存在
「えっと……要するに、この今俺たちが、存在する時間を軸とするのなら……この世界線での、クリアの兄とさっきのミルザという女性が過去のグレイバニアにフィーリアを召喚したってことか……」
俺はスノー邸の客間に一緒に通された、フィーリアに尋ねる。
「正確には……過去の誰かにそうさせるように仕向けた……のではないでしょうか」
フィーリアが、少し適当な返事で返す。
「では……ないでしょうかって……」
はっきりとしない言葉に……
「私だって……被害者……当事者ではないのですから」
……冷たく笑い、瞳を向けられる。
「卵が先か鶏が先か……って言いますでしょう?」
フィーリアは俺を見つめたまま……
「私は……エリードに、過去からこの時間帯まで共にしているのです」
ゆっくりとそう語り……
「でも……もしも時間転移なんて力がそんな使い方もできるのなら……彼は私が召喚された時間帯と共に居たのでしょうか……」
語る自分が一番不思議そうに……
「元の彼はこの時代に居た……召喚された私も本来、この時代であったとするのなら……エリードも私も年を取らずに……今を生きているのはそういうことなのではないのでしょうか……」
今の自分には俺たちと同じ時間が流れている……それは神としての力を失ったからではなく……元々生きるはず時間帯に戻っただけなのだと……
「……彼女、彼は過去をつくり変えた……この異世界の歴史が文章としてタイピングされてきているとして……そんな文章を改ざんして、私をそんなどこかに組み込んだ……としたら……案外、神代理なんて存在はいくらでもでっちあげられるのかもって……そう思ったのです」
「過去への召喚と、過去の記憶の改ざんとどちらがレアなケースなのか……なんて私にはわかりませんけどね……」
人事のようにフィーリアが笑いながら言う。
そんな俺とフィーリアの会話を……
アストリアは興味なさそうに壁を背に目をつむり休息をとっている。
ルーセウスはただ、黙って客間の出入り口の扉の前を護衛するように立っている。
クリアは……開く口に目線を合わせるように、俺とフィーリアに瞳を泳がせている。
「でも……もしそんな記憶が改ざんされたっていうのなら……あの神域魔力……あの男の存在も記憶の改ざんの一部でしかないっていうのか?」
セシル……神……彼女がその能力を発揮していた存在。
「……あの最後まで……少しそうなのではないかって……疑っていたんですけどね……貴方を通して……彼はまた現れた……そう……確かにあの日まで私の中に魔力はあった……そして、これからも……記憶は……あるのです」
寂しそうにフィーリアが笑いながら返す。
「どこいっちまったんだろうな……その神の力に匹敵する能力を持った男とやらは……」
俺はそう天を仰ぎ言う。
「……えぇ、本当に」
寂しそうに……言葉を肯定する。
「なぁ……あんたの能力が……それだったってことはないのか……」
フィーリアの能力……
俺のように、防御特化した能力、
セティのように、トラップやイリュージョンのような能力……
そんな人の形をした能力があったとしても……
「……貴方たちの能力ってのは……偽りなく、私が具現化したモノです……まぁ、それも彼の力があってのものでしたが……なので……その仮説は無理です」
否定される。
「あの……」
そこで、はじめて俺たちの会話にクリアが割って入る。
「その……セシルさんって人が……本当に神様みたいな存在だってことはありえないでしょうか……」
そんなクリアな突然の言葉に……俺もフィーリアもただ無言で顔を向ける。
「いえ……その……もしも、今までの話にあったように……過去改変、そんな……これまで語られた物語の文章を書き換えられるような何者かが居るとして……そんなこの世界に、能力も持たない少女が転移されて……そんな女性を目の前にして……そんな女性に……肩入れしたくなった……とか……」
そんな仮説に……無言ながら俺も、多分フィーリアも……
「ただ、そうだったのなら、素敵だなって……」
「だって……フィーリアさんのこれまでの記憶が偽りだなんて……悲しいじゃないですか……」
出過ぎた発言かと少し怯えるように発言する。
「あら……すごく優しい子ですね」
フィーリアがクリアに笑いかける。
「あなたには少しもったいないのではないでしょうか?」
クリアを見ながら意地悪そうにフィーリアが俺に言う。
「ふぇ……?」
フィーリアに頭を触れられ、そう言葉をかけられるクリアが戸惑うように声を漏らす。
「……あら……(好きなのでしょ?)……わたしの勘違いだったでしょうか?」
フィーリアは優しく意地悪そうにクリアを見る。
クリアが思わず、フィーリアの視線から逃れるように顔を反らした。
突然、客間のドアがノックされるように叩かれる。
黙って……沈黙を続けていたルーセウスが扉を見て構える。
「こんばんわー」
黒いスーツ……執事のような紳士的な服装。
真っ黒な長い髪、両手に白手をつけていて、
白手の甲にあたる場所には三つ月六星陣が描かれて、そのそれぞれの指には銀色の指輪が嵌められている。
思わず、真っ先にその特徴的な指先に目がいく。
「だ、だめですよぉ……ストリングさぁん」
隣で白髪の男が紳士的な黒髪の女性を制御するように呼びかける。
「で……どれぇ、どいつかな……アルファ、一押しの、ベータとシグマを無様にぶちのめした奴は」
ゆっくりと紳士的な黒髪の女は周囲を見渡し、何かを理解するように俺で瞳を止める。
「だめですってばぁ……僕たちは争うために来たんじゃないんですからねぇ」
必死に隣の白髪の男がストリングと呼んだ女性に呼びかける。
「誰だ……?」
そうできるだけ、冷静に俺が二人に問う。
「ストリング……そうだな……」
ゆっくりと瞳を俺の奥深くを覗き込むように……
「Χ(カイ)……と名乗った方がわかり易いかな」
自分の名をギリシャ文字へと変換する。
「国の特殊部隊様が……何のようだ?」
「まぁ……話でもしようか」
そんな狂気に満ちた笑みをこちらに向ける。
「動くな……」
ぴくりと反応をした、ルーセウスをカイは制御する。
カーテンを閉めていない窓から入る月の光……
その光が、部屋中にいつの間にか張り巡らされている、透明な糸を照らし光を放つ。
なるほど……俺の漫画の受け売りだと……
確かにこれは……最強……
人の皮膚より硬い糸は何よりも危険だ……
「ストリングさぁん……皆様もね……平和的に話し合いましょう」
白い髪の少年はそう請うように言う。
そして、自然と集まった視線に……戸惑いながらも答えるように……
「ル…ルインって言います」
おどおどとそう答える。
ご覧頂き有難うございます。
仕事、プライベートで更新は不定期ですが、完結まで書ききるつもりです。
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