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77話

翌日は準備は何もしない完全な休養日とした。その分、アクア、ココアが大変な思いをする一日になるが、カトリーナ、ユキはジッとしていられないようで少し手伝っていた。

休養日にした理由は疲労の問題もあったが、一番の理由は暑さだ。魔導具のおかげで部屋は涼しいが、外は灼熱状態となっていた。


「お母さん、訓練場をプールにしよう。」

「プール?」

「深い水場。」

「やりましょう。」


という事で素早い了承を得られた。

しかし、水場だけ用意出来れば良いという話ではなく、


「水着無いよー?」

「お風呂と同じで裸で良いんじゃない?」

「訓練場、外から見えるんじゃ…」

「こんなこともあろうかと、ちゃんと水着を用意しておいたわ!」

『おー!』


事前に計画していたのでは?という準備の良さである。


という事で遥香が庭にプールと、念の為に外壁を作って目隠しもしてくれた。プールの水は魔導具で浄化循環し、少しだが冷やすようにもなっている。

梓はイグドラシル産の素材を使って筏のような物を作って浮かべた。

バニラの方はブレスレット型の魔導具に大きな泡で包まれて浮かべる魔法を詰めて配る。


「皆様、準備運動は忘れずに。」

『はーい!』


カトリーナ先生の言葉に、水着姿となった全員が返事をした。アクアのみがオレの側で見学である。


「アクアは入らないのか。」

「こんな名前ですが、泳げないので…」


家の中で一緒に眺めているアクア。

由来は分からないが、名前の一部なんだろうとは思っていたが…

遥香とユキが勢いよく飛び込むと、遥香は勢い良く泳ぎだし、あっという間に一往復してきた。ユキは想定外の大波と飛沫をモロに喰らって溺れ欠ける。背の高い梓に慌ててレスキューされていたが、深い所はユキの背だとギリギリ水没してしまうようだ。


「遥香様、泳ぐのも得意なんですね…」

「エルディーに居た時に猛練習したからな。最初なんて、泳いでるのか溺れているのか分からない、って飛び込む度にカトリーナが冷や冷やしてたよ。」

「おおう…そんな頃があったのですね。」

「意外なのはココアだ。」

「バニラ様の方が泳げていないですね。」

「そうだな。あの悔しそうな顔を見るのも久し振りで嬉しいよ。」

「旦那様も人が悪い…でも、分かる気がします。」


グラスに氷を入れ、果実水を注いで出してくれる。

ちゃんと自分の分も用意し、喉を潤していた。


「アリス様の水着姿がゴージャスですなぁ。」

「あれでも木っ端貴族の娘だからな。そういう意味じゃフィオナとジュリアは…」

「本当に姉妹ですか?あの二人…」

「顔と髪の色は似てるから…」


どうにもならないらしい体型には触れないでおく。


「フィオナ様も美しいですねぇ…これぞエルフという感じがします。」

「そうか。ジュリアは?」

「私の様な者では口にするには畏れ多い美貌であらっしゃいます…」

「上手く逃げたな。」


そのジュリアが勢い良く飛び込むと、えらい水飛沫が上がる。再びユキが飛沫に飲み込まれ見えなくなり、再び梓にレスキューされてしまった。


「ユキさん、わざとやってるんですかね…」

「わざとやってるにしては、なかなか苦しそうだが…」

「ですよねー…」


カトリーナの方を見ると、心なしか落ち着きが無い様にも見える。


「カトリーナさんはどうしたんでしょうね?」

「泳ぎたいんだろうか?」

「出来ればあの暴力的な肢体を晒すのはご遠慮願いたいのですが…」

「泳ぐと遥香と違う凄さがあるぞ。」

「それは気になりますねぇ…」


ついに我慢出来なくなったのか、カトリーナがフィオナに声を掛け、ついでに建てたと思われる小屋に駆け込んだ。


「ぬ、ぬのを…!」

「これは確定だな。」

「ポーションも出しておきますね…」


準備万端のアクア。

カトリーナの方も準備を終えて出てくる。


「ハっイっレっグっ…!」

「イグドラシルへ行くようになって、更に磨きが掛かったなぁ。」

「美しい…本物の美がありましたぁ…」


べた褒めするオレたち。


「全盛期は過ぎたってよく言ってるが、その頃と比べてどうなんだろうな。」

「やっぱり胸のものが邪魔なんですかね。カトリーナさん、めちゃくちゃ動き回りますし…」


話をしてるとカトリーナが飛び込み、オレ、遥香、ユキ以外の目が点になるのが分かる。


「んん?飛び込み、ましたよね…?」

「飛び込んだな。まあ、見てくると良い。」

「は、はい。」


好奇心を抑えきれず、アクアが飛び出し、他のみんなも並んで見ていた。

泳ぐ様子を見て、満足したのかアクアが戻って来る。


「…っ!…っ!?…っ!!」

「あれは遥香に真似できなかったんだよ。今はどうだろうな?」


言葉にできず、指差して腕を振りながら口をパクパクさせるアクアに言う。

その間に一息入れて落ち着いたのか、ようやく言葉がまとまる。


「どう泳いでも一切飛沫が起こらないのも不思議ですが、潜水のフォームが美し過ぎます…!まるでイルカのよう!」

「そうか。」


興奮するアクア。その様子を見ているとなんだか楽しくなってくる。


「胸が抵抗になるかと思いましたがそんな事も無いんですね…」

「水着の素材になんかあるのかも知れないな。

何か魔法を使っているのかもしれないが…飛沫が上がらないのは本人の技術らしい。」

「なるほど…」


興奮と暑さで汗ばんでいるアクア。果実水をグイッと飲み、大きく息を吐く。


「もう驚かされることは無いと思っていましたが、まだまだあったんですね…」

「オレの知らないこともありそうでなぁ。」

「皆さん秘密があるから魅力的なのですね…」

「そう言うお前は?」

「もう本名くらいしかありません…」

「その正直さも魅力だろう?」

「旦那様、私をたらしこもうとしてもダメですからね。」

「はは。残念だよ。」


そう言って、果実水を飲み干す。


「…旦那様にとって魅力的な女性ってどういう方ですか?」


唐突に重大な問題を問われる。

しかし、考えたことがなくて難しい。


「基準を考えたことが無いな…」

「だと思いましたよ。

旦那様をたらし込むのは苦労しそうですね。」

「あっさり落とされた気もするが。」

「実質、3年程の付き合いをあっさりとは言いませんよ。」

「それもそうか…」


箱から氷をグラスに移し、果実水のおかわりをもらうと、アクアは自分のにも注ぐ。

やはり、普通に暑いようだな。


「…なんであの時、梓様と柊様についていかなかったんだろうって今でも思います。

その私はどうなっていたんだろうって考えてしまって…」


あったかもしれない自分を想像するかのように、皆のはしゃぐ姿を見るアクア。


「今、二人と自分を比べているように、自分と遥香を比べてそうだな?

きっと、今も二人で競争しているはずだ。ただ、それがどういう形なのかは分からないがな。」

「…ああ、そっか。そうですね。きっとそうだと思います。」


納得した様子で大きな氷を容易くバリボリと齧る。ちょっとそれは真似できそうにない。


「比べるのも大事だ。でも、自分の大事なものを見失うなよ。」

「はい…」

「どう選んでも幸せになれるように力は尽くす。オレが、じゃない可能性も高いけどな。」


そう言って右手を差し出すが、アクアは躊躇いを見せて首を横に振る。


「…そんな事、言わないで下さい。私は旦那様の奴隷ですから。拾った奴隷は最後まで面倒を見てくださいね?」

「拾ったのはオレじゃないが…主として善処しよう。」


ずっと出し続けていた手をようやく握ってくれた。

戦闘スタイル込みで暗中模索し続けるアクアだが、この状況は確固たるものが見つかるまで続くだろう。この楽しい話相手が満足できる道を、共に探していきたいものだ。


プールではしゃいで居た連中も落ち着いたのか、それぞれ気楽な休養日を満喫する。

こうのんびりした日も大切だな…




気が付くとプールにいる人の数が減っており、横に居たアクアの姿もなかった。


「むぅ…寝ていたか…」


タオルを掛けられた体を起こし、右腕と右足を伸ばす。どのくらい寝ていたのだろうか…

グラスも片付けられており、時間経過を判断する材料がなかった。


「旦那様、お目覚めでしたか。」


後ろから声を掛けられる。メイド服に戻ったカトリーナだ。


「ああ。寝てしまってたな…」

「ここも心地よい場所ですからね。」


寝るのもしかたない、という様子で手を差し伸べて来る。


「そうだな。アクアと話してる最中に寝てしまった気がするが…」

「気にしていない様子でしたよ。ちゃんと私が戻るまで、絵を描きながら側に居てくれましたし。」

「そうか。」

「そろそろお昼にしましょう。こちらへ。」

「ありがとう。」


手を掴み、オレたちは食卓へと移動した。

既に何人か居り、プールに居なかった連中はこちらに移ってきたようだ。


「油断して日焼けした…」

「それで赤いのか。」

「治すべきか悩みどころだ…」


腕を見ながら本気で悩むバニラ。


「日焼けしちゃったらバニラじゃなくなっちゃうねー」

「その間だけショコラに変えるか。」

「ややこしい。やめてくれ。」


梓とバニラとのやり取りに笑いが起きる。


「梓の顔色が良くなってきたな。」

「泳いで疲れちゃったからこの後はお昼寝するけどねー。でも、うん。確かに調子は良くなったと思うよ。」

「お前も仕事が多いからな。ゆっくりしてくれ。」

「はーい。」


昨日と明らかに状態が違う梓。ギリギリの休息が踏み留まらせたようである。もっとよく見ておかないとダメなようだ。


「お腹空いちゃったー」


水着姿のままやって来たのは遥香だ。

ついさっきまで泳いでいたからか、乾き切っていない。


「ストップ。洗浄を掛けてからだ。」

「あ、そうだった。」


バニラに止められ、綺麗にし、乾かしてから席に着く。


「プールはどうだった?」

「本気で泳ぐなら倍くらいの広さが欲しいけど、今日みたいな用途ならちょうど良いかな。」

「お、おう。」

「楽しかったか聞いてるんだと思うぞ。脳筋化が著しい末っ子よ。」

「えっ。あっ。…楽しかったよ。」


バニラの指摘に顔を赤くする遥香。うん。経緯はともかく、通じてくれたならこれ以上は何も言うまい。

同じ事を思っていたのか、カトリーナの方を向くと目を逸らされた。この母娘を野放しにしてはいけない。


「分かっているなら良いわよ。ねぇ?」

「そ、そうですね…」


アリスからも目を逸らす。


「すっかりこっちの母に染まってしまって…」

「今後の課題だな。」

「健康的だけど、文化的とは言えない生活だからねー。しかたないよー」


確かに文化的なものとは疎遠になっている気がする。

家の中に全く無い訳ではないのだが…


「絵、だけでは厳しいか?」

「遥香様が自分で描く訳じゃないですからね。」

「そうだねー…物作りに興味も余り無いようだし…」

「音楽はどうかな?」

「その方面の才能があるのは…」


全員が目を逸らした。


「…だよなぁ。」

「踊りだけならノラがいるが、音楽が無かろうと好きに踊ってるから…」

「ここで想定外の人材不足だ…」


深刻そうな面持ちで皆が対策を考え始めた。


「カトリーナさん、昼食の準備が出来ましたよ。」


ココアの声で会議は終了となる。

空腹の改善こそが今の最優先事項だ。

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