新幹線
昨晩は所謂寝落ちだったのであかりは目覚まし時計を設定していなかった。
あかりは大急ぎで支度すると部屋を出た。
イベンターと東京で会うのは11時の予定。
何とか急げば間に合いそうだ。彼女は外で運良くタクシーを捕まえて新潟駅へと向かった。
「さっむぅ、さっむぅ。」あかりはタクシーから降りるとそう言ってまた「雪は踏む、雪は踏む」といった具合に歩いて駅の入口まで来た。
彼女は改札前まで行き時計を見ると後数分なので急いで特急乗車券を買い、ホームへと向かった。
新幹線に乗るとあかりの指定席券の場所に別な人が座っている。2人組でいかにもガラの悪そうな男と小柄な男だ。
少し怖かったが「すみません、こちら…。」と聞くと「あぁ、これは失敬、失敬。」と言って2人は慌ててドアを出て別な車両へ向かった。
あかりはバックを上に置くとシートを少し倒して企画書に目を通した。
窓の外は凄いスピードで雪をかぶった田んぼが横切ってゆく。
大体の場合、彼女が出張に行く時はこの様に資料や企画書に目を通しながらの移動で、帰りは爆睡である。
なのであまり景色を観ていない。
彼女は入社以降何度か県外イベントへ出かけているので日本がどんどん狭くなる様に感じていた。
ドアが開いて車内販売員が入ってきた。
「あっ、すみませんお茶ください。」
あかりは温かいお茶を注文した。
企画書を閉じてお茶を飲みながら窓の外を見た。雪山の少し禿げた様な場所が見える。スキー場みたいだなと彼女は思った。
猛をスキーに誘ったが猛はスキーをした事が無いと言ったのを思い出した。
その時は「それよりうちの一大イベント手伝ってよ。」と家の雪かきを手伝ったのだった。
厳しい気候環境で育った猛と都会育ちのあかりでは雪に関する感覚が違うのだ。一歩間違えば命に関わる事なのだ。駐車場ですっころんだ所では無い。あかりは猛にとって楽しい物では無いのだろうと思った。
ご両親もあかりが雪かきの手伝いに来て大喜びだった。
「助かった、助かった。」とニコニコこちらを見る顔から「良い嫁が来てくれた」という期待感が凄く伝わってきてあかりは非情に「申し訳ない」と言う気持ちになった。
あの感じなので猛も家で「いつ結婚するんだい?」と聞かれているだろう。その度に両親にも適当にはぐらかしているのだろうなとあかりは思った。
「やっぱり、私の仕事に気を使ってるのかな?」
あかりは今どんどん新潟から離れているが、猛とはいつまでも離れたくは無いと再確認した。