法
「誰も悪を裁かない……そんな正義に期待して……正義に甘えて……後悔したころには失っている……」
そんな人生への言い訳を……許される訳はないのは知っている。
「壊す、壊せ……壊れろよ……」
何かを恨むように……ただ、その言葉を繰り返す。
「因果応報……そんな悪が野放しになるのなら……僕がそんな正義も悪も裁いてやる……僕が世界を壊すっ」
再び、リスカが俺の隣に立つ。
「その不条理を嘆き……ただ救われたかった……そんな平穏を手に入れたかった……因果応報は……君を救ってくれるのかい?」
上空で盤がひろがり新たな駒が動く。
その駒に、セシルの仮面が同化する。
黒い瘴気が集まり……
「秩序を守るその言葉は何を語る……正すのは誠実……壊すのは無慈悲……さぁ……願え……その抵抗は……僕への願い……聞かせてよ……その言葉を……」
新たに六つのゲートが新たな客を招き入れる。
「全く……小僧、貴様との出会いなど昨日のようにすら思えるのにな……我の……この世界の運命、小僧……まるで貴様に託しているようだな」
アストリアがゲートをくぐり、こちらに歩いてくる。
「法王は問おう……気づけなかった幸福……取り戻せない時間……君がどれだけ、その償いに力をつけようと……永遠とその罪を償うことなど適わない……」
セシルがそんなアストリアを見て言う。
「……それで、神に、何を願えば我の罪とやらは償えるのだ……」
そんな褐色の肌とは正反対の真っ白な髪をポニーテールに束ねた髪を揺らしながら、リスカ同様に俺の横で肩を並べるように立ち止まる。
「ぱらりら……ぱらりらぁーーっ」
両手を広げ、お辞儀する体制でおかっぱ頭の真っ白な髪の女性が走ってくる……
「そんな能力のせいで……人と接することを禁じられ、そしてそんな親にすらもその存在を煩わしく思われ……願い救われたいのではないのかい?」
オトネは立ち止まり、首を傾げながら……
「レスの敵はオトネの敵……よくわからない……でも、レスをいじめる奴は……オトネが容赦しない」
低い姿勢のまま、オトネはセシルを睨む。
「それじゃ、幼女ちゃんの敵は私の敵だ……」
体格的には俺よりも大きい。
そんな体格の女性が現れる。
「リリエット=バーサク……私があんたに対抗する理由だよ」
キリングの部下……リリエットがオトネの前に立つ。
シェルとアセリアもゲートをくぐり現れる。
「はい、はーいがんばりまーすっ」
アセリアは元気よく叫び、
「めんどくさっ……神に逆らうとか正気じゃないし」
ここに要ることを悔いるように、シェルが漏らす。
「ぐーる、ぐーる、どっかーーーんっ」
大きなハンマーを片手に茶髪の少女もゲートをくぐり現れる。
「私は、普通を嫌悪します……普通には価値はありません、普通に期待はありません……私は普通を嫌悪します……私は普通を脱却します……」
メノウが少しだけ距離を置くように立っている。
「社交……不徳……君たちはその法に何を願う……」
そんなセシルの前に上空から法王の仮面をつける化け物が降りてくる。
何も武装も持たない……それは、どこかより不気味で……
仮面の化け物は少し斜め上空を眺め……
「ハァーーーーーー」
オペラ歌手が発声練習でもしているかのような、高い声をあげる。
「っ!?」
重い重力が圧し掛かるように……
重力にその体が支えられないような感覚……
「デバフ……身体能力の低下……」
身に起こった現象をリスカが分析するように呟く……
「抜刀……獅子王っ」
シェルが鞘から刀を抜く。
「なに……刀、おもっ……」
能力の低下……そのせいか、抜いた刀が重く感じるようにシェルが不満を漏らすように言う。
「獅子王っ……その力を示せ」
ぐにゃりと空間が歪む。
周囲の瘴気によって産まれた化け物がその重力に逆らえぬように動きが鈍る。
「猪突猛進……っ」
そんな重力の中、通常の何十倍もある自分の体重で地面を削りながら、その場を駆け巡る。
化け物の数対を吹き飛ばす。
「不徳と堕落……楽をする、面倒くさいことを嫌う……それなのに、なぜ刀を抜く……」
そんなセシルの言葉に……
「……今さら……他の女子に対抗するつもりは無いし、そんな面倒なことをするつもりもない……それでもさ、やっぱ……彼のそばは居心地がいいんだよね……同趣味してるし……面白いもの持ってるみたいだし……」
そんな気が無いように、たまたまその場に位置づいたように、俺の前で、俺を庇うように刀を構える。
「ぴたっ」
オトネのそんな擬音に、襲い掛かってきた数対の化け物が停止している。
「どーんっ!!」
オトネの突き出した拳が化け物を吹き飛ばす。
「どーーんっ!!!!」
そんなオトネの隣でオトネの二倍以上ありそうな大柄の身体。
繰り出した拳がオトネが停止させた化け物を吹き飛ばし、その後ろに居た化け物を数体巻き込み吹き飛んでいく。
「……そんな大柄な身体……そんな性別からしてみれば、そんな正反対に憧れた……それを彼女に見ているのではないのかい?君はそんな彼女になりたいと思っていたんじゃないのかい?」
そんなセシルの言葉……リリエットは振りかざした拳を戻しながら……
「女らしく……ただかよわく有り、男に依存して……そんな恋愛を送りたいと思ったことはあるよ……」
そう素直に心情を言葉に変える。
「だけど……それを願いどうなる……私は私に相応しくないそれを演じそうなりたいと願えばいいのか……」
リリエットは……そんなデバフさえも気に留めずに……
「狂人化……っ」
瞳孔と結膜が区別つかないほどに真っ赤に染め上がる……
同時に両手の爪が自分の指の長さ同様に伸び上がるように、
迫った化け物を引っ掻く。
消滅する化け物を見向きもせずに、セシルの体をめがけ走り出す。
「法もそれを強要などしていない……君はなぜ、そんな自分を受け入れようとする?なぜ……そんな自分の願いを否定する?」
そんなリリエットの一撃は……セシルの体の前で停止する。
「ばぁーんっ」
同時にオトネの右手で作り上げられた指鉄砲がセシルを狙う。
やはり、その攻撃は届かない……
「まずは……それをどうにかしろってことか……」
俺はそう呟くように法王の仮面をつける化物を見る。
「ラァーーーーーッ」
再び、斜め上空を見上げながら声をあげる。
仮面の化物の周囲の瘴気により現れる化物が強化されるように……
「否定する……僕は……壊れかけたその世界を見る……それだけだよ」
そんな法王の仮面の化物の歌を否定する……
リスカはそんな仮面の化物を見上げながら……
「誰かに僕を助けられたなんて思わない……姉の犠牲が……誰かに止められたなんて思わない……同時に、その復讐が……納得のできる理由がそこにあったとは思えない……だから、僕はそれを成すだけだ……例え、誰もが僕が間違えていると言え……これが僕の言葉だ」
リスカは……仮面の化物を見上げていた瞳をゆっくりとセシルに向ける。
「その言葉は願う……それは保守的に……誠実に……その言葉は……己を守る……守られると……法はそれを定めるものだと……法はそうあるべきものだと……違うのかい?」
セシルはそのルールを問う。
「言葉も……不愉快なのさ……法は……僕にとって不都合なものまで守る……手に入れたいんじゃない……取り戻したいんじゃない……ただ……僕の大事なものを壊したモノ……それを破壊したいのさ……」
リスカは手にしたナイフの刃を起こす。
「止めてみなよ……僕を……否定しろよ、僕を……神様なんだろ?」
リスカはセシルに不気味に微笑む。
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