要塞
運命の日……
学園、王都、ギルドの主力となる人物が一箇所に集結している。
神代理の姿は無い。
正直、あの領域でどうにかできないのかと思ったが……
強大な魔力だけならともかく……瘴気まで浄化することは、
できないのだろうか……
「国王……王都市民、全員を説得しろと俺は言ったはずだがな」
明らかに半分にも満たない数に、キリングは国王に吐き捨てる。
「まぁ……いい……」
その場のほとんどのものが見つめる紫空にキリングを目を向ける。
「距離的に……頃合か」
あれをどうにかするための距離……遠すぎても攻撃が届かない……近寄りすぎても時間が足りない。
キリングは俺の考える方法を知らないながらも、推測するように言う。
「スコール……」
「あ……あぁ」
どこか、少しだけ緊張するようにスコールが前に出る。
レインのイメージを具現化する土台……
そして、その土台にこの国、全員の魔力を注ぐ。
それをレインがこの世界を救う何かを形にする。
そんな大役に……
「大丈夫、お前ならできる」
ポンとレインの頭に手を置く。
震える身体を隠しながら俺を見る。
「準備はよいか?」
失敗を恐れるレインたちをよそに、キリングは……
そんな事を許さないと言いたげに事を急がせる。
「おや……あれは?」
ゆっくりと近づく人影に、リリエットが遠くを見るようなポーズをつくりながら言う。
ずるり、ずるりと重い何かを引きずるように……
「……マナト」
リエンがその男の名を呼ぶ。
「殺さずにおいたが、魔力も無い貴様が何をしにここにいる」
キリングがマナトを睨み付ける。
「下がれっ……マナト、お前はいったい何をしようとしている」
リエンがマナトに向かい感情的に叫ぶ。
少なからず、リエンにとっては大事な友だ。
「とウ……さん……お……カァさ……ン」
瘴気に完全に精神を破壊されている男が続けて現れる。
障りに落ちていないのが不思議なくらいに衰退している身体に……
「ここに来て……そんな化け物一つで抵抗するつもりか?」
キリングが化物に目を向ける。
「何をしているっ……そう聞いている」
すでに取り返しのつかないところまで来ている。
勇者として、目の前の悪は斬り捨てなければならない……
それでも……
「平等な世界を作りたいんだ……誰もが笑って暮らせる……障りに怯えることなく……」
虚ろな瞳をこちらに向ける。
「……この世界を壊して……ですか?」
俺はマナトの行き着いた答えを尋ねる。
「……なぜ、幸福を平行にすることが悪だ……なぜ、不幸を平等に振りまくのが悪なのか……」
光の無い瞳を……俺やセティ、リプリスへと向ける。
同じ転生者として、理解を得ようと言いたいように……
そんな、理不尽を体験しこの場にいる境遇者に……
「……世界は表裏一体……持論だけどね」
飛空挺を飛び降り、遅れてナキがその場に合流する。
「元学園長、あんたの言うことは美しい……実にね……でも、それだけじゃ駄目だ」
ナキがマナトを睨みながら言う。
「それに……幸せの価値観なんて、人それぞれだよ、学園長の言う、幸福が平等が……誰かの同等とは限らない」
ナキがそう否定する。
「自分の不幸を知っているから他人の幸せを知る……そんな幸せを得るために誰かを不幸にする……」
「だからこそ……それを平等にすると私は言っているのですっ」
マナトがナキの言葉を否定するように叫ぶが……
「何度も言っているよ……平等なんて成立しないと……平等という言葉は不平等という言葉の表と裏で成立しているんだ……平等に不平等は必ず付きまとう……」
ナキが冷たくマナトを否定する。
「わからない人だ……わたしが、わたしができないお前たちに代わりそれをっ」
マナトが叫ぶ。
「……《《これが》》か?」
今までの少しおどけた口調ではなく、圧のある瞳でマナトを睨む。
「瘴気塊は、これまで……この世界で……不幸に不平等に生きた者たちの怒りや恨み……それを不条理に背負い続けた女性が苦痛に耐え続け抑え続けてきたものだ……」
すべてを憎むようにマナトは感情的に……
「それを……悪だと、この世界は斬り捨てた……そんな彼女に感謝をすることなく、限界を迎えた彼女に優しく手を差し伸べることなく、斬り捨てたのだろ……そんな彼女が不条理に苦痛に耐え抑え続けた瘴気を、この世界に平等に返す」
それだけのことだと叫ぶ。
「……それが、あんたの言う平等かい?」
そんな言葉に、臆することも、同情することも無くナキは冷たい瞳を送り続ける。
「もう少し、周りを見なよ……」
マナトがぐるりと周りを見渡す……何を言っているかは理解できていないようだが……
「世界は表裏一体……持論だけどね、きみの平等は……此処にいる者たちが不平等により成立する……結局あんたの一人よがりだ、そう言っているよ」
完全に言い返す言葉を失うように、マナトが俯く。
「ハハはハ……じゃマするナ……」
ぼとり、ぼとりとニアンの周囲にどこからか黒い繭が表れその場に落ちる。
「あトは……ボくがネぇ?」
黒い糸が、棺の中の女性を包み込む。
「ぼクが……」
その場に居る全員がさすがに動揺を隠せずに……
「なんだ……あれは……」
黒い繭の中に閉じ込めた数多の能力と瘴気を取り込み……
それは、紫色の空を覆い隠すほどの大きな影を作り出す。
「まるで……要塞じゃないか……」
リエンがその空をも覆い隠すだけの化物に向かい言う。
その源の姿はその天辺、化物の頭の辺りにある。
並大抵の攻撃は届かない……
そして……要塞となった化物は、ルディナの能力で武装するように、
要塞に近づけぬように障害物や防壁、そして砲台をも作り出していく。
遠距離攻撃を能力とするものが、ニアンの姿を狙い攻撃するが……
サイガのリフレクトの能力により、全てが反射される。
「……無敵要塞とでも言うつもりかよ」
俺は苦笑する。
足場を作り近づくにも要塞からのあらゆる攻撃がそうさせない。
遠距離攻撃は防壁とリフレクトにより守られている。
……こんな場所で余り魔力を使うわけにいかない……
だが、はやくこの壁をどうにかしなくては……瘴気が落ちてしまう。
しかし、ここに居る誰しもが、短時間でこの絶対要塞を攻略は難しい。
「……ボーイ、一ついいかい?」
いつの間にか、俺の前に立つナキが言う。
「おじさんなら……何とかできるかもしれない」
そんな役を簡単に名乗り出る。
「しかしね、ここまでの間に少し無茶をさせすぎた……片道切符なのさ」
そんな自分の能力の状況を語る。
「……その役目の代償……報酬を手に入れるために、ボーイ、君の力を今一度だけ貸してくれるかい?」
どこかやりきれない、笑顔でナキは俺に言った。
世界は表裏一体……覚悟はできている。
ナキの瞳がそう無言で俺に語る。
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