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スウィート♡スウィート  作者: ゆきまる
13/13

公営住宅にて

 「ミコちゃん、凄いねぇ、こんなにお魚釣れたじゃん。お兄ちゃんこれしか釣れなかったよ。」

矢地路はミコにそう言った。

公営住宅の一室、矢地路竜二と時目ミコは矢地路が買ってきた「お魚釣りゲーム」でテーブルに置いて座り一緒に遊ぶミコはご満悦であった。

矢地路は黒いスーツ姿の痩せた20代後半くらいの男で時目ミコは5歳の女の子である。

ミコは矢地路に「ヤクザのお兄ちゃん、こうやって釣るんだよ。ほら、お口開くでしょ。あせっちゃダメなの。」と言った。

矢地路は「お兄ちゃんは、せっかちでダメだね!本物ならお父さんに切ってもらって食べれるのにね。あぁ、今度はお菓子じゃなくてお刺身買ってこようか?」とミコに言うと「私、お菓子の方が好き!」と矢地路の買ってきたスナック「いも恋物語」の袋に手を入れて美味しそうに取り出したスナックを食べるのだった。

矢地路はミコからスナックの袋を借りて裏の表示を眺めると「これ、俺が子供の頃からあるよ。家で母ちゃん待ってる時に食べてたよ。ミコちゃんと同じだ。新潟の会社なのか、ちゃんと表示なんか見てなかったなぁ。」と言った。

ミコは「ニーガタって外国?」と聞いたので「日本だよ、東京の反対側だよ。」と矢地路はミコに教えた。

玄関の扉が開き「ただいまぁ。あっ、矢地路さぁん、何なんですか!ミコ!勝手に他人を家に入れちゃって…。」と言って帽子を被った作業着の中年男性が入ってきた。

ミコの父親の時目清継である。

ミコは座ったまま「お兄ちゃんはタニンじゃないよ!お父さんのお友達だよ!」と清継に言った。

時目は部屋に上がり「お魚釣りゲーム」を見ると「あぁ、払いますよ、おいくらですか?」と言って財布を取り出した。

矢地路は「いいの!いいの!ミコちゃんにプレゼントなんだから。ちょっと外で話しますか。ミコちゃんじゃあね!」とミコに手を振って言った。

ミコは「お兄ちゃんありがとう!サヨナラ!」と元気に言った。

時目と矢地路は駐輪場まで行きそこで立ち止まった。

時目は駐輪場の横の柵に寄りかかると「はぁーっ。」と深くため息をついてしゃがみ込んだ。

矢地路はタバコを取り出し火をつけて吸うと時目に「時目さんねぇ、ミコちゃんお喋りするお人形さんの方が欲しかったみたいだよ!なんで買ってあげないのよ?」と言った。

時目は「あっちは高いんですよ!あんたにいつも払ってるから買いたい物も買えないじゃない!」と言った。

矢地路は「そりゃあ、もらう物はちゃんともらいますよ。でもお人形さんくらい買えるでしょ。キツキツの割りには立派なお腹してるじゃない?」と時目の腹を指さして言った。

時目は「お腹はしょうがないんですよ!あなたもその内にねぇ、僕みたいにお腹もでればこうして頭も淋しくなるんですよ!」と帽子を取り立ち上がって自分の淋しい頭を指さした。

矢地路は「いや、別に容姿をバカにしに来たんじゃないんだから。ビール我慢して少しお金にまわすとか、どうしていくか、こう計画をね、私はあなたと一緒にするのが仕事なんですよ。」と手のタバコをくゆらせて言った。

時目は「聞こえ良い様に言葉変えてるだけでしょうが!脅しだ!脅し!もう、こんにしょっちゅう嫌がらせに来て!殺したらどうですか!ほらっ!銃でパーンと撃ってくださいよ!ミコは矢地路さんが預かってくださいね!あの子はあなたに懐いてるし!大学までちゃんと出してくださいよ!」と言って手を広げて矢地路に詰め寄った。

矢地路は慌ててタバコを携帯灰皿で消すと時目の肩を抑えて「あのねぇ、映画じゃないんだから。いくらヤクザだからってねぇ、お巡りさん怖くて今時の連中は物騒な物の持ってないし、お金もらえれば俺も来なくなるよ。それまであんたの事見張ってないと。こういうのが俺の仕事なんだから。弁護士にも警察にも相談出来ないお金でしょ。バレたらあんたもブタ箱行きじゃないの?」と言った。

時目はその場に座り込むと再び「はぁーっ。」と深くため息をついた。

矢地路は乱れたスーツの襟を正して「印税とかは入らないの?昔ミュージシャンだったんでしょ?ほら、あの俳優さんと一緒だったんでしょ。歌手の横山田なんとかっていたでしょ?東京のあなた歌った人、あの1曲だけで毎年300万だって。40年以上前の曲だよ。」と時目に言うと時目は「そんな物、対してあてになるほど入らないですよ。ある程度自分が売れる曲作ってないと。」と言った。

矢地路は「そうなの。じゃあ、また来ます。ミコちゃんによろしく!落ち込んじゃダメですよ!お金苦しくても楽しい事だって沢山ありますよ。」と言って立ち去った。

矢地路が去った後、時目はゆっくり立ち上がると肩を落とし垂れながら静かに団地の入り口まで行きゆっくり階段を上がって自宅へと戻った。

彼の帽子を持つ手がぶらんぶらんと揺れている。

玄関の前まで行くと隣の部屋の山田さんと言う中年女性が時目の前に出てきて「何か困ってらっしゃったら言ってね!」と言った。

時目は一礼すると「ありがとうございます。毎度ご迷惑おかけしてます。」と言って扉を開け部屋に入った。



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