召喚
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「いって来ます……」
繭の少し上あたりきれいに揃えた前髪、
お尻の少し上あたりまである長さの後ろ髪。
真っ黒なその髪の少女は、学生服に身を包み、
その上に紺色の厚手のコートを着込み、
さらに、首元にはマフラーも巻いている。
手提げのスポーツバックのようなカバンに教科書や文房具を詰め込み、
カバンを左肩にかけるように持ち、
自分の太ももの三分の二が隠れるくらいのブーツを履く。
ドアを開け、外に出ると吐いた息が真っ白に上空に消えていく。
外に一歩踏み出すと、除雪のされていない、
真っ白な地面に、ブーツの半分が埋まる。
そんなちょっと都会よりの田舎町で……
学校へ向かうため、徒歩10分近くかかる駅へと向かう。
駅の目の前の無駄に大きな交差点。
そんな駅に向かうための横断歩道の信号が青に変わるのを待つため足を止める。
時間つぶしのように取り出す携帯電話。
今のように大きな液晶でいろいろと操作をするものではなく、
折りたたみ式の上半分が液晶で下半分がリモコンの様に操作するもの。
メールを確認し、中学時代の友人へとメールを返信する。
信号が青に変わり流れる音楽を聞いてから足を動かす。
そんないつもと変わらない一日だった。
周りには人も車も沢山ある。
なのに……どうして、不思議な感覚で……
雪で白銀世界だった。
それでも、なんだか世界が灰色に見えて……
空が大きな円を描くように切り抜かれたように……
そこから、輝く光が零れ落ちて、天使の羽のようなものが落ちてきて……
わたしの身体はその穴に優しく吸いあげるように……
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「儀式……なんの意味あんの?」
光り輝く五芒星……
白に近い灰色の髪。
16歳くらいの青年が目の前の魔方陣を見ている。
「召喚……別の世界から、能力者を呼びつける」
この儀式を仕切っている、その一国の王であろう男が返す。
「で……なんの意味あんの?」
繰り返すように青年がその言葉を口にする。
「この世界は……今、世界を手に入れようと、世界を統一しようとする国が者が……そんな世界を何分割して支配している……そして、日々その領土を広げようと争いを続けている……」
灰色の髪の少年は興味なさそうに、それでも瞳だけを王に向けて聞いている。
「で……(何の意味があんの?)」
繰り返すように一文字だけを口にする。
「いま……国を支配するために……民を束ねるために必要なもの……神となるような救世主となる存在……それは我々のような者は相応しくない……」
「……(で?)」
無言で……続きを尋ねる。
「それが、異世界から召喚された……存在だったのなら……その救世主は絶大だ」
その言葉と同時に儀式は成功するように魔方陣が光り輝き……
思わずその光をさえぎるためにかざした右手を光が止むと同時に下ろす。
学生服、厚手のコート……肩には鞄を下げている。
今の彼らに取っては不思議な格好をした少女が正座をくずしたような格好で座り込んでいる。
真っ黒だった髪は魔力にあてられて真っ白に変色していて……
「ここは……何が、どうなって……」
目の前の灰色の髪の男と同い年くらいの少女は、現状に戸惑いながらも、
それが、夢とかそんなオチではないことを把握する。
「フィーリア……君が神となる世界だ」
王は目の前の少女に告げる。
「フィーリア……誰?」
その名は誰の事か……自分に向けられた台詞に戸惑うように。
「この世界で、あなたが名乗る名前だ……救世主の名前だ」
平凡にただ……幸福も不幸も無縁に生きてきた……
そんな毎日を続けるつもりだった。
「いま……この世界に必要なのは、この世界を支配するだけの存在……そんな救世主に相応しいのは……未知なる存在、それこそが神として説得力のある存在だ」
「そんな存在を我々が裏から支配する」
王はそう、少女に告げる。
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灰色の髪の男が一つの部屋に踏み入れる。
バサリと長い黒髪の女性が漆黒の刀で聖者の一人を斬りつけている。
刀術……最強候補の愛娘を持つ母。
イロハはゆっくりと瞳を部屋に踏み入れたふたつの体に向ける。
「ギリアム……」
「御意……」
灰色の髪の男はその隣の男の名を呼ぶと、気にすることなくイロハの横を通り抜ける。
そんな事は許さないとイロハの黒い刃がその男の進行を遮るように刀を持つ腕を延ばす。
が、即座にイロハを斬りつけた一撃を防ぐためにその刃をギリアムが放った斬撃を受け止める。
灰色の髪の男は、歩むスピードを下げることなく、イロハの横を通り抜けると、
その奥の扉の先へと姿を消す。
右手には漆黒の刀……左手には鞘を手にしている。
イロハはゆっくりと同じ刀をてにする、神域の男を見る。
「神域魔力化……剣神……」
その一撃を、イロハは腹部でまともに受ける。
斬撃は衝撃に変換される。
身体を90度お辞儀するように曲げ、両足を地面につけたままイロハの身体が数メートル後退する。
「ぐっ……」
そんな激しい斬撃に零れる血を真っ白な地面に落とす。
「なるほど……それが神域……か」
納得するようにイロハは明らかなダメージを隠すように涼しい顔でギリアムを見る。
「私はさ……愛娘が誇れる母であるんだ……」
小鳥丸を右手で強く握りなおす。
そして、振りかざすその漆黒の刀を……
「剣神……裁けっ」
そんな神域の一撃は容赦なく漆黒の刀を弾き、弾かれた漆黒の刀はイロハの右手を離れ、後方の地面に突き刺さる。
そんな、漆黒の刀を得意げにギリアムの瞳が追う。
そんなギリアムの右の頬に衝撃が走る。
イロハの左手に持った鞘がギリアムの右の頬を強く叩きつける。
「抜刀……小鳥丸……」
後方に突き刺さった刀が瞬時に再びイロハの右手に納まる。
ギリアムの瞳がその漆黒の刀の一撃に備えるように目を向ける。
再びイロハの左手の鞘がギリアムの頬を殴り飛ばす。
「……なんだ、なんなんだ……」
こいつのデタラメな戦い方は……
イロハの瞳が左下に落ちる。
思わずギリアムの瞳がその瞳を追いそうになるが、
その視線操作に乗るわけにはいかない。
ほんの数秒でそれに気がつく。
が、イロハはそんな数秒の思考の隙すら許しなどしない。
漆黒の刃が、ギリアムの腹部を斬りつける。
斬撃は衝撃に変わる。
お辞儀するように、地面に両足をつけたまま数メートル後退するギリアムの身体。
口いっぱいの血を白い地面を染め上げながらも、イロハに向き直る。
「シラヌイ……究極刀技……」
そう言いながら、イロハは漆黒の刀を鞘へと納める。
ギリアムの瞳は、そんなイロハの動作に視界を奪われるように……
その刀が納まるのを見届ける。
「無刀閃光」
カチャリと鞘に収まる刀の音で我に返るように、その姿に目を向ける。
が……その姿を捉えることはできなくて……
激しい突風が突き抜けるように……
点にした瞳の目を見開くように……
その瞳に写ることのない姿は……
男の後ろで……再び抜いた漆黒の刀を45度上空の空に掲げている。
そして、男の身体は地面に叩き伏せられる。
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