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神戦(3)

 ・



 ・



 ・



 見せしめのように戦場の真ん中に立たされている。


 こんな異世界に呼ばれて、魔力にあてられて……

 多少の魔力は得たのかもしれない。


 それでも……偽りを本物にする救世主ちからではない……



 「神域……障壁……」


 いつの間にか私の後ろに立っていたセシルはゆっくりと、

 この戦場のこちら側の舞台を一人で壊滅させる力を持つ武人に、

 手のひらを向ける。



 見えない壁……そんな領域かべに……その戦況を支配してきた右手が止まる。



 「神の前だよ……重力化ひれふせ……」


 そんな武人を冷たくセシルの瞳が見つめると……

 そんな武人かれのこれまでの功績など、なかったように、

 その両膝を地面につける。



 震えている……たとえ、実際にそれを成しているのが自分では無いとはいえ……

 実際の目の前の命のやり取りに……



 そして、そんな絶対的な力を駆使する友人セシルの姿に……


 知っている……そんな絶対なる力はその寿命ぎせいの元で成り立っている。



 そして、そんな犠牲の中で……


 容赦なく、目の前の武人はセシルの力の前に狩られ、そしてそんな彼の魔力の一部へと変わる。


 そんな犠牲は犠牲を得て……連鎖を続ける。



 ・  ・  ・  



 「その力をよこせ……」


 そんな能力の犠牲……それには限界がある。


 その余命がどれだけ残っているのかは知らない。



 エリードはそんなセシルの力を受け継ごうと……


 彼の寿命ぎせいと引き換えに得た力を……


 受け継ごうと、そんな彼の犠牲で得た魔力をただそんな神器ふせい、ひとつで奪い取ろうと……



 「僕の能力は……かのじょのものだ……僕が成した手柄は全部彼女のものだよ」


 その能力を駆使した犠牲に苦しむセシルに、その家宝のナイフを突きつけながら……エリードはその言葉を聴いている。



 「この能力ちからを……手柄を手に入れるのは……」


 そんな短剣を突きつけるエリードを他所に私を見る。



 「でもね……いいよ、全部はやれない……それでも、民が神に信仰するには……悪が必要だ……民が絶望するだけの悪が必要だ……それくらいの、邪神を名乗るくらいの力を貴方エリード、お前に渡してあげるよ……」


 そう、セシルがエリードに目線を送る。



 「どうせ、エリード、君には僕の力を全部受け入れることなどできない……」


 セシルはゆっくりと目を閉じる。


 盤面を記憶することは得意だ。



 勝者はかのじょだ……


 そんな彼女と幾度も遊戯しょうぶをしてきた……



 そんな犠牲の元で……何度も彼女に勝利を譲ってきた。



 そんな彼女を勝利に導くことは誰よりも長けている。



 何度もひっくり返した盤の中で……


 彼女が勝利する映像ビジョンだけを映し出す。



 突き刺さる、短剣を通じて……

 エリードにそんなセシルの持つ魔力の一部が流れ込んでいく。



 自分を利用し続けた……そんなエリードも……


 セシルの犠牲の駒に過ぎない。



 「……最後だね……ねぇ、フィーリアちゃん……一局お願いできるかな……」


 いつものように、セシルは王者のような座り方で、

 盤の駒を並べていく。


 今の私に……その最後ことばの意味はわからない……



 「……こんなつまらない僕と……こうして、一生遊戯を続けることは、多分……君にとっては不幸なのだろう……そんな僕の幸福は君には不幸で……」


 「だからこそ……そんな不幸には終わりがあるべきだ……」


 そんなセシルの言葉に……



 「そんな不幸は……幸福だった……そんな、不幸こうかいを知れるのは……そんな不幸こうふくを失った後……どうして、それを不幸だと言うの……そんな不幸じかん不幸そうだったなんて……なぜ決め付けるの……」


 そんな私の返しに……彼は寂しく笑い……



 「不正は無し……決着をつけようか……」


 そうセシルは最初の一手を駒を進める。




 ・


 ・


 ・



 「これほどの屈辱はない……それでも、レス……貴様に託す」


 キリングはそんな言葉と共に、託された魔力を自分の右手に集める。

 それを、敵に向ける訳でもなく、

 何かに合図するように、そんな神の神殿の天井を突き破るように、


 せっかくの魔力を無駄に頭上に投げつける。



 そんな魔力は花火のように打ちあがり……




 その意味することは、神代理フィーリアにも理解できない。


 そんな神を出し抜くための作戦。


 俺の出した作戦に乗っかるようにキリングがそれを成す。




 王国、ギルド……


 そんな遊戯の中で、その遊戯に参加する水晶まりょくを防衛するように立つそれぞれの兵は、その合図を目視する。



 そして、必死に防衛を続けていた、そんな水晶にそれを破壊するための、剣を水晶に突きつける。




 そんな水晶の消滅と共に、キリングがその能力、魔力を失う。



 同時に、ライトと俺を拘束している魔力が弱まる。



 「なるほど……それが、私に対抗するための犠牲というわけですか……」


 フィーリアは自分の弱まる魔力に関心するように言う。



 「所詮……私は代理にせものに過ぎないのです……どうか、それを証明してください」


 フィーリアは俺を通し誰かを見るように……



 「そんな人生ふこうが……幸福だったと……そんな不幸じじつを知るには遅すぎたのです……」


 フィーリアはそんな自分に問いかけるように……



 バンッとこの部屋を閉ざしていた扉が開かれ、

 灰色の髪の男が現れる。



 「エリード……」


 フィーリアはその男の名を呼ぶ……



 「決着をつけようか……フィーリア」


 エリードと呼ばれた男は、フィーリアを見ながら……



 水晶の欠落……


 そんな神としての能力を失っている……



 そんな……神代理、現れた邪神に……


 そんな抵抗は……可能なのだろうか……



 決着をつけよう……


 終わらせよう……



 ・  ・  ・



 それは、幸福か不幸か……


 そんな両方を失って初めてその真実に気がつく。



 フィーリアは、そんな真っ白な部屋……


 そんな一歩が、除雪せいりされていないそんな地面に足半分を埋めるように……



 「そんな……不幸まいにちが続いたとして……そんな、遊戯を……私が勝利するだけの退屈な毎日が続いたとして……」


 私はそんな過去を振り返る。



 「そんな不幸こうふくは……失くして初めて……その意味を理解するんだよ……」


 フィーリアはそう悲しそうに笑い……



 「だから……そんな幸福も不幸も……ただ平等であったと……」


 記憶した盤の駒を進める。



 あなたに負ける不幸みらいはそこにある……




ご覧頂きありがとうございます。


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