怪しい2人
巨大なネズミが道路を走り回る新宿の薄暗い路地、そこにある建物内の「鍵乃島カンパニー」。そのオフィス内にあかりが新幹線内で会った男2人が立っていた。痩せ型の師山と背が低く太めの拝川である。表向きは会社とはなっているが、所謂反社会的勢力の事務所であった。
彼らの前には大きな机に座った白髪の鍵乃島社長と言われる彼らのボスがいて、その横で我池と言う身長2メートル近くの大男が立っている。
師山は「これが金です。」と封筒を社長に渡し「チョイと脅したら300出しました。次は国政を狙ってるようなんで面倒事は困るんでしょう。海の方は何も来なかったです。寒い中、荒海だけ見て帰りました。何にも無い所ですね。」と言った。
鍵乃島は「ご苦労さま、取り分は用意しとく、帰ってゆっくりしてくれ。いつも悪いな。」と言った。
2人は「へい。」と言って部屋を出ようとしたが師山は振り返って「こんな事なら竜二にも出来るんじゃないですか?社長の甥御さんなのは承知してますが、ちょいと甘くはないですかねぇ?」と言った。
我池が「おいっ!」と怒鳴ったが、鍵乃島は彼をなだめる様に手を上げて「お前の言う通りだ、あいつにもいずれは色々やってもらわねばならない。だが、あいつはお前の様に器用でないんだ。お前のおかげでこの会社は何とかもってるんだ。もう少し待ってやってくれ。感謝してるよ。」と言った。
師山は「お言葉、嬉しいかぎりです。」と言って出てドアを閉めた。
外の車の発車音を聞くまでしばらく黙っていた2人だったが我池は近くのゴミ箱を蹴って鍵乃島に「横流しの噂も本当でしょう。独立計画してるってのも耳にします。黙ってたらつけあがるだけですよ。」と言った。
鍵乃島は「まぁ、あいつのおかげで何とかなってるのは本当だ。大目に見てやれ。」と言った。
我池は「後、竜二に甘いってのは自分も同感です。」と言った。
鍵乃島は机の上の大きな写真立てを手にして眺めながら「我池、いつまでこんな事やってられるとおもう?」と聞いた。
我池は「私はこの社長の為ならいつまでも何だってやりますよ。」と言った。
鍵乃島は「いやぁ、昔もその時の状態がいつまでも続くと思ってたよ。だけど世間様が変わってしまったらどうにもならねぇ。」と言った。
写真立ての写真には若き日の笑顔の鍵乃島と一緒にかつての有名プロ野球選手、関取、流行歌歌手などが写っていた。
鍵乃島は「人に頼られるのが嬉しくってよう、気がついたら皆が神様で俺だけ悪魔になっちまってたよ。」と写真立てを撫でながら呟いた。