リボン
あの日から……今日まで……
僕は……その日常を生きていたんだ……
だから、僕はそんな現実の中で……
そんな君の笑顔だけが僕を支えていたから……
「すぅ、はぁ、すぅ、はぁ」
慣れない似合わない兜に息苦しさを感じながら……
神域に足を踏み入れた経緯も……
だから……
どうか、どうか……《《もう一度》》……僕に期待して下さい。
だから……
そんな神の遊戯に再開に……感謝をしよう。
・・・
聖者の一人を斬り飛ばし、赤茶色の長い髪……知的な眼鏡、そして貧乳……
そんな何かの言葉を遮るかのように、クレイが何も無い空間を切り裂く。
そして、そんなクレイに迫っていた聖者の一人を……
「何をぼさっとしている」
ユーキ=クサナギは、同じようにその部屋に踏み込むと、
その聖者を斬り飛ばした。
そんな因縁のある二人……
そして……
自然と二人の目は、気配無く立つ、不自然に頭だけが重装備の人間に目がいく。
「あいたかった……あいたかった……」
クレイの方をみた兜の目線は……ユーキに移る。
あの日、あの時、あんたに出会って……
「抜刀……天叢雲剣……」
理由は知らないが、標的が自分であることを知る。
その兜の下が誰なのか……
ノウト……そんな仮の名前で……
そんなメモ書きのような、一時的に……
神域に辿り着くために……
儀手で天叢雲剣を素早く横に素振りをする。
足が輝くように、軽いステップで後ろに力をこめると、
その刀による一撃を回避する。
「神域魔力化……神速魔力……」
「っ!?」
その言葉と同時にユーキの前にノウトの姿がある。
そして、その姿を捉え姿を認識した時には、振り上げた足がユーキの側頭部をとらえている。
「なるほど……」
ユーキは蹴られた反対側に頭を傾け、衝撃を調整するように首の骨を鳴らしながらノウトを見る。
「っ!?」
直撃は避けた。
それでも、ユーキの一撃を斬撃の風圧だけでノウトの身体が軽く吹き飛ばされる。
「神域……だか知らないが、こちらも神器を扱ってるんだ……」
負けていないとユーキがノウトを睨むように見る。
ノウトは右足を地面から2、3cmくらい浮かぶくらいに膝を曲げ、
ついた左足だけの力でその場でぴょんぴょんと飛び跳ねる。
「……刀術、百蓮っ」
「……神域神足っ」
ユーキが百撃にも及ぶ素早い剣さばきをを、その刀の切れ味とスピードに匹敵するように、ノウトの右足がユーキの放つ刃の刀身を捕らる。
強くなりたかったんだ……
その期待に答えるように……
似たもの同士の二人は互いに互いを見ながら……
つば競り合いを続ける。
・
・
・
今よりも10年近くも遡る。
12歳くらいだったか……それくらいにその記憶は曖昧で……
歴代……長い歴史でその刀術を能力とする家計として、名を残してきた。
だが、そんな長い歴史の中で新たに名を残す名家に、
その名は……
滅んだその名を……今も誇り名乗るつもりなどない。
その名を失い、家族を失った俺はクサナギ……
その名に拾われた。
クサナギ、その名を引き継ぐため……
そんな自分よりも3つ年上の女性。
男として悔しくても、その跡取りとして、
名を失った弱者の自分よりもずっとその女は強くて……
「マキカ=クサナギ……宜しくね、ユーキ君」
そんな待ち受ける……俺がこの家計に引き取られた本当の意味など知らなくて……
美人……ってほどの相手じゃなかったが……
それでも、力を求めたユーキにとっては、
そんな強く誇り高い彼女はあまりにも魅力的に見えた。
それが……恋なのかは知らない。
そんな、決してもてるとは無縁な彼女は……
ただ、その名として、相応しく最強の刀術を名乗るため、
ただ、その強さを求めていた。
「えっ……これを私に?」
そんな、ユーキの行動に戸惑うように動揺するように、マキカは声をあげる。
「似合うかなって……」
手渡したのは一切れの布……彼女の長い髪を縛るためのリボン。
「なんで……?」
人を魅了する容姿もなくて、ただ……力だけを誇示するように生きてきた彼女には……
その行動が理解できないというように……
「尊敬……している、憧れているんだ……そんな、あんたを超えるのは、この俺だ……元の名を捨てでも、俺はあんたをいつか越える……そんなあんたを誰かに取られたくない……力を誇示し、誇りに生きる貴方が綺麗に見えた……だから……」
そんな理由にならない理由を話す。
それが……恋なのかはわからない……
それでも……多分、その時に……俺はそんな彼女の何かを壊していたのだろう。
「ユーキ君、女の私より綺麗な顔してるし……そういうのを求めるならさ、私なんかより見た目も、性格がかわいい子もいくらでもいるんじゃないの」
戸惑うように目線を反らしながらマキカが返す。
「俺が目指す最強……そこに居るのは……あんただけだ、そんなあんたは誰よりも魅力的に見えた……」
・ ・ ・
「ねぇ……ねぇ、似合うかな?」
剣術の修行を怠ることはない……
それでも、彼女は時に、
ユーキがプレゼントしたリボンで髪を縛っては周りの人間に意見を求めた。
そんな彼女が高みを目指して……
ユーキはそんな背中を追い、ただいつしか彼女を超える。
そんな関係が続くはずだった。
ユーキがこの家計に拾われた理由など結局そういうことだったのだろう。
マキカがその名としての使命を背負うため、
その相応しい最強となるために……
「……死合?」
そんな戸惑うマキカの言葉。
そんな今のクサナギの党首である父の言葉。
クサナギ家……その中で選ばれた一人と、
文字通り、命をやり取りする試合を行う。
この先、その名を最強と知らすために、
命を奪うことに躊躇は必要ない。
クサナギ家……もちろんそんな悪夢の対象となる人物などたくさん居る。
今となっては、それがその何百分の一なのか、最初から仕組まれていたのかはわからない。
「……ユーキ君?」
対峙している……二人はただ現実を受け止められないように。
それでも……誰がそれに相応しいのか……
最強は誰か……なるべきは誰か……
そんな答えははっきりしていて……
そんな真剣勝負に……
いいんだ……
本気で戦って……
負けたのなら……
例え、超えられなかったとして……
憧れたあんたに……
その刀で果てるのなら……
真剣勝負……
幾度も重ねた刃……
そのユーキの一撃はマキカの束ねた髪をかすめ……
縛り上げたリボンの横を切り裂き、
束ねた髪を開放し、役目を放棄したリボンは宙を舞い風に飛ばされるように……
「あっ……」
女など……そんな立場を捨てた……刀術最強となる女は……
そんな真剣勝負の最中、握っていた刀を投げ捨て、
自由になった右手でそんな布を右手で追う。
「よかった……」
そして、握ったリボンに満足する。
「なんで……」
そんなユーキの言葉に、満面の笑みを浮かべながら……
自分の身体を貫いている刀を気にさえせずに……
「ありがとう……」
今更、そのプレゼントのお礼を言うように……
その言葉の意味も、笑顔の意味もわからないユーキを他所に……
「ふざけるなっ……あんたはこの先、最強になるんだろ……俺はそんなあんたに憧れて……そんなあんたに勝ちたかった……なのにっ……」
何んで刀を捨てた……なんで……布を守った。
「ありがと……ユーキ君、わたしね……嬉しかったんだぁ」
そんな乙女の笑顔で……
「一生の宝物……死んでもね、離さないから……返さないから……」
両手でその布を胸元で抱える。
何を壊した、あの日……何が壊れた。
俺はここで彼女に死に、彼女がその名のもとに最強になる。
そうならないといけなかった……
彼女の捨てた刀を手に取る。
「ありがと……ユーキ君、最強になって……私の代わりに……そんなあなたの夢に……わたしは協力するからね……」
無防備に刺さった刀は彼女の致命傷となり……
倒れそうな身体をユーキの両手に抱えられながら……
「……本当はね、禁止されてるんだけどね……いいよね、最後は言ってもいいよね……」
抱きかかえられる、ユーキの耳元で……
「わたしね……ユーキ君のことが……好きでした……ねぇ……わたしたちって両思いだったのかなぁ……わたしの勘違いだったかなぁ……」
憧れた最強となる女は……ただの恋する乙女に成り下がり……
「ふざけるなっ……死ぬな……あんたは、あんたは最強になるんだ……最強になったあんたを俺は……」
どうするんだ……?
斬るのか……愛するのか……
こんな現実の前にその答えなどわからない、意味をなさない……
かすかに動く身体で、その布を再び髪を縛り上げながら……
自分なんかを……この場で切り捨て最強となるはずだった女性……
「ねぇ……ユーキ君、似合ってるかな……可愛いかな?」
頬を赤らめ言うマキカに……
「どんな……誰よりも……魅力的だ……俺の憧れだ……」
だから……
「ほんと……嬉しい……」
そんな……最強があったから彼がマキカに興味を持った。
好意に近い感情を持った。
そんなことは知っている……
「……どんなに弱者いい……ただ、弱者だけで……ただ、ユーキ君の女として……」
許されるのなら……これからも……まだ……
「……生きたかった」
そう、言葉と共にマキカの手が重力に逆らうことをやめるようにだらりと下がる。
・
・
・
だから……ユーキは最強になりたかった……
それを証明するために、そんな彼女の代わりになるように……
刀術最強になるため……
同じ能力使いの刀を奪い……最強を目指す。
それが……償いなのか、それが……彼女の託した期待なのか……
そのユーキが放った一撃は、ノウトの兜をかするように……
そんなかすめただけの一撃、それでもその兜にぴしりとヒビが入る。
「期待は……一方通行?期待は……期待するだけの人間は何もしない……?」
割れた兜から白い髪があらわになる。
「それの何が悪い……例え、それが期待するだけだったとして……」
兜から開放した顔をユーキに向ける。
その瞳はユーキの姿を貫き、その後ろのクレイを見る。
「誰からも期待すらされない人間より……ただ期待されてでも……誰かに認識されるなら……」
「……リルト……」
ノウト、兜が割れたその姿に……クレイがその名を口にする。
ご覧頂きありがとうございます。
少しでも面白い、続きが見たいと思って頂けたら、
ブックマークの追加、下から☆評価、コメントを頂けると、
励みと今後の動力源になりますので、何卒宜しくお願いします。
また、気に入った話面白かった話があれば、イイネを添えて頂けると
今後の物語作りの参考にさせていただきますので、あわせてお願い致します。
すでにブックマーク、☆評価をつけて頂いた方、イイネをつけてくださった方に
この場を借りてお礼を申し上げます。
有難うございます。
本当に励みになっています。




