駒
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「他人の魔力を喰らう……」
「自分の寿命を犠牲にその喰らった魔力を蓄える……」
小さな盤を挟み偽装神と彼が会話している。
実にこのゲームのチャンプを気取るような胡坐をかいてすわる右ひざだけをくずし、右ひざが自分のかおあたりにくるように立て右腕をそこに添えている。
しかし、勝敗はすでに12勝0敗……
その勝ち星の全部を私が奪っている。
「僕の魔力は……僕の寿命全部と引き換えに、神域……そんな領域に達すると言われている……そして、この国にはそんな魔力を奪い取る神器がある……」
「そして、この国はね……そんな僕の魔力と、フィーリアちゃんの救世主を使って、この国を支配したいのさ」
そんなセシルの言葉を他所に次々と盤に配置されたコマを私は容赦なく弾き飛ばしていく。
「あ……フィーリアちゃん、一手だけ待ってくれないかな……」
そう、セシルは勝手に私が弾いたコマを元に戻し、私のコマを元のマスに戻す。
「こんな場合はさ……フィーリアちゃんの言う、幸福と不幸……僕たちはどちらにあたって……僕にはどんな努力ができるのかな」
そして、セシルは別のコマを動かす。
そんな、コマひとつの一手で何も変わらない。
再び弾き飛ばされたコマを黙って見ている……
「別に私が言いたいのは……」
「努力しない人間が幸福になれないことを嘆くなという話……いくら不幸自慢したところで……だれもそいつのことを幸福などしない……
私はセシルの持つコマの王将を弾き飛ばし言う。
セシルは黙って盤をひっくり返すと、
コマの一つ一つを丁寧に元に戻す。
律儀に私のコマも配置していく。
「じゃぁさ……そんな誰かが不幸な人間を守りたいって思うことはあるのかな?」
こんな牢獄のような場所で……ずっと一人……
不幸を助けを叫んだ彼は……卑怯だったのか……
「その人を……助けたいというモノ好きが現れたら……」
「それは……どんな時……?」
「誰かを好きになったり……愛したり?」
そんな言葉にゆっくりと向けた彼の顔は寂しそうに笑い……
「どれも……僕にはわからない、感情だな」
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「神か……案外……つまらんものなんだな……」
キリングが黒い魔力を身にまとい一時的にその神域の中でかすかな自由を手にする。
「おや……神とはもっと圧倒的な力を持っているべきでしたか?」
そんなキリングにフィーリアは頭だけを後ろに向ける。
「いいや……人間なんかよりずっと人間みたいだと言っている」
「そうですか、そうですね……所詮は神代理ですから……」
ただ、それを名乗るだけの魔力と役割を与えられただけ……
「魔力消失……」
フィーリアがキリングに手をかざすと、その抵抗が消滅する。
「く……」
再び、その重力化に抵抗できずに膝をつく。
ルーセウスが俺の前にサーベルを突き出す。
その一撃を自由の利く右手だけを突き出し、張った結界で防ぐ。
「世界は表裏一体……誰かの受け売りだけどさ……世界には幸福な人間が居てそれに比例するだけ不幸を語る人間が居る……そういうことだろ」
「……表裏一体……そうですね……随分とそんな言葉も不幸に解釈するのですね……」
冷たいフィーリアの瞳が俺を見下ろす。
「例えば……不幸な人間はどんな人間を幸福と呼ぶのでしょう……お金や名声を得た人間でしょうか……さて、そんな不幸な人間が見ている幸福な人間はどんな犠牲を得てそんな幸福を得たのでしょうか?」
「世界は表裏一体……であるのなら、そんな彼らは、そんな不幸に甘んじた何かを捨ててそこに居るんじゃないですか?何かしらの苦痛を受け入れてそこに居るのではないでしょうか?」
冷たく、フィーリアは俺を見下ろして……
「幸福と不幸……それが表裏一体で成りえるのなら……幸福と不幸へと成りえるのではないでしょうか……所詮、善悪も幸福も不幸も……全て個々の都合に過ぎないのです」
「それが……神代理としての答えです」
「所詮、誰かの犠牲の元にそんな神代理を名乗っている愚かな人間の答えです……」
静かに、俺に一歩歩み寄る。
多分……その気になれば、決着はついている。
彼女にとってそんな俺達を弾くことなど簡単で……
そんな呆気ない勝利に呆れるように、見飽きたように……
盤をひっくり返しては、振り出しに戻す。
そんな俺達が、その遊戯に勝利することを望むように……
かつての誰かとのゲームに、自分が一敗することを望むように……
そして、そんな隣で……勇者に恥じぬように、再びその身体をその気力だけで奮い立たせる。
それは無駄な努力なのかもしれない……
それでも……
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初めてその姿を見たのは……
交流戦の一回戦……
時間凍結……そんな特殊な力を持つ能力者が居て……
でも、そんな能力に……脅威も興味も無い。
その瞳は、アストリアがやたらと評価する人間を見る。
特に目立った様子も無く……
そんな時間凍結に成すすべなく苦戦を強いている。
それでも、諦めずに試行錯誤している男に……
時間凍結……もちろんその能力中は誰もが停止化にある。
それでも、私の能力はそんな白黒の世界を……
時間凍結能力者だけが見ることを許される世界を見ている。
諦めずに抵抗する……思考している……
そして、そんな己の成果を放棄し、そんな仲間にそんな手柄を簡単に譲る男の姿を見る。
そこで、評価をした訳ではない……ただ、今まで感じた事ない興味が……彼に覚えた。
そして、誰もが見なかった、望まなかった……生徒会長に勝利をして……そんな冷酷に徹していた男の迷いを消し去って……
女の力を引き出して……やはり自分が目立つ事無く……
その男は……そんな結果にだけ満足するように笑う姿は私よりも英雄に見えた……
勇者……立場を守るために……
捨てた不幸は……
そんな……女を……彼の笑顔をただ……欲した……
そんな……捨てたはずの醜い自分はそこにあった。
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「そんな……私の我侭……それを手に入れることは醜いか……」
ライトはフィーリアにそう問う。
「その傲慢は……私にとって努力には成りえないのか……」
「だったら……それが、神に抗う……私の努力だ」
そう、ライトが魔力の剣をフィーリアへと向ける。
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