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スウィート♡スウィート  作者: ゆきまる
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プリンスマート

 プリンスマートは新潟県内に多数店舗を展開する小売店である。

国道沿いに店を構え、本屋や靴屋等他社連携店舗を隣接させ、共有の大きな駐車場を備えている。

「ちょっとプリマー(もしくはプリマ)行ってくる」と言えばプリンスマートそのものでは無くてもこの範囲内のどこかのお店に行くと言う事である。それ程までに県内、とくに下越地方中心としてメジャーな場所である。毎週木曜日に「お母さんお助け計画」という食品が安くなる日があり、主婦達が殺到するので、若者達は彼女らを「プリマドンナ」と呼び恐れている。

ちなみに社長の名字が「王子」であるらしい。


 あかりは車のドアを開けると慎重に「雪は踏む」と心で呟きながら外へ出た。

新潟へ来た年に3度転び、1度は腰を強く打って数日間欠勤してしまった。復帰したあかりに年宮麻里は「踏む様に歩くの、そのうち自転車も乗れる様になる」とアドバイスした。

ジャリジャリ音を立てながら慎重に店の入口に向かった。

転んで強く腰を打ったのは正にこの店の入口前、雪解け水で溶けた雪が流れて留まって再び凍った場所で勢いよくコケた。

近くにいた子供にゲラゲラ笑われながらしばらく倒れたまま新潟の曇天を眺めたのだった。


 店内に入るといつものBGMが軽快に流れていた。

「あなたも私も王族気分でおっかいっもーのーっ♪素敵な素敵なプリンスマアットォーッ♪オーオーオーッ♪」

あかりは「姫だとか王族だとか」と独り言を呟いてため息をついた。

カゴをとり、お目当てのアイスクリームの売り場へと向かった。

彼女は巨大なショーケースの前でいつもと様子が違う事に気づく、お目当てのアイスクリームが無いのだ。

「プリンス印のアイスクリーム」

買いたかったのはプリンスマート自社ブランドのアイスクリームで安くて美味しいと評判である。

しかし、いつも置いてあるスペースがもぬけの殻になっている。

あかりは近くにいたスタッフに「すみませーん、プリンス印のアイスクリームは売り切れですか?」と聞くと「あぁ、すみません、昨日情報番組で紹介されたらしくて速攻売り切れちゃいました。」と申し訳なさげに言った。

彼女は「そうですか、ありがとうございます。」と言って出口へ行ってカゴをもどすと急いで車に戻った。

上から踏みつける様に走ったので少し足が痛い。

「あっちにも店舗があるはず。」と言って車を走らせた。

緊急事態。今日買えなければ次は一ヶ月先である。東京にプリンスマートは無いので彼女は今日どうしても買わねばならない。

次のプリンスマートが見えてきた。

「こっちは国道沿いじゃないからある!ある!あって!」と言って車を停めて飛び降りた。

もう踏みつけ走りをせずに急いで店内に入った。

また同じBGMがかかっている。

もはや洗脳状態である。最新のヒット曲は知らずとも下越地方の県民なら皆口ずさめる。

ちなみに新潟県民は県民歌はあまり浸透してないが、なぜか新潟市民歌を口ずさめる。

入ってすぐ見つけたスタッフに「プリンス印のアイスクリームって…。」と聞くと「あぁ、すみません、昨日テレビでやったらしくって売り切れです。」と言われてしまった。

その後彼女は3件ほど廻ったが全て撃沈であった。

「もう、最悪!」と言いながら車を走らせている彼女の視界に「なんでもストア プリンセス」と言う看板が入った。

プリンスマートの姉妹店である。

「ひょっとしたらあるかも。」と彼女は言って店の駐車場に入って車を停めた。

店内に入るとBGMがなっていた。

「あなたも私も王族気分でおっかいっもーのーっ♪素敵に素敵プリンセスララッラー♪ラーラーラーッ♪」

「同じじゃん」と彼女は言ってアイスクリーム売り場を探した。

レジ近くにアイスクリームと書かれた場所がありショーケースに色々と入っていた。そしてプリンス印のアイスクリームも中に入っていたのだが、彼女はため息をついた。

「バニラじゃない…。」

仕方なく抹茶味のアイスクリームを2つ買い、駐車場に停めた車の中で全部食べてしまおうと車へ向かった。

「ぎゃっ!」っと叫び声が駐車場に響いた。

彼女は曇天を見つめていた。

「お尻冷たい。」

コートからでもグッシャリと潰れたアイスクリームの冷たさが伝わった。

排気ガスで黒く汚れた雪越しに店に向かう子供が彼女を指を指して笑っているのが見えた。













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