思念
「ねぇ、本当にだいじょおぶ?少し休んだほうがいいよぉ」
そうヨウマが後ろを振り返り、ぼろぼろにツキヨとクレイを交互に見る。
一人は連戦で体力も魔力も使い果たし、
一人については、付随して血も足りていない。
そして、彼女も妖刀の瘴気を浴びすぎている。
「私は心配無い……先走ったあの一年坊主どもの方が心配だ」
そう、ヴァニとリヴァーを指してクレイが言う。
「そう、クレイちゃん、どう見ても顔色悪いよ」
そうヨウマが返す。
「体内から血の気が引いて胸も縮んだんじゃないのか?」
ツキヨの言葉に殺意の目が送られる。
「もう……ツキヨちゃん、それはぁ、最初から!」
そう、注意するヨウマの頭に……
「むきゃっ!!」
ヨウマの頭に凄まじい拳が落ち、奇妙な悲鳴が響く。
「えっ……なんで、わたしぃ?」
自分がなぜ叩かれたのかわからないように嘆く。
「無自覚、天然ほど……殺傷力があるんだ、ヨウマ」
そうツキヨがヨウマへ忠告する。
「よくわかんないけど……ずるいよ」
そう、頭をさするヨウマだが、
「勝手にヘイトをすべてかっさらってくれたのはヨウマだよ」
そうツキヨが返す。
「まぁ、割と元気が余ってるじゃないか……」
「いつも、いつも私ばっかりぃ……」
「確かに……血の気のせいで、縮んだ気がする……本来……もう少し……」
それぞれ、3人がぶつぶつと口にしながら山を登る。
そして、登る先に、またも待ち伏せる二つの影。
黒いマントとフードをかぶっているが二人とも男だろう。
構える3人……険しい表情で目の前の二人の男を見るが……
クレイの瞳が鋭く一人を睨んでいる。
一人が槍を開放し……
もう一人が刀を開放する……
「コードネーム……イオタ……こっからさきは通さん」
槍を構えた男が言う。
刀を持つ男は無言でやる気のなさそうにそっぽを向く。
「カッパ……何をしている」
そう呼ばれる黒尽くめの男。
「それ……おれのその番号みたいのどうにかならねぇのか?」
そう呼ばれたことに萎えるように……
「いいか、二度とその名で呼ぶな」
そう何やらキれている。
左手は男にしてはきれいな細い腕……
だが、右手は黒い包帯をぐるぐる巻きにしていて……
手には鞘に収まった刀を握っている。
「全員……妖刀は使うな……」
そうクレイが言う。
これ以上の瘴気を浴びること……
特に妖刀の瘴気の強いヨウマは障落ちしてしまう……
「抜刀……っ」
そうクレイが無名刀を開放する。
「咲けっ……初桜っ」
ツキヨが続く。
「睡れっ……睡蓮っ」
ヨウマも構える。
「どいつもこいつも……ぼろぼろじゃねぇか」
そうカッパと呼ばれることを嫌う男が前に出る。
男は塚を握ると、左手を鞘にかける……
「天罰っ……天叢雲剣っ」
黒い包帯の手のひらにその刀が握られる。
その凶悪を開放し、ただ黙って3人を見下ろしている男。
「……どうした、カッパ……かかってこないのか?」
そうクレイが挑発するように……
「その名で呼ぶなと言っている」
そう小さく不満を漏らす。
「……別に罪悪感を感じているつもりはねぇけどな……その面に並ばれるとさすがに萎えるってもんだろ」
そうカッパは……漏らす。
「何しているっカッパっ!!お前がやらぬなら俺が行くっ」
そうイオタは槍を目の前に突き出すように構えると、地面を蹴り前に突っ込む。
「……その名でよぶんじゃねぇーーーっ!!」
右手に振り下ろした刀の刃がイオタの槍の先端を捉え、
その勢いで槍の先が地面に突き刺さるように、イオタの動きが止まる。
「なんのつもりだっ……おまえっ!!」
鋭い槍捌きでカッパの額を狙った槍の先を頭の動きだけでそれを回避する。
ちりちりと男の髪の毛が数本宙を舞い……
マントのフードを突き破るようにその素顔が現れる……
「俺の名はユーキ=クサナギ……二度と妖怪みたいな名前で呼ぶんじゃねぇ」
そう男の癖に綺麗な顔の瞳でギロリとイオタを睨む。
「……あの男……」
ツキヨの瞳に光が消える……
同じくヨウマの目に光が消え……無表情に睨むように刀を握る手に力が入る。
「……憎いか?殺したいほどに……」
ユーキは楽しそうに笑いながら……
「母殺し……てめぇらの仲を裂く原因は全部俺にあるからなぁ」
そう振り返り3人を見る。
「あの日失った右手の代わりに手に入れた義手も、元の腕以上に調子が良い……高い買い物だったがさすがは能力者の一級品だ」
そう左手で右手を撫でる。
「どうした……弟子……お前は師匠に、何か言いたいことはないのか?」
そうクレイを見る。
「……全部……演技だった……あんただって、最初から知っていたんだろ?」
そうクレイが少しだけ戸惑うように睨む。
「……嘘か……そうだな、知っていたさ」
そう少しさびしそうに笑うユーキに……
「知っていたさ、その嘘は、仲間のためのものだと……その生活は俺の幻想だと……」
そう誰にも聞こえないように呟き……
「裏切り者だっ……こいつを捕らえろっ殺してもかまわんっ!!」
イオタが周りの兵にそう叫ぶ。
兵とは言え、能力者……特殊部隊には及ばぬとはいえ、
束になられれば……
「……生きるため……なんて理由を並べていたとはいえ、人斬りで生きてきたんだ……いいぜ、首のいらねぇ奴からかかってきなっ!!」
そう、不適な笑みを浮かべる。
再び3人に背を向けるユーキ。
「背中はがら空きにしておく……3人のうち誰でもいいぜ……好きな時に好きなタイミングで俺の首を持っていけ」
そうユーキは3人に叫ぶように呼びかけ……
「……俺が立ってる間は……邪魔はさせねぇ、一人たりとも邪魔させねー、一人残らずその首を掻っ切ってやる……俺が立ってる間は護ってやるよ」
「何のつもり……いまさら……」
そうクレイがその背に語りかける。
「自分の天罰くらいは……自分で決めるさ……」
そう呟くように返す……
・
・
・
リヴァーを先頭に山を登り続けていたところ……
「デルタ……」
短剣をフレアに突きつける男が一人の男に命令するように……
デルタと呼ばれた男は手足にグローブと具足のようなものを能力で身にまとうと……
「くっ……」
突然、ヴァニが頭部を蹴り飛ばされるように地面を転がる。
「人質にはもう用は無い……ここに置いていく」
任務に少しでも危険になる……それは全て排除する。
目的はリヴァーが入れば達成される。
「ヴァニさんっ!!」
そうリヴァーが叫ぶが……
「貴様はさっさと、歩けっ!!」
そう案内を続けろと叫ぶ。
両手を拘束されたまま、ゆっくりと立ち上がる。
「……もう、失うものなんて無いって思ってたんだけどよ」
そう……ヴァニは俯いたまま呟く。
「……母さんも……ねぇちゃんも……親父も俺の前から姿を消して……」
そう過去を振り返り……
「そんな親父も……」
そう今を振り返る……
「……もう、奪わせねぇ……相棒との学園生活だけは、奪わせねぇっ」
そう拘束されている両手が燃え上がる。
・
・
・
ゆっくりと迫る足音に……
本当は全てを理解している……
そんな幸福が無いことくらい……
彼や彼女……大好きになった人の努力を否定にするのが……
ただ、怖くて……受け入れたくて……
何時間……ここに身を潜めているのだろう……
ようやく、牢獄から出られたと思えば……
こんな運命に……僕は感謝なんてできるのだろうか……
それでも、僕は魔王であったからこそ……
出会えた人が居たことに感謝をするのだろう……
「……レス……ありがとう」
そう……伝えることが叶わないかもしれない相手に……
「……先生……あなたの事が好きでした」
結局……答えが聞けなかった……
気がつけば沈んだ太陽……
真っ暗な夜空から月の光と星の光が真っ暗な世界を照らしていて……
「……きれい……だな……一緒に見たかった」
どちらに対して言った言葉か……
「……一緒に卒業しよう……」
あの日、出会った君にそれも全部一緒に託した……
その意味を君に教えられる頃には……
「……きれいだな……」
そんな今の境遇すら忘れるほどに……
その空を始めてみたかのように……
手を伸ばす……
手は届かない星に伸ばすように……
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