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家族

 「個人の人生の選択肢ことばなど……何の意味も無いとは思わないか、レス」


 合宿で訪れた場所にあった廃墟となった村、その墓の前でアストリアは理由も無く付き添った俺の方を振り返らずに、そんな過去を振り返るように語りながら俺に尋ねる。



 「あの日、あの時に私はナイツが、あのひと使命せいぎから開放していれば、違った未来はあったのか?」


 もちろん、俺にその言葉を送ったところでその答えは出ない。


 その質問の意味に何が隠されているのかは俺は知らない。

 それでも、俺はその話の続きを聞かなくてはならない……

 そんな気がした。




 ・

 ・

 ・



 「うん……二人とも筋がいいな」


 二人の師となったセーネはアストリアとナイツの動きをみながら評価する。



 「なぁ、セーネ、攻撃の基本となるのは魔力、この基礎能力を鍛える意味はあるのか?」


 少し修行の内容が不服と言いたそうにアストリアがセーネを見る。



 「逆だ……キレの無い拳や蹴りにいくら魔力を乗せたところで、あたらなければ意味が無い、それにあたったところで、拳に魔力が干渉していないものに真の威力は発揮しないものだ」


  アストリアの問いにセーネが答える。


 「まぁ……しかし、ナイツにはそもそも運動能力を上げる能力よろいがある、アストリアには別の魔槍のうりょくがあるからな」


 アストリアの能力、魔槍……どちらかというと物理よりも魔法に近い。

 それでも、その産まれ持った魔力の高さは、魔槍まほうに変換するだけではなく、拳や蹴り、身体に魔力をめぐらせた、セーネと同じ戦い方もできる。



 「言われたとおりにする、だから……あんたの正義ちからを……」


 この私に叩き込め、そうアストリアがセーネに請う。



 ・・・


 それから、数ヶ月が過ぎ、

 アストリアもナイツもそれなりに体術を身につけ、

 そんな生活に馴染んできた。



 「なぁ、セーネは結婚してないのか?」


 3人で机を囲い食事をしていると、唐突にアストリアがセーネに尋ねる。



 「旦那が居て、可愛い子供が居たら、こんな生意気な子供がきのお守りなんてしてないだろ」


 「まぁ、見るからにもてなさそうだもんな」


 セーネの軽口にナイツが返す。



 「全く、こんな場所であんたらの相手をしてなければ、私みたいな美人はあっちこっちから求婚されるもんなの」


 セーネがよくわからぬ持論で二人を言いくるめる。



 「だったら、ボクたちのことは気にせず、好きに生きろよ」


 ふてくされた様な言い方で、何かを恐れるように瞳を反らしナイツが返す。

 子供ながらの強がりと本当は望まない自虐的な発言。



 「いいんだよ……私は好きで二人の前に居る、可愛い家族でしが二人も出来たんだからな」


 セーネはそんな青春を棒に振る理由を述べる。



 「しょーがない、セーネが結婚するまで、私たちが家族でしで居てやる」


 アストリアが偉そうにセーネを見て返す。



 「ボ……ボクもっ!!」


 ナイツが慌てて便乗する。



 「はははっ……これ、また婚期が遅れそうだな」


 セーネが恨めしいように、嬉しそうに言う。




 ・・・



 数日後の夜。

 トイレに起きたアストリアが、寝室のドアを開き、

 トイレの個室に行こうとし、いつも3人で囲う食卓に座り、

 ランプの光に照らされ、普段かけないメガネをかけながら、

 普段、興味も無さそうな書物を読むセーネの姿を見つける。



 「……なに、読んでるんだ?」


 アストリアが起きた目的を忘れ、その背に話しかける。



 「神域魔法……私のような無能力者は他者が造った魔装具に頼るか、こうした禁忌魔術に手を染めるしか、魔力を開放する手段が無いからな」


 アストリアの問いに振り返ることなく答える。



 「必要ないだろっ!セーネの正義こぶしがあるだろっ、正義は負けない、最強なんだ」


 何故かそんなセーネの姿に不安を覚え、むきに叫ぶ。



 「……心配ない、もしもの保険だよ」


 そんな否定も、なぜかアストリアを不安ふかいにさせる。

 どこか、自分の正義への自身の無さが、自信せいぎを捨てて、

 何を手にしようとしているのか……



 「正義なにかを捨てでも……手に入れたいものか……」


 振り返ったセーネがアストリアの顔を優しく見る。



 「なんだよ……それ」


 セーネは本を閉じ、得意いつものヤンキー座りでアストリアの前にしゃがむと、アストリアの頭を優しく胸元に抱き寄せる。



 「大丈夫……ただね、何があっても、今の自分を嫌いになるな、信じた正義を嫌いになるな……誤れば、間違えば……それは正義さいきょうじゃなくなる」


 「な……んだよ、それ……」


  

 ・・・



 そして、また数ヵ月後……


 

 「化け物だ……一人の人間が化け物を引き連れてやってきたっ!」


 村の警報と村の大人たちの叫び声が響き渡る。

 セーネもアストリアもナイツも……何も出来ないうちに村はあっという間に火の海になる。


 そんな窓の外の光景にアストリアが目を見開き立ちすくんでいると……



 「何……してるんだよ」


 ナイツが信じられないものを見るようにセーネに問う。

 自分のかばんに、必要最低限の荷物をつめている。



 「……逃げるんだ、二人も一緒に来い」


 「何……言ってるんだよ」


 信じられない言葉を聞くようにナイツが返す。



 「悪いが、このいのちを代償で守れるものじゃない……」


 「何かの、冗談だろ?」


 外の出来事も、目の前の正義の発言も、受け止められないようにナイツが言う。



 「いいから来いっ!アストリアお前もっ!!」


 セーネはただ真剣に、力強くナイツの腕を引っ張る。



 「離せっ!!」


 ナイツがその手を力強く振り払う。



 「正義だ、ボクたちは正義なんだ、なのに逃げる?ふざけるなっ!!」


 「待てっナイツ!!」


 正義が負ける訳無いっ、ナイツが外に飛び出し化け物の方に向かう。



 「セーネ、この村を見捨てるのか……結局、私もナイツも他人だったのか」


 アストリアのそんな表情に……


 「アストリア、聞いてくれ……わたしはっ」


 そんな、不安そうな情けなく映る表情に……


 「私もナイツも、あんたの正義にせものを信じていたのかっ」


 アストリアもナイツを追うように、外へと飛び出す。

 村を見捨て逃げ出すなど、出来ない。

 そんな選択肢は、今のアストリアにもナイツにも無かった。


 彼女のそんな正義を捨て得ようとした何かを理解できなかった。



 「……誤ったか……間違えたか?」


 取り残された部屋で、セーネは一人呟く様に。


 「……婚期逃してでも……手にいれたかったのにね」


 セーネはそう寂しそうに笑い、そして覚悟を決めたようにその場に立ち上がる。




 ナイツ、そしてアストリアが駆けつけた時にはすでに、戦える大人たちは力尽きていて……村は壊滅状態だった。


 全滅も時間の問題だ。


 「子供が二人?」


 駆けつけたアストリアとナイツをリスカが横目で見る。


 「つまらなかったな……僕の能力でどれくらい壊せるかと思ったけど、次はもう少し大きな街を壊しに行こう」


 壊しがいのあるものを求めるようにリスカが呟く。

 その能力であまたの化け物を従えながら、さらに凶暴化した化け物で、

 さらに村を燃やし尽くしていく。



 「やめろーーーっ」


 ナイツが叫び、化け物に向かい立ち向かう。

 それにアストリアも続く。



 ・・・



 燃える村……すでに人の気配はしない。

 アストリアとナイツを残した他の人間はすでに命を奪われてしまったのだろうか。


 そんな二人も、もう長くは持ちそうにない。

 燃える炎のせいで、呼吸もまともにできない。



 「全く……割に合わないよ……」


 横たわる二人の前に、白い白衣をなびかせる女性が立つ。



 「……セーネ?」


 熱気と身体へのダメージで視界がおぼつかない。



 「……なんだ、ん……、前に僕のペットを壊した奴?」


 リスカが少し嬉しそうに獲物セーネを見る。


 「少しは楽しめそうだ……壊せっ」


 リスカが化け物にそう命じる。



 熱気と身体へのダメージで呼吸が苦しくなり、視界が薄れていく。

 

 数多の化け物を相手に戦う正義の味方の姿を必死に目に納めようとするも……

 強い眠気のようなものがそれを邪魔をする。



 

 ふたたび、ぼやける視界に目を送る。


 それが何分後なのか何時間後なのか……



 目の前にはシリンメトリーに欠けた、左腕の無い正義の味方が立っていた。


 化け物を全て倒し、目の前の人間だけを残して……



 やっぱり正義の味方は負けない……

 そう信じるように……



 でも……そんな正義の味方は気づいている。

 一番の化け物に……その存在に。



 アストリアはただ……無意識にその身体を起き上がらせる。

 ナイツは、辛うじて目を開きながらもその身体を起こす事は適わない。



 「……セーネ……(腕は)?」


 困惑した表情をアストリアが向ける。



 「持っていかれた……情けないね」


 そんな自分を恥じるように……



 「どうして……」


 逃げたんじゃなかったのか……とアストリアがセーネを見る。



 「どうして……だろうね……」


 セーネがアストリアの前にヤンキー座りでその頭を優しく残った腕で抱える。



 「……ごめんね……お前たちの気持ちを裏切った……私の弱さだ」


 数時間前の自分を悔いるように……


 「……正義わたしを捨て出ても……家族おまえたちを手に入れたかった……わたしの我侭よわさ……だ」


 セーネがそんな自分を恥じるように、過ちを語る。



 「セーネ……」


 そこで、初めてあの時の、セーネの言葉の意味を理解するように……

 自分の選択に戸惑うようにアストリアは後悔する。


 正義を捨て、村を見捨て……そんな選択が出来たかはわからない……

 それでも、その選択肢を加えられなかったことを……

 ただ、後悔する……



 「結局……正義も……家族も成せない……中途半端な私だ……でもね、アストリア……こんな私を見ても、嫌いになるな、自分も正義も……あんたは、誤るな、間違うな……私にはなるな」


 残された腕で抱えたアストリアの頭を優しく撫でる。



 「アストリア……ナイツ……愛してるよ……」


 「……セーネ?」


 正義を捨てたものの末路……

 そう、セーネは再びアストリアに背を向け、リスカに向き合う。



 「よくわからないけど、壊すよ……僕はもっと大きなものを多くのものを壊さないとならないんだ」


 リスカがセーネに告げる。



 「悪いけど……この二人だけは壊させない……わたしの正義わがままだよ」


 そう右手のこされたてを上空にかざす。



 無能で拳を振るうセーネの魔力が変わる。



 「神域魔法……」


 冷たい魔力くうきがセーネのもとに集まっていく。



 「氷域結界ニヴルヘイム……」


 ペキペキ、ペキペキと彼女の周囲が凍り付いていく。

 周りの炎が凍り付いていく……



 「セェーネ?」


 徐々に自信の身体さえも凍りつくセーネの姿に戸惑うようにアストリアが声をあげる。



 「……ち、なんだ……これは」


 リスカも凍りつく自身の身体に戸惑う。


 「僕は……まだ……僕はっ……」


 こんな村ひとつ壊しただけでは……



 「きさまぁーーーーっ」


 こんな簡単に壊れてたまるか……

 懸命にリスカがもがくが……



 その神域魔法の前に徐々にその身体の自由は奪われていく。

 その身体セーネを代償に……


 共に氷つくセーネの氷は……神域魔法の使用を代償にするように、

 身体こおりがひび割れるように……



 「セーネ……いや……だ……」


 今更……ずっと彼女と居る、家族みらいを見るように……

 アストリアがその右手を伸ばす。



 「弱者を守り……強者を語れ……」


 その領域ごと凍りつく正義の味方に……

 その魔力の消費と共に、壊れる正義の味方に……



 「……大丈夫……正義の味方は負けないんだ」


 最後の言葉を振り絞るように……

 目の前の悪と正義の味方は、人の魔力ちからでは絶対溶かせない結界こおりの中に閉じ込められる。


 一人は長い眠りに……一人は壊れてしまった身体を封じるように……





 厳しいの修行を受ける。

 そんな母の作った料理を食べる。

 そんな母の腕に抱かれる。


 許されなかった……許さなかった世界線。

 アストリアが許さなかった世界線。

 セーネが望んだ世界線みらい



 今更……悔いるしか出来ない、世界線。



 ・

 ・

 ・



 そんな彼女が護った……家族ふたり


  「あの日、あの時に私はナイツが、あのひと使命せいぎから開放していれば、違った未来はあったのか?」


 もちろん、俺にその言葉を送ったところでその答えは出ない。



 でも……それでも……

 俺に何ができるのか……



 その正義を証明してみせろ……

 俺はただ、自分にそう言い聞かせる。

ご覧頂きありがとうございます。


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今後の物語作りの参考にさせていただきますので、あわせてお願い致します。


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