神戦(3)
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見せしめのように戦場の真ん中に立たされている。
こんな異世界に呼ばれて、魔力にあてられて……
多少の魔力は得たのかもしれない。
それでも……偽りを本物にする救世主ではない……
「神域……障壁……」
いつの間にか私の後ろに立っていたセシルはゆっくりと、
この戦場のこちら側の舞台を一人で壊滅させる力を持つ武人に、
手のひらを向ける。
見えない壁……そんな領域に……その戦況を支配してきた右手が止まる。
「神の前だよ……重力化……」
そんな武人を冷たくセシルの瞳が見つめると……
そんな武人のこれまでの功績など、なかったように、
その両膝を地面につける。
震えている……たとえ、実際にそれを成しているのが自分では無いとはいえ……
実際の目の前の命のやり取りに……
そして、そんな絶対的な力を駆使する友人の姿に……
知っている……そんな絶対なる力はその寿命の元で成り立っている。
そして、そんな犠牲の中で……
容赦なく、目の前の武人はセシルの力の前に狩られ、そしてそんな彼の魔力の一部へと変わる。
そんな犠牲は犠牲を得て……連鎖を続ける。
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「その力をよこせ……」
そんな能力の犠牲……それには限界がある。
その余命がどれだけ残っているのかは知らない。
エリードはそんなセシルの力を受け継ごうと……
彼の寿命と引き換えに得た力を……
受け継ごうと、そんな彼の犠牲で得た魔力をただそんな神器、ひとつで奪い取ろうと……
「僕の能力は……神のものだ……僕が成した手柄は全部彼女のものだよ」
その能力を駆使した犠牲に苦しむセシルに、その家宝のナイフを突きつけながら……エリードはその言葉を聴いている。
「この能力を……手柄を手に入れるのは……」
そんな短剣を突きつけるエリードを他所に私を見る。
「でもね……いいよ、全部はやれない……それでも、民が神に信仰するには……悪が必要だ……民が絶望するだけの悪が必要だ……それくらいの、邪神を名乗るくらいの力を貴方、お前に渡してあげるよ……」
そう、セシルがエリードに目線を送る。
「どうせ、エリード、君には僕の力を全部受け入れることなどできない……」
セシルはゆっくりと目を閉じる。
盤面を記憶することは得意だ。
勝者は神だ……
そんな彼女と幾度も遊戯をしてきた……
そんな犠牲の元で……何度も彼女に勝利を譲ってきた。
そんな彼女を勝利に導くことは誰よりも長けている。
何度もひっくり返した盤の中で……
彼女が勝利する映像だけを映し出す。
突き刺さる、短剣を通じて……
エリードにそんなセシルの持つ魔力の一部が流れ込んでいく。
自分を利用し続けた……そんな男も……
セシルの犠牲の駒に過ぎない。
「……最後だね……ねぇ、フィーリアちゃん……一局お願いできるかな……」
いつものように、セシルは王者のような座り方で、
盤の駒を並べていく。
今の私に……その最後の意味はわからない……
「……こんなつまらない僕と……こうして、一生遊戯を続けることは、多分……君にとっては不幸なのだろう……そんな僕の幸福は君には不幸で……」
「だからこそ……そんな不幸には終わりがあるべきだ……」
そんなセシルの言葉に……
「そんな不幸は……幸福だった……そんな、不幸を知れるのは……そんな不幸を失った後……どうして、それを不幸だと言うの……そんな不幸が不幸なんて……なぜ決め付けるの……」
そんな私の返しに……彼は寂しく笑い……
「不正は無し……決着をつけようか……」
そうセシルは最初の一手を駒を進める。
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「これほどの屈辱はない……それでも、レス……貴様に託す」
キリングはそんな言葉と共に、託された魔力を自分の右手に集める。
それを、敵に向ける訳でもなく、
何かに合図するように、そんな神の神殿の天井を突き破るように、
せっかくの魔力を無駄に頭上に投げつける。
そんな魔力は花火のように打ちあがり……
その意味することは、神代理にも理解できない。
そんな神を出し抜くための作戦。
俺の出した作戦に乗っかるようにキリングがそれを成す。
王国、ギルド……
そんな遊戯の中で、その遊戯に参加する水晶を防衛するように立つそれぞれの兵は、その合図を目視する。
そして、必死に防衛を続けていた、そんな水晶にそれを破壊するための、剣を水晶に突きつける。
そんな水晶の消滅と共に、キリングがその能力、魔力を失う。
同時に、ライトと俺を拘束している魔力が弱まる。
「なるほど……それが、私に対抗するための犠牲というわけですか……」
フィーリアは自分の弱まる魔力に関心するように言う。
「所詮……私は代理に過ぎないのです……どうか、それを証明してください」
フィーリアは俺を通し誰かを見るように……
「そんな人生が……幸福だったと……そんな不幸を知るには遅すぎたのです……」
フィーリアはそんな自分に問いかけるように……
バンッとこの部屋を閉ざしていた扉が開かれ、
灰色の髪の男が現れる。
「エリード……」
フィーリアはその男の名を呼ぶ……
「決着をつけようか……フィーリア」
エリードと呼ばれた男は、フィーリアを見ながら……
水晶の欠落……
そんな神としての能力を失っている……
そんな……神代理、現れた邪神に……
そんな抵抗は……可能なのだろうか……
決着をつけよう……
終わらせよう……
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それは、幸福か不幸か……
そんな両方を失って初めてその真実に気がつく。
私は、そんな真っ白な部屋……
そんな一歩が、除雪されていないそんな地面に足半分を埋めるように……
「そんな……不幸が続いたとして……そんな、遊戯を……私が勝利するだけの退屈な毎日が続いたとして……」
私はそんな過去を振り返る。
「そんな不幸は……失くして初めて……その意味を理解するんだよ……」
私はそう悲しそうに笑い……
「だから……そんな幸福も不幸も……ただ平等であったと……」
記憶した盤の駒を進める。
彼に負ける不幸はそこにある……
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