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希望

 ・


 ・


 ・


 向けられた弓矢にゆっくりと瞳を向ける。


 あれから数年、まだ10歳にも満たない少年は……

 ただ、裏切り者とされた女を、寝る暇を惜しみ追い続けた。


 それは使命のためか……

 それは彼女を救いたかったのか……


 最果て、追い詰めた先で弓矢をミルザに向ける。



 自分が駆けつける前に……

 この数分前にも、すでに彼女は幾人者追っ手と戦っていて……


 ボロボロの身体をこちらに向ける。



 そんな彼の顔を見て……全てを悟るように。



 トンっとリーヴァの背中を押して、クロノの方に向かわせると……

 多分……自分の役目は果たした。

 よくわからないけど、さっきの姉妹の力で、

 何らかのこの子の願いは適った……適う日が来るのだと……



 「ふざけるなっ!!」


 なぜ、抵抗をしないっ

 なぜ、命乞いをしないっ


 そう怒るように、クロノが叫ぶ。



 こつ、こつと聞こえる筈のない足音が、

 最果ての向こうから聞こえる。



 薄い赤茶色の髪……



 ボードゲームの盤を大事そうに脇に抱えて霧の奥からミルザの背で足を止める。



 「どこから……」


 頭だけを振り返り、ミルザが瞳を点にするようにセシルを見ている。



 「そっちには何がある……っ」


 何かにすがるようにセシルに叫ぶが……



 「何もない……永久に無が続くだけだよ」


 目線を下に向けたままセシルが返す。



 「僕は……セシル……ねぇ、唐突だけどさ……協力をしてくれないか」


 ゆっくりと恐れることなく、ミルザとクロノの間に入る。



 「悪い話ではない……やがて開かれる遊戯に勝利すれば、君たち人間の願いを叶えてあげる……まぁ、君たちの理想のする世界に少し書き換えるってだけだけどね」


 振り返り、ミルザの瞳をのぞくように見る。



 「……何者だ」


 クロノと変わらないくらいの少年。



 「父が創造者かみ……なんて大それたものだとは思わないけど……多分、誰がそれに近いと言われればやっぱあの人なんだろうね」


 一人で納得しない何かに納得する。



 「どうしてもさ……倒したい人が居るんだ」


 「そのためには、あの人を欺く……そのために世界を騙す」


 この男が何を言っているのか……



 「表向きはそんな願いを適えるための遊戯……別に君たちがその勝者になる必要はない……世界を騙す……その結果で作り出される世界に君たちが望む世界を描けばいい」


 何を言っているのか……



 「召喚石は揃った……君たちの言う時間、その時間をバラバラな場所に石を落とす」


 「正直、君たちのいう時間という概念は僕らにも理解が複雑なんだけどね……」


 迷惑そうな目で周囲を見ながら……



 「どういう意味だ……」


 クロノがセシルの背から返す。



 「世界というのは本来はただの『無』だ……そんな世界はくし場所えいぞうを描いただけに過ぎない……君たちはそんな場所にただ送り込まれて、いっせいにその映像の中を動き回っているに過ぎないんだ」


 何を言っているのか……



 「本来、時間なんてものは流れていない……ただ、動き回った行動に、君たちは経過や結果、それらの歴史に時系列を求め、勝手に時間という概念を取り入れただけなんだよ……」


 「……だが、あんたは今、そんな時間をばらばらに召喚石なにかを落とすと……?」


 ミルザが不思議そうに返す。



 「うん……複雑で本来は存在しない概念そんざい……それを利用し、データを書き換え、この世界で能力化じくうをつくる……世界を騙すんだ」


 「あんた、さっきから何を言って……」


 いる……


 完全に理解を超えている。



 「……君たちのいう時間……その概念を実際に世界に植えつける」


 「それが……君に可能だと?」


 少年は少しだけ口角を上げて笑い……



 「それができなきゃ、あの人は殺せない……」


 「いったい、あんたは何が狙いなんだ……」



 「あのひとを……欺き……かみを殺す……」




 ・


 ・


 ・




 「レス~~、次だよ次ぃ」


 棒読みのような台詞でイブが俺に催促する。


 「希望を閉ざしたら私は終わりなの……私は、そんな誰かに依存され依存して生きているのです」


 黒い球体が、次の希望しじを待つように、イブの右手のそばに浮いている。



 黒い瘴気の霧のようなものが次々と化け物を形どっていく。



 無邪気な子供のような話し方、また距離を置くように敬語で話す。

 まるで、二重人格のような話し方。



 黒い霧が彼女の両手にまとわりつき、再び二丁の拳銃が握られている。


 「……形は違うけど、またコレなんだねぇ」


 レグサスと名乗る男が訪れた時に手にした銃を思い返しながら……

 放った威力に彼女自身が驚いている。


 「わっ……すごい威力……」


 「マグナム……あんたの魔力と合わさればそりゃ、それくらいの強さになるだろうな」


 その銃弾で吹き飛ぶ化け物を見ながら言う。



 やがて……周りの瘴気が一気に一箇所に集まると……

 真っ黒な、イブと同じくらいの背格好の女性に形を作る。



 「やぁ、ようやく現れたね……ノア」


 久しぶりと言う様に……イブが真っ黒な少女に言う。



 「アアアアアアアーーーーーーーーーッ」


 理性を失った化け物のように奇声をあげるように……


 さらに黒影ノアの周りに瘴気が集まり、二丁のマシンガンを創り出す。

 それをイブめがけ放つ。



 「それは、レスが私に託した希望だよぉ……確かに弾が無くなって他の希望に浮気はしたけどさ、盗むのはよくないよ」


 俺の創り出した結界に守られながらイブが言う。


 「レス……有難うございます、結界これのおかげでゆっくり妹とお話ができてます」


 頭だけをこちらに振り向かせ、イブが俺に礼を言う。



 「アアアアアアアーーーーーーーーッ」


 再びノアが奇声をあげると黒い瘴気が集まり……

 そして、一軒やひとつくらいありそうな化け物がその場に現れる。



 「おや……まぁ……」


 他人事のようにため息混じりにイブが化け物を見上げ、

 手にした残りの銃弾を化け物に向ける。


 銃弾で空いた風穴を新たに瘴気がその傷を埋めるように傷を閉ざす。



 「レス……次ぃ」


 ポイっとマグナムハンドガンを地面に捨てると黒い球体に戻る。



 「宿せ……炎属性イフリート……」


 そんな高い位置にある化け物の頭上にまで跳ね上がる。

 現れたサリスがその頭を炎の宿った刀で吹き飛ばす。



 が……それもすぐに再生される。



 「おらぁーーーっ!!」


 茶髪で前髪の一部を赤く染めた、ヤンキーのような口調でただ暴力こぶしを振るう。



 「参ります……貫けっ」


 俺の背から、クリアが洋弓を構え、光の矢を放つ。


 だが、その傷はすぐに新たな瘴気が癒していく。



 「……なんだ、レスと私で何とかするつもりだったのに」


 イブは俺を試すような目で見ながら……



 「あいつらもこの騒ぎに駆けつけている」


 あいつら、おそらくレグサスという男のことだろ……



 「セラがそっちの対処にあたっているが……」


 サリスがそうイブに報告する。



 「えーーー、セラにその役目が務まるのですかぁ?」


 まるで主を信用しないように……



 「いや、セラがこっちは任せろ……私は英雄、セラ=セキュリティだと……」


 そう、セラのセリフを繰り返すようにサリスが言う。



 「映像を写すねぇ」


 何やら取り出した小型テレビみたいなものに映像が流れる。



 「わ……わたくしは英雄セラ=セキュリティ……どんな悪にもわたくしはヘルプ・ミーと言わない、言わないのっ!!」


 そんな真っ黒な映像の中、声が流れ、小型の何かかが、セラのポケットから抜け出すように浮いている。


 そして、セラを映し出す。



 十字架に縛られているセラ。



 「火……投下しまーす」


 さきほど、居た……レグサスに仕えていた、恐らくリプリスの率いている特殊部隊の一人の女性。



 縛られている十字架の下の大量の木材に火を点火する。



 「あちゅい……あちゅーーいっ……人でなし、そうあなたは人でなしだわっ……イブ、イブ、聞こえてる?……サリス、キカぁーーー、レスちゃーーん、わたくし、わたくし……ヘルプ・ミーよぉ!!」


 映像からそんな叫ぶ声が聞こえる。



 「はぁ……全く世話が焼けるなぁ」


 迷惑そうにイブが頭を振りながら……



 「キカぁ……あっちはお願いできるかなぁ」


 キカにセラの救出をお願いする。


 「わかった……でも、お前も無理をするな……師匠、彼女たちをお願いする」


 キカは俺にそう告げて、地面を蹴り上げ、映像の元へと向かう。



 「さて……こっちはこっち……悪い妹におしおきをしなきゃ……だよ」


 イブが巨大な化け物に向き合う。



 「さて……あの日、あの時……姉妹わたしたちが繋いだ……希望あなたは、何をしてくれるのでしょうかぁ」


 ぱんどらおれを見るように……


 自分の残した希望に……

ご覧頂き有難うございます。


少しでも興味を持って頂けましたら、


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