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神戦(2)

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 ・


 ・



 何時もの様に都合のいいように、

 一時的に檻から出され、そしてようが済めば再びそんな鉄の檻の中へと戻される。


 欲しいのは異世界から来た奇妙しんぴ存在にんげん……

 そんな私がまるで、その力を駆使したかのように奇跡を起こす神域まりょく……


 もちろん、そんな魔力を私が所持する必要などなく、逆にそんな力を持たれれば、

 裏でそんな私たちを操る者としては、都合が悪いのだろう。



 「そんなに見つめられると、やりにくいんだけど……」


 そんな新しい日常のように、盤を挟んで私とセシルは互いに座っている。

 相変わらず、あぐらをくずした王者のような座り方で、少しだけ人を見下すような目で……



 「フィーリアちゃんが僕に恋でもしてくれたら、攻撃の手を緩めないかなって……」


 そんな、好きの感情ひとつ知らぬ男にわたしはため息をつく。



 「そんな、卑怯ズルして勝って楽しい?無駄だけど……ね」


 こんな場所でこんな状況で……



 「そっか~、残念……でもさ、そんなフィーリアちゃんを恋に落とすなんて、中々の努力なんじゃない?」


 「違う……どりょく卑怯ふせいと両立しない……」



 このおんなには敵わないと、謎に首を振り……



 「あ、それはそうと、フィーリアちゃん……一手、いや二手待って欲しいな」


 「いやっ……」


 勝手に駒を2手前に戻そうとする手を弾く。



 そんな不正を許さない……というように。

 それでも、二手前のコマの配置を正確にセシルは覚えている。


 ちょっと……うぬぼれた発言にはなるけど……


 多分、相手が悪い……

 相手が私でなければとっくにその努力は実り彼は勝者だ。




 ・  ・  ・



 その日……何戦目だろうか……


 私は連勝を……彼は連敗の記録を更新している。

 手加減ふせいを知らない私はただ容赦なく……


 開かれる、鉄の柵の音も聞こえないように……

 二人はその駒を見続けている。



 そして、そんな盤の駒を蹴飛ばす……



 「何してんの……お前ら?」


 白に近い灰色の髪の男。

 私たちと年齢の近そうな青年。


 「あんた……何様っ」


 「……大丈夫っ」


 ただのにんげん……この異世界ではもっとも無能に近い……

 そんな偽りの神……


 それでも、そんな自分に何ができるつもりなのか振りかざした右手を制御とめるようにセシルが叫ぶように言う。


 そして……したを見たまま……


 「大丈夫……覚えてるから……」


 散らばった駒をひとつひとつ掴み取って、駒を升目に一つくるわず戻していく。


 少しくらい自分優位に駒の配置を不正したところで、誰も気づかない……

 それでも、ひとつ、ひとつとただ、正確に元の形へ戻す。



 「だからさっ!」


 灰色の髪の青年は少し苛立つようにまたその盤を蹴っ飛ばす。

 黙って……そんな行為に耐えるセシルをよそに……


 パンッと私の平手が灰色の髪の男の頬を叩く。



 「へぇ……結構、威勢がいいねぇ」


 「……エリード、何のよう……僕に、用だったんだろ?」


 敵意が向きそうになった相手からその意識を自分へともどす。


 エリードと呼んだ灰色の髪の男をセシルは下を向いたまま、瞳だけを睨み付けるように向けている。



 「シンリュウ……退治だ、その魔力をお前のモノにする……その力をその女の力のように振舞えるようにな……」


 「聞く必要ない……そんな不正に犠牲になる必要なんて……ないじゃない」


 彼の力は知っている……その犠牲を理解している。

 エリードは余計な事を抜かすなと右手を振り上げる……


 「大丈夫だよ……」


 死ぬことは無いと……その右手の先を遮るようにセシルが立っている。



 「安心してよ……こんな事しなくても言う事きくからさ……蹴飛ばすのはそこの盤だけにしておけ……彼女それいがいのものを蹴飛ばしてみろ……」


 ゆっくりと瞳がエリードに向く。



 「……ただじゃおかないぞ」


 「……はぁ、強がるなよ……お前の能力はお前のためには使いにくい能力だろ……」


 そんなセシルの能力は自分の力に及ばないと言いたそうにエリードは睨み返す。



 「……彼女じぶんいがいのために……使えばいいのだろ?」


 「ちっ……能力を無駄に使うな……」


 エリードはセシルの言い分を受け入れるように、後ろを振り返ると一人先にこの牢獄のような部屋の外へと出る。



 「ばいばい、また後で勝負つづきをしよう……」


 セシルは頭だけを振り返らせて右手を私に振りながら、

 先ほどの怖い表情が嘘のように、子供のように無邪気に笑う。


 続き……再び私は盤に視線を落とす。

 最終の場面を思い返す。

 そして、駒をその配置に戻そうとする。


 ……でも、その手は一つも動かせない。

 ……動かす必要がない。


 盤は再び彼の手だけで再現されている。




 ・



 ・



 ・



 「魔力拘束ホールド……」


 神の重力まりょくに逆らいライトの身体が……

 違う能力で拘束される。

 懸命にその拘束を振りほどこうとするが、中々上手くいかないようだ。



 「魔力解除デスペル……」


 「くっ……」


 俺の右手の魔力も失われ……再び強い重力に引き付けられる……



 「悲しいですよね……こんな不正……偽り、偽者かみが絶大に振舞える異世界せかい……レスさん……あなたは現世あちらでそんな風に考えたことがありましたか?」


 「……悪いけど、俺はこれまで誰かの優位に立った経験がないんだよな」


 そんな俺の言葉に神代理はため息をつくように……



 「またそれ……自分は無能、不幸と……それを理由にすべてを放棄する……でも、そう悲しいですよね……そんな不正が成立して何もしない不幸であるべき人間だれか幸福けんいを持つのもまた事実……神なんて大それた存在になれば、人と平等な立場でなくなれば……もしかして、それらを正せると思ったのですが……」


 ゆっくりと、フィーリアが俺を見下ろす。



 「ねぇ……レスさん、現世にも、神は居たと思いますか?」


 そんな言葉に……ただ無言で答える。



 「私は……《《居たと思うんです》》」


 一瞬、その過去形の言葉に気づけなかった。



 「だって……不思議じゃありませんか……生命が誕生して……そんな生物の中でも人間優位に、時を得て、鉄の塊が映像を写して、鉄の塊が地面を走り回り、そして鉄の塊が空を飛ぶ……電波なんて都合のよいモノがあって、人の声まで運んでしまう……」


 「そんなものを可能にする物質を、あの世界に準備して、その知識を与えたそんざいが居たとは思えませんか……そうして、そんなそんざいもその世界を放棄するように消えてしまった……同じ人間のように寿命があったのか、どこか遠いどこかに消えてしまったのかは知りませんが……」



 当たり前のように存在するもの使っているもの……

 そんな世界は全部……誰かの作り物でした……


 フィーリアはまるでそんな風に言ってのける。



 「まぁ……気にしないでください、私には神様それくらいのものが居なきゃ説明りかいができないってだけです」


 そして、その意見をあっさりと仮説に戻す。



 「関係ないさっ!」


 再びライトがその場に立ち上がる。



 「相変わらず……この異世界の勇者というのは、規格外な存在ですね……」


 関心と呆れを両立させるようにフィーリアがライトを見て言う。



 ただ……いつだって彼女はこの戦いを終わらせることができる。


 その勝利けんりをいつでも手に入れられる。



 そんな……偽りで得た彼女の神代理しょうごうはそんな不正の力を持っている。


 そんな、この異世界せかい能力ルールをいつでも破壊することができる。



 「尊敬します……なぜ、あなたはこの無謀、無駄ともいえるこの状況に希望どりょくがもてるのですか?」


 「だったなら……尊敬などに値しない、私はただ……それを今、この瞬間を無謀、無駄という瞬間にしないために……ただそれを否定するために努力を続けるだけだ……皆を導く……勇者きぼうになろうとしただけだ……だが、私はまだ未熟だ……そんな努力に誰かの救いを求めることが不正だというのなら……私は勇者として不合格なのだろう……それでも、そんな私を導いて欲しい……神ではなく、レス……君にだ」


 そう、ライトがフィーリアから視線を反らして俺を見る。



 「……存分に呆れるがいい……私はただ……勇者としてではなく、わたしとして……レスを欲しているだけの傲慢な人間だ」


 その神の領域の中で再び魔力の剣を作り出す。



 「愛……ですか……いいですね」


 フィーリアはそんな言葉を送る俺を見て……



 「《《それだけ》》は何を不正ぎせいにしてでも、手に入れるべきです……そんな不幸な助言をしておきましょうか」


 フィーリアは俺を通して誰かを見るように……残酷さびしそうに笑う。


ご覧頂きありがとうございます。


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今後の物語作りの参考にさせていただきますので、あわせてお願い致します。


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