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交換生(2)

 ・


 ・


 ・



 教会を抜け出して……数日が過ぎた。


 ただ……目的地も無く、そんな誰とも知らない探し人を探して……


 ただ、北へ北へと……足を運ぶ。



 そこに何があるのか……


 辿り着いた、森の奥にある泉で……

 その旅で汚れた少女の身体を洗い流し、タオルでその身体を拭いてあげる。


 ワンピースの背中のチャックを開き、現れる背中から……

 白く輝く翼は……そんなしゅぞくを主張するようにひろがって……


 それは、そんな私たちの行為を許さないというように……




 「……帰ろう……か」


 

 ミルザは……己の決断を早くも悔やむように……


 それでも、彼女は首を横に振って……



 「……行こう」


 彼女はミルザに手を伸ばす。

 何があるか知らない先をただ……目指して……



 ・ ・ ・ 




 「……由々しき事態だ……世界は怒っている……必ず、ミルザを……リーヴァを見つけ……殺せっ」


 「……どうなっているんだよ……ミルザ」


 教会に召集がかかり、そこにはまだ幼いクロノ姿もある……


 戸惑いながらも……またそんな自分の使命を……

 まだ、そんな幼い彼は背負い、彼女を追い、最果てを目指す。



 ・


 ・


 ・




 「お待ちしておりました……」


 「イブ……セナの元まで案内してくれ」


 辿り着いた隣国。

 バルナゼク。


 そこに存在した学園。


 イブと呼ばれた金髪のショートカット。

 男の子、女の子どちらでも通じそうな綺麗な顔をしているが……

 後者だろう。


 「合わせるのですか……」


 本気ですか?という表情でサリスを見ている。



 「……ここの生徒であり、学園長を務めている者だからね」


 サリスは予定通りその者の元へと俺たちを案内しようとする。


 「……どうか、心変わりをしないよう……お願いします」


 俺たちの顔を見ながらイブと呼ばれた女生徒が言う。



 学園の地下、頑丈な門、セキュリティのようなものを潜りながら、

 辿り着く、一室のドアの前に立ち止まる。


 「本当に……いいのですね?」


 何をそこまで躊躇するのだろうか……

 よほど、危険な相手なのだろうか……

 少しだけ緊張が走る。



 「いったい……俺たちは誰に会おうとしているんだ?」


 そんな俺の質問に……


 「この国……我々の財政を保っている人物……セラ=セキュリティ」


 サリスがその名を伝える。


 「それだけの人物……それだけ警戒心も高いという事か……」


 俺はそう悟ったように言うが……


 「いえ……全くその逆です……彼女にお金を握らせるといずれ、この国は滅びます」


 イブが返し、部屋の扉を解除する。



 「入るぞ……セラ」


 イブが解除した扉をサリスが先人して入っていく。



 「ん……あらやだ、入るときはノックを3回してから、イブ、わたくしはそう教えたでしょ?……ん、んぐっ……」


 一人の時間を満喫するように、食べていた饅頭のような食べ物をのどに詰まらせている。


 「……へ、へるぷ……みぃ」


 本気でこのまま退場してしまうのではというくらい苦しそうにしている。



 「……クリア」


 俺は、クリアを見る。


 「……はい」


 学校に自分用に作ってきていたもので、後でサリスに手土産として渡そうとしていたものだが……クリアに持たせていた水筒を受け取ると、フタをコップ代わりにコーヒーを注ぐ。


 「大丈夫か……ゆっくり飲め」


 「ん、んぐーーー」


 言ってるそばから一気に飲み込む。



 「かーーーーー……助かったわ」


 「ん……それに美味しい」


 残った、液体をゆっくりと飲みながら言う。



 「いいわ……買うわ、おいくらかしら?」


 中指と人差し指の間にカードを挟みながら……



 「なんたってわたくし、億万長者っ……あいたっ!」


 イブがいつの間にか手にした大きなハリセンでセラの頭を引っぱたいている。



 「……確かに……彼女に財政を任せるのは危険な気がします」


 ぼそりとクリアがセラを見て呟く。



 「あら……あなたは?あなたはだぁーれ?もしかして、あなたがサリスの言っていた、お願い事を聞いてくれる人、おいくら?おいくらなのぉ?」


 両手を合わせ祈りのポーズをとりながら、クリアを崇めるように言っている。



 「あの……私は巫女……ですので、私が直接願いを叶える訳では……そもそも巫女という立場すら自覚していないのですが……」


 申し訳なさそうにクリアが言う。



 「あら……そうなの……残念、じゃぁ……そっちは?私に飲み物くれた人……」


 出会いがしらにアクセル全快の女の目がこちらを見る。



 「俺はレス……そっちがクリア……交換生として一ヶ月お世話になる」


 俺は軽く挨拶する。



 「……そなの?交換生?ナニ……ソレ?」


 不思議そうにセラがサリスとイブの顔を交互に見ている。



 「……言っていた、協力者を連れてくると……そのための学園を造らせたのだろ」


 サリスが少し呆れるように返す。


 

 「そうだったかしら……」


 「あんた、いったい何のために……こんな大それた学園モノ作ったんだよ」


 俺は、彼女ら同様に少し呆れるように言う。



 「あら……学園長って凄く偉そうじゃない……わたくしがこの国の支えるにあたりぜひとも欲しい肩書きよね」


 うんうんと一人頷き、


 「そして、何より……」


 「たのしそーーーっ!」


 実にいい笑顔でセラが叫ぶ。



 「どうでしょう……、レス、クリア……改めてお聞きしておきます、私たちにご協力頂けますか?」


 イブがこちらを見て言う。



 「……まぁ……ここまで来てしまったからな……」


 俺はかゆくも無い後頭部をかきながら返す。



 「そう……わたくしたちに協力するのね……いいわ、許可します」


 偉そうにセラは腕を組みながら……


 「……それでは、わたくしの自己紹介、いえ……わたくしに自己紹介など不要っ」


 組んだ腕を崩し顔の前に右手を持ってくると、てのひらにはリモコンのようなものが握られている。


 「ポチっとな」


 そう口に出してボタンを押すと、スクリーンのようなものが下がってくる。



 そして、映像が流れ出す。



 『わたくしの名はセラ=セキュリティ……バルナゼクの英雄』


 金髪の長くウェーブのかかった髪……

 目の前のセラと瓜二つ姿の女が映像の中で語っている。


 『欲望なんてモノにわたくしは負けないっ!!お金、友情、平和、正義、お金の元に…わたくしは皆のために戦います!!』


 「お金……二回出てきてますね……」


 クリアがぼそりと突っ込む。


 「欲望……が正直過ぎだな……」


 俺も映像に突っ込んでおく。


 『抗え、わたくしっ……戦えっセラ=セキュリティっ!』


 『世のため人のためヘルプミーなんて泣き言は私は言わないっ……セラ=セキュリティ、わたくしはセラ=セキュリティーっ』


 何のためにつくられたPR映像なのか疑問だが……



 「セラ……私はこの映像を作成された事実を知りません」


 「……そうね、イブには言ってないもの」


 当然というように、セラが返す。



 「領収書はどこですか?」


 厳しい目が向けられている。


 「ん……?」


 不思議そうな顔をセラがするが……



 「この映像むだづかい領収書ようしたきんがくが見たいと言っているのです」


 ……俺とクリアが生唾を飲み込む。

 ……わかる……多分、この女子生徒イブは一番怒らせてはいけない人だと。



 「何言ってるのよ……お金のことならわたくしに任せておけば……」


 「それじゃ、国が崩壊するって言っているのです」


 国を支えているのは事実、セラの家計にあるのだろう。

 だが、その現在の党首セラに問題があるのだと……



 たぶん……それは簡単に質問くちに出してはならないと思った……

 でも……聞いておかなければならないものだとも思った……



 「……セラの親に……任せればいいんじゃないのか……」


 ここまで来る道中、学園しか見ていない。

 それでも……気にはなっていた。



 「昔……この国がグレイバニアと戦争をしていたのは知っているか……」


 そんなサリスの言葉に……

 あのセラさえも空気を読むように、口を閉ざす。



 「……ほとんどの大人はその戦火の中に散り、生き残った者も……処刑された」


 静かな怒りを……ただじっと堪えるように……



 残った子供だけで……国一つ支えているのか……



 「ところで、セラ……話の続きです」


 「えっ?」


 話が反れて安心しきっていたセラがイブに恐怖の目を向ける。



 「領収書……」


 「そ……そんなものは……」


 その教え込まされたような恐怖に身体が動く。

 一つの引き出しからセラの震える右手が紙切れを掴み取る。



 「……だめ、だめよ」


 そこで気がつく……

 これは、イブの能力の一部なのでは……


 震える手をゆっくりと……



 「見せて……」


 優しく、恐怖あつのある笑顔を向ける。


 「ヘルプミーとわたくしは言わないっ……抗えっわたくしっ!!戦えっセラ=セキュリティっ」


 自分を応援するように叫ぶと、操られたような腕に握られた紙をくしゃくしゃに丸めて口の中に放り込む。


 「あら……そんないけないことしちゃうんですね」


 表情を変えず、イブはセラを見ながら……



 「な……イブ、なに、何をする気なの?」


 恐怖の眼差しをイブに向けている。



 「……もちろん、取り出します……消化される前に」


 何処から取り出したのか、メスのような刃物が彼女の手元でキラリとひかる。


 「……ですので、少し隣の部屋にいきましょう」


 空いた左手で、セラの右手を掴み隣の部屋に引っ張っていく。



 「なに……どうして……」


 「あまり、他の方にお見せできませんので……ついでに少しかる~い、お仕置きもしなければいけませんね」


 そんな台詞とは正反対な優しい声でイブが言う。



 「いや……いやよ……ねぇ、あなたたち、何を黙って見てるの……助けなさいっ……サリスっ……えっと、レスちゃん?」


 「我もレスも……貴公の部下でも雇われた兵士でも無い」


 サリスが冷たく返す。



 「……あ、ちょっと……離しなさい、イブ……ギャーーー、化け物、そう、あなたは化け物だわっ!!」


 懸命に振り回す腕をイブは決して開放することなく、奥の部屋にセラを引っ張っていく。


 「ひどいなぁ……人を化け物みたいに……」


 「そう言ったのよ……レスちゃん、ねぇ……噂で聞くところあなた凄い人なんでしょ、おいくら、おいくらなのぉ?雇う、今雇うわ……だから、早くこの化け物……」


 「だからぁ……そうやって簡単にお金ばら撒くのは駄目だって……」


 バタンっと隣のドアが閉まる。



 「いやぁーーーーーっ……ヘルプ・ミーーーーーっ!!」


 セラの叫び声が聞こえる。



 「……(ヘルプミー)……思いっきり言ってるなぁ」


 俺は呆然と隣の部屋を見ながら……


 「……はい」


 呆気にとられるように、クリアも頷く。



 「……悪いな、いつもの茶番にお前までつき合わせて……」


 律儀にサリスが小さく頭を下げる。


 「いや……茶番でよかったよ……本当に命の危険を感じてしまうくらいの演技だよ」


 少し感心するように俺が言うが……



 「あぁ……たぶん、命までは大丈夫さ」


 少し曖昧な返事が返ってきた。

ご覧頂き有難うございます。


少しでも興味を持って頂けましたら、


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