表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

137/213

昔語り(3)

 「喰らえっ……八岐大蛇ヤマタノオロチっ」


 7本の刃がティセの立っている場所の地面から刃を交差するように現れる。



 ティセの身体は分身の残像を残すように立っていた場所から自分の身体のシルエットだけを残すように座標ばしょを移す。



 技の威力という部分では、恐らく刀術使いの中では、

 ツキヨが見てきた中でもトップに君臨する。

 それが、大蛇……

 それくらいに、このセキラという女の能力は優れている。



 だが……それ以上に、

 神域に到達した、ティセの魔力。

 その刀術を捕らえる、超えることは出来ない。



 「その生贄えものを喰らえ、八岐大蛇っ」


 7つの刃が宙を舞うと、ティセの身体を追尾するように追うが、

 残像を残すように座標を変えるその女の身体を大蛇やいばが、

 捕らえることは無い。



 「……邪魔をするなら……斬る……それだけ」


 「……っ!?」


 避けるためだけに残像を残し、その座標を変えていたティセの身体は、

 一瞬で、セキラの背後に座標を移す。


 ティセの霧限の刃がセキラを捕らえ、その斬撃が衝撃に変わり、その身体を吹き飛ばす。



 「……ほんと、どいつもこいつも……」


 完全に蚊帳の外に放り出されてしまった、存在を主張するように……



 その戦場の中央に、ツキヨの身体の座標ばしょを移す。



 「……勇者とか……刀術使いとして、最強候補とか……同趣味で理想身体さいきょうぼでぃの持ち主とか……誰かを召喚した張本人とか……ほんと、どいつもこいつも、それだけで……英雄ヒロインを主張するなよ、私を否定するなよ」


 多分……何も出来ない。

 粋がって出てきたが……


 ツキヨに彼女ら二人を出し抜く、何かが在るわけではない。



 今更……


 アリアケの名を捨てて……


 カスミの名に弟子入りした……


 ツキヨにその資格ちからを語ることは……無い。



 迫った、ティセの刃を2、3撃、刃を合わせて防ぐが、

 4撃目を身体に受けて呆気なく吹き飛ばされる。


 そんな一撃で、起き上がった身体を膝からがくりと崩れ落ちそうになる身体を、刀を地面に突き刺して支える。



 「……好きじゃないんだ……見せたくないんだよ……」

 まさむねを抜かぬツキヨの目が黒から赤に染め上がる。


 「……瘴気のろいのせいでなくて……これが私の正体みたいじゃないか……」


 ツキヨの赤い瞳がティセを睨み付ける。



 ・



 ・



 ・



 12年前……

 まだ、5歳であったツキヨ


 「……おいで?」


 餌につられて寄ってきた犬のような動物。

 そんな野良動物の子供のそばにしゃがむツキヨを見ると、


 「きゃんっ」


 野良動物はそんな小さな少女に怯えるように逃げ出した。


 そんな姿をただ、悲しそうに無言で見過ごす。


 アリアケ家。


 その刀術は……その名が轟くことは無かったかが……

 暗殺者としての能力。

 闇を生きる者の中ではその性は知らぬ者がいないほど、

 恐れられている名だった。


 そんな血を受け継ぐ、ツキヨの瘴気においは、

 野生の動物からすると、恐怖の対象でしかない。


 臭覚の良い動物は一目散にその姿に逃げ出してしまう。


 可愛いものが好きだった。

 女の子らしく生きてみたかった……


 その才能を、一族の中でも優秀に受け継ぐ彼女だったが……

 彼女はその生き方を嫌って……



 そんな誰よりも優れた能力ちからを、自分のためにも使いたがらない……


 そんな家系を離れて……小さな身体ひとつで生きようと決めた。

 だけど、そんな小さな彼女にこの世界は優しくは無い。


 理不尽に振るわれる不幸や暴力に……

 それでも、彼女はその力を振るわず黙って受け入れようとした。


 そんな前に現れたのが……



 「大丈夫?怖かったねぇ?」


 間の抜けた声で、ツキヨに話しかける同い年の少女。


 「……あれくらい、自分でどうにかできただろ……」


 目の前のてきを追い払った一つ年上の少女は、ツキヨの力を見抜くように言う。



 「……おいで」


 自分より2つ3つ年上くらいの男数名が、虐待していた動物の子供を守ろうとした。

 そんな動物に声をかけるが……


 そんな恩も知らず、小動物はツキヨの瘴気を恐れるように逃げ出す。



 そんな姿を……慣れたように寂しそうに見送る。



 「……そうだ、ちょっと待っててね」


 同い年の少女はそう言うと、近場の建物に入り……

 すぐに出てくると……



 「はい……」


 そうにっこりと笑顔で、小動物のぬいぐるみを手渡す。



 「可愛いでしょ……これはね、逃げたりしないよ」


 私は彼女たちと出会い、そして……カスミ家に弟子入りした。



 それでも……アリアケ家……


 その血筋は……私の中に今でも在り続ける。



 私は……ぬいぐるみを愛でることしかできない。


 生物は……私の瘴気まりょくを嫌うから……



 今更……アリアケを名乗るなよ……




 ・


 ・


 ・



 「……ここで、見ること……私の姿を……レスには言うな……」


 戦場の真ん中にたつツキヨはティセを睨みながら……



 「抜刀……初桜っ×まさむね……咲けっ……紫桜しざくらっ」


 一度、納めた刀を再び引き抜く……



 魔力が神域化したわけではない……


 それでも、その魔力の変化に、セキラもティセも思わずその警戒の目を送る。



 「好きじゃないんだ……私が私でなくなるようで……正体ほんしょうを曝け出すようで……だから他言はしないで欲しい……」


 紫桜から溢れる魔力しょうきがツキヨにまとわりつくように、形取り、

 黒に近い紫いろの魔力がツキヨの背に魔力が翼のように展開する。


 ツキヨのつける眼鏡の奥から赤い瞳がティセを見る。



 「邪魔をするなら……斬る……それだけ」


 恐れることなく、ティセはそう返す。



 「舞い散れっ……残桜ざんおう


 刀を持つ右手を前に差し出して、地面を蹴り上げ、ツキヨがティセに突進する。



 だが、ティセの身体は残像を残すようにその座標を移す。


 その刀はやはり、神域の領域に達している彼女を捕らえられない、それでもツキヨの瞳は、座標を移したティセの姿を即座に追う。



 「……っ!?」


 ツキヨの魔力つばさが一度羽ばたくと、その姿はティセの前に在る。



 再び、ツキヨの刃がティセを狙うが、やはり神域に達しているティセの姿を捕らえられない。


 残像を残し、座標を移すティセを……

 捕らえることはできない、それでも……


 羽ばたく翼……


 ティセの前に追いつくツキヨ……


 捕らえられなくても……逃がすことはない。


 ティセが幾度と、目の前に現れるツキヨの姿からその身を逃れるが……

 それを許さないというようにツキヨはそれを逃さない。



 「私は……ただ……斬る……ただ、それだけっ」


 その神域に匹敵するだけの移動力を得たツキヨ。

 それでも、反撃に移るティセ。



 一対一の構図なら多分、神域に達している女に分があったのかもしれない。



 「喰らえっ八岐大蛇っ」


 座標を移したティセの身体を……そこに座標を移すことを待っていたかのように……



 数多ななつの刃が、その身体を捕らえる。



 歯を食いしばり、その痛みに耐えるティセ。



 だが、さらに目の前にはツキヨの姿があり、

 容赦なくその瞳はティセを見ている。



 「舞い散れっ……残桜っ」


 その刃がティセを捕らえる。




 ・・・



 嫌いだった……


 わたしの運命を滅茶苦茶にした、その賊を……ただ恨み続けた。



 私という意思なんて……そこには存在しなくて、

 私はただ、神に仕える使命を得て……


 そして、同時に現れた賊に私は……支配される。


 そんな二つの傲慢に……私はただ……そのうんめいを受け渡す。


 だから……私はその言葉に従い、


 それを斬るだけだ。



 そんな、私もいつしか、幼馴染や身近の人間に助けられて……

 平穏を取り戻す日が来るのだと信じていた。


 でも……そんな私を最後まで愛していたのは……



 嫌悪する男だった。


 私と同じ……自由を知らない……ただ不器用にこの世界を生きていた。


 勿論、そんな事、ひとつで私は私という人間をそいつに許す訳ではない。



 それでも……こんな私なんかに、その命を捧げた……


 嫌悪する男に……



 私は……何をのこす?



 あぁ……これが、そんな私の中途半端な覚悟の結果という訳か。


 そう一人、納得する。



 神域化を遂げた……でも私の覚悟などその程度で……



 何のために……愛していた者が誰だったのかもわからなくなった私など……



 7つのやいばを受けて……


 8つ目の紫桜を受けて……


 私は……その使命つみに終わりを見つける。




 ・・・



 戦意を失うようにティセは起き上がる行為を放棄して……


 ツキヨとセキラにその進路みちを譲る。



ご覧頂きありがとうございます。


少しでも面白い、続きが見たいと思って頂けたら、

ブックマークの追加、下から☆評価、コメントを頂けると、

励みと今後の動力源になりますので、何卒宜しくお願いします。


また、気に入った話面白かった話があれば、イイネを添えて頂けると

今後の物語作りの参考にさせていただきますので、あわせてお願い致します。


すでにブックマーク、☆評価をつけて頂いた方、イイネをつけてくださった方に

この場を借りてお礼を申し上げます。

有難うございます。

本当に励みになっています。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ