進激(2)
「ねぇーーー、レス、次ぃーーーっ」
遊ぶ金を強請る子供のようにイブが俺に希望する。
黒い玉が2丁のマンシンガンに代わり、周囲に弾を撒き散らしている。
「君じゃない……僕が世界を作る……僕は神だからね」
セシルはリプリスを見て言う。
「……あんたじゃない……明日、いや……今日……私がそこに行こう……全部、私が奪ってやる……」
カタカタと光のキーボードをリプリスは忙しそうにたたき始める。
「奪った命の数だけ守りましょう、奪われた命の数だけその魂を狩りましょう……」
糸目から瞳が薄っすらとその赤色が現れる。
「生捕れっ……八岐大蛇っ」
八つの刀が意思を持つ様に、セキラの支持に従い戦場を飛び回る。
「斬るっ」
サリスの刀が現れる瘴気の化け物を次々と切り倒す。
「正義を貫け……私が民を導く」
黄金の剣を振り回すシルバ。
仮面の化け物。
黒い足の無いドールのような形態をしていて……
手を翼のよう広げるように飛行している。
瞬時にその座標をずらすようにその立ち居地を移動している。
仮面の目の位置に開いた穴の奥に、紅い光が宿り、
瞬時に、その場所を入れ替えながらも、
紅い瞳がギョロ、ギョロと急がしそうに俺たちの居場所を把握している。
「くるぞっ!!」
リプリスが俺に叫ぶ。
仮面の化け物が俺達らを全て把握したように、
化け物の周囲の黒い水晶が輝くと……
一斉にビームを吐き出す。
全員がただ……黙って空を見上げている。
今更、回避など不可能というように諦めたような目を向けながらも……
多分、それは自分たちには届かないと信じているように……
「勘弁しろよ……せめて、何処か一箇所に集まっていてくれ」
セラとその要塞に守られているリプリスは、不要だが……
俺は、イブ、サリス、セキラ、シルバの場所を瞬時に把握すると、
結界を作り、その攻撃を何とか防ぐ。
ギョロ、ギョロと……座標を変えながら、
仮面の奥の瞳が動く。
その壁の隙を見つけるように……
瞳を忙しく動かしている。
「追撃……来るぞっ」
リプリスが叫ぶ。
「くそ……」
仮面の赤い瞳同様に、俺は自分の瞳にフィルの魔力を宿しエメラルドに光る瞳を懸命に動かしその黒水晶の動きを把握する。
「感謝します……正直、以前にお会いした時、あなたという存在を私は見くびっていたのでしょう……」
セキラは目を開いているのか、閉じているのかわからない目を閉じたような目を俺に向ける。
肩ひざをついたまま……迫るビームが自分には届かないと、俺を信じたまま……自分の能力に集中している。
「今なら……ギルド長があなたに何を見ているのか、少しはわかる気がします……」
ゆっくりと、頭を化け物の方に戻し、その瞳からうっすらと化け物同様に紅い瞳が瞬時に移動を繰り返す化け物を追い続ける。
「奪った命の数だけ誰かを救いましょう……奪われる命の数だけ魂を狩りましょう……」
「喰らえっ、八岐大蛇……」
膝をついたまま……八本刀に集中する。
その身は守られていると信じ……
それでも、8つの刀をそれぞれ、ばらばらに同時に動かす。
そんな集中ができる……
「……あんたも大概だよな」
素直にそう声を漏らす。
「……褒める事がお上手のようですね……気が紛れます、後にして頂けますか?」
そう少しだけ俺に心を許したようにセキラは口元に笑みをこぼしながらも、
邪悪な蛇のような瞳が今も座標を変える化け物の姿を追い……
「喰らえっ」
次に現れる場所を見極めるように、瞳を送ると……
八本の刀が化け物を貫く。
一本の刀が確実に仮面の位置を狙うが……
見えない壁に遮られるように止まる。
他の7本が瘴気の身体を貫くが……
周囲を取り巻く黒い霧がその身体を修復していく。
「レスーー」
おねがーーいとイブが俺に何かを訴える。
空を……見上げながら、
黒玉が俺の思考に変わる。
「ねぇーーー、わたし、ロボットじゃないからねぇ」
イブは文句を言いながらも、多弾頭ミサイル兵器を肩に構えながら、
化け物を狙い発射する。
数十発のミサイルが一斉に化け物に撃ち込まれる。
しかし……その化け物はその座標からずれるように、その居場所を変える。
ずらせるのは数メートル程度。
撃ち込まれた場所に標的が無くなったミサイルは……
自動的に標的を目指すように追尾する。
「えーーー、すごぉ、自動追尾システム、無駄に贅沢」
撃ち込んだイブが一番驚いているように声をあげている。
爆風の中から化け物が姿を現す。
致命傷を避けるようにやはり、見えない壁が化け物を守り、
そして、滅んだ身体をあらたに瘴気が修復していく。
「気にするな……狙うは、そっちじゃない……終わらせてやる」
リプリスは……空の化け物など一切見ていない。
今も、黙ってその化け物と戦う俺たちを見ている男。
セシルに目を向ける。
「その余裕……壊してあげるよ……」
リプリスはあえて、セラの作り出すセキュリティの外に出る。
仮面の化け物の黒水晶が一瞬でリプリスを取り囲むが、
そんな事すら気に留めないように……
その右手を目の前の光のキーボードのエンターキーに乗せたまま……
「……なんのつもり?」
どこか……そんなリプリスの意図を警戒するようにセシルがリプリスを見る。
「ご苦労様……後は私の仕事だ」
仮面の化け物がリプリスの危険性を察知するように、
その黒水晶にエネルギーを溜めるが……
リプリスは右手の人差し指に全力を集中すると、
そのボタンを押し込む。
まるで、セキュリティがその警報を鳴らすように……
あたりに赤いランプが点灯し……
周囲に警告の文字が刻まれる液晶画面のような文字が浮かび上がっていく。
「なに……が……起きた?」
セシルが目を見開きその文字を見渡している。
警告の文字と警告音、そして赤く光る世界……
周囲の化け物が消滅していく……
そして……
絶対なる結界……
セシルの黒い翼が消滅する。
「なにを……した?」
そう、セシルがリプリスを問いただすように……
「人類を舐めるな……神の好きにはならない……」
そんなリプリスの言葉を合図に……
標的は仮面の化け物からセシルに代わる。
「はぁーーーっ」
シルバの黄金の剣は魔力を蓄え、
剣先からレーザー砲のように放たれる魔力の刃がセシルを狙う。
「喰らえっ八岐大蛇」
同時にセキラの八つの刀がセシルを貫く。
「レスーー」
そんなイブの言葉に答えるように、
ロケットランチャーを装着したイブがそれを容赦なくぶっぱなす。
「斬るっ」
サリスがその刃でセシルの身体を引き裂く。
そんな魔力の爆風のようなものにセシルの身体は覆い隠される。
同時に……そんな主への攻撃に連動するように……
空の化け物の仮面が音を立て崩れ、その身体を消滅する。
終わった……とその爆風が収まるのを待つ……
「っ!?」
先ほどのセシル同様の戸惑う瞳でリプリスが周囲を見る。
警告を促す映像のパネルが次々とガラスが割れるように、崩れていく。
何が……起きているのか……
ゆっくりと目線はその爆風の先に集まる。
晴れる爆風から現れる人影……
6つの翼に身を守られるように……
「……その能力は……僕の創造のものだよ……僕だって馬鹿じゃないよ」
そんな天才の希望を打ち砕くように……
「そんな……はず……」
そんな訳がないと、再びリプリスがエンターキーを押す。
再び世界が警告を促すように赤く光る。
「……なっ!?」
再び浮かび上がる警告の文字は……
俺たちに向けるように……
俺達の周囲にその文字が浮かび上がっていく。
「くそ……私はっ」
悔しそうにリプリスが呟くが……
地に黒い渦が現れ、伸びる黒い触手に全員が囚われる。
ドンっとイブが俺の身体を突き飛ばす。
「希望を託すよぉ、頼んだよ……レス」
イブが意地悪そうに笑いながらその渦に飲まれていく。
……俺以外の全員が、その渦に飲まれ退場させられる。
「その言葉は告げる……その知性は始まりだと、そんな優柔不断な魔術師は無計画に何を創造する……」
あらたに仮面を創り出すセシルがこちらに向けて言う。
新たに現れるゲート。
「随分と……偉そうにしてるのね……あなたが泣いちゃうくらい、何度でも負かせてあげる」
白い長い髪を揺らしながら、フィーリアが現れる。
「ねぇ……君は何を願う……」
「あら……一度、神なんて立場を与えた貴方が、まだそんな事を言うの?」
意地悪に笑うフィーリア。
「ごめんね……それでも僕は言葉を蓄える……世界を創る……だから、フィーリア……君の願いを僕は聞く……僕は……」
その立場で何かを贔屓することはよくないことを知りながらも……
「時間……が、ない……アイツが僕の企みに気づく前に……」
少しだけ何かに焦るようにセシルが言う。
ゆっくりと近づく何かに……セシルはただ……
その目的を……
「僕が新しい世界を創る……」
ただ、その言葉を繰り返す。
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