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エッセイ

油断や慢心が人を落ちこぼれさせる

 小学校3年か4年の時のことだったと思う。


 私は母に手を繋がれ、なんだか大きなガラスの多く張られた、静かな林の中にある何かの施設に連れて行かれた。

 そこにはテレビドラマで見たことがあるような、白衣姿の研究者みたいな大人達がいて、母は「よろしくお願いします」と言ってその人達に私を預けた。


 そよそよと林を揺らす風の音が爽やかだったのを覚えている。私の前には次から次と、テスト用紙のようなものが置かれ、研究者みたいな人達が優しく、遊び方を教えてくれた。


「これは何に見えるかな?」「この図形の仲間はこの中のどれだと思うかな?」みたいな、ゲームみたいなテストは楽しくて、私は嫌がることなく進んでそれをこなして行った。


 自分がSF漫画の中に入り込んだような、とても非日常的な匂いに包まれたひとときだった。





 今、母はことあるごとに、他人にその時の話をして聞かせる。


「この子はもしかしたらバカなんじゃないだろうかと思ったけん、児童相談所に連れて行ったんよ。そうしたら相談所の人が『お母さん、何を言ってらっしゃいます。この子は天才ですよ?』って言われたんよ~。IQが180もあったんだって!」


 今はただ恥ずかしい。

 確かに私は上履きの左右がわからない子だった。九九がクラスで1人だけ最後まで出来なかった。九九の意味がわからなかった。

 そんな私のバカエピソードを具体的にバラさないまでも、匂わせなくたっていいじゃない。

 何より本人のいる前でそんな今は昔のどうでもいいことを自慢しないでほしい。

 母はよく話を盛るので、IQ180というのも作り話だろう。



 しかし、子供の頃にそれを聞かされた私は、慢心した。


 私は天才だったのだ! と喜んだ。


 自分でも自分のことはバカだと思っていたのが、じつは違ったのだ! と。



 私は怠けに怠けた。


 遊びに遊んだ。


 教科書は今まで以上に落書き帳と化し、テストの成績は相変わらず悪かったけど、私は天才なんだから勉強なんかしないでいいんだよと、自信たっぷりに自分に言い聞かせた。勉強以外のこともテキトーに楽しむだけで、何かに打ち込むなんてことはなかった。ほぼエレベーター式に中学に上がり、2年の時に学年総合最下位という不名誉な成績を収めても、凄いじゃんなかなか出来ることじゃないじゃん最下位なんて、天才とバカは紙一重って言うけど本当だね(笑)などと余裕をかましていたら高校受験に滑り、それまで県下一のエリートコースを進んでいたのが下から数えたほうが早いレベルの滑り止め高校に入学した。


 それからの人生はドロップアウトの連続である。





 今、もしあの頃の自分に会えたら、言ってやりたい。


 油断するな。


 慢心するな。


 努力を怠ればあっという間に転落人生だぞ。いやお前は元々努力なんかしてなかったか。


『こんぐらいでいいか~』『後でやればいいや~』『私は天才なんだからやらなくても出来るしぃ~』はやめろ。


 世の中はお前の思い通りに行かないのが普通なんだ。


『神様がどうにかしてくれる』とかすぐに思う癖を今すぐやめろ。


 戦え!


 剣を抜いた手をボケ~ッと垂らすな!


 気を抜いたら誰かに殺られると思え!


 褒められるより批判されることを喜べ!


 慢心して手を抜くな!


 なんて言ってももう遅い。


 私は大人になってしまった。


 せめて、君達よ


 私のようにはなるなよ?


 私のようにはなるな。


 油断せず、慢心することさえなければ、


 それさえしなければ


 あとは遊んでたっていいんだからね!



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― 新着の感想 ―
[一言] 遊ばないといい大人になれません(しみじみ)。 今はグーグル先生がいるのでインプットだけでは生き残れない。面接とかもね。 まあそれでも何とか生きてます。天才崩れのふりをするただの酔っ払いでもw…
[良い点] わかる。わかります。 結局努力する天才じゃないと、意味がないんですよね。 でもまぁ。 凡人のほうが幸せだと思います。 天才は孤独だもの。
[一言] 自分のIQ高いとか思ってた時期が、たらこにもありました。 あんまり意味ないよね、勉強しないと。 でも……勉強できても、結局はおなじじゃね。 コミュ力備わってなかったら意味ないんじゃね。 っ…
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