嫌悪
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「しゃ……社長……なにを?」
父と姉の会社を離れ、協力企業として新たな会社の社長となった。
私は社長などと呼ばれる立場で、数名の部下を持つ立場になる。
父親が目にかけて、利用し投資を続けてきた企業……
私の標的のリストを見て、イサナと言う男性の部下は驚いた声をあげている。
「……イサナ君、驚くことではないさ……」
ゆっくりと私は呼び出された良く知る廊下を歩きながら、
それがいる部屋を目指す。
「神が然るべき仕事をしない……だったら私が代わりにそれをする……」
「しかし……どれだけの犠牲が……どれだけの恨みを買うおつもりですか?」
これによって……人生そのものを奪われる……
そんなモノがどれだけ居るのか……
「イサナ君……好きな人は居るか?人生をかけたい相手は居るか?」
そんな私の質問に彼は私の顔を一瞬見た後……
「……好きかは……わかりません、……尊敬する人なら……居ます」
そう告げられる。
「……突き動かす動力源など、それくらいのものだ」
……一瞬、足を止めたそれを再び目的地に向け動かす。
「例え、それに関係ないものを巻き込んだ……としても私はその目的を変えたりなどしない」
一つのとびらを開く。
父と姉を含めた人間たちがコの字のテーブル座っており、
正面に位置する場所に父が立っている。
私はそんな緊迫している空気を無関心に……気づかないようにそのコの字の真ん中に立つ。
「何が起きている……説明しろっ」
父がその理由を求めるように私を威嚇するような口調で言う。
「……何が?ですか……父さん、私はあなたの教えをただ……実行しているだけだよ」
そんな複数の厳しい目すら気にせず言い放つ。
「ここまで……私を育て……あなたの生き様を見てきた……だからこそ、この言葉を貴方に捧げにきた……」
白い歯を父に見せ付けるように……
「何を言っているっ」
焦るように父が私に叫ぶ。
「……父さん……逆に問う……あなたは今まで……この状況で、そんな人たちになんて言葉を送ってきた?」
「馬鹿なことはよせ……今ならまだ許す……だからっ!!」
恐ろしい眼差しで私を制止する父に……
「許す……?今のあんたがそんな立場だとでも……?」
「何が目的……お願い、馬鹿な真似は……私たち家族でしょ、何かあなたの機嫌を損ねたら謝るからっ」
隣で姉が威圧的な父に代わり私に請う。
「……ねぇ、ねぇさんは……兄がそう言った時、なんて返したの?」
冷たく父を見ていた瞳を姉にずらす。
「……イサナ君、かまわない……はじめよう」
私は右手をあげて、彼に合図する。
その瞬間、その場にデスクに座る人間たちがパソコンを眺めながら、
なにやら騒ぎ始める。
もちろん、その犠牲はこの場にいる人間たちで収まらない。
私は私の目的のためだけにあらゆるものを犠牲にした。
その罪は……いずれ報いるべきものだ。
それでも、私はただ……それを守るんだ。
「父さん、あなたはきちんとそんな人たちにこの言葉を送ってきたのか……」
ゆっくりと父を見る。
「悪ふざけはよせっ……いったい何をしたっ」
「社長……取引をしている全ての会社の株価が大暴落していますっ!!」
周りの大人たちがただ騒ぎわめいている。
「……今まで……ありがとう……」
私はそんな彼らに背を向ける。
「いくよ……イサナ君」
私は動揺する彼にその言葉を告げ……
「《《サヨウナラ》》……」
与えるべき言葉を私は告げて、部屋を出る。
「待てっ!!待たないかっ!!」
そんな言葉を聞こえないように私は、その場に二度と踏み入れぬ覚悟を決める。
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ゆっくりと目を開く。
今度こそ……守るのだと……
そして……それに復讐してやる……
逃げも隠れもしない……
神すら出し抜いてやる……
そのつもりで……
キカとツキヨが競り合いを続けている。
初桜を装備していたツキヨの頃は、
その力任せのキカが少し優勢だったが、
まさむねに装備を変換したツキヨが、
今はその技術的な面から優勢になっている。
キカは一度、後ろに高く飛び距離を取る。
「得意じゃねーんだけどさ」
青白い光の玉を左手にためる。
「こっちを振るってる方が楽なんだ」
バットのような棍棒で自分の右肩を叩きながら、
手のひらで作り出した魔法弾をツキヨに放つ。
その彼女の持つポテンシャルから威力は高いのかもしれない。
でも、やはり彼女の戦闘スタイルからすれば、
その攻撃を回避することなど、ツキヨには容易い。
「あたる訳ないか……」
キカはそう呟きながらも再び光の玉を左手に貯める。
「……だったら、あたしらしく……」
光の弾をポンと頭上に投げる。
ゆっくりと落下するその光の弾を……
「っ!?」
ツキヨが地面を強く蹴り上げ右に飛ぶ。
キカは手にしたバット型の棍棒を両手で握り、フルスイングで光の弾をツキヨに向けて打ち放つ。
ツキヨが居た座標に物凄い打球で通過する。
「まだまだ……続けるぜおらぁーーーっ」
新たに左手に光の弾を創り出す。
「私は……普通を嫌悪します」
ぐるぐるとメノウが等身大のハンマーを振り回しながら狐面と対峙している。
「全く……贅沢な人です……普通など贅沢……そう思いませんか?」
そんな狐面の言葉に……
「……思いません」
手にしたハンマーで繰り出される狐面の攻撃をはじき返しながら……
「誰が……普通を愛すのでしょう?」
ゆっくりと狐面の攻撃を拒絶しながらも、その歩みを止めない。
「せいぜい……自分だけなのです」
再びハンマーの先を狐面につきつける。
「それは……?」
どういう意味?と狐面はそのハンマーの先を恐れず問う。
「普通を愛する人など……自分だけですよ、そう言いました」
メノウが狐面の面の奥を睨むように……
「他人はそんな普通を愛しなどしない……」
「愛れるのは……強気もの……愛れるのは……弱きもの……立場は決まっています……普通はどちらにも属しませんから」
メノウが狐面を見つめながら……
「さて……あなたの言うその普通は本当に普通ですか……普通になりたい……その時点で今は普通では無い……そうではないのですか……私は普通を嫌悪します」
メノウがあえて、つきつけたハンマーを開放し、一度距離を取る。
「さて……では、普通のモノが……そんな誰かを出し抜くにはどうすればいいのでしょうか……」
メノウの周囲の重力が変わる……
手にしたハンマーを天にかざす。
そんなハンマーは一回り巨大化するように……
「私は普通を嫌悪します……たとえそんな資格が無くても……そんな普通は誰も守れず、守られないのなら……わたしはただ……」
彼女の身体能力が10倍に跳ね上がる……
「私は……普通を嫌悪します……」
完全にその場の空気が変わっていく……。
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