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価値(3)

 廃墟を出て学園に戻り歩き出す。


 学園の門を潜った辺りで、学校の入り口の前の二人の影に気がつく。



 もちろん、面識などない。


 イブと同じ明るい色の金髪……

 イブよりも少しだけ長めのショートカット。


 もう一人は、少しだけ暗めの色の金髪。

 腰辺りまで伸びた後ろ髪。

 ギャルのように、短いスカート、胸元も露出が多く、

 腕やら耳やらに装飾が多い。


 この国……金髪が多めだなと思いつつも……



 「あーーー、帰ってきたぁ」


 ショートカットの金髪の子がこっちに手を振る。



 「おかえりぃーーー、レス君……はじめまして、そして《《さっきは》》ごめんね」


 笑顔で首を傾げるように俺に言う。



 「……えっと……」


 理解が追いついていない俺を、不安そうに彼女は見上げる。



 「あれ……怒ってる?ごめん……許してぇ」


 両手で俺の右手を握ってくる。




 「……ノア、もう動いて大丈夫なのかい」


 リプリスがそんな彼女の名を呼び……


 俺とクリアは……複雑な表情を向ける。



 「にひっ……えーーいっ」


 ぐいっと右手を両手で強く引っ張られ前のめりに体制が崩される。


 そのままぐるりとノアと呼ばれた女性は俺の背に周り覆いかぶさるように体重を乗せる。



 「ノア……レスから離れなよ、またおしおきされたい?」


 イブがそんな俺たちの後ろから言う。



 「えーーーいやだよ、私だってレス君と仲良くしたいもん」


 口を尖らせてノアが言う。



 「残り……一ヶ月、時間は短いんだよ」


 寂しそうにノアが笑う。


 交換生としての期間……それでも……



 「別に一生の別れでもないだろ……」


 俺のそんな台詞に周りは黙ったまま……

 ノアは冷たく笑ったまま……



 「ううん……一生のお別れだよ」


 ゆっくりとした口調で否定する。



 「私はみんなの願いを聞いたの……そのだいしょう……瘴気どくは私を蝕み……やがて、私はここに戻れなくなる……だからね」


 ぎゅっと俺を抱きしめる力が強くなる。



 「おねーちゃんから聞いたよね、私ねわるーい女なの……消えてなくなるこの一ヶ月でね……うんとみんなの記憶にね……私を植えつけるんだ、レス君には……私に恋してもらうくらいに……」


 それに何の意味があるのか……



 「ふーーーん」


 そんなノアに背中にまとわりつかれている俺を屈んで顔を近づけ、もう一人の金髪の女が見つめている。



 「周りが騒ぐほどのイケメンってほどじゃないけどなぁ」


 短い棒に突き刺さったビー球状のアメ玉のようなものを舐めながら、

 品定めするように俺の全身を見る。


 ちゃぷっと、咥えていたアメ玉を口から抜き取ると、


 「あーーーん」


 何かを催促するように自分の口を大きくあけている。



 ブスリと俺の口にその棒状のものを俺の口の中に差し込まれる。



 品定めるように俺の瞳を覗き込んでいる。


 「フフっ」


 何が楽しいのかギャルは短く笑って、再び俺の口からアメ玉を取り出し、



 「なっ……!?」


 再び、それを自分の口の中に戻す彼女に思わず動揺する。



 「エトナ=リリス……」


 名を名乗り満足したように、エトナと名乗ったギャルは一人、学園の中へと入っていく。



 そして、その考察を今も俺にまとわりついている女に戻す。


 定期的にその瘴気により災害のように……この国に降りかかる。


 その度に、彼女たちはその瘴気を払い、彼女を元に戻す。



 それでも……きっといつかは……

 彼女はその瘴気に完全に取り込まれてしまう……


 障りに落ちる……


 その期間タイムリミットは……一ヶ月。




 そして……いくつかの足音が近づいてくる。




 「うわわわっ……」


 容赦なく振り下ろされた刃を避けるようにノアが俺を解放し後ろに逃れる。



 「レス……無事でよかった」


 凛とした神々しいまでの女性が、代わるように俺を正面から抱きしめる。



 「だれぇーーー?」


 イブが現れたライト……そしてその背に居る5人を順番に見る。




 「レス……あの日は、驚いてばかりでお前を見捨てるような形になってしまって悪かった」


 ヴァニが俺に詫びるように……



 「わぁーーー、こっちにも学園があるんだねぇ、レスちゃんはここの交換生さんになっちゃったのぉ?」


 ヨウマが学園を眺めながら言う。



 「なんで……」


 お前たちまでが此処に?と俺はライトに抱かれる身体の頭だけを横に向け、5人の姿を見る。



 「連れ戻しに来た……」


 の所有権を酷使するようにツキヨが言う。



 「許しま……せんっ!!」


 いつの間にか校庭の中央に立つセラ。



 「なんせ、レスちゃんはわたくしのモノですからっ!!」


 そんな、ツキヨの所有権を否定する。



 「……おいくら、おいくらかしらっ……わたくし、レスちゃんを競り落としますのっ」


 キャッシュカードを指に挟みセラが校庭の中央で高々と叫び散らす。



 「おや……レス、君はお金なんてモノで手に入るモノだったのか……」


 俺の頭がライトの胸元に沈む。



 「だったら貴様セラの言う、倍値を宣言しよう」


 そんなセラの無駄遣いすら、ライトの足元に届かない……



 「……それ、おいくら、おいくらかしら?……いいわ、受けてたつわっ……わたくし、さらにその倍額を払うわっ」


 ビシリとライトに瞳を向けてセラが言う。



 「……だったら、私はその倍だ」


 ライトはそんなセラの言葉に興味なさそうに、

 セラを見ずに言い返す。



 「あーぁ……やめてよぉ、私の前で無駄遣いの争い……」


 迷惑そうにイブは顔を伏せながら……


 「それにさぁ……ないよぉ、さすがにレスにそこまでの価値ぃ?」


 全うな、失礼な発言をさらりとイブが返す。



 「いずれにせよ……私は認めていない、交換生なんてシステム……これは誘拐だ……見過ごす訳にはいかない……」



 あなたが言う……か。

 口には出さずに、俺、クリア、ヴァニが……ライトを見る。


 狐面の長い青い髪の女性がゆっくりと歩きながら、


 パチンと指を鳴らす。




 バルナゼクの生徒達、リプリスの前に……

 水の泡のようなものが現れる。



 刃のある剣へとその姿を変えると……


 その刃の先を目線の前に突きつける。




 「もう……何が本当か嘘かなんて……私にもわからないのです」


 狐面が誰に語っているのか……



 「神なんてものは、人を個に見たりなんてしない……、だから私が《《どちら》》かなんてことは……関係きょうみがない……」


 狐面がそう呟き……いつでも攻撃に転じるというように右手をかざす。



 「そうだ……神など私たちに無関心……だからこそ、裁くべきだ」


 リプリスがそんな目の前の刃に指で触れ……

 現れた……空中に浮いているキーボードをカチャカチャと叩く。


 リプリスの目の前……

 バルナゼクの生徒の前に迫っていた水の刃が……


 全て、水の泡に戻る。



 「世界は平等じゃない……だからこそ、私は……抗う」


 それが……本来の彼女の力なのだろうか……

 まるで、狐面の力が書き換えられるように……



 「なるほど……しかし……あなたは誰かを助け……そして誰かを助けない……」


 狐面はその下に隠された瞳でリプリスを見る。



 「それは……平等とは言えないのではないのですか?」


 そんな正論を狐面はリプリスに言う。



 「……だから……こそだよ、神とは不平等に人を助ける人に幸福を与える……だったら、私はそんな神に代わり、平等ではなく……不平等に人を助ける……」


 それが私の正義せいろんだと……リプリスは狐面を見る。



 きっと……彼女は……彼女達このばでは正しい。


 きっと……世界は、神はこの国を……彼女ノアを助けたりはしない……



 だったら……不平等あくとして……それを成す。



 「おいくら……おいくら……かしら……」


 セラが天を眺め……空に右手を捧げるようにあげる。



 「……レスちゃん……わたくしの価値はおいくらかしら……」


 いくら払えば……救われるのか……

 いくら払えば……裏切らないのか……


 セラがそんな涙を浮かべ……俺を見る……



 その責任は……リプリスには無い。

 そして……その責任が神にあるわけではない……


 無論……俺にある訳でもない……



 でも、そうやって……責任から逃れて……


 誰が……それを助ける?


 誰が……それを成す?



 レス……お前は……どちらを助ける?



 「大丈夫だ……セラ……ここにお前を裏切る奴は居ない……だから……今度は俺たちがそんな価値おまえを買ってやる……」


 その実現する方法などわからない……


 それでも……


 セラも……イブも……ノアも……



 助けろ……。

 



 

 

ご覧頂き有難うございます。


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