりと180度回転すると……


 「ばーん」

 そのまま右手で鉄砲の形を作ると、そう言葉にする。


 「くっ!?」

 銃弾がそのままそっくりマリアに返る。

 俺はとっさに結界をマリアの前方にはりそれを防ぐ。


 「次から……次に……」

 氷柱が俺とマリアをめがけ飛んでくる。


 俺は、自分とマリアの前に結界を張りそれを防ぐ。


 「……この攻撃すら防ぎきるか……話には聞いていたが、並みの防御能力ではないようだな」

 キルエが自分の召還獣の能力を防ぎきった結界を見て言う。


 「ぱりーん」

 気がつくと俺の側に迫っていたオトネがそう言葉にすると、


 「くっ……」

 目の前の結界が砕け散る。


 「レス……オトネの勝ちだね」

 そう言って指を俺に向ける。


 「ぴょーん」

 そう指をくいと天に向ける……が……


 「結界……また?」

 俺にその能力が通じなかったことで、自分が俺の結界の中に取り込まれていたことに気がつく。


 「マリアっ……頼むっ!!」

 結界に取り込まれたオトネに向け、2丁の拳銃から銃弾を何発も放つ。


 結界の中にいる間……先ほどのように銃弾を反転させることもできないはず。

 

 「ぱりーん」

 当然、オトネは俺の結界を破壊し逃げ道と封じられた能力を開放するが……


 結界の破壊に要した時間とそのどちらかを両立できるほど、

 銃弾のスピードが遅い訳がない。


 結界を解き、その銃弾の何発かがオトネにヒットする。

 斬撃同様に、その銃弾も能力者に備わる魔力によって衝撃に変換される。


 「……痛い」

 とて……と、オトネは後ろに尻餅をつきながら、少しだけ拗ねた顔をしている。


 

 「なぁ……オトネ、どうしても俺たちは戦わないとならないのか?」

 そう……少し赤くなったオデコを摩っている女の子に問う。


 「……うん……それがお母さんのためだから」

 そう……オトネは冷たい瞳で俺を見た。



 ・

 ・

 ・




 何年前……だっただろうか。

 覚えていない。


 目の前で必死に母親が誰かに謝っていた。

 子供ながらにそれは自分のせいなんだってのはわかっていた。



 「またなのっ!オトネっ、何度言ったらわかるのっ」

 家に帰った後、母親がオトネに叫んでいる。

 叱られている……

 

 「……ともだちと遊んでいただけ」

 そう幼いオトネは母親に返すが……


 「あなた、自分の能力がどんなものか理解してるの?あなたの言動がどれだけ危険なのか制御できてないのか……理解してる?お母さんいつも言ってるでしょ?あなたは一人で遊びなさいって、いつも言ってるでしょ?」

 そう母親が怒鳴り散らす。


 「……だって、向こうから遊ぼうって」

 そう返すも……


 「お願いだから、お母さんを困らせないで」

 その一言で……オトネは殻に閉じこもることしかできなくなる。


 それから、また数年後……



 「……もう、お父さん、帰ってこないから……」

 そう母親がテーブルの上で頭を抱えながら言う。


 「どうして?」

 そうオトネが尋ねるも……


 「どうして?全部、全部、あんたのせいよっ」

 そう返され、無関心な素振りをするが……心当たりがある。

 どれもこれも自分のせいなんだと理解する。


 それから数年……

 母親はオトネを迷惑そうに見ながらも、


 それでも時には優しく……

 現にこれまでオトネを見捨てることなく、育ててきた。


 父親の変わりに働きながらも、オトネを育ててきた。


 この学園に入り……

 さらに学園はそんなオトネたちの家庭を支援してくれることになった。


 もちろん、無償という訳ではない。


 それでも、散々、お母さんを苦しめたこの能力で、

 今度はお母さんのために……力になれるんだって。


 やっと恩返しができるんだって……。




 ・

 ・

 ・



 「……だから……負けない」

 すくっと立ち上がったオトネがこちらを見ている。


 オトネがいつも独りだった理由。

 オトネがいつも独り遊びをしていた理由。


 もちろん、俺がそれを聞けるのは少し先の話で……


 今、この場ではその事実を知らない。



 「なんで、オトネみたいな者まで、利用されないとならないんだよっ」

 そう俺は悔しそうに呟き……



 氷柱が俺とマリアを襲う。

 寸前でお互いの目の前に結界を張り防ぐ。


 「さっさと勝負をつけろ、今回はあのナイツ=マッドガイアのような奴が相手じゃないんだ」

 これ以上、俺とマリアに苦戦するのは恥と言いたげに……



 「レス……」

 マリアが突然、俺に話しかけてくる。


 「あの、ナイツ先輩と戦った時に、クリアの矢を反射させてたように、私の銃弾を反射させて相手に命中させられる?」

 そうマリアが言う。


 「……ん?逆に、あの銃弾……俺の結界で反射させられるのか?」

 オトネに銃弾を反転させられた時、銃弾は俺の結界に防がれていた。


 「……銃弾を変える……リフレクションバレット、生命体以外のものには反射する弾だ、あの時のようにレスの結界で僕の銃弾をコントロールできれば……」

 確かに、真っ向勝負では、反転させられるだけだ。


 矢と違い、目で追うにはスピードも大きさも難易度が高いが……


 「なんとかする……」

 俺はそう答える。


 マリアはリングを走り、相手との距離を測り直しながら、

 腰のポシェットから銃弾を取り出し、2つの拳銃に銃弾を詰め直していく。


 そして、二人を標準にするように拳銃を乱射する。


 俺は、その放たれる方角に結界を張る。


 「っ!?」

 結界にぶつかり、銃弾の方向が変化する。


 銃弾の反射先を予測しながらつぎつぎと結界を張る。


 「ぱりーん」

 オトネがそう言葉にすると、俺の張った結界の一つを破壊する。


 銃弾は反射されることなく、結果オトネの場所にも届かない。



 キルエを狙った弾……


 氷の柱を自分の周囲に呼び出す。


 氷の中に銃弾が何発か防がれ、取りこぼした銃弾も、氷の柱に防がれる。

 ……オトネの能力に目が行きがちだが、キルエの召還能力も強力ということだ。


 「そう……簡単にいってくれないか」

 そうマリアが少し悔しそうに笑う。


 「もう一度、俺を信じて今度は突撃して、回避できないくらい間近で撃ってくれ」

 そうマリアに俺が言う。


 「なっ……でも?」

 自分の能力の特性に戸惑うが……

 

 「わかった」

 そうマリアが頷く。


 「なんだ……?」

 キルエが自分の召還獣にうまく能力が発動できないことに戸惑う。


 俺の結界で召還獣ごと取り囲こむ。


 マリアが突っ込み、長方形に囲われた結界の天辺に飛び乗ると、

 銃口を真下に向ける。

 天辺の結界だけを解除すると同時にマリアがその拳銃の引き金を引く。

 

 氷の獣は苦しむようにその姿が消滅する。


 その自分の大きな魔力の消滅にキルエが思わず膝をつく。


 再び、マリアは走り出すと今度は、オトネの方に向かう。



 そして、オトネも自分の周囲に結界で囲まれていることに気がつく。


 結界を破壊するだけでは先ほどの二の舞になる。


 右手でつくった指鉄砲を間近の俺に向ける。

 同様に頭上から乱射するマリアの拳銃を無視して、その指からの一撃を俺を目掛け放つ。


 俺の結界を破り、俺に直撃するが、同時にマリアの攻撃もオトネに直撃する。



 オトネの能力は……正直、群抜いている。

 だが……それ故か、オトネ自身の耐久力は高くない。


 俺はそのオトネの一撃をもろに受け吹っ飛ぶ。


 オトネもマリアの乱射に膝をつくが……


 「……負けない……」

 オトネが立ち上がる。


 「どけっ……」

 「どんっ!」

 オトネがマリアに目も向けずに手のひらだけをマリアに向け言葉にすると、

 マリアの身体が場外寸前まで吹き飛ばされる。


 全く……これで負けを認めてくれないと……俺なんかが勝てる訳ないじゃないか。

 抜けているようで、結構頑固な奴だなと改めて思う。


 指拳銃が俺を再び捕らえる。


 「レス……降参して」

 そう、オトネが俺に告げる。


 が……そうする訳にはいかない。


 俺が負けても次はあるが……それでもやっぱり負けられないんだ。


 オトネ……お前にも負けられない理由があるのかもしれない。


 それでも、俺がここで敗北すれば……俺は……



 だからって……こんな手を使う自分が許せないけどな。


 俺はそう……心で呟きながら……


 立ち上がると……ゆっくりとオトネに近づく。


 「レス……来るな、撃つぞ」

 そうオトネが俺を制御するが……


 「……もう、やめよう」

 そうオトネを抱きしめる。


 「……なに?」

 オトネが戸惑ったように俺に問う。


 「オトネ……俺はお前と争いたいんじゃない……俺はお前を守りたい……」

 ……そうオトネに伝える。


 「……オトネは、お母さんを守るの、だから、レスを倒すの……」

 そう戸惑いながら言葉にする。


 「……こんなことがお母さんの為なのか……これをお母さんが望んでいるのか?」

 そうオトネに尋ねる。


 「……オトネは周りを不幸にするから……誰とも仲良くしちゃいけないから」

 そう……返す。



 「……なんだよ、それ、俺は楽しかったぜ、オトネと居るの……オトネは俺と居るのつまらないか?不幸か?」

 そんな俺の問いにオトネは首を振りながら……


 「……よくわかんねぇ理由で俺と居ることを拒むのか……それでも俺と敵対したいか……?」

 その問いに……オトネの瞳から涙が溢れ出してきて……


 「嫌っ……レスと……遊ぶ、レスと……お話する」

 ぎゅっと……オトネが俺を抱きしめ返す。


 「……キルエ、ごめん……オトネ、降参する」

 そうオトネが降参を言葉にした。



 戸惑いながらも、ラビが俺たちの勝利を言葉にする。


 「約束する……オトネ」

 守ってやる……


 必ず……


 俺とお前が笑っていられる場所……


 絶対に守るから。

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