奈落(2)
奈落……その異世界の何処かに空いている地底深くに繋がる大穴に放り込まれて何日になるのだろうか……
そんな場所は……同じようにこの場に落とされ命を失った者たちの瘴気が溢れていてる。
そんな、迂闊に眠ればその瘴気に喰われてしまうようなそんな場所で……
僕も、学園長もまだ……そんな地獄の中で生きている。
何のため……誰のため……?
そんな自問自答を繰り返す。
そうして、こんな場所に隔離されて……
現世からも異世界からも居場所を失った僕の前に……
また……光の玉のようなものが浮いている。
僕は、それに吸い込まれるように……
そんな記憶の妹に呼び出され……
そんな世界が拒絶する僕を演じるのだ。
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「私は負けない……でも、勝利になど興味はない……」
もう一度繰り返すようにライトが誰に向けて放った言葉かわからにように呟く。
「レスを取り戻す……今、私がここに居る意味を説明するのはそれだけ……」
敵国代表のサリスを睨みながら、ライトが続けて呟く。
「酷く、凄い自信だ……」
サリスはそんな力量の差を感じながらも……
そんな思考を読み取られないように目線を返す。
「自惚れかもしれない……それでも、私はその勇者に恥じぬ努力をしてきたつもりだ……容姿、強さ……信頼、そのすべてを……女を捨てたつもりだった……」
魔力を秘めた瞳……ワイン色の瞳はそんな迫り来る、
サリスの竜王弐式の刀術を全て見切るように回避する。
「やっば、完全にムリゲじゃん」
ファラはそんなライトの様子を見て言う。
「私には、君が必要だ……自惚れなのかもしれない……それでも……私は君に求められるだけの人間であるつもりだ……だから……」
地を壁を、刀を振るう度に削り取るようなサリスの一撃を全て見切る。
放ったライトの一撃が確実にサリスの身体を捕らえる……
が、なんとか場外に落ちる前にその一撃を持ちこたえる。
「さすがに……それ以上はっ」
ファラが自分のこめかみに拳銃をあてがい数千の針を上空にイメージする。
さらに追撃しようと、地を蹴り上げたライトに向かい、
ぐらりと揺らした身体ですぐにライトを見る。
飛び交う針、ライトはそれをその瞳で……
……追うことなく、ただ……サリス一点を睨む。
「……嘘でしょ」
ファラはただ……呆れるように……
回避することなくその幾千の針をその身で受け流しながら突破する。
聖剣がサリスの身体を完全にとらえ……
その身体は場外へと吹き飛ばされる。
勝者の名がリプリスから呼ばれる……
ゆっくりとリングを降りる生徒。
だが……リプリスはリング上に残っている。
「ねぇ……レス君、この状況で敗者のお決まりの台詞で申し訳ないが……追加試合をお願いできないか」
ゆっくりとリプリスは対戦相手を指定するように俺を見る。
そして、承諾してもいないのに一人の女性がリングに上る。
両手を動かすたびに、細い透明の糸が彼女の周囲で太陽の光を反射している。
「その相手は……反則だろ」
その対戦相手を見ながら……
黙ってリングに登る。
「で……パートナーはどうするんだ」
カイが俺を蔑むような目で見る。
「あれ、レスちゃん、ピンチ、ピンチなのかしら」
「はい、はい、はーい、私立候補しますっ!」
セナが右手を上げてその役目を名乗り出る。
「はいはい、手を下げてよセナぁーーー、考えてぇ、セナじゃ足手まとい、それに多分、それやったらセナ、裏切り者の立場だからねぇー」
イブがそんなセナの挙手を取り下げる。
「で……レス君、結局……君は誰の味方なんだい」
リプリスがリングにあがった俺を見る。
「言っただろ……どっちも助ける」
俺はそう繰り返す。
「あっちも助ける、こっちも助ける……レス君、それは余りにも都合が良すぎるんだよ」
リプリスは……それは不可能だと言うように俺を見る。
「誰かを助ける……それには何かの犠牲に成り立つ……誰かを助けるために戦うということは……誰かの救済と犠牲の中で成立する……」
「わからないね……俺は俺のできる事、俺に助けられるものは助ける……それだけだ」
そんな俺の言葉に呆れるような笑みで……
「だっせぇな……」
カイは俺を見て、見下すように言葉を吐き出す。
「優しさのつもりか……」
そうカイが俺の善意を否定するように……
「ただ、嫌われることがこえーだけだろ、無償で奴隷のようにそんな真似を続けて……弱者を守ったつもりで人生楽しいか?」
俺の心底を見透かすようにカイが言う。
言葉にはしないが、同意というようにリプリスが見ている。
「レスさんのパートナー、まだ決まってないのですね、立候補してよろしいでしょうか」
離れた場所、学園の門の方から歩いてくる人影。
そんな女子生徒を確認しようと全員がそちらを向くが……
女性は真っ白な霧に包まれるように……
「まさか、君と共闘する日が来るとはね……」
凶悪な魔力……青白い髪の男。
その凶悪な魔力は、擬体ということもあり、制御されているだろう。
それでも……その男の能力は……
本来の魔力以上の効果を発揮する。
「何処の世界でも強いものが正しい正義だと証明される……そんな弱者の優しさなど、凶悪な悪意に正される……因果応報……それを正すためには、僕にはただ殺人者になる以外に選択肢はなかった……」
手にしたナイフの刃を起こし、リプリスたちへ向ける。
「なに……たんなる気まぐれだ」
そんな口にもしていない俺の疑問に答えるように……
「まぁ……その理由を少しだけ、白状するならさ……そんな君に貸しを作れば、そんなお人よしは、奈落から僕の事も救ってくれるんじゃないかと思ってね」
ゆっくりとリスカは振り返り、俺を見る。
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