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スノー

 「なに、どういうことですか……ライゼスっ私をここから出してっ!」


 クリアが自分の部屋に閉じ込められると、閉ざされたドアの裏側からドアの外の男に向かい叫ぶ。


 おそらく、スノー家に働く能力者の一人だろう。

 ドアに特殊なロックがかけられ、その能力者が能力を解かない限りはその扉は開かない。

 ご丁寧に周囲の窓までロックされていて、魔力によりそれらの強度上がっている。


 「事が終わるまでそこでおとなしくしていてください……」


 ライゼスが、クリアに告げドアの前に最低限の部下を配置すると、

 前衛部隊を配置する門の入り口を目指す。



 ・ ・ ・



 スノー邸からアクア邸を目指す。


 先ほどのナキとの会話が頭の中でぐるぐると繰り返されるが……

 アクア邸間際の通路に立っていただれかに……その名を呼ぼうとした瞬間……



 「誰だっ」


 呼ぼうとした名前がそう変換される。


 真っ黒なマント、スカーフにその頭までを隠し、顔には真っ白な面に赤い線だけで描かれるキツネ面をつけた何者かが立っている。


 「後に神域魔力呼ばれる力を持つ少年……そしてそんな力を受け継ぐ神代理……そんな彼、彼女たちを利用して……召喚した者……そんな中で……うん、やはり貴方が一番面白い」


 目の前の誰かは見えない仮面の裏側で笑う。



 「誰だ……って聞いている」


 俺はどこか焦るような声で再度繰り返す。

 もしも……先ほど、ナキが言っていた黒幕というものが居たとして……

 その能力ちからへの恐怖はある……


 それ以上に……恐れることがあるとしたら……黒幕の……



 「誰だっ!!」


 力強く繰り返すが……


 「あははははっ……」


 キツネ面の誰かは高く笑い……


 「見えない……ふりをするのが上手ですね」


 本当は気づいているのだろ……と。

 それでも演技を続けるように、言葉遣いを使い分けるように……



 「私……僕……俺? も、あなたの英雄ヒロインになりたかった……って、まだ放棄したつもりはないのですけど」


 「レスっ……伏せろっ!!」


 いつの間にか、キツネ面のはるか後ろに立っていたスコールが、

 上空に武器を創り出すと、それをキツネ面めがけ飛ばす。


 「あれぇ……私、僕、俺は……敵ですかぁ?」


 飛び交う武器を仮面越しに見ながら……

 両手をそんな空に向けて両手のてのひらで指鉄砲を作る。


 それをくいっと右手の銃口ひとさしゆびを右に

 左手の銃口ひとさしゆびを左に向けると……


 それらの攻撃が全てキツネ面を反れて落ちていく。


 「まぁ……あなたが、私、僕、俺の正体に気づかないふりをするのなら……それに付き合うよ」


 「さて……そんな最終章の前に……」


 ゆっくりと……それを感知するように……

 体をそちらに向ける。



 「なるほど……何者かは知らぬが……これまた厄介な奴が現れたようだな」


 不意に上空から現れたアストリアが振り下ろした一撃を右手で押さえつける。



 「レス……あやつは……」


 不安そうに声をあげるレインに……



 そんなレインの声に目を瞑る。

 その可能性を否定する。


 「レス……レイン、アストリア……伏せろっ」


 再び、上空でスコールの創り出した武器がキツネ面に向かい降り注ぐ。


 アストリアがその場を離れるように後ろに飛ぶ。



 キツネ面は自由になった右手の中指と親指をこすり合わせるように、パチンと鳴らすと、上空に飛ぶスコールの創り出した武器が停止している。


 「飛べっ!!」


 アストリアが自分の目の前に突き出した右手から魔槍が創り出される。

 それが、キツネ面に向かい一気に飛ぶ。


 キツネ面はいつの間にか手にしていた折りたたみ式のナイフを正面に突き出す。

 魔槍がそのナイフの先に触れると、互いの力が均衡するように、停止している。



 「……あなたがここに来たのは、私、僕、俺をぶちのめすためなのですか?」


 再び左手で中指と親指をこすり合わせて音を鳴らすと、上空でスコールの武器が爆発していく。


 「……く……」


 アストリアが本来の目的を思い出すように……


 「レス……お嬢が……スノー邸に戻ってほしい」


 アストリアにそう告げられる。



 「いいですよ……私、僕、俺は……邪魔をする気はない……」


 キツネ面はそれらの攻撃を無効化にすると……

 両手を上空に上げて降参のポーズを取る。 



 おそらく……その言葉に嘘はない……


 この場で、俺たちを排除しようと思っていないのだろう。



 「スコール……レインを連れて家に戻っていてくれ」


 俺はレインをスコールに預け、アストリアと共に来た道を引き返す。



 「……さてさて……どうなりますかね……」


 一人その場に取り残されたキツネ面は、そんな俺たちの後ろ姿を見ながら呟くように言う。




 ・  ・  ・




 「うん……懐かしいな……クリアは元気かな」


 黒い髪の男は……スノー邸を眺めながら、ゆっくりと歩く。



 「……邪魔だよ」


 まるで居ないように見ないようにしていた……

 スノー邸の門の前に立つ数百にも及ぶ部隊を前に臆することもなく男は眠そうな目を向ける。



 … … …


 あっという間に……決着はつく。

 近衛兵と言われる、ライゼスもマーティスも成すすべなく、その場に膝をついている。



 「相変わらず……でも……」


 ゆっくりと新たな人影が現れる。


 「……ここまでだぞ……って」


 オレンジ色の髪、サングラスをかけた男、右手には警防のような武器を手にしている。



 「……神聖教会かみのとこの奴か……」


 現れたディアスを前に……



 「前は……君の力と神の前に遅れをとったけどさ……」


 ゆっくりと瞳をディアスに向けて……


 「でも……今はその神もその神域魔力ちからも弱まってるんだろ?」


 ゆっくりと黒い弓を構える。



 「なめるなよって……」


 警防を通じ、体中に電流を巡らせる。



 「ん……」


 しかし、そんな黒髪の男はディアスの後ろに居る女に注意を奪われる。



 「マシロ様は出てくるなって……」


 神の使いである前に、スノー邸で雇われる傭兵であった……

 ディアスは、その主の出現に動揺するように言う。



 「あなたが今更……なぜ、ここに?」


 構わずマシロは、男に言う。



 「……別に、気まぐれだよ……ねぇ、クリアは元気?」


 疲れた顔で無理やり笑顔を作るようにマシロに尋ねる。



 「……あの子の事は、あなたには関係ありません」


 強気にマシロはその答えを閉ざす。



 「……そっか……黒に染まった俺には、興味なしか……」


 寂しそうに男は笑い……



 「……邪魔だよ」


 そして、寂しそうにマシロとディアスに告げるように……

 黒い弓を構える。



 「なんのつもりだって……」


 そんなディアスの言葉に……



 「せめて……顔くらいみたいさ……拒絶されてもね……いいだろ、俺だってさ……《《家族》》だったんだからさ……」


 疲れ果てた顔で無理やり笑顔を作るように……

 だから……



 「邪魔をするな……」


 そんな素早い一撃……反応できなかったように……

 ディアスの頬を矢が掠めるように通り過ぎ、

 その一撃が……マシロの心臓の……



 前で結界に伏せがるように消滅する。




 眠そうな瞳を後ろに向けるように男が振り返る。



 「邪魔する奴……今度は誰だよ……」


 現れた俺の姿を迷惑そうに男が見る。



 「レス……クリアのクラスメイト……親友だ」


 取り合えず名乗っておく。



 「そっかぁ……良かった、友達が出来たのか」


 男は少し嬉しそうに顔を緩ませた後……


 「でも……男か……クリアに限って恋愛感情を持つなんてことはないだろうけど……心配だなぁ」


 ゆっくりと男は俺を見渡す。



 「おっと……俺はね……今じゃ災いの黒い雪なんて呼ばれてるんだけど……」


 そんな前置きを置きながら自己紹介を始める。



 「……クロノ……クロノ=スノー」


 疲れた瞳を俺に向ける。


 「クリアの……兄だよ」


 そんな家族……その家系内で何があればこんな状況になるのか……



 「さて……そんな俺の……君は敵かい?」


 そんな俺に向けられた瞳に写る俺の姿を横切る影……



 「無論……あんたをお嬢に合わせたりしないっ」


 アストリアが先ほど同様にその拳をクロノに振り下ろす。



 「なるほど……」


 ゆっくりとクロノの瞳はディアス、アストリア、俺の順に動かす。



 「レス君と言ったな……」


 そして、俺を見た瞳はそのまま俺に固定するように。



 「クリアを友と呼んでくれたね……だからこそ、君に頼みたい……運命を選べなかった俺はね……こうして、黒に染まった……所詮は裏切り者なんだけどさ……」


 疲れた瞳で無理やり笑顔を作りながら……


 「それでも……クリアには、俺の後を追わせない……彼女も……妹も守る……そうするには、俺は余りにも不器用過ぎたのだけど……それがこの黒く染まる結果だったのだけど……」


 そんな寂しそうにクロノは笑い……


 「俺はどうなっても構わない……俺が招いた結果だ……それでも……彼女もクリアも守りたいんだ……手伝ってくれないか……レス君」


 そんな、出会ったばかりに助けを請うように、ただ寂しそうにクロノは笑った。

ご覧頂きありがとうございます。


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