パンドラ
・
・
・
何年という長い時間をかけ……
行き止まりに辿り着く……
真っ白な霧が広がるように……
それより先は何もない……
もしかしたら、その先には……
あるのかもしれない……
少女の希望が……
もしかしたら、少女が捜し求める現世に繋がっているのかもしれない。
でも……それは、彼女の残りの生涯を使い歩き続けたとして、
恐らく辿り着くことは不可能だろう。
金髪の短い髪の少女が立っている。
二人……。
どちらも2歳と3歳くらい。
「あの、遠い所から来られたのですか?バルナゼクという国がどっちかわかりますか?」
姉だろう方がしっかりとした口調で、ミルザに尋ねる。
「有難うございます」
ぺこりと金髪の姉が頭を下げる。
「パンドラ……私は●●=パンドラ……妹が▲▲=パンドラといいます……」
律儀に今日で最初の最後であろう出会いにきちんと挨拶をする。
「こんな最果に何の用でしょうか?」
金髪の姉がミルザとリーヴァを見ながら尋ねる。
「……ほんと、何しに来たのかな……希望なんてないのにね」
絶望した眼差しを、霧を見つめる。
「はい……私たちは厄です……」
金髪の姉は不適に笑みを浮かべる。
「この世界に瘴気をばら撒く者……それでも……そんな私に希望を求めるのなら……」
「それは……何処か何処か遠い世界なのでしょう……なぜ……パンドラは最後に勇気でも愛でも夢でも絆でもない……希望だけを箱に残したのでしょうか……そんな他力での救いでしかないそれを……」
ゆっくりとリーヴァを見て……
「さぁ……それだけの災いを受け入れる覚悟があるというのなら……望んで下さい……それは、多分……私たちがここを離れる前に偶然に出会った……そして、それはきっと必然であった行為……召喚者は合いました……」
霧の遥か向こうから……エメラルド色の光が……世界の心臓の方を目掛け飛んでいる。
「勘違いしないでくださいね……私たちは希望である前に厄です……それが前提であることを……瘴気は満ちました……そんな宿命の日に……そんなあなたの英雄は……こんな厄を払ってくれるのでしょうか」
ゆっくりと……二人の金髪の少女がミルザとリーヴァの間を通り過ぎる。
・
・
・
「ねぇ、イブ……レスちゃんは?」
学園の地下、学園長が席を置く部屋。
セラは護衛、秘書のようにその隣に身を置くイブに彼の居場所を問う。
「……今頃、サリスやキカに学園の教室に案内されているころでしょう」
そう表情ひとつ崩さずにイブが答える。
謎にパンパンッと手のひらを二回叩き、
「呼んで、レスちゃんを今すぐに……」
権利を主張する。
「客人に余り迷惑をかけないで下さい」
ため息混じりにイブがセラに告げる。
「おいくら?おいくらなの……払う、払うからレスちゃんを呼んできて」
「だからぁ……無駄遣いは禁止しています」
イブがギロリと睨む。
「わたくしのお金……どう使おうとわたくしの自由でしょっ」
セラが、そんな彼を強く所望するように抵抗する。
「はい……セラが国のため、そのお金を使いたくないと言うのなら、私もそれに従います……でも、その資産……それはあなたにとって今後も必要なものです……それを無駄にするような真似は……許さない、その役目だけはどうか私にさせては頂けませんか?」
少しだけ真剣な眼差しを向けられ、セラが口を閉ざす。
・ ・ ・
ガラリと扉が開き、彼、クリア、サリス、キカが、
学園長室に入る。
他愛もない会話を続けている中で……
「レスちゃん、レスちゃん……こっち」
パソコンのような液晶とにらめっこしていた、セラが俺を呼ぶ。
座っていたソファから身体を起こすとセラの方へ向かう。
「ここに指を当ててくれるかしら」
指紋認証のような装置に俺の指を導く。
「これは……?」
当然、それを受け入れる前にその理由を問う。
「……レスちゃん、そしてクリアちゃんを正式にこの学園の生徒に受け入れるの」
嬉しそうにセラが笑顔をこちらに向けている。
「まて、俺らは一ヶ月だけの交換生なんだろ?」
俺は、その受け入れを拒むように返す。
「おいくら、おいくらで、わたくしのモノになるの?」
「だからぁ……私の言ってること理解していますか?」
少し厳しい目でイブがセラを見るが……
「わたくし、価値のあるものは絶対に逃したくないの……わたくしの財産でそれが手に入るのなら……イブ、あなたのお仕置きんなんて怖くないわ」
強気にセラがイブを見る。
「その申し出は嬉しいけどな……でも、俺は向こうで卒業するよ……約束だからな……」
俺はそのせっかくの申し出を断る。
「あら……残念……でもね、レスちゃん、わたくし、諦めが悪いの、一ヶ月の間……なんとしても、わたくしはレスちゃんとクリアちゃん、競り落としてみせるわ」
キャッシュカードを、中指と人指し指で挟みながら返す。
コンコンと学園長室のドアが叩かれる。
この場所まで自由にアクセスできるのは、セラ本人と、イブだけなのだろう。
そんな訪れるはずのない客人を……
「……どなた?」
セラが招き入れる。
「……まいど……」
20代前半くらいの男が入ってくる。
その男と共に二人の男と、一人の女性が入ってくる。
リーダーぽい男、そして女性には見覚えはない。
護衛のように入ってきた二人に俺は警戒するように構える。
ギリシャのナンバー。
ゼータとシグマ。
「そう……揃いもそろい構えるな」
リーダーぽい男が言う。
「レグサス=マネードル」
リーダーぽい男がそう名乗る。
「どうやって……ここに来た」
強力な能力の中……どうやってここまで来たのか、サリスが問う。
「少し、壁や床を破壊させてもらった……もちろん、その分の弁償はしよう」
レグサスと名乗った男はそう返しながら……
「まぁ、俺たちはいま……敵対している暇はないだろ」
レグサスはそう、セラを通じ全員に問う。
「悪いけどさ……そこの二人……連れている時点で俺には不信感しかないんだ」
俺はゼータとシグマを見て言う。
「この三人は……俺が召喚した商人から買い取った者だ……」
その言葉でこの男がリプリスさんをここに召喚した者だと把握する。
「パンドラが開かれた……厄がばら撒かれたんだ……」
レグサスは学園長の席の前に……机を挟み立ち止まる。
「それに抵抗する……俺たちは手を取り合うべきだろ」
「おいくら……おいくらかしら……」
その言葉に……セラはいつものように能天気な眼差しをレグサスに返しながら……
「……いえ、結構……見積書は必要ないわ……わたくし、自分に取って価値のないものにお金は払わないの……くだらないもの、イブが怒るもの……不要なものを欲したしても……貴方は必要ない、そこに使うお金があるのなら、わたくしは、彼に使うわ」
セラは俺を指差し返す。
「この国は敗戦し……無念に散った大人……男性という立場は犠牲となった……違えてる暇はないだろ……」
レグサスはセラにそう言い聞かせる。
「しつこいなぁ~」
イブがその間に入るように……
脅威的な目を向けている。
「セラは……あなたは必要ないって言ってるの……大人しく帰ってくれます?」
イブがレグサスを見つめて言う。
「あ……壁と床の修理費の請求書は後日、お知らせ致します……」
そんな権力……そして武力を買い占めたような男に向かい……
「レス……お一つ、私の言うことを聞き入れてもらえますか」
レグサスを見たまま、イブが俺に言う。
「レス……あなたが今、この場をこのものたちを退くための能力を……頭に希望して頂けますか」
イブの真横に、真っ黒な穴が現れる。
そんな穴から黒い瘴気が流れ出て……
イブの右手にまとわりついている。
「まぁ……シンプル……ですが、この場を退けるには十分でしょうか」
右手に拳銃をいつのまにかイブは握っている。
「貴方の希望に私の能力を乗せる……」
手にした拳銃をレグサスに向ける。
「都合がいいな……正義は己か……」
レグサスはその銃口を恐れることなく……
「俺は……今、目の前の敵を共にどうにかしようって言っている……」
「いい加減……しつこいな……」
サリスが手にした刀の刃をイブ同様にレグサスに向ける。
「無念に散った……怨念は瘴気として厄としてこの世界を形つくっている……開かれたパンドラは……この国を滅ぼす」
「減らぬ口だな……」
キカがいつでもてめぇらを蹴散らすと……言いたげに口を挟む。
「なるほど……後悔するといい……そこの男よりこの国に貢献するつもりだった……それを拒んだのだ」
「それに関しては誠心誠意、わたくしがお答えしよう……まぁ、余計なお世話……あっかんべぇ」
目下の皮膚を人指し指で下に伸ばしながら、セラがレグサス達に向ける。
構え、その無礼を武力を持って解らせようとする三人をレグサスは止める。
そして、黙って背中を向けて立ち去る。
・ ・ ・
学園長室を後に、教室に戻ろうと全員が廊下を歩いていたところ、
学園にサイレンが流れる。
同時に窓の外では黒い竜巻のようなものがあらゆる場所に出現している。
『緊急事態……直ちに生徒は地下、シェルターへ避難してください』
校内放送が響く。
そして、来た道を引き返すように俺とクリアは地下へと案内される。
「レスさん、さっきのアレは……」
地下に非難した俺とクリア。
クリアがその中俺に問いかける。
魔王……マナト……と対立していた時に見た瘴気……
「妹が迷惑おかけしております……」
金髪のショートカットの女子生徒が俺とクリアの前に立っている。
「きちんと、紹介していませんでしたね……」
イブは俺たちの前に立ち……
「イブ=パンドラ……残されたのは……希望です……それでも前提……厄があるというのなら……それを正すために……私は今日まで此処に居ました」
寂しそうに……俺たちに……仲間に……何かを詫びるように……
イブはただ、寂しそうに笑う。
ご覧頂き有難うございます。
少しでも興味を持って頂けましたら、
広告下からの【☆☆☆☆☆】応援
ブックマークの追加、コメントなど評価を頂けると幸いです。