正義、平等、都合
「英雄時間っモード、白銀っ」
白銀の鎧を装備したナイツが目の前の六賢者の一人へ飛び掛る。
40代後半といったところ……
六賢者の一人、マフィリド。
自分の影に熔けるように姿をくらまし、
マフィリドの居た場所に、拳を空ぶるナイツの姿がある。
そんなナイツの影からその姿を現すようにマフィリドが姿を見せる。
「そこかっ!!」
王国の将軍、シルバの黄金の剣が現れたマフィリドの身体を即座に切り裂く。
が、剣はまるで霊体を切り裂いたように……刃が通過する。
「無駄……ですよ、あなた方は、真実も見えていません」
神域……聖者とは正反対のような、黒い魔力の触手なようなものが、
マフィリドの周囲から伸びていて……
王国の兵士、ブラットファングの隊員が、一人、また一人とその触手に囚われ、
身動きがとれなくなっていく。
「もっと……きちんと真実を正さねばなりません……」
いつの間にか、マフィリドがシルバの影のある位置へと立ち居地を返る。
「正す……何をっ」
だと、言うのか?そう、シルバは少しだけ振り向いた頭の瞳でマフィリドを睨む。
「では……正しましょうか……なぜ、あなた方はいま……ここで剣を振るうのですか?」
再び立ち居地を二人の正面に入れ替えるように立っている。
「王国を民を……導く平和のためっ」
「仲間を皆を……お嬢様の正義のためだっ」
シルバとナイツが順にその言葉を返す。
「……正義……そうですね、そこを正しましょうか」
否定的な目を二人へと向ける。
「くっ……」
そんな言葉など聴かないというように振り上げたシルバの右腕が、マフィリドの触手に囚われ、右手が拘束される。
「おやおや、最近の若者の語る正義とは随分と野蛮ですね……」
マフィリドはシルバをそんなシルバを哀れむように眺めながら……
「王国の信頼を……仲間の信頼を……王の名誉を……君主の名誉を……正しき正義で剣を拳を振るうのですね……」
マフィリドは二人へそう確認するように目線を送る。
無言で……それでも同意するように……二人は目線を返す。
「正しましょう……」
そうマフィリドは二人を見る。
「王国……王の名誉を信頼のため……そんな、人間の正義で剣を振るう……それが暴力の理由ですか?」
マフィリドがシルバを見る。
「仲間……主君のため……貴方の正義を主張するために拳を振るう……それが暴力を成す理由ですか?」
マフィリドがナイツを見る。
ナイツの両足がいつの間にかマフィリドの魔力の触手に囚われている。
それでも、ナイツの瞳はマフィリドを睨みつける。
「人々《あなたたち》は随分と勝手な正義を語るものですね?」
そう哀れむような目……どこか疲れたような目を二人に向ける。
「……お前に否定される正義ではない……」
ナイツはマフィリドにそう返す。
「同意見です……正義を成す……神を名乗るのに、神の使いを名乗るのにとてもふさわしくない貴方たちに否定される正義ではありません」
シルバがマフィリドに返す。
「そう……返しますか……」
つまらなそうにマフィリドはひとつため息をついて……
「では……今の神は正しくない……貴方たちが成そうとする正義は正しいと言いますか?」
そんなマフィリドの言葉に……
当然、そんな自分の正義を信じ、ここまで戦ってきた二人は、
マフィリドの言葉の意味など理解できないように、できないように見る。
「では……まずは、そこを、正しましょうか……」
マフィリドは二人を見る。
「さて……例えば……一人の善人と一人の悪が居ます……そんな悪は一人の人間を危め、一人の善人はそんな悪を捕らえ、その罪に相応しい処罰を与え、二度と日の光を浴びれないような状況になったとしましょうか……」
「さて……あなたの言う、正義はどちらの方を持つべきでしょうか?」
そんな問いに……二人の答えなど決まっている。
「善悪が見えているなら……神が成すべきことは決まっている、正義は決まっている」
そんなナイツの言葉にため息をつくように……
「神とは……あなたがたの奴隷ですか?」
「神とは……人間の下ですか?」
マフィリドのそんな返しに……二人は戸惑いの目を返しながら……
「創世者へ従うべきは……人間ではないのですか?」
「神を名乗る以上……全ての生物に平等であるべきだ……我々《せいぶつ》を束ねる以上、正しい判断をするべきだ」
そんな、ナイツの言葉に……
「ならば……正しましょうか……」
マフィリドはナイツを見る。
「平等……ならば、神にとっては善も悪も……平等、善悪など、人間の勝手な正義に過ぎないのです……それとも、神は人間たちが自分たちの都合で作り出した善悪に基づいた、人間のための存在だと……やはりそう言いたいのですか?」
「あんたのその言葉こそ、神への冒涜じゃないのですか?」
シルバが返す。
「神は民の善悪……その平等な評価もくだせぬ者だと言いたいのですか?」
そんなシルバの言葉に……
「正しましょうか……」
マフィリドはシルバに瞳を向ける。
「貴方は……貴方の言う正義は……生きるために、罪の無い生物をどれだけ食べてきました?」
シルバにマフィリドは問う。
ここに置いて……そんな質問など……
「神は全てに置いて平等であるべき……何千万、何億といる人間、生物……その善悪に、平等をなすのなら……神にとっては、貴方達の正義など、すべて同価値であるべきなのではないですか?」
その言葉に、シルバもナイツも動揺するようにマフィリドを見る。
「神にとっては……貴方たちの言う悪人が生きるために善人を危める理由も、そんな善人が生きるために生物が食らう罪も平等であるべきではないのですか?」
「それとも……神はあなたがたの奴隷として……そんな正義を成す存在であるべきですか?」
冷たく二人をマフィリドは見て……
「ここまで言って……あなたたちの正義を否定するつもりではありません……」
マフィリドはそう二人を見て言う。
「そんな人間たちの言う正義……その意味は必要ですか……例え、それが不都合であっても……それが、自分の正義であるのなら……否定されるべきではありません……神も人も……誰にも否定されるべきではないのです……」
そう、何かを正当化するようにマフィリドが二人に言う。
正義も犠牲も平等に……
守ったものも失ったものも平等に……
結果はいつも平等に……
「でなければ……私の都合など……」
何の意味もなさない……
マフィリドはそう二人を見ながら……
自由を失っている二人は、ただマフィリドをにらみ返す。
そんなマフィリドの言葉は二人には届かない……
シルバは自由な左手で自分の右手を強引に解放すると、
その黄金の剣で、ナイツの体を解放する。
ふたりの正義はマフィリドの言葉を否定する。
「……正義に善悪が必要ですか?所詮、それは人々《じぶんたち》の正義だと言うのなら……それを成すのに善悪が必要ですか……誰かに恨まれようと……例え救えたその者に感謝などされなくても……そんな正義という見返りがなくても、守りたい何かを救えたのなら……そんな自分の正義に満足すればいい……そんな私が間違えているのでしょうか」
そんな正反対の正義を見てきた二人にマフィリドは、自分の正義を重ね合わせる。
「例え……正義だとしても……善も悪も……平等だとしても……守れたのなら……守れるのなら……後悔はないのです……そんな愚かな都合が、大事なものを守れたというのなら……ですが」
すれ違う正義……その正しさなど、やはり……それはそれぞれの都合に過ぎないのかもしれない。
それでも……そんな正義は、それぞれの都合を主張する。
そんな三人の正義は平等に都合よく主張する。
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