決戦(2)
見知らぬ世界がそこにはあって……
僕は夢を見ているのだろうか……
現実世界では、僕は捕らえられて、
その罪を……正されて……
壊れた僕は、正されて……
居るのだろうか……
その異世界での姿は、召喚された人間の年齢と統一される。
確か、先の女はそう言っていたが、
偶然なのか、僕は召喚前のままで……
目の前には、同い年くらいの女性が僕を見下ろしている。
「何をしたのっ!?」
信んじられないものを見るように、召喚した女は僕を見ている。
確か、名前はサーニアと言ったか……
夢か現実かもわからない、そんな異世界で、
そんな彼女を虐げていたと思われる男を僕は、
手に入れた力でその首と胴体を切り離した。
「君の邪魔となる奴を、壊した……それだけだ」
僕は、そんな罪意識もないように彼女に言う。
「……君が僕を召喚したのも、そのためだろ?」
僕が彼女の邪魔となるものを、代わりに壊す。
「助けを求めたのは事実、でも……私はこんな残虐は望んでいないっ」
サーニアはそんな僕を憎むように睨み……
パンッと乾いた音が響き渡る。
同時に自分の頬がはたかれた事に気がつく。
「なんの真似だ?」
僕は脅すように彼女を睨む。
いつでも、お前程度壊せると言う様に……
ここに来て間もない。
それでも、僕はその変のものを簡単に壊せるだけの、
力があるのだと、自覚している。
ご丁寧に、現世の記憶は残っている。
壊れたものを元に戻すことはできない……
例え、そこが異世界であったとしても……
今更、正すことはできない。
僕が見た記憶も僕が犯した罪も……壊れてはいない。
だから……正すことはできない。
「ねぇ、ついてきて、見せたいものがあるの」
連れてこられたのは、大きな特徴のない夜の湖。
「嫌なことがあったり、悩んでいるとき、来るの」
元の世界でいうのころの、蛍のような虫だろうか。
身体の尻尾のあたりを赤、青、黄色と順に色を放ち飛んでいる。
あたり一色を鮮やかに彩っている。
「あぁ……綺麗だ、壊したい程に」
僕はそう右手を彩る泉の方へと手を伸ばす。
そして、少しだけ頭の中で色々な事を思い返す。
何もせず、右手を下げる。
「なぜ……こんな事を続けているの?」
言っているのは多分、殺戮のことだろう。
こっちに来て数日でわかったことだが、
この異世界は元の世界程、人を殺す罪が軽い。
誰かを殺めても、警察のような組織が追ってくるようなことはない。
もちろん、危険人物と認定されれば、
それなりの正義は動くようだが……
それでも、僕は抗う力を手に入れた。
「……僕の見て来た正義は弱く優しく正しいものだった……でも、そんな正義は簡単に悪の力で翻る」
「強者だけが世界に正しさを主張する……弱者はいつだって間違えているんだ」
もちろん、目の前の女はそんな僕の言葉を到底理解できないように見ている。
「強い者だけが意見できる、正せる……だから、僕はそれら全てを否定する……全部、全部、壊して、壊して……全ての否定」
「震えているの?怯えているの?」
僕の瞳を覗き込むように、何かを見透かすようにサーニアが言う。
「弱者の言葉など届かない……その犠牲すら無かったことになる……」
「それが、嫌なら強者を叫べ、弱者を拒絶しろ」
そんな僕の言葉を寂しそうにサーニアは聞いている。
「……レスカ、それだと、あなたはただ、あなたが嫌っている強者になってしまう……自分のことも嫌いになっちゃうよ」
サーニアの言葉に、一瞬言葉を失うが……
「僕は、とっくに壊れているんだ……邪魔をするな、僕は僕が一番嫌いなんだ」
僕はサーニアを冷たく睨みつける。
それが、彼女との最後の会話。
今、どこで何をしているのか、僕も知らない。
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世界のすべての在り方を、ただ恨む。
そんな、自らを災害とする男が立ちふさがる。
「集えっ」
スコールのその声に反応するように、上空で水属性の武器の数々が作られていく。
「飛べっ」
その魔装具が一気にレスカ目掛け飛ぶ。
「何かを壊すのにこれ以上のもの使ったことない……」
レスカはバタフライナイフの刃を起こしながら、
突き刺したスマホ、切り裂いた男の喉を思い返しながら、
迫る、水の魔装具を弾き破壊する。
が、スコールの能力も並外れた能力だ。
対応しきれなかった魔装具のいくつかがレスカの身体を貫く。
だが、それらのダメージを強化して修正していく。
実際どれだけのダメージをそれで修正してきたのだろう。
しかし……もし、その修正に限界、
魔力に限界が来たのなら……
その修正が……解除されたら……
せまったリスカの拳がスコールをとらえ、地面を転がるように吹き飛ばされる。
その後も、ライトの瞳がリスカを見切り攻撃を加え、ナイツのラッシュに殴り飛ばされても、再びスコールの魔装具に貫かれようと、アストリアの魔槍に貫かれようと起き上がり、そして反撃にうつる。
気が付けば、一番傷だらけの男を中心にして、
俺も、ライトも、アストリアもスコールもナイツも膝をつく様に、リスカに見下ろされている。
「いい加減……壊れろよ」
リスカが地面に手を置くと、魔力の瘴気が爆発を引き起こすように、俺ら全員の身体は地面を転げまわるように倒れる。
「弱者を守り……強者を語れ……」
リスカの瘴気が強化されその場の魔力が強い重力のように全員の体を押しつぶすように……その場から起き上がることすら難しい。
それでも、アストリアはその正義を魔力に変えるように立ち上がる。
いつだって、彼女は強気だった。
もちろん、それに見合う力を持っていた。
それでも、その自信は誇りは……
シェルの獅子王の重力化の能力に匹敵するような魔力の瘴気の中を、
アストリアが地面を蹴り上げ、拳を振りかざす。
その拳がリスカの頬をとらえるが……
魔力で強化されたリスカの身体はその場からびくりとも動かず……
「ぐっ……あぁーーーっ」
変わりに突き出したリスカのナイフがアストリアの右肩を貫いている。
「いいねぇーー君、いい悲鳴だ、最高に壊しがいがある」
こんなになっても自分に立ち向かってくるアストリアに、嬉しそうに笑いながら突き刺したナイフをぐるりとひねる。
「あぁーーーーっ」
斬撃は衝撃に変換される。
それでも、その防壁を貫いたナイフはアストリアの腕に激しい激痛を与える。
「邪魔するなっ」
そんなナイフを引き抜くと、それを止めに入った俺の結界を簡単に突き破り、そしてそのナイフは俺の腹部へと突き刺さる。
「レスっ!」
そんなひどい有様なのだろうか……アストリアがそんな自分の体より俺の心配をしている。
「くそ……本格的にやべぇ……な」
これだけの勢力を集めればさすがに、どうにかできると思っていた……
余りにも目の前の化け物は完成されている……
「そこで……這いつくばって見ていろ、正義が悪に正される姿を……君も僕のように落ちろ……壊れろ……」
レスカは自分の記憶を再現し俺に見せるように、
這いつくばり起き上がる事すら許されない俺の目の前で……
「ぐっ……あぁーーーっ」
アストリアの左肩にナイフを突き刺さる。
リスカの手首がぐるりとまわる。
「やめろっ……もうやめろっ」
必死で叫ぶ俺の声も、いまのリスカには勢いづける声援でしかない。
「壊せ……壊す……壊れろっ」
アストリアの右足、左足へと次々とナイフを突き刺していく。
玩具を壊すように、目の前の正義を正していく……
「もう……やめろっ!」
喉を狙ったリスカのナイフがピタリと止まる。
俺の残された魔力で張った結界を冷たく見つめ……
手にしたナイフをその結界へ突き刺す。
「くそぉ……思ったより硬いな……」
スマホの画面を破壊するように何度も右手を動かす。
「フィル……」
フィルの魔力も、限界が近いそれでも……
俺は結界を破壊することに夢中の男にフィルの魔力をまとわせた、
右手を振り下ろす。
「邪魔するな……邪魔するなぁーーーっ」
なんとか、リスカのヘイトが自分にうつる。
そして、同時にアストリアは限界を向かえるようにその場に倒れた。
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・
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寒い……酷く寒い。
まるで、氷の中にいるように……
死んでしまったのか?
アストリアが目を開くと、実際にそこは氷に覆いつくされた世界だった。
「今日は寒いだろ……私のつくった特性シチューだ、温まるぞ」
夢……の世界……なのだろう。
目の前には、セーネが居て、私はいつの間にか配置されたテーブルを前に椅子に着席している。
「全く……あんたたちさえ、私の前に現れなければ今頃、私はいいお嫁さんになれていたのにな……」
目の前の鍋の中身をかき混ぜながら、セーネが振り返りアストリアに言う。
「本当だ……私は……セーネ……ずっと、ずっと誤りたかった……私の勝手な正義で、セーネの幸せを人生を……」
レスにはもちろん、たぶん誰にも見せたことのない……
涙を浮かべ、そうセーネの背中に叫ぶように謝罪にする。
「らしくないなー、いつもの生意気なアストリアはどこだぁ?」
夢の中のセーネは、未だ幼い私と話すように近寄ってくる。
「私がセーネの前に現れなければ……であっていなければ……」
「いなければ……?どうしたぁ、続きを言ってみろ」
セーネが優しくアストリアの頭を抱え、胸元に寄せる。
「……神域魔法……その代償で私はこうして魔力のような存在になってしまったけどね……こうして、あんたのそばに居るよ」
「大きく……なったね」
セーネが耳元でそう囁くように言う。
「出会ってなければ……なんて思うものか、結婚して子供が産まれるかもわからない私に、一度に二人も可愛い弟子ができたんだ……幸せだったに決まってるだろ……」
「こうして、再び大きくなったアストリアと話せただけでも、良かった……でも、いつまでも、私の腕の中で泣いている訳にはいかないだろ」
うっすらと目の前の氷が現実世界を映すように、
私を周囲の仲間をかばう様に、リスカの前に立ち、
何度もふっとばされては立ち上がるレスの姿がある。
「でも……私の正義は……私の魔力は……まだあいつには届かない……」
もう両腕もあがりはしない……
「どうした……アストリア、お前らしくないな」
セーネが優しく、そんなアストリアを叱るように……
「正義は負けない……そこに最後まで立つものこそ勝者なんだ」
セーネがアストリアに優しく言い聞かせるように……
「でも……どうすれば……」
あいつに勝てる……そんな迷いが生じる。
少なくとも、それだけの恐怖は植えつけられている。
「どうすれば……じゃない……アストリア、あんたはどうしたい?」
セーネがアストリアの胸の奥へ呼びかけるように……
「はじめから、答えは、決まっているのだろ……」
氷の世界が崩壊していく……
せっかくの出会いを突き放すように……
「セーネっ!セェーネっ!!」
そんなせっかくの出会いを惜しむように、崩れる世界にアストリアがその名を叫ぶ。
「大丈夫……正義を信じろ……今度は私も力を貸してあげる……」
氷の世界と共にセーネの体が崩れていく。
「いやだ……いかないで……」
ずっと、ずっと……母と居たかった……
その言葉に気づけなかった私が今更言える言葉じゃない……
それでも……
「言っただろ……力を貸すって、私はこれからもずっとあんたのそばに居るよアストリア……私も一緒に戦うから……正義を信じろ」
セーネはそう言いながらも、崩れていく自分の身体がアストリアに触れられなくなっていくことを実感すると、ぼろぼろと涙をこぼしながら、それでも笑顔をアストリアに向ける。
「なんで……なんで……」
そんな……幸せを奪った……人生を奪った……私を許してしまうんだ。
「二度も言わせるんじゃない……三度目は無いよ……」
だからこそ、今……言っておく。
「……愛してるよ」
その最後の言葉がアストリアの中に響き渡り……
氷の世界が崩壊する。
・
・
・
リスカによって創り出されたメテオを、残された魔力の結界で防いでいる。
「はははっ……壊れろ、壊れろよ」
リスカがそんな結界を張ることに全集中している身体にナイフを突き立てる。
「ぐっ…あーーーっ」
声をあげながらも、結界への集中力を乱さぬようにする。
時間の問題だ……
そう誰もが絶望した瞬間……
ひんやりとした冷たい冷気が通り抜ける。
「強者を示せ……私がすべてを正す」
いつの間にか立ち上がるアストリアから、冷気の魔力が流れている。
そんな魔力に染められるように、アストリアの白い髪が水色に髪を少しだけ染め上げていく。
アストリアが地面を強く蹴り上げ高く飛び上がると、流れ出る強い魔力が抑えきれないように、周囲を凍りつかせるように魔力をこぼしていく。
「なっ……」
俺もリスカも信じられないように空を見上げている。
メテオに右足のかかとを叩き込むと、一瞬で凍りついた隕石が真っ二つに割れる。
「……セーネ……ありがとう……あんたのおかげで正義は負けない」
左ひざをまげ、右足は右手に伸ばすように地面に着地し、
リスカを見上げるように睨む。
「壊す、壊せ、壊れろっ」
リスカがバタフライナイフを起こし、アストリアに向き合う。
「神氷魔力化……」
アストリアの周囲から冷気の魔力がいっそう強くなる。
アストリアの喉を狙い突き出した右腕をアストリアの右手ががその手首をつかむと……
「なっ……」
つかんだ手首をつたうように冷気の魔力がリスカを凍りつかせていく。
強化の魔力でその氷を弱体化させて氷を砕く。
距離を置いた、リスカにアストリアが地面を蹴り上げ、間近に近寄る。
リスカが今までのように、魔力で身体を強化しその動きを上回るように回避するが……回避して反らしたはずのアストリアの顔が真正面にある。
「なっ……」
その場でぐるりと旋回したアストリアの右足がリスカの頭部を蹴り飛ばす。
「ぐっあ……っぐっ……」
地面を転げ周り、ようやく止まる。
「な……くそ、壊す、壊せ、壊れろっ」
信じられないようにリスカが再びナイフを振り回す。
「くらえっ……メテオっ」
いつの間にか創り出したコメットを再び巨大な隕石をつくりあげようとするが……
「……魔槍……零距離っ」
いつの間にか目の前に居るアストリアがリスカの胸にてのひらを乗せ……
創り出された魔力の槍が零距離でリスカを貫く。
吹き飛ぶ身体を、魔力で強制停止させる。
上空で空を見上げていた身体を立て直そうとするが……
目の前にはアストリアの姿がある。
「これが……私とセーネの鉄拳だっ」
魔槍という能力がありながらも、アストリアが師の教えとして、
自分の正義としてきたもの……
その力で決着をつけると言う様に……
繰り出された拳でリスカの身体が強く地面に叩きつけられ……
完全に白目を向いたリスカの目は瞳を取り戻すことはしばらくできそうになかった。
アストリアの氷の魔力が役目を終えるように蒸気となって溶けるように空に上り……ゆっくりと髪の色もいつもの真っ白な髪に戻ると、力尽きるように、その場にひざをつき……その勝者の拳を天に突き上げる。
「セーネ……わたしたちの正義が勝った……最後に立ってたのは私だよ……見てる……聞いてる」
そんなアストリアの言葉に答えるように……
晴れた空に急な雨が降り、すぐに止むと、アストリアの拳のかざす空に虹を創り出した。
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