種
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11年近く前……
当時の俺はまだ、7歳で妹のクリアはまだ5歳だった。
そんなスノー家の俺と妹の師として……
巫女という資格を持つミルザという女性が雇われた。
スノー家として、いずれは、俺かクリアもその巫覡とて、その身を置くことになるはずだった。
だから、その資格を持っているミルザを師として、修行を積んだ。
だが、妹は……争いや暴力は嫌い……いつも読書、一人の時間を好んだ
ミルザはそんな神に仕える巫女としては、少し勇ましく、自信過剰で自分に正直に我侭な性格で……どこか巫女に相応しくないようで……それでも俺はそんな彼女の背中を……そんな器になりたいと思った。
そして、ミルザは……実際にそんな巫女に選ばれ……
この世界を創りその姿を消したとされる神の代わりの神の子は、
彼女に託された。
嬉しそうにそんな神の子の手を握り、嬉しそうに母の顔をする巫女。
きょとんとそれでも、仲良く手を繋ぐ少女……
外見はクリアと同じ5歳くらいだろうか。
神聖教会……
いずれ、俺やクリアもその場に仕える事になるのだろう。
そんな場所で巫女に選ばれた彼女は……
神の子の親として……
その子が神として相応しい白く輝く翼をはやし、世界を導く神となる日まで彼女を見守るはずだった。
だけど……
「災いの子だ……」
そんな神の子の背中から生えたのは、真っ黒な不吉な翼だった。
「……待って下さい、羽が黒いだけ……それだけでっ」
災いの子……それは容赦なく殺す。
それが、かつてから決められていた……教会の掟。
それでも……
誰か男とまともに恋をしたことはなかった。
それでも……この子の母であろうと思った。
「それが……たった翼が黒いというだけでっ!!」
必死にその掟に抗う。
「こっちに来いっ」
そんなミルザの言葉も聞かず、神聖教会に仕える聖者の一人は乱暴にミルザから神の子を奪い、二人を引き離す。
「リーヴァ……リーヴァっ!!」
そう、ミルザが右手を神の子へ伸ばすが……
複数の聖者がミルザの身体を取り押さえる。
「お……かあ……さん?」
神の子は……無表情に右手を伸ばす。
ミルザを押さえつけている一人の聖者にそのてのひらを向ける。
パンッと弾け飛ぶようにその身体が消滅する。
「お母さんを……苛めないで」
リーヴァと呼ばれた少女は呟くように周囲へ告げる。
戸惑いながらも、ミルザを押さえつけている他の聖者の元に……
順番にそのてのひらが向かう。
そして同様に、その身体が弾け飛んでいく。
「悪魔……悪魔の子だ」
そう、当時、神聖教会を束ねていた男は吐き捨てる。
「……ミルザ……巫女の名のもとに命じる……その災いの元を殺せっ」
所詮は子供……その力の前でも……
母の前では……
「リーヴァ……」
ミルザはその娘の身体を抱きかかえ……
「大丈夫……大丈夫だからね……」
優しく、娘に言葉を投げかける。
「……運命なんて……関係ない……」
ミルザはその娘の手を取ると……
神聖教会に背を向けて……
ただ、許されるだけ遠く……遠くに……
その手を握り……世界の果てを目指して走り去る。
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訳もわからず……神聖教会に呼ばれた。
師……一人の巫女の裏切りの話を聞かされ、
そんな……理解の追いつかない中で……
次期、巫覡として……
俺とクリアはその場に呼ばれたが……
その事はクリアに告げず、
俺、一人がその場に立っている。
母も……その事を知らない。
彼女も妹も……俺が守ろうと思った。
子供のくせに……行き過ぎた真似なのは承知だ。
「……災いの子……黒き翼の彼女は処分しなければならない……そんな掟に逆らい、巫女の使命を放棄した……新たな巫覡として、ミルザを追い……追い詰め……」
「……そして、ミルザを殺せっ!」
衝撃的に突きつけられる言葉に……
目を瞑り……深く……深く思考を巡らせる。
そんな言葉を告げられてから……何秒後、いや何分後だろうか……
「……はい……」
そんな二つ返事に、ゆっくりと光の無い瞳で男を見上げ……
多分……これからのことも……
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多分……今日までのことも……
全部……全部……彼女と俺の計画通りなんだ。
均衡している……
神氷化の魔力を開放し……
そんな彼女の天性的に持ち合わせた運動神経と……
そんな組み合わせの中で繰り出される、拳も蹴りも……
クロノが繰り出す拳も蹴りも……
互いの攻撃が詳細するように拳と蹴りが衝突しあう。
「……ならばっ!!」
アストリアの手のひらに魔力が集結するように、
青白く輝く魔槍が創造される。
クロノを目掛けその魔槍が飛ぶが……
左脇に抱えていた、漆黒の弓を右手に握ると……
精製される漆黒の矢をその魔槍めがけ放つ。
互いの魔力が相殺されるように眩い光の爆発のようなものが起こる。
「何が……目的なの……」
マシロがクロノを見て言う。
「兄が妹を心配しているだけ……意味など無いさ……」
そして、寂しそうに母に瞳だけを向ける。
「……裏切り者が今更、家族に何のようだよってっ!!」
ディアスが持つ鉄の棒に天から落ちる雷撃が集まると……
その雷撃の魔力を振るい、クロノへ飛ばす。
「……死ぬまで……俺にこの魔力が戻らなければどれだけ幸せだったか……」
クロノはその電撃を再び弓を左わきに抱え、自由になった右手を目の前に伸ばすと……その電撃を握りつぶすように無力化する。
「彼女と……共に……全てを捨てて……犠牲を作り出した……俺が裏切り者として……生涯……死を迎えるつもりだったんだけどさ……」
ゆっくりと……電撃を消滅させたてのひらを開く。
「何を言ってるかわかんねーぞって!!」
ディアスが電流を帯びた警棒をクロノの頭部を狙い振り回す。
クロノは右手……の人差し指を伸ばす。
その人差し指にディアスの振り回した警棒は食い止められるように……
「……邪魔……するなよ」
寂しそうに……そんなクロノの言葉は誰に言っているのだろうか。
「……神の子……災いの子……そんな定めからリーヴァを救うために……彼女が懸命に蒔いた種なんだよ……ただ、それを花咲くことを望んでいただけなんだよっ」
「ぐっ……」
クロノがディアスに向けた右のてのひらから衝撃波のようなものが飛び……
スノー邸の外壁に吹き飛ばされる。
「……邪魔さえ無ければ……神代理の犠牲さえあれば……リーヴァはただ……今も……ただ、平穏を……そんな学園でただのクラスメイトで居られたんだよっ!!」
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それを……断ち切ってしまった……
世界は表裏一体……
誰かを救った……問題を解決した……
そんな俺の自惚れは……
新たな犠牲と新たな問題を引き起こす……
俺は……そんな全てを……
今度こそ……全部、全部……
守ってやることはできるのだろうか……
今も……最初の彼女の言葉が嘘、偽りだとは思わないんだ……
「レス……レスさんっ!!」
必死に、自分の存在を知らせるように、その扉をたたき続けるクリア……
フィーリアを破り……そんな……
彼女の存在を正体を……暴いてしまったというのなら……
見知らぬ彼女と兄が蒔いた種を……台無しにしてしまったというのなら……
「せめて……俺が蒔いた種くらいは……咲かせて見せるよ」
俺は呟くように……扉に向かって言う。
「……皆で卒業しよう……クリア……お前も……あいつも……俺が守ってやる」
覚悟を決める。
神に、世界に……干渉するなど……俺ごときにできる事じゃない……
それでも……
「せめて、守ってみせるよ……だから立派に咲いてくれ……」
複雑に絡み合った世界線に……そんな自分の浅さかな考えと願いに……
寂しく笑い……
「……この異世界で……いまの俺が在るのはお前のおかげ……なんだ……」
俺は……異世界の日々を思い返すように……
そう、記憶の中のクラスメイトに告げる。
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