覚醒(2)
「……正直、あいつの贔屓する全力の君には勝てる気がしなかったけどね……悪戯に力を消耗している、今のフィーリア、君になら勝つことができそうだよ」
灰色の髪……エリードと呼ばれた男が、部屋の中に入ってくる。
神の支配下……その神域の恩恵化にあったルーセウスも、当初よりも力が落ちているようだ。
キリングは、水晶を破壊してしまった今、完全に無力化にある。
今、この場で……神とその忠実な配下、そして……急に現れた邪神を名乗る男。
それに対抗できるのは俺とライトだけ……
「僕がさ……救ってあげるって言ってるんだよ……フィーリアちゃん」
エリードが見下すような笑みをフィーリアに向ける。
「あなたが……その呼び方をしないでくださいっ」
「感情的になるなよ……神だろ?何事にも平然に平等に世界を見なよ」
神域魔力……そう呼ばれる魔力の所為で、フィーリアもエリードも何年の月日が立った今も、お互いにあの日の姿のまま……
「フィーリア様には指一本触れさせないっ」
フィーリアに歩み寄るエリードの前に瞬時にルーセウスが間に入る。
突き出したサーベルの剣先がエリードの目先で止まる。
「邪神の前だ……道を開けろっ」
見えない力にルーセウスの身体が吹き飛ばされる。
「フィーリア……わるかったよ、反省しているんだ……君をこんな異世界に呼んで、神なんて名乗らせ……まさか、本当にそんな存在になっちゃうなんてさ……」
「……だから、僕が……終わらせてあげるよ」
そう殺意のある目をフィーリアに向ける。
「……で、なんのつもりだ」
そこでようやく、エリードはだるそうに俺に目を向ける。
そして、フィーリアの前にはった結界に手を当てると、簡単にそれを破壊する。
「……っ」
結界が破壊され……魔力の消費が、ダメージのように身体に負荷がかかる。
「……理解できてねぇなら……言ってやるけど、俺と神様との勝負だ……邪神がでしゃばるなよって話だ」
「……勝負として成立してねぇだろ……僕がそんなてめぇらに変わって……終わらせてやるって言ってるんだよ?」
「たのんでねぇーよ」
おれは、冷たくエリードを見るが、男はさらに冷たい瞳で俺を見る。
「……まぁ、お前の都合なんて関係ないけど」
真っ黒な魔方陣のようなものが俺の真下に描かれる。
黒い瘴気のような触手が俺にまとわりつくと……
その場で動けなくなる。
エリードはつまらなそうに鼻から息を吐き出し、
立ちひざをついたまま、拘束されている俺の方へと進行方向を変える。
「まったく……いきがるならさ……もう少し楽しませろよ」
振り上げた足で俺の左の頬を強く蹴り飛ばす。
「貴様ぁーーーーっ」
ライトが荒々しく声を上げ、手にした刃を振り下ろす。
が、やはり刃は、エリードの直前で止まる。
ルーセウスと同様にそのライトの身体は見えない力に弾き飛ばされる。
「まぁ……いいや、フィーリア……その地位も力も……僕が貰ってあげる……はれて君はただの女の子だ……」
「だーかーらーさぁ」
ご丁寧に俺の結界を破壊してから、いらいらするように俺の方を向く。
「いちいち、邪魔するなよゴミ虫ごときがさぁ」
拘束される右腕を必死に振り上げて、せめての抵抗をする。
再び、エリードの右足に蹴り飛ばされる。
「まったくさぁ……死んでみる?」
地面に倒れ……さらに拘束される俺の頭にエリードは靴底を載せ、
自らの身体で俺の一部を固定する。
「あ……が……」
不意に……かつてない痛みと苦しみが身体を襲う。
魔方陣から流れる瘴気が俺の口から身体の中に入り込むように……
「この世の憎しみを魔力とし……神域となった魔力……まぁ、猛毒のようなもんだけどね……どうだい、そんな魔力に身体の中を犯される気分は」
「レス……貴様ぁ」
「黙って……見てろ」
怒り狂うように、身体を奮い立たせるライトにも目も向けず、
足底をつける俺を見下ろしながら、右手をライトに向け、
再び見えない力がライトを壁へと拘束するように弾き飛ばされる。
神の魔力……
かつて、フィーリアとエリードにそんな魔力を与えた人間が居た……
そんな力を前に……何の抵抗もできなくて……
そんな自分を不甲斐なく感じる事も……そんな境遇に後悔することも……
そんな思考すらできなくて……
ただ、苦しみと……強い憎悪のような感情に身体を犯されて……
視界がゆっくりと暗くなっていく。
・
・
・
真っ白な世界……
目を覚ますと、真っ白な部屋にただ……一人立っている。
神聖教会……部屋の全てがこんな風に真っ白な空間だったが……
それでも、違和感を覚えながら……
かすかな何かの気配を辿るように歩く。
一人、黙々と真下の盤の駒を動かす……白に近い赤茶色の髪の男……
「うーーん、どうして勝てないのかなぁ」
一人、何百時間、何千時間……記憶にある誰かと永遠と対決を続けていた……何故かそう思わせる男があぐらをくずし、右ひざを立て王者のような構えで、遊戯を続けている。
「ここで、彼女はこの駒をここに動かす……だから、僕は……」
ぶつぶつと喋る男の前に俺は立つ。
「だから……ここで……」
そんな目の前の俺を見ず、男はずっと盤を見つめたまま……
「いくら考えてもさぁ……全く勝てないんだよ」
「ねぇ……君ならここで……どう動く?」
そこで、ようやく目の前の男はエメラルド色の瞳を俺に向ける。
「ここは……?」
「さぁ……神域魔力が……こんなものだったとするのなら……君はそんな不幸に巻き込まれたんじゃないのかな」
「……それで、なんで……不幸に彼女を巻き込んだ?」
知りもしない……彼女と彼の物語を知ったように俺は質問する。
「僕はね……勝利に貪欲なんだ……対戦相手なんていない……ずっと一人で居たからね……だから、勝つためならなんだってするよ」
「それが、こんな異世界に呼ばれた……そんな不幸と関わってしまった彼女への償いだ……それが、今日まで……彼女を苦しめていたとしても……僕は、それでも最後まで彼女を勝者へ導く……それが君たちを不幸にしてでも……」
そして、再び彼の王将は、記憶の彼女に敗れる。
「ねぇ……君がここに迷い込んだのも何かの縁なのかな……握手をしようか」
そう半ば強引に手を握られる。
「安心しなよ……別に神域魔力を利用したからと、君が本当に神になるわけではない……君も君にも助けたいものがあるのだろう……お互いの欲望のために……いま少しだけでも共闘をしようかって話だよ」
そんな男のエメラルド色の瞳に吸い込まれるように現実へ戻る。
「……たく、死んだ?うざい奴?」
エリードは靴底を一度、持ち上げてから再び振り下ろすように俺の頭を踏みつける。
「……っ!?」
そんな右足の足首を俺の右手が掴む。
そして、俺の髪が神域魔力にあてられるようにエメラルド色に変色していく……
「なんだ……?」
俺はその右足を自分の頭からどかすと、ゆっくりと立ち上がる。
「なんだ……お前は……気持ちわりぃんだよっ」
エリードは俺に少し恐怖を覚えるように瞳を向ける。
空間が歪む、見えない力が俺に向かい襲いかかるが……
それは俺の寸前で止まる。
「な……」
エリードは目を見開くように俺を見る。
「……平伏せ……少しはその視点から世界を見てみろよ」
俺はエリードに右手を向ける。
「っ!?」
頭上から振り下ろした俺の結界の壁が、エリードを地面へと叩きつける。
「なんだ……なんで、お前が……そんな力を……」
「……約束したつもりはないんだけどさ……ちょっとだけ共闘だ……」
俺は俺の結界で地面に平伏す男を見下ろしながら言う。
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