交換生(3)
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「すまない……今回は少し手間取った……」
体中傷だらけで……少女のもとに戻ってきたミルザは血を流しながら……
その小さな手を取り、先を急ぐ。
「……やっ……少し休む」
少女は立ち寄った村の、使われていない小屋に身を隠すように、
ミルザを休ませると、
一人、村を歩き回り……
包帯代わりになりそうな布などを貰って来て、
地面に置くと、
雑に、不器用にミルザの手当てを始める。
ただ……その行為が嬉しくて……
傷が癒えた後も、その包帯を意味も無く巻き続けている。
そんな……ちょっとした油断のような綻びの中……
訪れた眠気に逆らうことができずに眠ってしまった。
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「この建物の2階が君たちが一月くらしてもらう、一室がある」
建物の2階を見ながら、サリスが言う。
「1階は……」
気になる『うどん』と書かれた暖簾……
「キカ……が経営している食事処だ……よければ利用してやってくれ」
サリスがその暖簾を眺めながら言う。
……異世界といえど、同じ食事があってもおかしな話では無いが……
「挨拶していってもいいか……これから利用することが多いかもしらにし」
俺はその引き戸を開ける。
「ん……だれだっ?」
せっかくのお客様を邪険に扱うように……出迎えられる。
茶髪の髪、前髪の一部だけ真っ赤に染めたように赤く……
紺色のスカーフをターバンのように頭に巻いている女性。
ヤンキーのような眼差しと口調で、服装は学園の制服姿にきちんとエプロンを巻いている。
「キカ……話をしていた、レスとクリア……隣国の協力者だ……」
サリスがそう紹介してくれるが……
「あぁ……協力者?……隣国だろっ」
とたんに俺の胸元を掴み上げる。
「やめろ、キカ……失礼だっ」
言い聞かせるようにサリスが言うが……
女帝という立場も……子供という立場、いまの内政では、その権力も……
ほぼ、無いに等しいのかもしれない。
「これ以上に、あたしらの何を奪うつもりだいっ!」
ぎりっとさらに強く胸元を掴まれる。
「べつに……あんたのうどんを食べたいと思って来た……人間だよ……」
俺は冷静に目の前の女に告げる。
「……うどん、俺にはちょっと馴染みがあってさ……なんでそんなものがここで提供されてるのかなってさ」
店内を見渡しながら……
「……ねぇさんの知り合いか……?」
言葉とともに右手から開放される。
キカと呼ばれた女は店のカウンターの奥に行くと……
麺を湯で切り、うどんを3杯つくり、テーブルに置く。
「初回は無料だ……食え」
麺とつゆだけ……そんなシンプルなうどんが置かれている。
俺はここからでも覗けるカウンターを見渡しながら……
そのうどんを食す。
「うん……美味い」
素直にそう口にしながらも……そのどこか物足りなさを……
クリアもサリスもそれを食べ、その麺の美味しさを実感しながらも、
この異世界にある食事と比較しながらも……
どこか物足りなさを感じているのだろう。
「少し……邪魔するな」
「おいっ!」
勝手にカウンターに入り込む俺に少し怒りを覚えるようにキカが叫ぶ。
見渡す……
食材と機材は揃っている。
多分、あの人が用意したのだろう。
ただ……キカにはそれらを扱うだけの知識が揃っていない。
揃っている海老や茄子などの食材を……
持っている知識だけで冷水と卵を混ぜ合わせるように掻き回し、
そこに漬けた食材を、熱した油の中に投函する。
彼女が準備していた汁と麺……
そこにそれらを乗せ、刻んだネギを入れる。
そして、残った天かすを乗せる。
作り出した3杯を同じようにテーブルに置く。
それをサリスもクリア……そしてキカもそれを食す。
ただ……黙ってそれを食いらげる。
「レス……と言ったか……」
キカは目を見開くように……
「先ほどの無礼を承知の上で頼む……レス……いや師匠……あたしにその技術を伝授してくれっ!!この一ヶ月どんな苦行も受け入れる……どんな対価も引き受ける」
キカは地面に正座をしその額を地面に押し付ける。
「麺もつゆも……基本はあんたが作り出したものだ……俺は少しだけ付加を加えただけだ」
俺は周りを見ながら……
「まぁ……せっかくある食材を利用する知識を提供するくらいはできると思うが……」
そんなキカの店を出ると、そこでサリスとも別れ、
俺たちは与えられた部屋に向かう。
部屋に入りリビングのような場所で二人立ち止まりながら……
寝室は別れている。
が……。
「相部屋なのか……」
「ですね……」
思わぬクリアとの共同生活に……
お互い戸惑いを隠せずに居る。
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俺は大きなあくびをしながら、自分に与えられたベッドから起き上がり、
カーテンを開き朝日を浴びる。
見慣れない寝室に……交換生として隣国に居ることを改めて実感する。
寝室からリビングに出ると……
クリアはすでにリビングのテーブルの椅子に座っていて……
その隣で……
「おはよー、レスちゃん」
ウェーブのかかった金髪の破天荒少女が座っている。
「なんで……あんたが此処に居る?」
俺はセラにそう尋ねる。
「あら……ここもわたくしが財産によって造られた場所よ、当然わたくしは自由に出入りできるの」
うんうんと一人頷きながら……
「さぁ……ありがたい言葉を聴きながら、モーニングを楽しみましょう」
言って、いつの間にか手にしたリモコンを……
「ポチっとな」
その台詞と共にリモコンのボタンを押すと、天井からスクリーンが降りてくる。
そして、以前に見た彼女のPR映像が流れ出す。
俺は黙って台所に行くと、準備されていた見慣れた食材で、
朝食を作ってみる。
白米とスクランブルエッグ……赤い調味料を乗せたものを自分を含め3人分テーブルに置く。
「あら……何これ……」
お金持ち、そんな相手に提供していいものかわからないが……
セラは興味深そうに食事を眺めている。
「美味しい……おいくら、おいくらなのかしら、要望するわ、わたくし、明日もこれを要望するわ」
「レスちゃん……わたくし、あなたにはなまるあげちゃう」
セラはスプーンを口に加えたまま、空いた右手を謎に頭上に伸ばしながら言う。
「……また、イブ……彼女に怒られるぞ?」
またも考えなしにその財産をばら撒く彼女に……
「いいのよ、わたくしのお金、どう使おうとわたくしの自由っ」
……ごもっともだが……
ドンっと扉を蹴破り現れる女性。
「レス……いや、師匠、登校の時間だ」
キカが扉を蹴破った身体の勢いを止めるようにその場にしゃがみこみ、俺に告げる。
「なぜ……蹴破る必要がある」
俺はそんな無残に転がる扉を眺めながら……
「よくわからないけど、セキュリティが邪魔をした……」
だから、蹴破ったと理由を告げるように。
「わたくしのセキュリティー、そんな脳筋で否定しないでっ」
セラがその行為に突っ込むように叫ぶ。
「ん……セラ……居たの?」
「わたくし、学園長……どうして、わたくしを誰も敬わないの?」
「「「……まぁ……だよな……」」
ですね……」
俺、クリア、キカはセラの顔を見ながら、頷く。
「なんか、よくわかんないけどっ……ひどいっ!!」
セラが俺たちに言葉を返す。
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