データ
「別に理解してほしい訳じゃない……ただ、僕がこの悪事に言い訳をするのならさ……そんな正義は僕を救いなどしなかった……そんな正義という弱者の犠牲を正すために……他に報いる方法があったのか」
「……黙ってそんな悪事が裁かれるのを待てば良かったなどと、そんな綺麗ごとなど……僕もそんな犠牲者も救いなどしない……僕は僕の手で……その因果応報を成し遂げる……その悪事に後悔はしていない、後悔しているとすれば、その犠牲者を出す前に、それが出来なかったことだ」
リスカが俺に肩を並べるように立つ。
「全部……いい訳だよ、私から言わせてもらえばね……」
カイがそんな異様な人間を眺めながら……
「お前にもう一度言うぞ」
黒髪を揺らし、カイが俺を見て言う。
「だっせぇんだよ……お前は嫌われるのが怖いのさ……誰かを想い救いたいというのなら……嫌われてでも守るんだよ……この人とは違いお前にはそれがない」
たぶん、リプリスと比べてそれを告げる。
「誰かを助けるのに評価を求めるの悪なのか……」
「正義を名乗る偽善は……正義ではなく悪なのか?」
リスカが冷たい視線をカイへ向ける。
「まぁ……悪人には……どれも否定するべき言葉だ……」
リスカが、まるで俺を擁護するような台詞を言い、すぐに否定する。
「この能力は……最初はただ自分を守るために手に入れたもんなんだ……」
俺は召喚されたあの日……フィーリアに願った力を思い返す。
リプリスはただ……黙って興味を向ける。
「現世じゃ……自分一人も守れなくて……もちろん、いい年したおっさんを好き好んで助ける奴なんていないしな……そのくせ、そんな社会人は、自分のケツも拭えない俺に……目下の人間を守ることを強要される……」
リプリスとリスカは何処か少しだけ理解を示すような目を向ける。
「うんざりだったんだけどな……でも、例え自ら望んだ能力とはいえ、それが守ることしかできないっていうのなら……自分……価値なんて、そんなもんだろ……」
俺の答えに……
「つまんねぇ答えだ……いや、私からいわせりゃ、答えにもなっていない……」
カイが俺の言葉を否定するように前に出る。
「……あんたの言うように臆病なのさ……無駄に嫌われたい奴なんていねぇーだろ……だったら、助けられるなら……必要とされるのなら……それが承認欲求かはわからないけどな……」
そんな俺の言葉の後に、リングの外から拍手の音が響く。
「えらい、えらいはっ……レスちゃん、おいくら、おいくらかしら、わたくしのことを助けてちょーだいっ!!」
セラが高々に叫ぶ。
「だーからぁさーーー」
無駄遣い禁止……という意味で恐らくイブがセラに返す。
「……レスを私物化は許さないよぉ、お金でも……もちろん、力ずくでも……私ねぇ、勇者なんて怖くないんだぁ」
イブが……発言したセラでは無く、冷たい目線をライトへ向ける。
「なんなら、この後……一戦交えましょうか……」
一人では戦闘能力が皆無に近いだろう、誰かの希望を力にする……
イブはそんな、隣国最強に喧嘩を送る。
ライトはそんな挑発を気にもとめず、興味なさそうに……
「ほんと、こっちには興味ないんだねぇ……」
ライトは俺にしか興味ない事を、イブが改めて認識する。
「まぁ…はじめようか」
きらり、きらりと目に見えない細い糸が、カイの周囲で太陽の光を浴びて光り輝く。
リスカがポケットに手を入れると、手にした石を上空へ投げる。
「コメットっ」
上空から落ちる大岩を……
きらり、きらりと細い糸が上空を飛び交う。
次の瞬間、大岩は粉々に砕け散り地面に落ちる。
「……へぇ、壊す、壊せ……壊れろ」
リスカは本領を発揮できていない……そんな言い訳を抜きに……
目の前の女の強さを再認識する。
俺はリスカの前に結界をはる……
多分、それでは彼女の能力は防げない。
「へぇ……相変わらずうざったい結界……」
せっかく張った結界を軽く手にしたナイフで突きながら言う。
「分析……強化……」
ナイフを手にした逆手で結界に触れ、リスカが呟く。
結界はひとまわり大きく、そしてその強度を増すように……
迫る糸を完全に防ぐ。
ナイフを片手にカイに反撃をしようと地面を蹴り上げたリスカに……
「駄目だっ止まれっ!」
俺のそんな言葉を聞いて、リスカが足を止める。
いつの間にか張り巡らされている糸……
壁も無いのにどうやってこんなことをやり遂げているのか……
「ふーん……壊す、壊せ、壊れろっ」
リスカはそんな張り巡らされた糸を左の人差し指ではじくように……お馴染みの台詞をはく。
そして右手に手にしたナイフを頭上から足下に振り下ろす。
恐らく、その能力で……弱体化させただろう糸の強度。
手にしたナイフで一気に切り裂く。
「誰は僕助けたりはしない……僕は誰も守れはしない……失うのなら失う前に……それを壊そうとするものを壊せばいい……」
リスカは張り巡らされたそれを切り裂きながら進む。
「無駄だよ……因果応報……そんな復讐を成したところで、失った者は蘇らない……守ることのできなかった……救えなかった罪は消えたりはしない」
リプリスの目の前に光のキーボードが現れる。
かたかたと浮かび上がったキーボードで何かを打ち込む。
「所詮……神の真似事だとしても……出し抜くのさ……利用できるものは利用する……」
リプリスがこちらを睨みながら……エンターのキーを押す。
振り下ろしたナイフが糸を切り落とすことができずに止まる。
強度が戻された……俺も恐らくリスカもそう解釈する。
そして、再びリスカはその糸に触れて、相性の悪い魔力を送り込み弱体化しようとするが……
「おっと……触れない方がいいよ」
そう、リプリスがリスカに忠告する。
「その指を切り落としたくなかったらね……、その身体、自分のものじゃないんだろ?」
擬体……ミーシアの体を借りている。
もし、この身体に何かあれば……
「リスカ君、君の能力を《《データ化》》させてもらった……その糸は君が触れて弱体化できないように、その指を切り落とせるくらいの刃としての強度を持つくらいに《《強化》》させてもらったよ」
オーダー……彼女の能力……
その根源にあるのは……
そんな能力はフェイクなのだろう。
彼女の能力は……あらゆるものをデータ化して……
それを魔力の元で具現化する……
この世界全てをデータ化するつもりなのだろう……
「それで、あんたは神に並ぶつもりか……」
そんな俺の言葉に、リプリスは小さく笑い……
「因果応報……私はただ、神にその言葉をくれてやるだけだよ」
リスカの言葉を借りるようにリプリスが俺に返す。
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