瘴気(2)
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世界の最北……
その先を境界線とするように真っ白な霧が永遠に続いている。
そこに居た姉妹の力を解放する。
世界を騙し……神を欺く。
チャンネルは繋がった。
妹のチャンネルだけじゃない……
世界を欺いた、そんな裏切りを代償があるというのなら……
多分、他の召喚者は繋がった。
それに何の意味があるのか……
興味があったのかもしれない……
世界を造る神に、人間がどこまで抵抗できるのかを……
自軍の盤の駒は……ほぼ揃った。
後は……召喚者を……
薄い赤茶色の髪の少年は、大事そうにゲームの盤を脇に抱えながら歩いている。
そして……不要なその存在に気がつく。
偶然、たまたま……それでも……
薄い灰色の髪の男の子。
理由はわからない……
恐らく、不幸にも住む場所も親も失った子供。
ただ……何かの望みをかけて歩いてきた最果て。
これも……何かの縁なのだろうか。
「君は……?」
「……僕は……エリード……あんたは?」
疲れた汚れた顔をこちらに向ける。
「……セシル……」
少年はゆっくりと名を名乗り……
「……僕に少し協力してくれないか?」
セシルと名乗った少年はエリードに言う。
「……悪い話ではない、神に並ぶ力をあげる……無論、君にそれに相応しい器かは別の話だけどね……」
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「さっきのアレは……」
俺は先ほど警報が鳴った時に、このシェルターに逃がされる前に窓から見た黒い竜巻のようなものを思い返しながら尋ねる。
「レス……サリスから聞きましたよね……大人やそれ相応の男子は……戦争の中で散り、今後、抵抗できないよう処刑されたって」
イブはそんな暗い地下、壁に設置されている数箇所のランプの明かりだけで照らされた部屋で……冷めた瞳を俺に向ける。
「そんな散っていた命は……瘴気へと厄へと成りえないでしょうか……」
「あれ……全部……この国の無念の瘴気の塊だと……」
言うのかと俺は彼女に問う。
「まぁ……私の妹が開けてしまった厄でもありますが……」
何かを少し後悔するように……
「だからこそ……貴公をここへ呼んだ」
サリスが暗闇の奥から歩いてくる。
「本命は巫女……俺は口実じゃないのか?」
神の権力……願いを叶えるために。
「逆かもしれないわね、ま、もちろん、両方だけどっ」
金髪のウェーブのかかった女性が歩いてくる。
セラ=セキュリティ……
多分、サリス、国を支えている人物。
「見ただろ……あの災害……黒い瘴気を……」
サリスが俺とクリアを見ながら言う。
「それでさえも、厄介だと言うのに、少し前にこの世界を覆いつぶすだけの黒い瘴気の塊が空から落下してきた……それはこの国にとっても絶望であった」
サリスは真っ暗な天井を眺めながら……
「だが……それをどうにかした人物が居た……」
「あぁ……それなら、俺ではなくて……」
そんな、俺の台詞にサリスは殺意の無い刀をこちらに向ける。
「ごまかすな……それを成したのは紛れも無く貴公だ」
そんな俺の否定を正すように……
「貴公無くして、あの状況を造り出すのは不可能だった……」
そんなサリスの言葉に続き……
「そうだねぇ……彼女を一人、この場所に呼んだとして、あの日の状況を起こすことはあり得ないですね……」
少し申し訳なさそうに失礼な言葉をイブが続く。
「あの日のように……必要な人物をかき集め……それを成す人間を選別し、影から支えられる人物……今、我々に求められるのは貴公だよ……」
サリスがそんな冷たくも期待を向けた瞳を俺に送る。
俺はただ、そんな期待から目を反らすように、瞳を横にずらす。
「これが、あの日から紡ぎ繋がれた……運命だとするのなら……レス、会ってくれますか……やさぐれて、障り落ちた妹に……」
幼き日の記憶を振り返りながら、シェルターを塞ぐ扉の外へと歩くイブ。
俺はただ……それに習うように。
俺が続いて扉の外に出ると、扉が閉ざされ、俺の権限ではその扉は開かなくなる。
「お会いしてみたかった……」
イブはこちらを見ず、背の俺に語りかける。
「幼き私がパンドラ……その能力に手を向けた……そんな貴方をチャンネルを繋いだ……あの同じ年の少女が見続けた英雄に……私は彼女に貴方を引き合わせ……そんな私は妹に都合で、レスと出会えたのです」
そんな話は俺は何一つ理解できていない。
「そんな……私がこの国の希望になり得るだろうか……レス、あなたはそんな私の希望になり得るのでしょうか」
ゆっくりと二人で学園の外を目指す。
「結局……どうだって言う、お前は……そして妹は……」
外を目指す廊下で、ようやくイブは頭を後方に向ける。
「簡単です……願いは姉妹で違えた……それだけなのです……私はただ……生存者の為に……妹は散っていった同胞のための都合に希望になった……」
「で……あんたは妹は……俺に何を望んでいる?」
学園の外に出る……
黒き憎悪が……周囲に荒ぶるように……
「レス……お願いしていいかしら……」
周りの瘴気が形を創るように化けものに姿を変えていく。
「レス、あなたが思うこの場を制覇する希望を思い描いてください」
右手を右にかざし、現れた黒い球体から流れる瘴気がイブの右手を取り巻く。
瘴気を払う光の剣が握られている。
「はい……こんな武器……この世界に精製する人間など数あるほど居る……ですが、私にその能力があるわけではない……」
光の剣を両手で握り締めながら……
「私はただ……誰かの望んだ能力を私が許す限りの魔力の中で具現化するのです……」
現れた瘴気の化け物を手にした剣で蹴散らせながら……
「さぁ……出てきなさい……ノア……」
そんな妹に呼びかけるようにイブが瘴気の渦に呼びかける。
「会わせたい人が居るんだ」
光の剣を黒い瘴気の玉に戻す。
それをアップデートするように……
俺の希望を形取る。
黒い瘴気を両手にまとい……両脇にマシンガンを二丁構える。
瘴気でかたちを創る化け物をそれで撃ち払っていく。
弾が空になった両脇のマシンガンを2丁地面に投げ捨てる。
それは再び黒い瘴気……球体に変わる。
「……休む暇はありません……想像を続けてください……」
そして、集う瘴気を右肩に構える。
銃口を多数設けたミサイルランチャー。
「レス、あなたのくれた希望に……私の魔力を宿します……」
発射されるミサイルに……イブの魔力の電流を帯びるように……
次々と化け物を撃破する。
「なぜ……神は箱の底に……愛でも勇気でも無い希望を託したのでしょう」
全段放出した、ランチャーを地面に投げ捨てる。
「……希望……それは、愛でも勇気……絆……何でも成り代われる……そう思えたんじゃないか」
俺はそんなイブの問いに答える。
「それは……結局、他力本願……そうなることを望んだ都合に過ぎない」
イブが答える。
「結局……世界なんて自分を中心に周っている……」
俺はイブにそう返す。
「……なに?」
その意味するところを理解できないようにイブも俺に返す。
「どんなに……きれいごとを並べたって、どれだけ自分を自己犠牲にしようと……結局、それが上手くいかなければ……腹が立つ」
ゆっくりと、意味を問うようにイブの瞳がこちらに向く。
「結局……それらは全部、自己都合なのさ……」
「結局……何が言いたいのか……そう問われるのなら……答えなど自己都合……周りの意見を聞き入れたところで……最終的にくだされる結果は……自分が産んだ都合なんだ……」
「誰かのために……そうしました……自分をぎせいにそうしました……結局、自分を中心に見て、出した結果なんだろ」
俺は自分自身を説得するように……
「どうあがいても……人間なんて身勝手……そういうことかな」
イブはそう自分自身に告げるように……
黒い瘴気が球体を作る。
流れる瘴気がイブの右手に集う。
「ほら……ノア、出ておいで……おしおきの時間だよ」
イブはそう意地悪に微笑む。
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