フェイク
体育の授業……
グラウンドを走らされている。
まぁ、元の世界でも中の下といった成績だった。
そして、何よりも異世界は、
そもそもの基本能力が違い過ぎる。
よって授業の内容も、元の世界よりもハードな内容だ。
異世界に来て魔力というものを手に入れて、
その扱いに慣れていくにつれて、
身体能力にも応用でき、そのやり方が身についてはいるのだが……
やはり、俺なんて人間はその能力を駆使しても、
中の下というところか。
まぁ、魔王の魔力を借りれば、
そこそこ上位に追いつけるのかもしれないが……
軽々しく使う力でも無ければ、授業で使う訳にもいかないだろう。
そして、新しく来た教師、長い黒い髪……白いYシャツに黒のズボン。
ほっそりとしたその身体はをよりスタイリッシュに見せる。
一児の母とは思えないほどに若く見える。
そして、刀術界に置いてその名を轟かせている人物。
木刀を片手に自分の肩に引っ掛けながら、こちらを睨んでいる。
「お母さんが……先生……不思議」
自分の肩あたりで頭が上下する。
クロハが俺と平行して走っている。
いや……平行と言っても、3周差がついている。
もちろん、修羅をつかっているわけじゃない……
まぁ……俺程度の目で語るのもあれだが……
特殊能力を抜きで見れば、技術的な面では現時点では……
俺が出会った中では彼女の域に居るものは居ない……
そう思わせるだけの実力と魅力があの刀技にはある……
「さっすがは私の愛娘……ズバ抜けて可愛いくて早いな」
そう誇らしげに頷きながら、その顔を崩し俺の方を見る。
「……それに比べると……愛娘を誑かすには随分と……」
ぶつぶつとイロハが言っている。
「……おい、レス……お前は補習だ」
何故か俺にだけ木刀を片手に持つ教師が俺に言う。
「な……俺より遅い奴は他に……」
理不尽だろ……俺の後ろの連中も……
と後ろを見てその言葉を止める。
くたくたで今にも倒れそうに走る……
レイン、クリア、リヴァー。
その後の授業など全く身に入らないほどぐったりだった。
「あの、新入の教師……やばすぎるだろ」
放課後の教室……レイン、クリア、リヴァーと俺の四人はぐったりと身動きを取れずにいる。
ヴァニとクロハに関してはケロッとしているが、
俺ら4人と一緒に勝手に近くの席を陣取っている。
ガラリッと教室のドアが開き……黒髪の教師が現れる。
クロハ以外の全員が思わず背筋を伸ばすように身構える。
別に言い聞かされたわけでもないのに、
何故か全員が姿勢を正し身構えている。
「愛娘……帰るよ」
そうクロハに言い……後ろを向く。
……なんだ、補習というのは冗談だった……
のか……とぬか喜びしたところで、
首後ろの襟元がぐいっと引っ張られる。
「ちょっ……首が絞まってる……」
俺が必死に訴えるが、俺の両足が反対向きで地面をひきずられるような体制で教師に連れられていく。
「……あやつは誘拐されるのが趣味なのか?」
……そう教室から消えるレスの姿を見ながらレインがそう口にする。
「……と……止めるべきか?」
ヴァニも思わず動作できず見送ることしかできなかった……
「い、いえ……教師と生徒……あくまで補習です……」
そう、リヴァーは口にしながらも……
「わたしが追いかけるっ」
そうクロハが椅子から飛ぶように立ち上がると、
母とレスの姿を追った。
・・・
シラヌイ家の庭……そこにたどり着くとようやく身体を開放される。
冗談抜きでここまであの体制のまま引っ張られてきた。
「レ……レス……大丈夫?」
その隣を何度か心配そうに覗いていたクロハが横たわる俺を覗き込むように見ながら言う。
「レス……構えろ」
そう、イロハは言いながら能力では無い鞘に収まった木刀を持ち出す。
「ま……待って……何がどうゆう流れだ……これは?」
俺は立ち上がりながらも鞘から木刀を抜いているクロハの母に言う。
「……先の学園との対戦、魔王との戦い……今日見た能力では俄かに信じ難いが……愛娘を護るだけの実力があるのか……託せるだけの器なのか……補習してもらうぞ」
「……手加減なんてするなよ……」
そう言いながら、完全に能力なしで木刀を右手にその鞘を左手に持つイロハ。
やる気のない構えで立っている。
完全に手加減されている……
「……なっ!?」
防御魔力を右手に宿し、自分の頭の横に構えると木刀が右腕に直撃する。
「ぼさっとするなよ……本気で戦え……でなきゃ死ぬぞ」
そう不適に笑う。
「ま……待ってくださいって、俺の力……防御……防ぐ……しか……って」
再び問答無用に振り回される一撃を結界をはり防ぐ。
「なるほど……無能力とは言え、私の魔力を宿した木刀を軽々しく防ぐか……」
そう俺の結界を観察するように……
「ならば、3分持ちこたえてみろ……もちろん、攻撃し私を倒しても構わんぞっ」
そう再び木刀を振り回す。
その一撃も結界をはり防御する。
相変わらず、だらりと力なく構える。
木刀を持った右手がすぅと動き……
思わずその木刀の剣先に目を送る。
次の一撃に刃の先に目を凝らす……
「っ!?」
次の瞬間……イロハの姿を見失うと同時に……
「ぐっ……」
右側頭部に強い衝撃がはしり、ぐらりと身体がよろける。
イロハが左手に持った木刀の収まっていた鞘……
木刀を囮に、鞘で攻撃……
木刀ではなく鞘で俺の側頭部を強く叩いた。
「レス……?」
少し心配そうにクロハが叫ぶが……
「……見ていろ、クロハ……母の刀術を……彼の動きを」
そうイロハが俺を見ながら、クロハに言う。
……どうなっている……
「……戸惑っているか……さすが察しはいいようだな」
そうイロハが少し感心するように……
「イザヨイ……私の旦那の性だ……」
そうイロハが俺の疑問に答えるように……
イザヨイの刀術を語るクロハの戦い方……
正当に型にはまった……そして力強さ。
なのに彼女の戦い方は……
型にはまらず、人を惑わすような……視線、注意を奪い……
その一瞬を刺す。
「私の刀術は実践にしか向かなくてね……娘に伝授するには、私が誰かと死合うところでも見てもらわないとならなくてさ……まぁ、まずはイザヨイ流を皆伝して、私の流技も覚えてもらえば私の愛娘は世界最強だよ」
そう嬉しそうに頷く。
その死合う相手に、娘に自分の技を見せるのに俺を利用しようと言っているのだろうか……
「ほら……まだ1分しかたっていないぞ」
身体を左に旋回させて右手の木刀を振り回す。
その進路に結界をはりその攻撃を防ぐと、
今度は逆にイロハは身体を旋回させると、
今度は鞘で俺の頭を狙う。
左手に防御魔力を宿しその攻撃を防ぐ。
「……いいぞ、レス」
そう楽しそうにイロハが言う。
久々に自由に戦える遊び相手を見つけたように……
「気を緩めるなよ……」
そう楽しそうに……
木刀を天に構え……
太陽が丁度木刀の先にあたり、日差しに一瞬目が眩む。
「っ!?」
右手に防御魔力を宿し、顔の前に構える。
振り下ろされる木刀は俺の目の前の地面に振り下ろされる。
「くっ!?」
(レス……)
魔王の力が瞳に宿る。
瞳の色がエメラルド色に変色し……
即座に左腕に防御魔力を送ると、
左に腕を伸ばすと、その鞘を防ぐ。
「やっと……能力を見せたか……」
フィルの能力を引き出され……
それでも、その動きに瞳を追うことがやっとだ。
イロハが不意に右手を振りかざし、木刀で地面を強く叩く。
思わず、瞳がその動きに誘導されるように木刀の動きに合わせるが……
「……くそっ」
すぐにエメラルドの瞳を鞘に向ける。
(レスっ!!)
そのフィルの頭に直接響く声に、俺は再び木刀に目を向ける。
地面を叩いた木刀を振り上げ木刀の裏側が顔面に迫る。
フィルの魔力が両足に宿ると、体制を崩し木刀をなんとか回避する。
木刀の先が前髪をかするほど、ぎりぎりで……
……フェイクからの攻撃……それを読まれると読んで、フェイクから攻撃と見せかけての攻撃……
……いや、そんな生易しい相手では無いようだ……
思わず冷や汗が出る。
「完全に……瞳を読まれている……」
そう悟る……
瞳がどちらを見ているか見てから後出しで行動している……
読み合いははじめから負けている……
ようするに防御一手では適う相手では無い。
両腕に防御魔力を宿す。
エメラルド色の瞳で相手を見る。
「ふっ……」
イロハが冷たく小さく笑い……
「ようやく、凶悪……瞳になったな」
そうイロハが言い、木刀と鞘を強く握る。
両手を振り下ろすと木刀の先と鞘の先が地面を叩く。
俺は瞳を一切動かさず、イロハを一点に見つめる。
左手を突き出し、木刀を受け止める。
そして、時間差で右手を突き出し鞘も受け止める。
そのまま、地面に両手を叩きつけると、
無能力を一時的に無力化して、
そのふところに一気に飛び込む。
イロハは全く表情を変えることなく……
その場に飛び上がると空中で身体を何度も旋回させながら、
その遠心力で鞘を振り下ろす。
攻撃態勢を崩し、右手を構える。
その一撃を防ぐが、今度は俺の腕がその鞘と共に右腕が強く弾かれ、
空いた頭を、同じく回転の遠心力で振り回された木刀が側頭部を叩かれる。
そのまま、意識を持ってかれそうな衝撃と共に後ろに吹っ飛ばされる。
……仰向けに天を眺める状態で……そんな俺の顔を覗き込む女性に、降参の眼差しを向けるが……
「ちぃっ……」
そう舌打ちし、初めて悔しそうに……
「……3分45秒……レス……お前の勝ちだ」
そう敗者に悔しそうに告げる。
・・・
「レス……がいる」
そう、家の中に俺が居るのが不思議な様子でクロハが言う。
雑にイロハに手当てをされ、頭を包帯でぐるぐる巻きにされて、
その場に現れたリプリス=オーダーから、
俺は焼きそばを調理する一式をレンタルして料理している。
リプリスはこうして、色々な場所を周っては商売をしているようだ。
「……何を作ってる?」
不思議そうに鉄板の上を眺めながら……
「……レス……作るご飯……美味しい」
そうクロハが母に言う。
「……そんなもので、(愛娘のこと)……認めないぞ」
そう……冷たく返される。
「……まぁ、取りあえず、今日のところはこれで見逃してください」
そう命乞いするように、出来上がった焼きそばと、リプリスから日本酒も受け取るとコップにそれを注ぎ一緒に渡す。
「……」
黙って焼きそばを口にして……
「おぉ……」
思わず声を漏らしながら……
酒を口につける。
驚くように目を見開きながら……
「……レス……シラヌイ家はいつでもお前を歓迎するぞ」
そう、ポンポンと肩を叩かれる。
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