紫空
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紫色の空……
空を切り裂き、割れた空の亀裂から現れたような瘴気の塊に……
参加していた王都の防衛も忘れ、彼女を探す。
戻った彼女の父の工房で……
無人の工房。
「やれやれ……」
ゆっくり閉じた瞳を……再び開く。
「どうやら、おじさんを本気で怒らせたいみたいだね」
そう、工房の外に出ると、何処かを目指すように歩き出す。
・・・
数時間前……ギルド ブラッドファング。
「……侵攻にまわっていたか……」
右手を前に突き出し手のひらをひろげ、魔槍で一群を吹き飛ばしアストリアが言う。
ギルド、ブラッドファングの侵攻のチームに参加し、リスカとの再戦を望んでいたが……
「……ヒーロータイム、モード、白金」
ギルドの兵を一人、また一人とナイツもなぎ倒していく。
「ミスト、無理はするな……」
アレフがそうミストに忠告する。
「無常迅速っ」
レヴィの一撃で王都からギルドに進軍してきた部隊の一人が斬り飛ばされる。
「……全く……本当にサイレス家には戻れなくなったなぁ」
そう、他人事のようにレヴィが呟く。
「本当にね……裏切り者のねーさん」
王都の兵の一人として立つ弟……
「煩い……黙れ」
そう、静かに弟を睨む。
「ピタッ」
両手を目の前にかざすと、数人の王都の兵の動きが止まる。
「ばんっばんっばーんっ」
指でっぽうをひとり、またひとりとその指先を向けては、
悪戯を呟く様に言葉にする。
一人、また一人とその能力で遥か後方にその身体を弾き飛ばしていく。
それぞれが、応戦している中、
アストリアがギルドファングの生命とも呼べる魔力水晶のある塔に辿り着く。
殺気のような気配、それを読み取り飛躍し距離を取りそちらを向く。
王都の白い鎧をまとった長い茶髪の女性。
「シルバ=オールです……あなたと現在の目的は一緒だと思います」
そう、ここで私たちが争う必要は無いと告げる様に、そう冷たくアストリアを見る。
「なんだ、見たところ進軍の中じゃ両軍の一番つえー奴が来たんじゃないのかい」
軽く185cm以上はありそうな大きな身体、そして引き締まっているとはいえ、筋肉質な身体はアストリアとシルバと名乗った女の身体が一回り以上小さく見える。
「リリエット=バーサク……宜しく頼むよ」
そう大柄の女が名乗る。
「アストリア=フォースだ」
そう周りに名乗られた以上は自分もその名を示す。
そして、自然とアストリアとシルバの目線がもう一人の女性にいく。
「あ、いえ……私のことはお気になさらず……傷ついた人は私の元に」
そう真っ黒な経帷子を着て、真っ黒なナースキャップだけを不自然に被る糸目のようなほっそりした目、白く長い後ろの髪を三つ編みが左肩にかかっている。
「あんたはギルド側の人間じゃないのか?」
そうアストリアがその女性に問うが……
「同じ人間……命がもったいないじゃないですか、無くした命、奪った命の数だけ……誰かを救いたいのです」
そう女性は敵も味方も関係なくその傷の手当の手伝いをしたいと名乗りでる。
「セキラ=ヤマトです……」
そう静かに名乗りいつの間にか引いたご座に正座し、お茶のようなものを飲みのんびりとこちらを眺めている。
「相変わらず、調子が狂う……何か悪いな」
そう、自分の仲間のセキラの振る舞いを謝りながらも仕切りなおそうとする。
そして、リリエットが先手を切るようにその大柄の身体を動かした瞬間……
強大な、いかづちでも落ちたかのような音が響き……
割れた空から……瘴気が満ちるように一気に空が紫色に染まる。
そこに居る誰もが武器と能力を納め、空を見上げる。
セキラもお茶を一度、手前に置くとそのほっそりとした目をうっすらと見開き空を見る。
「きっと……あの人たちの仕業ですね……」
セキラは空を眺め、誰かに言うように……
「だから、私はあの者たちをギルドに居れることは反対したのですが……」
そう何かに不満を漏らすように呟くが、次の瞬間にその場に居る誰よりも先にそれに気づく様に……
「伏せなさいっ」
その場に居た、アストリアもシルバもリリエットもその言葉の後にそれに気が付きそれぞれにその場を離れる。
白い波動砲が魔力水晶のある塔とは別、
ブラッドファングの拠点となるギルドが一撃で半壊している。
紫色の明かりを届ける太陽の光が何か大きな障害物に遮られるように……
「……ナキ殿?」
そうシルバがその大きな飛空艇から飛び降りて来た男に言う。
ナキが離れた瞬間に飛空艇が消滅する。
「……彼はどこだい?隠すとためにならないよ」
そうナキがリリエットとセキラの方を睨むように言う。
「……彼?誰の事だい?」
そう、リリエットが返す。
「此処に居るのだろ、転生者の居場所を教えて欲しいと言っているよ、おじさんは……」
そう、ナキは少し余裕の無さそうに苛立つように言う。
「知りません……」
そうはっきりとセキラが返す。
「正直、私どもも、あの男に迷惑しているところです……これもあの男の仕業でしょう」
そう、セキラが空を再び見上げて言う。
「約束したんだよ……何処だい、ルディナちゃん……」
そう、この場にいる連中を無視してギルドの方へとナキが歩いていく。
「なんだい、あいつ……探し人が居るのに、あたしたちのギルドを半壊してくれたの?」
その探し人がその場に居たらどうなったのか……
「……殺めた数だけその魂を救いましょう……奪われた命の数だけ……魂を狩りましょう」
そう……セキラが呟く。
「……ってさぁ、どうなってるの、空」
そうリリエットが明後日の方向と会話するセキラに話しかける。
「全く……次から次へと……」
そうアストリアが空からゆっくりと落ちてくる小惑星を眺める。
・・・
ギルド、ブラッドファングの地下……
「な……なんなの?」
とある人物に囚われていたルディナが目の前の男を見上げながら……
自分とは他も囚われて来た人物が数人いて……
「やめろ、やめてくれっ……」
命乞いするように、サイガ=リフレクトが叫ぶ。
「ギヒヒ……とぉさん……僕が……僕がね……」
辛うじて人の形をしたものから、触手のように伸びた腕がサイガの頭を鷲掴むように宙に持ち上げている。
「嫌だ……キールっ、キール……たすけ……」
そうクラスメイトのキール=トランスへ助けを求めるが、
黒い繭のようなものに取り込まれるように、ぐったりとその声も届いていない……
「……ニアン……先輩なの?」
目の前の変わり果てた男の姿の名をルディナが呼ぶ……
「世界ガヲわる……セカイおわル……」
「いやだ……いやだ」
必死に足掻くサイガの身体がキール同様に黒い繭の中に閉じ込められていく……
そして……
「いや……」
サイガの顔だけ覗かせた繭をボトリと地面に落とすと……
ギロリとルディナの方へ顔を向ける。
次はお前と言うように……
「ボくね……ぼクがネぇ……?マなトヲとぅサん、リざヲかあサん!」
そんな偽者の両親の名を懸命に叫ぶ……
小さな頃に両親を失った……
そんな自分を代わりに育ててきてくれた……
「いや……来ないでっ」
創り出した銃で、ゆっくり歩いてくる、ニアンらしき男に向け発砲する。
が、銃弾は届くことなくサイガのリフレクトの能力にかき消される。
「……ヲ前ノ能力ガ必要ダト……父サンガ言ッタ……」
「キョうリョク……シナいと言ウノナラ……」
こうするしか無いと……
サイガと同じように触手が腕のように伸びてきてその身体を捕らえる。
「いや……助けて……助けてよ……」
そう届く事が無い声を必死に……
「ムだダ……」
ゆっくりと黒い糸が巻きつくように、黒い繭がルディナの身体を包んでいく。
「たす……け……」
必死に右手を伸ばす……
願望が見せた幻影だろうその姿に……
「……とことん、悪趣味だな……君たちは?」
そう、ルディナが手を伸ばした先の男が、ニアンの後方から言う。
「さっさと、その手をはなしなよ……君にまだその理性が宿っているのなら……ね」
そう頭だけをナキに向けたニアンとナキが睨み合う。
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