帝王
学園からの帰り……
黒髪のショートカットの少女が、
家に向かうための石段を無言でリズムを取るように登る。
「……ただいま」
今日は家に誰が居ないとしりながらも、横開きの扉を前にして言う。
「おかえり」
誰も居ないはず……声のする方を黒髪の少女が向く。
紫色の長い髪の女性が……無人の家の扉の前で、誰かの帰りを待っていたかのように、声をかける。
「毎度……クロハちゃん、学校は楽しかった」
扉の前で座り込んだまま、リプリスが彼女に言う。
「……レス……居ない……つまらなかった……」
クロハが目線を横に向け、リプリスを見る。
「そっかぁ……ねぇ、気にならないか?」
リプリスがその場から腰をあげ、屈んだ状態でクロハに言う。
「……なに……が?」
クロハが首を傾げ尋ねる。
「……レス君、隣国での様子だよ」
何かをたくらむ様な目を……
何かを察しながらも……
「レス……わかるの?」
目線をクロハに送る。
「おいで……」
ちらりと一瞬、瞳をクロハに送り、ゆっくりとクロハが今来た道を引き返すように歩き出す。
ひゅんっと素早い風が通り抜けて……
歩き出したリプリスは動きを止めて……
首筋にある刀の刃の寸止めを黙って見守る。
「私の愛娘をどうするつもりだ?」
黒く長い髪……
黒いスーツのズボンに、白いワイシャツ姿。
そんなシャツの上ふたつボタンを外し、胸の谷間を露出させながら……
黒い刃の刀をリプリスの首筋に置く。
「毎度……イロハさん、貴方も招待したかったんだ……」
刃を引かれることを恐れることなく、笑みを浮かべ瞳をイロハに向ける。
「何を言っている……」
冷たく……イロハはリプリスを睨み、刃を突きつけている。
「世界は狭く……人の視野など……それ以上に狭い……」
リプリスは……手のひらから血を流しながらその刃を掴み、さらに刃を自分の首筋に近寄せる。
「彼女が大事なら……忘却に沈めるなよ……物語に……参加するんだ……英雄になるんだろ」
「力を示せ……獅子王……」
いつの間にか、リプリスが握っている刀。
発せられた重力が……イロハの持つ黒い刃を石のタイルの地面に突き刺さっている。
「無理強いするつもりは……ないさ」
重力に行動を制御されたイロハを見ながら、その瞳をクロハにずらす。
イロハは地面に刺さった刃を引き抜き、そんな重力化を何もないかのように……
自由に身体を動かす。
「いいさ……拒絶するなら、先ほども言った、無理強いはするつもりはない……」
ゆっくりと、二人の殺気を気にすることなくリプリスが石段を下っていく。
「待ってっ!!」
クロハがそんなリプリスの背に叫ぶ。
「おーーーらぁーーーーっ」
廃ビル……の一室。
キカの暴力がただ、猛威を振るっている。
「ぶっ飛ばすっ」
そして、キカの手には金属バットのような棍棒が握られている。
容赦なく、躊躇なく……そのフルスイングがシグマの頭を捕らえる。
そんな頭はカチ割れたのではないかと疑う程の音が廃墟ビルに響き渡る。
「あーーーあぁーーー、もう殺人現場なんて私、みたくないよぉ?」
イブが転がるシグマの身体を眺めながら言う。
ゆっくりとベータが手をかざす……
ハイトから得たその能力を……再び……
時空という概念を得た世界……
そこでようやく成立することを許された能力……
灰色の世界を……
「宿せ……雷属性」
サリスの刀に眩い光が落ちて……
そんな能力の発動を許さず、ベータの身体を吹き飛ばす。
「さすがだ……君たち相手に、この二人では無理か」
レグサスが椅子に座りながらこちらに向かって言う。
「さて……レス君……この世界で君の価値とはなんだ?」
レグサスは俺を見て言う。
「君はその人生に何を残す……世界に何を刻む……」
レグサスは俺を見ながら……
「どれも、それは……それこそ……君たちが言う自己の都合だ」
ゆっくりと椅子から立ち上がる。
「所詮……綺麗ごとは全て自己都合と言うのなら……己の欲望こそ正しき正義なのではなないか……」
レグサスが俺の瞳を見つめる。
俺は冷たくレグサスを見返す。
「……そんな都合を俺に告げてどうする?」
「別にそうだと思うなら勝手にやれよ……」
俺は冷たくレグサスを見る。
「誰かにそれを告げて……自分を正当化できたつもりなのか」
俺はレグサスにそう返す。
「レス君……歴史に名を残した人間はどんな人間だと思う……」
「俺は思う……それは、己の欲望に正直な人間だ、それを適える努力を惜しまなかった人間だ……価値を得る、結果を残す……それだけの人間になるには……」
「いい加減……黙れよっ!!」
サリスが宿した雷属性の刃でレグサスを斬ろうするが……
「ファイ=シュライン……でぇす」
一人ことの経過を眺めていた、ナンバーの女は再び名乗り……
黒い瘴気が彼女の周囲を取り巻く。
レグサスが、手にした架空のような札束を空に投げ飛ばす。
「王よ……今、再びこの地に宿せ……そして、その娘を正しく導けっ」
青白く光る札束と黒い瘴気がファイを包み込み……
そして、そこには一人の男を形づくる。
「お……父様……」
サリスがそのすがたを眺め、そう呼ぶ。
処刑された……刀術最強と呼ばれた男。
ファイとレグサスの能力により、その刀術最強の男はその場に居る。
その姿は、もっともその男が活躍した時の姿で……
「我は竜王……」
かつての帝王は……手にした刀を天に翳す。
「宿せ……竜王」
白く染まった刃が……再度、真紅に染まる。
そんな刀一振りで、その場の全員が吹き飛ばされ……
「抜刀……雷切っ」
そんな俺の前に小さな身体が立ちふさがる。
構えた黄色に輝く刃を帝王に振るう。
「レス……助けに来た」
「二刀……抜刀……小鳥丸っ」
そんな二刀も、竜王の刀は防ぎきる。
そして、再び振るわれる小さな身体は払い飛ばされるように……
「無駄だ……刀……の王の前だっ」
振るわれる刃に……二刀とその帝王の名を請け負う者さえも……
未だ並び立つ事を許さないと……
そんな竜王の一撃を……
「可愛い……愛娘なんだ……竜王……手合わせを願おうか……」
黒い長い髪がその刃を遮っている。
その瞳は相変わらずどこを見ているのかを予測できず……
それでも、竜王の一撃はそのフェイクさえ許さぬように……
あの、俺の中では最強に近いイロハすら回避に専念している。
そんな中繰り出されるイロハのカウンターも、かつての帝王は、凶悪な一撃で相殺していく。
イロハの惑わすフェイクの目を……意識することなく、その一撃を無効化し、逆にイロハはその攻撃の回避にその身体を後退することを繰り返す。
さすがの、最強の母も……竜王の前には……
右手に黒い刀を……その左手に鞘を……
フェイクの目が戦場で躍らせる。
しかし……それは、竜王の前では……
振るわれた竜王の刀は、彼女の鞘を地面に叩き落す。
残された黒い刀に目を向ける。
そんな高いの一撃……勝ち目は竜王にある……
……が、
叩き落された鞘が地面に小さくバウンドする……
イロハは体制を低く、再び空になった左手を低い地面に向けると、
小さくバウンドした鞘を拾いあげる……
そして、その身体を素早く旋回させる。
左手の鞘で、竜王の頭を強く叩く……
「なっ!?」
んだと……
信じられないものをみるように……
その鞘による一撃にバランスを崩した帝王に、
容赦なく、イロハの手にする小鳥丸が帝王を捕らえる。
吹き飛ばされる帝王がイロハを見つめる。
鞘に収められる黒い刃を……
「……見たね……故に……この刃は誰にもとらえる事はできないっ」
カチャリと収まる刃を見た瞬間……
帝王はその姿を見失う……
「究極奥義……無刀閃光」
気がつくと、その黒い刃が帝王を切り裂いている。
青白いマネーがその場に飛び散るように……
瘴気が彼女から離れるように……
ファイの姿が再び現れる。
「こーさんでぇーす」
潔くファイが両手をあげる。
「所詮……滅んだ国の王の野望ということか……」
レグサスが……散った竜王の姿を見ながら……
「ありがとー……助かりましたぁ」
倒れるシグマとベータを置いて立ち去るレグサスとファイの後姿を見ながら、イブがクロハ、そしてイロハに瞳を向ける。
「でも……これって私たちにとっても救いなのかなぁ」
そのイブの瞳が俺に向かう。
「でも……私もさぁ、まだレスに嫌われたくないんだぁ……助けてもらった上で言える台詞じゃないってのは承知の上なんですけどねぇ……引いてくれないかなぁ」
冷たい瞳がイブから……サリス、キカからイロハたちに向けられる。
「こんな状況は……隣国との戦争にあるんだぁ……例え、その要因がこっちにあったとしてもねぇ……そう簡単に許す訳にいかないんだぁ」
そんな竜王を簡単に払いのけたイロハを恐れることなく、イブが見る。
「野望など……どれもくだらない主張だ……」
イロハはゆっくりとこちらに背を向ける。
そして、クロハを連れ去るように……
「主張するなら……己を示せ……」
そんなイロハの言葉に……
「それが……あなたたちが、私たちの同胞へと送る謝罪なのかなぁ」
イブがイロハを恐れることなく返すが……
「あまり、被害者ぶるなよ……結果など対外はお互い様なんだ……」
イロハはそんなイブに返す。
「なるほどねぇ~、そんな都合、理解できるだけの大人になりたいものだねぇ」
分かり合える日は来るのだろうか……
そんな不安が横切る中で……
俺は……ただ、そんな日の実現を……
己の都合で実現する。
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