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狂人

 「ばらりらっ……ばらりらーっ……」


 激戦を潜り抜け、そして仲間たちの群れからはぐれる様に、

 オトネはただ、両手を翼のように広げ、お辞儀をするように90度頭を下げた状態で蛇行するように、走行している。


 神聖教会……建物の中に入り込むが、広いその場所で、仲間と逸れながらも勇敢てきとうに建物の中を突き進む。


 入り口を潜り抜けたところで、ドンっとそこにあった大きなお尻にはじき返されるように尻餅をつく。



 「いたい……」


 少し涙目に、振り返るその頭を見上げる。



 「お……大丈夫か、幼女ちゃん」


 大柄な女は振り返り、オトネの前にしゃがみこむと優しく声をかける。



 ブラッドファングに所属するリリエットは優しい笑顔をオトネに向けている。


 「大丈夫……、誰?」


 大丈夫と伝えながらも目先の大柄の女性を警戒するように。



 「リリエット=バーサク……よろしくなっ」


 白い歯を見せるように笑う。


 軽々しくオトネの体を持ち上げると、自分の肩に座らせる。



 「こんな幼女がどうしてこんな場所にいるかはわからないけど……」


 私が守るというように、その身柄を自分のそばに置く。



 「幼女……違う、オトネはレスの英雄レディ……」


 そう、リリエットの言葉に抵抗するように返す。



 「ばぁーん、ばぁん、ばぁーーんっ!」


 目の前に現れた神聖教会の聖者に右手で作り出した拳銃を向け、

 次々とその言葉と指先を向ける。



 「おぉ……」


 吹き飛ぶ聖者に、素直にリリエットが感心している。



 「オトネはレスに相応しい立派な英雄おんなになるっ」


 リリエットの肩の上で、

 誰かを敵視するように、目の前の敵を押し返していく。



 「ふーん、幼女オトネちゃんの事は、私が応援しているよ」


 迫った一人の聖者の攻撃を片手で受け止めながら、その体を弾き飛ばす。



 そんな二人の前に、神域の魔力に触れた聖者たちすら、

 成すすべなく、押し返されている。



 「ふぁ~」


 あくびをしながら、そんな部屋に紛れ込むフードを被る女性。

 そんな顔には軽い刺青が入っていて……



 神代理にソルテと呼ばれていた女性。



 やる気なさそうにその場に立っている。



 その空気まりょくに、オトネもリリエットもその女に鋭い目線を送る。



 「あ~~、ねみぃ~」


 そう、だるそうに、オトネとリリエットを見ている。


 それでもオトネとリリエットはその女の存在を危険視みとめるように、

 オトネはリリエットの肩から飛び降りる。



 ソルテはそんな彼女たちを危険視あいてにしないように……

 あくびをしながら、見ている。


 それでも、右手には、いつの間にか、前後に刃のある斧が握られている。



 「両刃斧アックス……」


 ソルテは、そう二人をだるそうに見ながら……



 「ブーメランっ」


 右手を下から上に振り上げ、両刃の斧を振り投げる。



 「ぴたっ!」


 そう言葉を放ったオトネの姿をゆっくりとソルテは眺め、

 振り投げた斧が、彼女の前でぴたりと止まる。



 「……私は私の仕事をするよっ」


 リリエットが無防備となったソルテの前に立つ。

 そして、その大柄の身体で、手にした大柄の身体の二倍もある鉄の棒を振り回す。



 「ばぁーーーんっ」


 その鉄の棒に吹き飛ばされるソルテの身体に容赦なくオトネが右手で作り出した手銃を向け放つが……



 「神域魔力化……重化武装ラブリュス……」


 目の前の女の魔力の形が変化する



 両手に手にしている両刃の斧で、振り下ろされた鉄の棒をずたずたに切り裂く。


 オトネの右手じゅうを、同じく神具で弾き防ぐように立っている。



 神域……


 神聖の六賢者と呼ばれる者たちの魔力は……



 恐らく、一般を凌駕した神域そこに到達しているのだろう。




 それでも……それに凌駕ひってきする能力を所持している……



 振り下ろされる両刃の斧を自分の顔の前で両手で手を合わせるように、

 その刃の進行を止める。


 彼女リリエットの力強い瞳と両手がそれを防ぐ。



 「こんな……姿わたしの出来ること……だから……」



 リリエットがそんな姿とおくを眺めながら……



 「ばぁーーんっ」


 そんなオトネの擬音ことばも届かないように、



 リリエットに防がれた右手の斧を放棄するように、

 距離を置くと、左手の斧を右手に握りなおす。


 同時に再び左手に両刃の斧が握られている。



 「狂人化バーサクモード


 食いしばっていた歯の刃が伸びるように……

 瞳孔と結膜が区別つかないほどに真っ赤に染め上がり……


 前かがみに、両手についた指先が少し力をこめると、地面ゆかを破壊する。



 リリエットが目の前のソルテを睨み付け、一気に地面を蹴り上げると、

 その人間離れした怪力の右手をソルテの前で振り下げる。



 さすがに、その脅威を読み取り、ソルテが回避行動に移る。


 勢い任せに振り下ろした腕と共に、リリエットはその場に身体を丸めるようにその懇親の一撃を振り切り……


 ソルテは頭だけを後ろに向け、その腕のはるか先にある真っ白な壁に目を送る。



 その風圧だけで崩れ落ちる壁の破片を黙って見ている。


 

 「まったく……嫌いなんだ……嫌いなんだよぉ」


 ぎょろりと、ソルテの瞳がリリエットとオトネの姿を見ながら……



 「……上司がさ……何が神だ……なんで私はあんなのに使われないとならないんだ……だから……逆らう?あぁ……じゃぁこれまでの代償ぎせいはなんだ……私はどうして、この神域魔力ちからを振るっている?」


 交互にソルテの瞳が、リリエットとオトネを睨む。

 何の理由を知らない二人に愚痴るように……



 「ねぇ……ミヒナ……こんな姿になって……私はさ……何してるの」


 ベロリとだした舌には、何やら紋章のような刺青が刻まれていて……



 「教えてよ……ねぇ……私に、教えてよ……ミヒナァ……」


 その瞳はどこを見ているのか……

 リリエットとオトネの間を見つめ……誰もいない空間を眺めている。


 容赦なく狂人化したリリエットが再び地を蹴り上げ、

 余所見をするソルテの前に出る。


 常人離れした、その右手の指先でソルテの身体を引っ搔くように吹き飛ばす。



 まともに受けたそのソルテの身体は……後方の壁にぶつかり、大きな丸を描く穴を空け身体を停止している。



 神に仕える者として……犠牲になったすがたと……


 そんな姿わたしのために……犠牲みがわりになろうとした……人間と……



 「……犠牲者はどちらになるんだ?」


 明らかに効いているだろう身体を、まるで何事もなかったように動かす。



 「お腹……すいたな……」


 ソルテはそう、左手をお腹に添えながら……



 「……何を食べてもね……美味しくないの……」


 「だからね……ミヒナ、また私の好物を作って……」


 そう、天を仰いだソルテのフードがばさりと下がり、その顔を露出する。



 黒い髪……顔には紋章のような刺青が刻まれていて……



 猫のような瞳がぎろりと覗く。

 美人とは少し程遠い、不気味……な容姿……



 「……いいんだ……」


 ソルテは向けられるその目線、無言で語られる世間の声を読み取るように……



 「ミヒナはねぇ、こんな私を可愛いと言ってくれるの」


 頬を赤らめながらソルテが再び戦意を取り戻すように、リリエットとオトネを睨みつける。

ご覧頂きありがとうございます。


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