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81点の王子様

 学園の屋上……

 昨日の長かった一日が嘘のように、

 太陽は沈みかかっていて……


 オレンジ色の空の下、

 松葉杖をついた、教師が屋上のフェンス越しからそんな空を眺めながら、

 タバコのようなものをくわえている。



 「いい加減に頭を上げろ」

 ずっと頭を下げていた俺に、フレアが言う。


 「おまえのせいでもないさ……わたしのせいで……も……」

 そう、自分に言い聞かせるように……


 「……皆を守りたかった……クラスの皆、理不尽に世界に嫌われた奴を……全員守りたくて……守れてるつもりで……守っていたつもりで……正義も悪も敵にまわした……結局何が守れたのかもわからなくて……」

 そう……まとまらない謝罪ことばを口にする。


 「だれのせいでもない……」

 一歩進むのも大変そうな身体で、松葉杖をつきながらこちらに歩いてくる。

 そのまま、俺の前で体制を崩すように、胸元を掴むように、

 俺に体重を押し付けるように、俺の身体は屋上と校舎の出入り口のある扉横の壁にたたき付けられるような格好になる。


 「……弱さを見せるなよ、優しさを見せるなよ……」

 誰のせいでもないという言葉とは別に……

 強い感情をぶつけるように……


 「そんなことをされたら、私はおまえかを恨まずにいられないじゃないかっ!」

 フレアは俯きながら、俺の胸元を掴む力だけが強くなる。


 (レスっ……くそ、なんて結界まりょくしてんだよっ)

 ……疲れている……のか……

 先ほどから……まるでテレパシーのような声が頭の中に時たま響くように聞こえる。


 「そのせきにんは……俺にある……その感情けんりはあんたにある……」

 そう俺はフレアに告げる。


 「……どうでもいい、もう教師わたしには関係ない」

 そう言って、俺が開けた入ってきたドアの方へゆっくりと向かう。

 

 (おい、レス……レス、止めてくれっ)

 そんな幻聴はとりあえず無視して……


 「これは、預かっておく……あんたには特別組おれたちが卒業するまでは居てもらわないとならないからな」

 そう退職届と書かれた封筒を見せる。


 「なっ……いつの間にっ」

 返せと再び俺の方へと駆け寄ってきて、そのまま体制を崩して倒れる。


 俺は咄嗟に結界をフレアの前に張ると、

 その結界によしかかるようにバランスを保つ。


 (結界まりょくが弱まった……)

 そう俺が結界で閉じ込めている魔力がざわめくと……


 「「なん……だ……?」」

 俺とフレアが同時にそう口にする。


 俺の胸の辺りから頭半分くらいの薄紫色の光の球体が飛び出す。


 光が収まり、そこから現れるのは……

 両手で収まりそうな、茶髪の小さな少年が浮いている……

 薄紫の炎の翼が背中から生えている。


 「ふぅ……やっと出れた」

 そう俺とフレアの間に浮いている妖精?小人?が言う。


 「……フィル?」

 「……どうして……?」

 俺と、フレアがそれぞれ口を開く。


 「……レス、君のおかげだ、君の結界のうりょくで僕の瘴気まりょくを体内で保ってくれている……そこに僕の魂を逃がした」

 そう小さなフィルが言う。


 「……同時に君の結界が強力で自由に出られないけど」

 そうフィルが苦笑する。


 「……人間のからだは滅んでしまったけど……こうして二人と一緒に居られる」

 そう嬉しそうに笑う。


 「……でも、そんな小さい身体で……」

 こうして、また会えた事を素直に喜びたいが、

 同じ身体で……一緒に学園生活を送れない……先生フレアに触れることもできない……


 「いいんだ……たぶん……僕はレスの中で守られていれば、瘴気を僕は取り入れられない……レスと一緒にいるうちはさ、僕はまた魔王になることは無い」

 そう俺を見て……


 「……このままずっと君の中に居る訳にもいかないけど……今まで通りレスの魔力を強化したり、手伝うことくらいはできる」

 完全に置いていかれている俺とフレアをそっちのけで、フィルが話し続ける。


 「それに、魔力が小さいせいかすぐに疲れて、1日のほとんどは寝ているから、レスのプライベートにもそこまで干渉しないよ」

 そう安心させるように言う。


 「ほんとうに……フィル……なのか?」

 そう、おそるおそるに、フレアがその小さな身体に触れる。


 「……うん」

 そうフィルが言う。


 「先生……皆で一緒に卒業しよう」

 そうフレアはフィルに言われ……


 小さく頷いた。


 ・

 ・

 ・



 街にある小さな工房……


 「当たり前のように上がり込んでおいて言う台詞じゃないけど、昨日だけではなく今日までお世話になって」

 そう寝床の無いナキは家族ちちのいないルディナの工房いえで……


 「……他に行く宛があるの……」

 そう工房の長いベンチのような椅子に座るルディナ。

 そのルディナの斜め前あたり立っているナキ。


 「まぁ……野宿くらいやってみせるよ」

 なんだか、落ち込むように俯いているルディナを横目に……


 「……勝手にすれば」

 そうナキの方も見ずに言う。

 学園の闇から開放された……

 でも、それは同時にすがるものが無くなった。

 不安だけが彼女の中に残っている。


 「野獣おじさんは、野獣らしく、明日まで外で居るよ」

 そう、遠慮するように工房の外に出ようとする。


 「……そう、勝手にすれば」

 そう俯いたまま繰り返す。


 「って……ルディナちゃん?」

 ナキの袖を掴んだルディナの左手。

 強く掴んだそれを離さない。


 「……野宿って……どこでするつもり、魔王が消滅して……散り散りとなった瘴気が行き場を失ってさ迷ってる……ナキなんて化け物に食われてお終い」

 そう……俯きながら貶されれる。


 「それじゃ……他におじさんをかくまってくれる様な場所を探すよ」

 そうルディナに言う。


 「……勝手に……すれば」

 そう袖を掴む力だけが強くなる。


 「……ルディナちゃんのためでもあるんだけどな、おじさんと二人だけで……今日、明日は問題なくても、ルディナちゃんみたいな魅力的な女性の隣でいつまでも紳士せきにんを守ることできないよ」

 そうナキが返すが……


 「困る……」

 そう相変わらずナキを見ず俯いたまま……


 「困るんだよ……ナキに此処わたし以外の居場所があったら……だって、ナキは私が召喚した……お母さんが居なくなって、お父さんが居なくなって……学園の協力も無くなって……私に残ったのは……」

 そう怯える瞳がようやくナキを見る。

 今日、今……捨てられる子犬のような目で……


 「……私に残ったのは……81点の王子様あなただけなのっ!」

 そうルディナがナキの背中にしがみつく様に……


 「……81点……随分と中途半端な王子様にんげんでいいのかい?」

 そんなナキの言葉に……


 「……80点満点中……81点っ」

 そうナキの背中で震える女性が言う。

 捨てられたくない……誰にも渡したくないと必死にその手を……


 「満点って言葉が破綻しちゃってるよ、ルディナちゃん」

 そう苦笑いしながら振り返るナキに……


 「満点どんなものよりも……私には大事すごい……人……」

 手放すことは簡単だ……

 後悔することも簡単だ……


 でも……手に入れることは……


 「……だから、(この手は)……離さない(から……)」

 口下手ぶきような彼女の告白に……


 「……全く嬉しいこと……言ってくれるよ……」

 その身体を抱きしめれば……もう手放すことなど許されない。

 そう覚悟しながら……


 その積み上げた小さな幸福も不幸も……全部、全部、受け入れる覚悟を……


 「馬鹿……二度は言わないっ!」

 そう背中にまわされるナキの両手に包まれ……安心したせいか……流れる涙を、嬉しそうに恥じるように頬を赤らめる顔を悟られないようにその胸に顔を埋め見られないように隠す。


 誰にも渡さない……そんな醜い自分を隠すように……その胸の中に……

 こんな場所に……召喚して……ごめんなさい。

 召喚されて……ありがとう。

 ようこそ……私の……満点以上《81てん》の王子様。

ご覧頂きありがとうございます。


少しでも面白い、続きが見たいと思って頂けたら、

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また、気に入った話面白かった話があれば、イイネを添えて頂けると

今後の物語作りの参考にさせていただきますので、あわせてお願い致します。


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