兄妹(3)
エリードはたった一度の力で過去を遡り……
そこでフィーリアを召喚した。
そこで、人々を世界を……
彼女を神として信仰ことに成功する。
だが……現在、
その神が不在のなった今……
これまで、騙されてた世界の在り方が修正されている。
「そんな……世界を修正するだけのことができる場所……世界の神域と呼ばれる部屋があるの」
フィーリアが言う。
「……あなたたちは……それが狙いってところかしら?」
微かな記憶をたどるようにフィーリアが言っている。
「あら……一応、言っていましたでしょ?」
フィーリアの瞳が俺を見る。
「……神の遊戯に勝った者の願いを叶えると……本当にそんな場所は存在しているのです……」
「信じられないって顔……ですね」
ちょっと傷つきましたと言いたそうに意地悪に笑い……
「考えても見て……私が転生者に……あなたにどうやって能力を授けたのか……」
「……まぁ、前にも言ったように彼の力……ですけど」
今も微かに残る彼の魔力を見つめるように右手を頭の上に掲げて眺める。
「世界の心臓……そこで世界を書き換えた……書き足したという方が合ってるでしょうか?」
掲げた右手を特に理由も無さそうに角度を変えながら眺めている。
「もちろん、神代理に……自由好き放題に……世界を書き換えられるものではないのですけどね……」
寂しそうに右手を下ろす。
世界の神域……
確かにそんな世界の中心部があって……
そんな世界を支配する……データーベースのようなシステムが存在していたのなら……
こうして、召喚された俺たちが……
俺がフィーリアに話した能力を、彼女が理解した形で力となった……
「なるほどな……」
まだ……ぜんぜんわかんねぇことだらけだが……
「……となると、その理屈からいくと、過去でのその役目は、フィーリアさんは巫女で在り、神はその神域魔力ということでしょうか?」
クリアは思考を巡らせるように尋ねる。
「先にも何度も言った様に、私も被害者ですからね、詳しくはわからないです……でも、そうでしょうね……彼はこの先の世界の心臓の住人、もしくはその神域が人を象った存在なのでしょうか……」
フィーリアも神代理として……その役目を果たすために誰かに世界の在り方、その説明を受けたわけではないのだろう。
現世でリーヴァという女性を産んだように……
彼らが書き換えた過去で、セシルを産んだ……
世界というやつのどういう気まぐれかはしらない。
本来、世界に初めて存在するはずだったリーヴァ。
だが、それは一人の女の手で理不尽な理由で悪に染まった。
その歴史を書き換えるために、過去に神を産んだ。
結果的に世界を騙し、神はリーヴァからセシルに代わり……
不完全だったセシルに代わりその魔力の所持する擬体とするように、
フィーリアを神代理としていた。
「で……あんたはその世界の心臓に行って……何を企む」
俺はクロノを再び見る。
「……書き換える……」
もう一度……
取り出したナイフ……見覚えのあるフィーリアが反応する。
「……神の力を奪った……この力でシステムを書き換える」
「よく、わかんねぇけど……その程度の力で書き換えられるものなのかよ」
神としての役目を所持していたフィーリアでさえ、自由にできなかった。
そして、それを可能にしていたセシルの力の僅かを所持するナイフ。
「……めんどくせぇ話だよな」
俺は……いろいろと思考しながら……
「……世界の中心で永遠に閉じ込められて世界を見据える人生から逃げ出して……そして、それは裏切り大罪だと命を狙われ……そんな過去を書き換え、手に入れた力で……現世も変える……すげぇよ、ほんと」
素直に感心する。
「……でも……」
気がかりが一つ……
多分……俺の予想が正しければ、今頃……スノー邸は……
そのため、アストリアとルーセウスには、スノー邸の護衛をお願いしてきたが……
「……なぜ、ここにクリアをつれて来てしまったんだ……」
「ほんと……言ってる事が矛盾してるな……あんたは……」
その気がかりが……事実というのなら……
「なぁ……あんたらはどうやってその世界の神域に踏み込むつもりだったんだ?」
神、または巫女……そんな存在が必要なのだろう。
クロノは……最初、クリアの様子を見に来ただけだと言った。
そして……あの後、現れたカイとオメガの国の特殊部隊。
また、隣国の女帝……
神域……世界の中心の扉を開く彼女
俺はクリアを見る。
きょとんと俺のそんな瞳を不思議そうに見上げる。
「あんた……妹を守るって言ったよな……」
「あぁ……」
それは、偽りじゃなくて……
でも……
いま……スノー邸には、クロノ達が送り込んだ連中が、
彼女の回収するために強襲をかけているだろう……
もちろん、アストリア、ルーセウスたちが応戦している。
他にもクリアの母、スノー邸には優秀な配下が居る。
そっちの心配はいらないだろう……
「だったら……なんで、彼女を欲してるだよっ!!」
思わず感情的に叫ぶ。
「……ぜんぶ、ぜんぶ……救うんだよ……」
眠そうな目でクロノが見る。
左目を押さえ……前かがみに頭を下げると、
その背中の左側だけから、真っ黒な翼が現れる。
彼の黒い右目の瞳がこちらを睨むように見ている。
「ミルザも……俺も、鍵になる資格を失った……」
ゆっくりと左手を左目から離すと……
片目の結膜が黒に染まり、黒い瞳は真っ赤に染まる。
「扉を開く……それだけでいい……後は俺が何とかする」
「そういう……ことか……」
俺は理解するように……
「兄さん……」
驚くようにクリアが見ている……
「やめとけ……その方法じゃたぶん……あんたのいう全部を救えない……」
フィルの魔力を体内に巡らせる。
「少なくとも……クリアは救えないだろ……」
放たれる黒い矢を俺は結界で防ぐ。
「できなければ……俺は、俺たちは……」
取り返しのつかないところまで来ている……そう叫ぶ。
「邪魔……するなぁーーーーッ!!」
「く……っ!?」
俺の上空に漆黒の矢が包囲している。
俺はフィルの魔力を瞳に宿し、できるだけ多くの矢の位置を把握していく。
「スィージアローっ」
四方八方から飛ぶ矢を俺は結界の板をその標準に合わせ発生させる。
「くっ……」
その結界の何枚かは破壊されて、魔力にダメージを負う。
「なるほど……自分の周囲を取り囲む大きな結界を張るではなく、個別の結界をいくつも発生させ、確実にこれを防ぐか」
感心するようにクロノが言う。
大きな結界は破壊されれば、その魔力減は激しい。
それに、確実に防ぐには例え大きくても一枚の結界では不可能だろう……
それだけの威力だ……
「だが……いつまで持つ?」
クロノの真っ赤な瞳が輝き、それに反応するように上空に再び黒い矢が創り出される。
「……くっ」
再び瞳を忙しく動かしその場所を把握する……
「集えっ!!」
そこに、今まで居なかった人間の声がする。
「貫けっ!!」
水と魔力で創り出される魔装具が一気に矢を蹴散らすように飛んでいく。
「無事か……レス」
青い髪の美男子が歩いてくる。
「スコール?」
「探したぞ、レス……」
レインもそのスコールの後ろに追うように少し駆け足で入ってくる。
「レイン……どうしてここが……」
「どうしてって……彼女がリヴァーが探し出してくれたのだ……」
自分の力のように誇らしげに語るレインを見ながら……
こうも、あっさりと役者が出揃ってしまうものか……と……
「守る……守る……」
疲れた目を……真っ赤な瞳を……
ただ、呪文のようにその言葉を繰り返す。
「集えっ」
スコールが右手をまっすぐクロノに突きつけ……
「貫けっ」
「囲えっスィージアローっ」
互いの矢……魔装具が互いの身体をかすめ飛び交う。
「邪魔をするなっ」
地面を蹴り上げ、黒の弓を剣のようにスコールに振り下ろす。
「集えっ」
スコールは冷静に水で魔力の剣を創り出すとそれを受け止める。
「……ライトや魔王の存在、そしてそこの男のせいで、蔑ろになっているけどな……学園の表じゃ、最強なんて呼ばれてる程度ではあるんだ」
「すこしは妹が誇れる兄に戻ってやると決めた……格下に見るなよ」
攻撃を受け止めながら……スコールはクロノを見つめ……
「集えっ」
「貫けっ」
その攻撃にクロノの身体が後ろに吹き飛ぶ。
魔力が損傷したようにその背中の羽の何枚かがゆっくりと地面に落下していく。
アストリアさえ、苦戦した男……
その学園、生徒会長の座を……
「守る……守るんだっ」
必死にクロノは……
「そう……守るんだろ……」
俺もそれに続く。
「だったら……邪魔をするなーーっ!!」
「だったら……そんなに助けを求めるなよ」
俺のその返しに……クロノは戸惑うように……
「俺にはあんたが自分を止めてくれって言っているようにしか聞こえないぜ」
「違うっ……俺は……」
戸惑うように……瞳を泳がせる。
「あぁ……守るさ……クリアも、守るさ……彼女も……」
クロノに向けそう言う。
クリアは不思議そうにこちらを見る。
《《彼女》》はただ、ほんの少し口角を上げ微笑む。
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