不快音
「神……そんな詐欺はどんな言葉を聞かせてくれるんだ?」
ソアラ……
セティの用に、人を惑わせる魔力……
そして……相手の魔力を調和するような魔力……
そして、恐らく彼自身の運動能力もかなり高い。
同じ学園に今まで通っていた生徒……
「ルーセウス以外は……ほとんど、私の事を忘れちゃってるし……」
「無理も無いよ……神聖六賢者も、神聖魔力……君が神代理を放棄した今、彼、彼女たちの記憶も変化するんだ……」
セシルが少し不満そうなフィーリアに言う。
「そうなると……あのルーセウスって男の存在ってのは……フィーリアにとってどうなってるんだろうな……」
神というものに高い忠誠心を持っていて、それが理由でフィーリアとの関係が曖昧になるというのなら、一番影響のありそうな男だったが……
俺は一人呟くように疑問を口にする。
いや……もしかすると、それもあって……彼を俺に押し付けるような形にしたのか……
「で……あんな、感動的なお別れをしたばかりだって言うのに……どうしてまた出てきたの?」
そんな、意地悪そうにそれでもどこか嬉しそうに……
最初と正反対の台詞を送る。
「本当はもっと……感傷的な場面で再開したかったけど……」
見ていられなかった……というように。
「どっちにしても……私たちの関係なんて情報遊戯の対戦相手だったじゃない……」
今さらとフィーリアは言うが……
「僕は結構、気にするんだけどなぁ……」
そんなフィーリアの意地悪な笑いに苦笑いで返す。
しかし……そんな神域の魔力を再び手にしたとして……
彼女自身には余り戦闘向けの能力は無かったようにも思える。
セシルの身体がフィーリアに重なるように光り輝く。
「あは……神と対決とか、らしく無さ過ぎて……ノッテきた……」
自分とは無縁の戦いだといいたげにソアラは笑う。
パンッと強く手を叩く。
その音……情報が脳に伝達される……
そして、タイミングはわからない……
瞬きをひとつした程度……
俺の視界から……多分、全員の視界からその姿は無い。
「領域停止っ」
そのフィーリアの言葉に……
「なるほど……確かに神だ……たいした詐欺だ」
余裕そうな笑みを浮かべながらも額に汗を流すソアラが立ちひざをつくように、その場に目視される。
「……調律……しろ」
ソアラが自身に光の線で攻撃する。
「……あら……なかなか不便な能力ですね」
自らを攻撃することで、その領域停止をかき消す……
「……そんな音で……僕は倒れない」
ゆっくりと立ち上がる。
「……領域停止っ」
とりあえず、繰り返すように彼女が言う。
苦しそうな笑みを浮かべながらも……その能力は届かないように……
「無駄だね……その音はもう知っている……」
平然な顔で、その場に立っている。
「なるほど……確かに便利で不便……な能力という訳か」
そう、ソアラたちの様子を見ながらレイムが言う。
「なんだ……どういう事なんだ、レイムン?」
「……それやめろ……私の能力を封じ、彼女の領域停止も封じた……」
その名の呼び方を訂正しながら彼女は続ける。
「あの男の能力は……音に関係していることで間違いないだろう……」
「なるほどです……」
クリアが頷きながら、ソアラがするヘッドフォンを見る。
「同時に……脳が大きく影響する……」
トンっと白衣のそでで半分隠れた手のひらの指先をこめかみに当てる。
「脳……?」
俺はそう呟き、クリアとシンクロするようにレイムと同じように自分たちのこめかみに指をあてる。
「音を聴く耳も、目に映る映像も……脳により人間は処理しているのは知っているか?」
「まぁ……何となく……」
俺とクリアが曖昧ながら頷く。
「音により、脳の認識を騙す……それを先ほどから彼がやっている能力の結果だよ」
「そして、その騙すという結果で彼は、魔力を送り書き換え……能力を差し替える……」
その辺りで、少しだけ理解が追いつかなくなる。
「そして……自分の聞こえている音を調律した……そうして騙す事で、彼は私の零の能力も、フィーリアちゃんの領域停止の能力もその効果を結果に書き換えたのさ」
……なんとなく理解する。
「まぁ……それで、便利で不便というわけか……能力、その効果を打ち消す事ができるが……その代償はある……」
諸刃の剣みたいなものか……
「まぁ……言うなら、彼は無敵だね……彼は全てを苦痛に変える……魔力にはダメージが無い……もちろん、彼の精神が持ち続ければ……の話だけど」
それがどれだけの苦痛に変わっているかはわからない。
魔力にダメージが無いとはいえ、そんな痛みを負い続ければ……
その身体はいずれ限界も訪れるだろう。
「あは……ノッテきた……」
前髪で隠れた瞳でフィーリアを睨むように……
「信じるなよ……騙されるなよ……誰かの言葉も……語る世界も……もちろん、僕自身の言葉も自身が見ている世界も全部、全部ね」
全てを否定する……
その意味では……レイム以上に彼は特化しているのかもしれない。
誰にも騙されない……そして、そんな自分すらも騙し生きてきた……
「あは……セティ……そう……お前も言ってたじゃん……なんで……」
何かを恨むように……ゆっくりと隠れた瞳は俺に向けられる。
「死と隣り合わせに……それでも孤高に生きてる言葉はさ……」
・
・
・
4年前……
ソアラの住む、小さな屋敷。
ノイズ邸。
自分でもこの4年という短期間でよくもそこまで成長したというように、
今のように、能力も体力も精神も強くは無い。
親が手に入れた召喚石。
それを15歳という誕生日に手渡された。
親も自分自身も、貶され、騙され生きてきた。
そんな、己の弱さも誰かに騙され利用された生き様も……
ただ、誰かのせいにするように生きてきた。
そして、そんな騙されながらも親が手にした召喚石……
僕は……凝りもせずただ、最後にもう一度騙されてやろうとそれにすがった。
「ん……?」
召喚された女は不思議そうに不快そうに僕の顔を見上げている。
「あんたは……?」
召喚した本人である、僕は目の前に現れた女に尋ねる。
「ん……まぢ?」
異世界に飛ばされた事を、疑いながらも信じざる得ないように、不快そうな顔で……その部屋を勝手に歩き回り鏡を見つけると……
「まぢ……誰だよ」
自分の体を細かに動かしながら鏡に映る自分を確認している。
「……って、じゃぁ……もしかして……」
僕と同じくらいの女性は、鏡の前で僕のほうを振り返り、僕の後ろにある何かを見ながら……
パチンっと中指と親指をこすりあわせるように音を鳴らす。
「おぉ!?」
女のそんな歓喜の声と共に、ごろんと先ほど女が立っていた鏡の前に僕の部屋の家具が転がっている。
「これは……夢か幻か……で、あんたが私の召喚者って訳か」
「さて、この私を召喚して……何を求め、何を望む?」
ようやく、僕を見た女はそう僕に告げる。
「僕は……」
そんな救いを言葉を……彼女に……
「なーんちゃって……自分で何とかしろ……私にはあんたの言葉に従う理由も無ければ、資格もない……人助けなんてもんは、全てを幸福を手に入れた、退屈を持て余した奴のすることさ……残念だけどさ、そんな条件を満たした人間じゃないよ私はね……」
「……待てよ、僕は、お前を……」
なんのために召喚したのか……
「知らないよ……私はね……この異世界に召喚された理由も……そんなあんたの私情も……わかってやらない……あんたも知っておきなよ……騙されるのは騙される側にも問題があるのさ……干渉させるな……言葉は聴くな……孤独こそが人生だよ……」
「ふざけるなよ……助けろよ、僕を……お前はそのための召喚者なんだっ!」
決め付けるように僕は叫ぶ。
「だからぁ……知らないって……誰かに助けられるなんてさ……騙されてるのと一緒だよ……それでも、そんな弱い自分が居るなら……騙しなよ……自分も……」
光の無い女の目が僕を見ている。
「お前は……」
そんな不快な女の名を再び尋ねる。
一瞬……何かを検索するように女は言葉の二文字をどこから持ってくるかのように……
「……セティ」
そう笑いながら、僕を騙す。
こんな異世界に僕に召喚され、右も左もわからないだろう女は……
それでも、僕に利用されることをただ……嫌い……
僕という存在をただ否定し……
僕は……ただ、それでも、そんな不協和音に……
ただ、ただ魅入られるように聴いている。
怯えていた……でも理解していた。
それが……求めていた言葉なのだと……
だから……強くなろうと決めた。
音を言葉を理解することは……誰よりも得意なはずだ……
だったら……騙されるな……
その言葉は僕の能力だ……
それは僕の味方だ……
だったら……味方も信じるな……
あれ……ノッテきた……
わくわくしていた……
僕はそんな言葉に魅了されて……
だから、僕は……否定する……
僕はそれを求める……
だから……それを拒絶するんだ……
そんな矛盾だけが僕を肯定する……
だから……
・
・
・
「セティ……久しぶり……僕を見てよ……」
君を召喚した、情けなかった……あの日から……立派……になれたかな……
「調律……しろっ」
部屋全体の空間を……自分の理解に調律する……
「今の君は……見るに耐えない……全てを拒め、全てを否定しろよ……僕を拒絶したようにさぁ」
そんな苦痛と共に……ソアラはこの空間を支配する。
ご覧頂き有難うございます。
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